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第六章.ディアナのお店と偏屈貴族

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61.店舗の算段

 ディアナは決意した。


 ものだけを売るのではなく、体験を売ろう。


 イルザとグスタフの仲が農作業で良くなったのは、やはり二人で同じ体験をしたからだ。


 店で何かを買うだけではなく、みんなで何かを体験するサロンを開こう。


 みんなでチーズを作ったり……


 ブーケを作ったり……


 あのエディブルフラワーの料理をしたり……


 そうしたら、あの貴族たちもきっと癒されるはずだ。


 戦乱の世で心疲れ、誰かの秤に常に乗せられてきた彼女達の、憩いの場を作るのだ。




 というわけで。


 その一週間後、ディアナは家の図面と対峙していた。


 今日、バラのシロップを売った分を足し、ちょうど金貨十枚となったのだ。


 レオンは食卓に小銭を積み上げて、満足げに微笑んでいる。


「あー、あっという間だったなぁ。やっぱりディアナお嬢様はすげーや」

「もう、またからかって……」

「しかも俺が山に入ってる間に、早速図面と見積もりまで持って来たのな。行動早過ぎないか?」

「だって、いてもたってもいられないんですもの!」


 ディアナは図面を胸に抱き、うっとりと目を閉じた。


「ああ、新しい可能性しかないって素晴らしいことね」

「そうだな。ところで」

「なあに?」

「店舗兼自宅を建てたら、この小屋はどうする?」


 ディアナは周囲を見渡した。


「うーん、お姉様たちが欲しがってたけど」

「そうだったな」

「あげる前に一度、ソフィア様に貸してあげようかしら」


 レオンは頷く。


「あれからソフィア様とは話したか?」


 ディアナはうつむいた。


「最近、宿には来てないわ」

「まさか妊娠でもしたんじゃないのか」

「不仲なのに?」

「不仲でも、やることやったら出来る」


 ディアナは頬杖をつく。


「……マクガレン公爵って、どんな人なのかしらね?ソフィア様も語りたがらないし、謎だわ」

「浮気野郎なんだろ?きっとダニエルみたいなチャラチャラした兄ちゃんに決まってら」


 レオンはそう勝手に断定すると、ディアナから図面をひょいと取り上げた。


「あ!」

「おー、なるほど。一階にキッチン……ん?随分大きなキッチンだな」

「みんなで手作りするスペースが欲しいと思って」

「お料理教室でも始める気か?」

「ええ。恐らく貴族の子女たちは、こういうのに飢えてると思うから」

「ふーん、俺には理解出来ないけど……手慰みになることをやろうってことか」

「そうね。あとは、自分が使わない時間に台所を貸し出すことで、少しでも稼ごうと思って」

「アウレール様かよ!こうも似るとはな……血って怖い……」

「ふふふ。何言ってるの?全部、レオンのためじゃない」

「……ディアナ」


 二人はいつものようにそっと寄り添い、口づけ合う。


 と。


 ドンドン。


 小屋を叩く音がして、レオンは扉を開けに行く。


「……ハンス!」

「ああ、久しぶりです、お二人とも。結婚式以来だね?」


 ハンスは何やら冊子を持ってにこにことつっ立っている。


「ハンスこそ、こんな所に来るのは珍しいな。何かあったのか?」

「何って、さっき大工から聞いたぞ。二人が新しい家を建てるって!」


 ディアナとレオンは顔を見合わせた。


 さすがは田舎。情報の回りが早すぎる。


「それで、色々物入りだろ?もし良ければ、新築祝いも兼ねてカーテンとベッドシーツを新調してあげるよ。他にも布製品であれば、言ってくれれば何でも作るからさ」


 そう言ってハンスは眼鏡をくいと上げる。ディアナの頬が輝いた。


「ありがとうございます!」

「いいえ。これも、罪滅ぼしの一環だよ」


 レオンは複雑な顔で次兄に告げた。


「あのさ」

「何?」

「もういいよ、そういうの」


 ハンスは面食らっている。


「前は色々わだかまりもあったけど、もうそういう気持ちは消えたんだ。ディアナが来てから、兄弟に対する負の感情はどっかへ行っちまった」


 ハンスはじわじわと、こらえきれないように笑顔になる。


「……そっか」

「ああ」

「いいお嫁さんだね」

「そういうわけだ」


 ハンスは冊子を食卓に置くと、小屋の内部をしみじみと見渡した。


「ベッドも新調するだろ?そのベッド、狭すぎだよね」

「そうだな」

「ということは、布団も新調する、と」

「そうなる」

「これは作り甲斐があるな。ああ、その冊子だけどね」


 ディアナは先に食卓に座り、冊子を開いた。


「布見本だよ。何をどの布で作るか書いてあるんだ」

「へー」

「ディアナも、どの布で何を作るか、想像しながら見てみるといい」


 ディアナはぱらぱらと冊子をめくった。絹からレース、麻布まで、様々な色と素材が溢れて見飽きない。


 ディアナは布に張られたメモ書きに目を留めた。


 人の名前と、その布が何巾必要かが走り書きされている。


 そこに「マクガレン公爵」の名を見つけ、ディアナは目を留めた。


「マクガレン公爵……」


 ハンスはその言葉を聞き逃さずこう言った。


「ああその人、最近、奥様とよくご来店になるんだよ」

「奥様って……ソフィア様?」

「あれ?よく知ってるね。そう、金髪碧眼の、とても美しい奥様だ」


 最近宿屋に来ていないと思ったら、夫とドレスを新調しに仕立て屋に通い詰めているのだ。ディアナはほっと胸をなで下ろした。何だかんだ、上手く行っているではないか。


 しかし。


「でも、あれね、奥様は可哀想だよ」


 ふとハンスはそう言って、悲し気に笑って見せた。


「かわいそう?」

「ああ、そうだ。あんなに美しいのに、あんな歳の離れたのと結婚させられるなんて」


 ディアナは慎重に尋ねた。


「……マクガレン公爵って、どんな人?」


 ハンスはきょとんとして答える。


「どんなって……親子以上、下手したら孫ほども年の離れたジジイだよ」


 ディアナとレオンは顔を見合わせた。


 なかなかに現実と言うものは厳しいもののようである。

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