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第四章.エディブルフラワーの魔法

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29.二組の夫婦

「多分グスタフ様は、何かに心を込めた経験が少ないんだろうな」


 夕飯のポテトグラタンをかき込みながらレオンが言った。


「心を込める?」


 ディアナがおうむ返しすると、


「他人が作った既製品しかイルザ様に与えたことがないんだろう」


とレオンが応えた。


「ディアナが作ったあの飴を貰った時のイルザ様の顔が、何らかのヒントになればいいんだけど」


 ディアナは首を捻る。


「まぁ見てなって。それで何も気づかなければ、グスタフ様はイルザ様に対して相当鈍感だってことだ」




 グスタフは温泉宿に帰ると、エントランスで出迎えたイルザに近づいた。


 イルザはいつもの「お務め」の笑顔を絶やさずにいる。


 グスタフは早速言われた通り、ディアナの作った花入りキャンディを取り出して見せた。


「イルザ、プレゼントだ」


 イルザは曖昧に笑いながら受け取って、オーガンジーの包みの中を覗く。


「あら、お花入りの飴ですか?」

「そうだ。実はそれ、ディアナが作ったそうだ」


 イルザはきょとんと顔を上げた。


「……ディアナが!?」

「ああ。パブスト村で会ってな」

「まぁ!あの子ったら、こんなものを作れるのね……!」


 イルザは頬を興奮気味に紅潮させ、しきりにその青い花入りのキャンディを様々な角度から眺めた。


 グスタフは妻の反応に内心驚いていた。


 財産をはたいてどんな高価な宝石を買ってあげた時よりも、妻は喜んでいたからだ。


「この花、何ていう花なのかしらね?見たことのない花だわ」

「ディアナが言うには、食べられる花なのだそうだ。ハッカのような味がすると言っていた」

「へぇー。食事が終わったら早速舐めてみようかしら。あなたも食べる?」


 グスタフは戸惑いつつも頷いた。イルザから何かの誘いを受けるのは、実は初めてだったからだ。


「あの子が頑張って作ったんだもの。きっと美味しいわよ」


 イルザの瞳は、いつもよりきらきらと輝いている。


 グスタフはどきどきと胸を鳴らしながら、奇妙な興奮を感じていた。


 食事の後、イルザは早速手作りキャンディを皿に開けた。二人でつまんで口に入れると、清涼感のある辛味と甘味が舌に広がる。


「あら、美味しい」


 イルザは片側の頬にキャンディを転がしながら含み笑いする。


「うふふ。あの子、きっといい奥さんになれるわ……」


 グスタフは妻の横顔に見入っている。


「……どうしたの?あなたも食べて?」


 グスタフは恐る恐るといった様子でキャンディを口に入れた。


「どう?美味しいでしょ」

「んー、まぁ……スーッとするから、食後にいいかもな」

「そうでしょう、そうでしょう!アイゼンシュタット屈指の美食家であるグスタフが言うんだもの、間違いないわよね!」


 グスタフは少し鼻をすする。妻に褒められたのも、これが初めてだったのだ。


「面白いものを作ったものねぇ。創意工夫して、楽しくやってるみたいで良かったわ」


 イルザはまたあの少女のような輝く瞳で、残りひとつの花入りキャンディを見つめた。


 グスタフはじっと何かを考え込んでいる。




 ディアナとレオンは、夜はあの狭いベッドで窮屈に寝る。


 互いの顔が間近にあるのを、珍しそうに眺め合う。


 彼らはまだ、夢の中にいるような気がしてならなかったのだ。互いの顔に触れ、形を感じ、ようやくそれが実体となって迫って来るような気がしていた。


「……このベッド、狭い」

「うーん……でももう少し大きいベッドを買おうとするなら、家を大きくするしかないな」


 家を大きくするなど、夢のまた夢のように思われた。


 ディアナは体を起こすと月明かりの中、レオンの唇を探して口づける。


「……離れ離れで寝るのは、もう嫌なの」

「なら、我慢してくれ……」


 レオンが目を閉じた。今日も色々あって、疲れたのだろう。


 ディアナはレオンの睫毛をそうっとなぞって呟いた。


「……私がこの家を建て直すお金を稼ぐわ」


 レオンが目を閉じたまま、くすぐったそうに笑う。


「な、何よ!こっちは本気なのよ!?」

「頼もしいなディアナは」

「だって、広いベッドで安眠したいじゃない」


 レオンは半身を起こしてこちらを覗き込んでいるディアナを抱きしめた。


「……ディアナ」

「なあに?」

「君といると、何でも出来そうな気がする」

「……レオン」

「だから」

「うん」

「……もっかい」

「しょ……しょうがないなぁ……」


 どこか手慣れて来た手口にディアナは身を任せる。


 小屋の外では月明かりの中、新たな色の花が蕾をつけ始めていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私は男なので、グスタフ頑張れと、エールを送ります
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