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第四章.エディブルフラワーの魔法

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27.青い花のキャンディ

 鍋に砂糖と水とあの青い花の茎部分を入れて、ぐつぐつと煮詰める。


 少し清涼感のある香りが漂って来た。液状の飴を火からおろし、茎部分は捨て去って、油を塗った金属製のボトルキャップにひとつずつ、それぞれ半分の容量入れる。


 それから青い花を投入し、取り出し用の棒を挿入し、更にその上から飴をかけた。


 しばらく放置し、冷やし固めれば──


「じゃーん。青い花のキャンディ!」


 朝の仕事を終え、ベッドに転がっていたレオンが、その声でこちらに顔を向ける。


「キャンディ、ねぇ……」

「あら。何か言いたげねレオン?」

「温泉小屋に持って行くなら、シロップの方が売れるだろ」

「しかたないじゃない。シロップにするほど花が取れないし、この花、青い色素が思ったほど出ないのよ」

「うーん」

「とにかく、持って行ってみましょうよ。誰か買ってくれるかもしれないわ。この花は生だから色あせるのが早いと思う。早く行きましょう」


 レオンは大きく欠伸をしながら、小屋を出るディアナについて行った。


 二人で愛馬レギーナに乗る。


 レオンは手綱を操作しながら、ディアナの肩に頭を乗せた。


「ちょっと……」

「遠慮なく妻に密着できるっていいな」

「何?今までずっと密着したかったわけ?」

「言い方ひどいぞ……当たり前だろ、ずっと好きだったんだから」


 ディアナは今までの移動の時を思い出し、何だかこそばゆい。


 温泉小屋につくと、天気が良かったからか湯上りの村人が何人かたむろしていた。


 久方ぶりのディアナの登場に、おばさま方が少し湧く。


「あらあ、ディアナ久しぶり!」

「式からしばらく見なかったから心配してたのよ?」


 ディアナは夫と共に馬を降りた。


「みんな、お久しぶりね」

「あら、ディアナ。そのポットの中に入ってるのは何?」


 彼女は満を持して、キャンディを取り出した。


「これ、どうですか?ハッカじゃないんですけど……ハッカ風味のキャンディです!」


 自信満々に取り出したそれを見るや、おばさま方はひきつった笑いを見せた。


「なーんだ。シロップじゃないのね」

「あ、ええ……」

「湯上りにいいのが欲しかったわね」

「あ、ハイ」


 想像していたこととはいえ、いざ目の前の反応の鈍さを見るに、どうやらここに持って来るものとしては失敗だったようだ。ディアナは顔で笑いながらも、ちょっと心をへし折られる。ディアナは馬のそばにいるレオンの元へ、とぼとぼと戻った。


「やっぱ、ダメかぁ」

「……だから言っただろ。シロップが人気なんだって」

「……真っ赤なバラを探そうかしら」

「それがいい。うちの山には生えていないが……どこかにあるだろ」

「赤い色素を出すには、あのバケツいっぱい花びらが必要なんだけどな。藤の花の時みたいに」

「うーん……そこまで咲き誇ってるバラ畑、あるかな」

「……ないかぁ」


 しょげ返るディアナの背を、レオンは鼓舞するように叩く。


「まあまあ、そういうこともあるって。何でも上手く行くわけじゃないだろ?」

「……うん」

「バラのことなら、方々に当たってみるから」

「ありがとう」


 その時、おばさま達と入れ替わるようにして、恰幅のいいデニスがやって来た。


「お、久しぶりじゃないかディアナ。元気か?」

「あ、デニスさん」


 おばさまの反応が芳しくなかったせいで、尚更男性に花の飴を売る気にはなれなかった。


「また藤の花のシロップを売りに来たんだな?あれ、女房が喜ぶからひと瓶もらおうかな」

「あの、ごめんなさい。生憎それが、もう手元になくて」

「ああそうか。藤の季節はおしまいだもんなあ。他の花でシロップは出来ないのかい?」


 うなだれるディアナの籠の中を、デニスは無遠慮に覗き込んだ。


 ころころと、青い花を閉じ込めた透明なキャンディが底で光っている。


「ん?これは……」

「あ、青い花のキャンディなんです。ちょっとハッカみたいな味がするんですよ」

「へー面白いな。これ、一個ちょうだい」


 ディアナの目が点になった。


「へ?」

「何だよ、その反応は。ああそうか。おじさんが買うの?って顔してるな?」


 ディアナは笑って誤魔化した。デニスはケラケラと笑う。


「妻に買うに決まってるだろ!プレゼントにちょうどいい」


 ディアナは目を点にする。


 プレゼント用。


「いや、この前妻と喧嘩しちまったんだよ。女の人って甘いのと花に弱いだろ?これをあげれば、機嫌を直すんじゃないかって」

「なるほど!そういうわけだったんですね……」


 であれば、おばさま方が買わず、おじさまが買うのも納得だ。デニスはハンカチを取り出すとそのキャンディを大事そうに包んだ。


「よし。俺も色々持って来たのさ。どれと交換する?」


 ディアナはデニスの道具袋を注視する。そこには、沢山のハンカチが詰め込まれていた。


「このハンカチは……」

「ああ、とある工場が貴族に卸すはずだったのに、戦乱で買われずに余っちまったらしいんだ。これから郊外に続々集まって来ている金持ちにでも売りつけようかと思ってさ」


 ディアナはオーガンジーのハンカチに目をつけた。


「あの透けてるハンカチ、みっつ欲しいわ」

「みっつかー。キャンディ一個じゃ、なぁ」

「じゃあもうひとつあげる」

「おっ、いいぜ。じゃあ取引成立だ」


 ディアナはキャンディ二つと、オーガンジーのハンカチ三枚を交換した。


 隣のレオンは少し困惑しながら文句を言った。


「……ハンカチじゃ、腹の足しには」


 デニスを見送りながら、ディアナが応える。


「キャンディに、付加価値をつければ行ける」


 レオンは頭に疑問符を浮かべた。彼女はハンカチをトランプのババ抜きのごとく彼の目の前に突き出して見せる。


「ラッピングすれば、もっと高く価格を設定できるわ」

「ん?プレゼント用に売り出す気か?」

「その通りよ。ターゲットは男性」

「そんなうまく行くか?」

「やってみなきゃわからないわ」


 その時だった。


 遠くから、何やら見覚えのある馬車がやって来たのだ。


 ディアナとレオンはそれを見て、あっと声を上げる。


 二人を見つけ、馬車から降りて来たのはイシュタル商会の次期経営主、グスタフその人だった。

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