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第二章.結婚式

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18.本当の気持ち

 次の日は、レオンは二日酔いでずっと起きて来られなかった。


 二日後の昼、ようやく彼は寝ぼけ眼でディアナのいる小屋にやって来たのだった。


「腹減った……」

「大丈夫?体調はどう?」

「一日飲まず食わずで寝たらすっきりしたよ。でも、今日は依頼を片付けないと」


 ディアナは卵とミルクを混ぜてフライパンに落とし、ちゃっちゃとスクランブルエッグにした。


「どう?これで食べやすいでしょう」

「ありがとうディアナ」


 ディアナはレオンの向かいに座る。


 二人の間には、あの日のウェディングブーケが活けられている。


 彼女はずっと気になっていたことを尋ねた。


「ねえレオン」

「何」

「結婚式の帰り、私に何て言ったか覚えてる?」


 急にレオンの血の気が引いた。


「え!?まさか俺、ディアナに何かおかしなこと言った……!?」

「あ、違うの!ええっと、覚えているかどうかだけ……」

「ごめん!何か気に入らないこと言ってたら先に謝るから!」

「ち、違……覚えてないのね?」

「ああ……全く覚えてない」

「そ、そっか……」


 ディアナは顔を赤らめて笑う。


 覚えてなければ、それはそれでいいのだ。


「今日はリースを作るんでしょ?夕方、人が取りに来るって村長さんが言ってたわよね」

「……早く支度して裏山へ行かないとな」

「私も行っていい?」

「ああ。ディアナもリースを作ってみるか?」

「うん。是非!」


 二人は食事を終えると、初夏の花咲く裏山へと歩いて行った。


「今日は色んなリースを作ってみよう。依頼主がどんなものを好むか、腕試しといったところだな」

「そうなのね。ねえ、私の花冠はどんなイメージで作ったのか教えて?」

「は?どんなって……そりゃ、ディアナに似合うのを選んだんだよ」


 ディアナはそれを聞き、軽い足取りが更に軽くなる。


「わたしの花冠は、割とブルー多めでベリー類なんかも入ってたわよね」

「ディアナの髪色に合わせたんだ。背景と反対色を使うと花が映えるからな」

「へー……」


 ディアナはうっとりと、おとといの式のあれこれを思い起こしていた。


 レオンは枝や蔓を木々からはぎとり、くるくると縄のように丸く巻いてバケツに突っ込んで行く。ディアナは目についた花という花を手折って入れた。


 山を下りる頃には、ブリキのバケツは花でいっぱいになっていた。


 小屋へ移動し、桶に水を張り、茎を短く切った花を浮かべる。


 花の茎にひとつひとつ、湿らせた綿と布を巻きつけて糸で縛る保水作業を行う。ディアナは花ひとつひとつを保水して行きながら、こんなに手の込んだものを愛する彼に作ってもらったことに、今更ながら静かに感動していた。


 レオンの全く繊細でない太い指先の摘まんだ花が、丸く輪にした山葡萄の蔓にひとつひとつ丁寧に差し込まれて行く。


 白い花を中心としたリース、山葡萄とカラーリーフのみで作った野性的なリース、とにかくカラフルに仕上げた元気印のリース、木の実のミニリース、季節の花のリース。これら六つを仕上げると、ディアナは休憩ついでに結婚式の祝いの品から紅茶を取り出して淹れた。


 気の利いたカップが存在しないので、かしの椀にとっぷりと注ぐ。


 何の気まぐれか、レオンが余っていたビオラの花をぽいとそこに投げ入れた。


 ディアナは笑って香りをかいだ。草いきれの香りがする。


 砂糖を加えると、贅沢な時間がやって来た。


「ねえ、レオン」

「……何だ?」

「私、ずっとこの時間が続けばいいのにって思うの」


 レオンが紅茶を置いて顔を上げる。


「何だよ急に」

「結婚式も、緊張したけどとても楽しかった」

「……」

「レオンにキスされたのも嬉しかった」

「……」

「辺境の生活が、こんなに楽しいとは思ってなかったわ。じゃがいもしか食料が見当たらなかった時はどうなるかと……」

「……ディアナ」


 ふと、レオンが彼女を見つめる。


 ディアナはどきりとして顔を上げた。


「……俺も」


 言いながら、彼は顔を赤くする。


「その……酔った時、自分がどんなことを言ったかは大体予想がついていて……俺、酔うと本音がダダ漏れになるから。多分、いつもは言わないような甘いことをディアナに……そうだろ?」


 ディアナも耳まで赤くなる。


「でも、ディアナにはもっと幸せになって貰いたいんだ」


 やにわに彼女は顔色を失う。


「こんなところで、ディアナが幸せになれるはずがない」


 ディアナは慌てて反論した。


「そ、そんなことないわ。私はここの生活を気に入ってるもの」

「だが、長く住めば段々慣れて来て、つまらないと思うようになる」

「何でそんなことを言うの?だって私は──」

「今は環境が物珍しいだけだ。または戦火を共に駆け抜けて、気持ちが舞い上がってるだけじゃないのか」


 その辛辣な口調とは裏腹に、レオンの鈍色の目はディアナの心の奥底を探るように見つめている。


 それで彼女は悟る。


 自分は今、レオンに試されているのだ。


「そんなことないわ、だって私……」


 ディアナは声を震わせて立ち上がる。


「私は、レオンを──」


 その時だった。


 小屋がどんどんとノックされたのだ。ディアナは慌てて居住まいを正し、レオンは扉を開ける。


 きっと、注文主がリースを受け取りに来たのだろう。


「はい、どちら様──」


 扉を開けると、金持ちの従者のような男がひとり、立っていた。


「村長からのご紹介で、リースを受け取りに参りました」

「……分かった。ディアナ」


 ディアナはリースを三つ取るとレオンに渡し、自身も三つリースを持って男の指示通りに二人で荷馬車へ向かう。


 馬車に二人がリースを丁寧に並べ置いた、その時だった。


「あら?ディアナ。そこにいるのはディアナじゃないの?」


 聞き覚えのある声に、レオンとディアナは驚いて顔を上げる。


 荷馬車の奥で手を振っている、田舎に似つかわしくない黒の総レースのドレスを身に纏った女がひとり。


 ディアナの姉、イルザの姿がそこにあった。

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