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第二章.結婚式

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17.ほろ酔いレオンのうわごと

 ディアナがゲオルグの挙動に気を取られている内に、新郎レオンのグラスには次々と周囲からワインが注がれていた。対して新婦ディアナはというと、若い娘を珍しがる村人たちにあちこち引っ張り回されていた。


「パブスト村の若い女の子はね、みーんな市街地に出てしまうの」


 ミートパイを切り分けながら、老婆が言う。


「都会の男は洗練されているし、稼ぎが違うだろ?それでもう女は彼らに首ったけになって、村には帰って来なくなるのさ」


 ミートパイ片手にワインをちびりちびりやりながら、ディアナは人々の話に耳を傾ける。


「だから、都会から嫁が来るなんて思いもしなかったわ」

「ねえ、都会では何が流行ってるの?」

「レオンに何てプロポーズされたのか教えてよ」


 矢継ぎ早に繰り出される質問に、ディアナはくらくらした。酒のせいもあるのかもしれない。


「あの……ちょっと、レオンに」


 ディアナが答え切れず話の輪から出ようとした、その時。


「あっ、レオン!」


 遠くで声がし、しゃがみ込むレオンが見えた。ディアナはどきりとして駆け寄った。


「レオン……どうかしたんですか?」

「飲ませ過ぎたみたいだ」

「もう……レオンったら。先のことを考えて断ればいいのに」


 ディアナのぼやきに、広場の客たちがどっと笑い出す。ディアナはレオンの背中をさすってやった。


「どうしよう。もう、帰る?」

「うー……気持ち悪りぃ……」

「もう、馬に乗りましょう。私が手綱を引くから」

「……ごめん」


 騒ぎを聞きつけ、フリッツが遠くからレギーナを連れてやって来る。


「フリッツ、ありがとう」

「いいよいいよ。これ、手土産ね」

「わあ、こんなにいいの!」

「新婚さんへの、村伝統のお祝いの品だよ」

「新郎新婦が宴を抜けて大丈夫なの?」

「ああ、いつもこんなもんだよ。村人は日が暮れるまで騒ぐけど、新郎新婦は大体酒に酔って途中で退散するね」

「へー、そうなの」


 レオンはトマスとフリッツの肩を借りて、ようようレギーナに乗り上げた。ディアナは手綱をレオンの背に回すと彼の前に乗り、再び丘のてっぺんを目指して歩き出す。


 ディアナは広場の皆に手を振った。まばらに手が上がったものの、ほとんどの人はワインとごちそうに舌鼓を打ちこちらを気にもしない。


 丘の中腹まで来ると、レオンは背後からディアナの胴をぎゅうっと抱き締めた。


「……ちょっとちょっと、レオン」


 ディアナは焦った。急にこんなことをされるのは初めてだったのだ。レオンが共に暮らし始めた頃にいきなり触られるのを嫌がった気持ちが、今ようやく分かった気がした。好意云々関係なく、心臓に悪いのだ。


「どうしたの?酔ってるの?」

「酔ってないよ……」

「酔っぱらいの常套句じゃない!」


 ディアナが顔を赤くしながら手綱を操作していると、レオンが耳元で囁いた。


「ディアナ、可愛かったな」


 ディアナは硬直する。


「へ!?」

「花の冠……似合ってた。気に入ってくれた?」

「……ええ、とっても」

「いい思い出になるよ……一生の思い出に」


 ディアナの心拍数がどっと跳ね上がる。酔っているから、本音が出ているのだろうか。だとしたら物凄く嬉しいが、寝言みたいなものだとしたら残念過ぎる。


 どちらにせよ、きっと酔いから醒めたらあっちは覚えていない言葉たちなのだろう。


 ディアナは姉イルザの絢爛豪華な結婚式を思い出した。


 けれど、輝く宝石もドレスも、彼が作ってくれたこの花冠とブーケには決して敵わない。


「そうね……私、今日の日を絶対に忘れないわ」


 ディアナは少し泣きながら呟いた。


「色んな装飾品を見て来たけど、こんなにきれいなもの、初めて見た。一生の思い出にするね。ありがとう、レオン」


 ディアナはレオンがすっかり眠りに落ちているのをいいことに、肩に乗った彼の汗ばんだ頭にそっと口づける。


「……お酒のせい……ううん、おかげよね」


 ディアナはくすくすと笑った。


「きっと明日からは元通りの私達になるから、レオン。酔ってる内は存分に私に甘えてくれていいわ」


 レオンは返事もせず、寝息を立て始めている。ディアナは思わず笑ってしまった。

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