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異世界で養蜂園を創ろう! ~1から始めるハニーライフ~  作者: 世も据え置き
第一章 異世界養蜂園の作り方
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3.ホームセンターみずや

 3.ホームセンターみずや

 

「う~む……高い」

 パソコンで養蜂のサイトを調べるが、高い。

 

 養蜂を始めるには色々なものが必要だった。

 巣箱。防護服。燻煙器。遠心分離機。ブラシ。ナイフ。諸々。

 

「巣箱は……作れるかもしれないが、中身の巣礎とかっていうのは無理だな。……なになに、蜜蝋で作られたハチの巣の元? 無理無理むりむりカタツムリだ」



 巣礎とは――蜜蝋で作られた板に六角形の刻印を付けられた物で、蜜蜂はそこを基準にハチの巣を形成する。いわゆる基礎部分を人が引き受けてしまおう、ということだ。そうすると、蜂が巣を作る場所を人間側で操作できるので管理が容易になる効果がある。

 

 

「蜂に刺されないようにする防護服は……帽子と網を組み合わせればいいか……ブラシもペンキ塗りのヤツがあったし……ナイフは包丁で良し、ハイブツールとやらもヘラでいいか。後は燻煙器と遠心分離……」

 いや、まだ蜂蜜が採れると決まったわけじゃあない。まだだ、焦るな。初心者にありがちな「取り敢えずみんな揃える」をしてしまう所だった。

「まあ、巣箱さえ買えば何とかなるか!」

 

 見つけた一番安い巣箱をポチる。同時に巣礎も購入、枠に始めから収まっている物にする。まあ始めのうちは仕方ない。

 

「ひっひっひ……後は届くまでの作業だな」

 俺は出掛ける準備に入る。目指すはホームセンターだ。

 


 *

 

 

 朝になった。

 

「頼むぞケイちゃん」

 車庫に置かれた軽トラックは親父の遺産の一つだ。乗用車の方もあったが売ってしまった。今の日本は車一つ所持するだけでも維持費が馬鹿にならないからな。軽トラ一つで充分だ。

 

 大根号が恨めし気にこちらを見ているが分かってくれ。荷物を運ぶのにケイちゃんの運搬力が必要なのだ。

 

「発進!」



 田舎道を進んでいくと国道に出る。そこから20分程走らせると見えてくるのが、『ホームセンターみずや』だ。

 元々は農作物全般の道具を扱う店だったが、時代に伴い様々な物を扱う何でも屋と化している。それでも農家やDIY、ちょっとした工作などをしたい人々に優しい品ぞろえは健在である。

 

 

「さて、どうするかな」

 先ずしたいことはあの小屋に壁を設ける事だった。

 謎の花畑と繋がった我が家の小屋は、現在は奥の壁が棚ごと消滅している。小屋にはまだ色々な物が置かれていることもありどうにかしたい。雨が吹き込むことも考えられるし、誰かが入ってくる可能性もある。

「どうせなら荷物を外に出して、簡易的な部屋にでもしてしまおうか……」

 養蜂道具も置いても、休憩所にするスペースはあるだろう。それとも花畑側に拡張して広くする手もある。しかし棚の蜂蜜瓶は何処へ消えてしまったのだろうか?

「何はともあれ壁だな」

 

 

 豊太は木材を並べてあるコーナーへと向かう。

 様々な木の種類があるが、何が良いのか全く分からない。彼は今日からDIY初心者である。

 

 

「すみませ~ん」

「はいどうしましたか?」

 

 外に塀のような壁を作りたいと聞くと、

「それなら……」

 と普通の杉板を勧められた。

「安いですし丈夫ですよ」

 とのこと。まあそんな頑丈にする必要はないだろうと、小屋の幅分を何枚か購入。それと支えと横木となる棒状の物も幾つか。開閉用の蝶番、ニス、釘を購入して用は済んだ。

 

「さて……もうないかな?」

 今一度考える。金槌もノコギリも家にある。田舎の家ならあって当然の道具である。釘も探せばあるのだろうが念のため。

「養蜂の道具は売っているのかな?」

 ふと気になって棚を見ながらウロウロとしてみた。


「あ。あるんだ」

 

 

 豊太が見つけた棚の一画。そこには『趣味で始める養蜂!』と書かれた張り紙が付いた、道具一式が揃ったコーナーだった。

 しかしそこにある巣箱はネットで調べた物と形が違う。

 

 

「……日本ミツバチ用……か?」

 その巣箱は小さく。非常にぶ厚い木板で組まれた、まるでデカい升のような物だった。

 手作りらしいチラシが重ねられていたので一枚とって読んでみる。

「ふんふん……初期費用も安い! 面倒な手入れも不要! 置いておくだけで美味しい蜂蜜が採れる! か」



 チラシには日本ミツバチは採れる蜜の量こそ少ないものの、市場に出回る蜂蜜よりも栄養価が高い。年寄りでも扱える小型の巣箱で増設も容易。西洋ミツバチのような道具も要らず、直ぐにでも始められるとか書かれている。

 


「まずったか……」

 俺がネットで注文したのは恐らく西洋ミツバチ用の巣箱だ。取り敢えずと頼んだが、どうせなら此処で確認してからでも遅くなかったかもしれない。

「あ、でも巣箱は高いな」

 置かれていた物はネットで買った巣箱の倍はする。幾ら他の道具が要らないとはいえ、まあ少し……いやかなり躊躇する値段である。

「まあ失敗したら買いに来るか」


 俺はそう自分に言い聞かせてホームセンターを後にするのだった。

 

 

 ***

 

 

 買った木材を軽トラに載せた後、途中の定食屋で腹ごしらえをし帰路に就く。時間は丁度お昼頃。

 昨日はずっと養蜂の道具を買うためにネットをしていて、ホームセンター開店と同時に家を出ている。つまり徹夜をした訳だが、今の彼のテンションは疲れを忘れさせているのだろう。目はギラギラと輝き、目の前の欲望に忠実であれと体を動かし続けている。

 

「さて」

 軽トラのケイちゃんから降ろした一式を小屋に運んで扉の前に立つ。

「……夢だったらどうしよう」

 そんな不安がよぎる。それほどまでに庭の隅に立つ目の前の小屋は普段通りで何も変わらない。

「ええいやってやれ、だ」

 自身を鼓舞して鍵を回す。以前の俺はちゃんと鍵を掛けていてくれたらしく、すんなりと扉は開いた。

 

「……どう考えても異常だな」

 確かに夢ではなかった。が、目の前に広がる光景は夢でも見ているかのように現実感がない。夜のテンションから時を置いて見たソレは、確かに間違いなく超常現象の類だったのだと理解させられたのである。

 

 広がるのは日差しを浴びて輝く花々達。緩やかな丘が続く地平の先はまるで花で出来た天の川のような密度で色の洪水の様相だ。そんな花の河を泳ぐように虫達が忙しそうに飛び回る。ここはやはり天国なのではないだろうか。そんな疑問が心をよぎる。

 そして理解する。夜訪れた時に見た太陽。あれは日の出だったのだ。今の太陽は中天に浮かび柔らかな光を世界に降り注いでいる。

 

「暖かいな」

 着ていたジャケットを一枚脱ぐ。夜来た時にも感じたがここは随分と気温が高いようだ。春頃なのかそれとも秋かまでは分からないが。

「ある程度庭で組み立ててから運び込むか」

 幸い小屋の扉は左右に開閉でき、出入口を大きく広げることが出来る。これなら運ぶのも問題ないだろう。

 

「さて、素人大工でも始めるか」


 

 豊太は金槌を取り出すとさっそく作業を開始した。

 その作業は彼の当初の予想を大きく越えて、日が沈むまで続いた。

 

 

 ***

 

 

 「……ま、まあ捗ったし結果オーライ」

 

 作業を無心に続けた結果、今や周囲は真っ暗である。手元が見づらくなってからようやく気付くとか我ながら鈍すぎる。一度熱中すると時間を忘れる俺の悪い癖が出てしまった。

 クタクタになった俺はひとっぷろ浴びてから買い置きしておいたインスタントラーメンを食べた。そしてそのまま布団に横になり眠ってしまった。

 起きたのは日付が変わって夜中。どうやら自分でも気付かぬうちに疲れが溜まっていたらしい。

  

 起きてすぐ、思い立ったが吉日とばかりに小屋へとトンボ返りし、組み終わった木戸を運ぶ。所々隙間があるが、中々の出来だろうと自負している。


「まぶしッ……」

 奇しくも昨日と同じ時間帯に此方に来てしまったようだ。正面から朝日がダイレクトアタックしてくる。ここが地球なら小異世界への出入口正面は東という事になる。光量差による目つぶしは慣れるものではないな。まあ仕方ない。これからは日の出日の入りに気を付けよう。

 

 

 トントントンと木槌の音が花畑に響く。地面に杭を打ち込んで、そこに蝶番を取り付ける。それから木の板を並べて作った壁兼扉を取り付ければ完成だ。

 

「……よし」

 これで消えた壁の代わりが出来た。

 小屋にあった水平器で確認したが、小屋も傾いておらず扉の取り付けも容易だった。どういう仕組みか分からないが助かった。

 

 そして作業中に重要な事を発見した。それはこの物置小屋が花畑の世界からどう見えているかだ。

 結論から言うと、無かった。

「うぇええ!!」

 発見した時には変な声が出る程驚いた。花畑からぐるりと出口の裏へ回って見ると、小屋が無い。無いどころか見えない。建てている途中の木製の扉が見えるのみだったのだ。

 それを見た俺は元の世界に戻れなくなったのかと怖くなり、慌てて小屋の中に戻ってしまった。

 そりゃあ誰でも驚くだろう。自分が出入りしていた入り口が、かみそり一枚の薄さもなく、裏側からは見えないとなれば、恐慌を起こしてもおかしくない。

 

「しかしどうなっているんだろうな……」

 小屋に穴を空けたくない、かつ金属板で開けるのが面倒だったので木柱を地面に打ち込んでそこに木の板を蝶番を留めた簡単な方法にしたのだが、それは正解だったかもしれない。

 現実世界と異世界の狭間に置かれた木戸が、こっちの世界に属するのか、あちらの世界に属するのか。あやふやな状態になるのは何となく不安だからだ。

「横から見ても……やはり見えない」

 正面から見れば小屋の中も見えるし、入れる。しかし横に回るとその出口は見えなくなるほど薄くなる。例えるなら、まるで極薄の鏡に別の場所の小屋が映っているような、そんな不思議な現象だ。

 

「まあ……いいか」

 俺は思考をシャットアウト!

 目的は養蜂。不思議とか超常現象とかはオカルトが好きな人に任せとけばいいのだ。まあこの花畑は誰にも教える気はない。つまり謎は謎のまま。世は並べて事もなし、だ。

 

 

「ふう……」

 花畑に座り込んで一息。じんわりと掻いていた汗は風に乗って熱さと共に飛んでいく。いい気分だ。

 

 ブンブンと飛び回る羽音が眠気を誘う。

「いかんいかん。こんな所で寝れる程、俺は豪胆じゃないぞ」

 誰に言い聞かせるでもなく呟き、気付け薬代わりの煙草に火を点けた。

「ふぃー……あの波間のような丘の向こうはどうなっているんだろうか?」

 謎は謎のままと言ったそばから気になりだした。好事魔多し、もしくは馬鹿に暇を与える、というやつだろうか。まあ気になったものは仕方がない。

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