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異世界で養蜂園を創ろう! ~1から始めるハニーライフ~  作者: 世も据え置き
第一章 異世界養蜂園の作り方
23/23

23.事の顛末と精霊様

 23.事の顛末と精霊様

 

「……気が付いた」

 目が覚めて初めて聞いた声がそれだった。

 

 正面に誰かいた。俺は現在寝ているわけだから、相手は俺の上に乗っかっているということだ。ぼんやりとしていた思考が明瞭になって来るにつれ、視界に移る存在の意味も次第に形になっていく。

 目の前に居たのは姫だった。それも触れあんばかりのドアップである。

「……近い」

 目を開いても薄暗い視界に、白い肌が浮かび上がってくるのは幻想的でもあるしホラー的でもあるなあ。なんて考えていると――

 

「豊太さん! 気付きましたか、良かった」

「ダイジョブ!? どっこも怪我してないよね、ね!」

「豊太殿、身体に不調はないか?」

 どたどたと騒がしい音が下から登って来たかと思うと、蜂川兄妹とマグアギナが現れた。どうやら此処は異世界小屋の二階。マグアギナの部屋らしい。

 

 俺の頭に手を当てて熱を測っている彼女の持っているランタンは見た事もない奇妙な形の物だった。恐らく私物であろう。そうだ照明の使い方を説明していなかったな。と今更ながら思い出す。

 

「熱は下がったようだ」

「熱?」

「そうだ、貴殿は突然倒れたのだ。抱え上げてみるとすごい熱でな。危うく冬眠から目覚めるところだった」

 ハッハッハと笑っているが、異世界ジョークは解らないぞ。

 

「そうだ! エルフ達はどうなったんだ?」

 皆が集まっているところを見ると、問題は解決したのだろうか?

 

「ああそれなら姫ちゃんが解決したよ」

 と香澄ちゃん。

「ぶい」

 ご紹介に預かりましたとばかりにブイサインをかます姫だが……。

「訳が分からないよ」

 

「それなら僕が説明しようか」

「あ、お前は」

 皆の後ろから顔を出したのは、小柄な僕っ子エルフだった。

 

 

 *

 

 

「ぼ、私の名前はヒルダリア。初めにこの場を借りて謝罪を。申し訳ありませんでした」

 下に降り、全員で出来立てのテーブルを囲んで初めて発されたのがその言葉だった。

 小屋の中を見回しても他のエルフ達は居ない。

「彼らは先に森に帰らせたよ」

「森っていうと、北にあるあの?」

「そうだ……そうです、我々はあの森に住まうエルフの一族だ」

「へえ……前人未到の地ってわけじゃなかったのか」

「私も驚いたよ。まだまだ知られていない事が沢山あるな」

 とマグアギナ。だが待って欲しい。

「マグアギナは彼等と面識があったようだが?」

「……そのことは本当に済まなかった。まさか彼等が此処まで追いかけてくるとは思いも寄らかったのだ」

 

 やはりエルフ達はマグアギナを追ってこの香具内農園に辿り着いたのか。

 

「禁忌を犯した……って言ってたよな?」

 確かやりあう前にそう言っていた筈だ。

「うん……はい。ぼく……私達の古い掟に彼女は触れたんだ、です」

「……言いにくいなら普通でいいよ」

「ごめん……だから僕達は追って来たんだ。その罪を償わせるために」

 そう言ってマグアギナを見る彼女だが、しかしその目には恨みやシガラミのような影は一切見えない。

「で、その罪の償いはもういいのか?」

「うん! さっぱり解決した!」

 あどけなさを残すその表情は正しく嘘偽りないほどさっぱりしている。

 う~ん殺されかけた身としてはモヤモヤする。

「俺達死に掛けたんだけど……」

「それはほーーーんとーーーにごめんなさいッ! でも致命傷にならないように狙っていたつもりだよ! ……まあ君には必要なかったけどね」

 としょんぼりと視線を落とす。そこには絃を切られた弓が立て掛けてあった。

「俺よりも隆一郎が危ない目に遭ったのは許せん。怪我でもさせて居たらご両親に面目が立たない」

「それは……その……」

「まあまあ豊太さん。俺は狙われていませんでしたし、ヒルダリアさんも無関係なものを巻き込む気は無かったようです。香澄も無論無事です」

「そうそう」

「ごめんなさい……あの時は血が昇っちゃって……」

「……まあ隆一郎がそう言うのなら」

 なんか俺が悪者みたいだ。どうやら俺が寝ている間に色々と話は済んでいるらしい。

 

「えーと……それから……なんだっけ? ああそうだ。エルフ達が大人しくなった理由は何だ?」

「その件については私から話そう」

 マグアギナが先んじて声を出した。

 

「私が黄金郷を求め南下を続けた末、この養蜂園に辿り着いたというのは話したと思う。その道中は険しい物だった。幾つもの山を越え、ヤブを掻い潜り倒木を乗り越え、正に泥水を啜るような旅立った」

 

 

 語るは道もない寄る町もない孤独な旅の物語。

 それは全ての世界が人工衛星で明るみとなっている現代地球と比べるべくもない艱難辛苦の連続であろう。しかし豊太一同はその搔い摘ままれたその語りに彼女の情熱だけは確かに刻まれたのだった。

 

 

「まあ我が種族は丈夫なのでな。獲物を狩りつつ旅を続けていたわけだが……あの時はその場所が悪かった」

「それがエルフ、ダークエルフ達の禁域だった、と」

「そうなの」

 ヒルダリアが何度も首を縦に振っている。

「私達は森に住みその恩恵を享受するのを引き換えに、森を守る勤めを課しているんだけど、あろうことかそこのトカゲ女が精霊様に託された禁域を荒らしたんだ!」

 未だに怒りが燻っているのかそう語るヒルダリアは頬を膨らませて抗議しているが、その仕草は愛らしいだけで迫力は微塵もない。

「その件については申し訳なかったと申しただろう。私はそこが禁域であると知らなかった。貴殿らは私が侵入した後にそれを理由に襲ってきた。幸いに死者は出ず、軽症者だけだったのだ。その事はもう話し合ったであろう?」

「むうう……」

 

「なるほど」

 つまりだ。事件の発端は行き違いだ。エルフ達は入って欲しくない場所にあっさりマグアギナの進入を許し、マグアギナはエルフの攻撃に応戦した。まさに報連相が足りないというやつだ。いや違うか。

 

「それで、何故……えーとヒルダリアは矛を収めたんだ?」


 気絶する前に俺がやったのは姫の助言通りに彼等の弓の弦を切って周ったくらいだ。それでエルフ達が逃げ出すのなら話は分かるが、ヒルダリアは今こうして目の前に居る。人質という雰囲気でもない。

 

「それは僕が話すよ。エルフ代表として此処に残ったのは君とこうして話をする為でもあったからね」

「俺と?」

「まあ聞いてよ。君が――」

「豊太だ」

「じゃあ豊太ね。君が気絶した後……豊太の事は皆驚愕していたよ! あんな風の様に動き回れる人族なんて見た事が無かったって!」

「ああ……じゃあ手を抜いてくれていた訳じゃあ無かったんだな~」

 あれも恐らく最近筋力が付いた理由と同じ謎現象だったんだろうか?

「俺も驚きましたよ! 豊太さんにあんな才能があったなんて! ……これは是非豊太さんにも協力して貰わねば……」

「ん?」

「いえなんでも」

 隆一郎が良からぬことを企んでいるが、親御さんを泣かせるような事はさせないからな。

 

「あっと話が逸れたね。コホン、えーとそう! 僕達が絃を切られて、いいや君の動きに呆気に取られているとだね! 草木の精霊様が現れたんだ!!」

「……草木の精霊???」

「……」

 あー分かった。姫の無言のどや顔で先の展開が読めてしまった。

「そう! エルフの信仰する精霊様が現れて争いを収めて下さったんだYO!」

 興奮で語尾がラップみたいになっている。

「そうして私が禁域に入ったことを許して下さったのだ」

 とマグアギナ。

 

 草木の精霊とはエルフが仕える神そのもの。まさに鶴の一声で事態は収束したということだ。

 

「あ~見せたかったな~精霊様の御姿~~それは美しいのなんの。大お婆様が語ってくれた百倍は素敵だったな~~」

 ヒルダリアは虚空を見つめ頬を赤らめ、くねくねと身を捩っている。

「……んふ」

 顔がニヤケない様に必死になっているが鼻から息が漏れているぞ。

 

 だがおかしい。その精霊様が目の前で口をプルプルさせているのにヒルダリアがそれを気に留める様子はない。

 

「で、その精霊様よ。これはどういう事なんだ?」

 直接聞いてみた。

「……ちょとまって……すーはぁ……なに豊太?」

 いや今更すまし顔されても。困る。

「ヒルダリアの言う精霊様は姫、お前なんだろう? 何故彼女は畏まったりしないんだ?」

「それは……説明しずらい」

「んー? どういうこった」

「それが不思議なんだって! 姫ちゃんの髪がブワァ~ってなって、エルフ達が土下座? じゃない、膝を付いてハハァーってなったんだけど。元の黒髪に戻ったら普通に会話してるんだもん」

 とは香澄ちゃんの談。

 聞いても意味が分からないが、これは一体どういう事だろう?

 

「おいヒルダリア」

「ンヒヒ……え、なに?」

「こいつは姫って言うんだ」

 俺は姫を持ち上げてヒルダリアの目の前に突き出してみた。こんなことも出来るのは謎力さまさまだ。

「おっす」

「おっす! ……知ってるよ。君が寝ていた間に自己紹介し合ったんだから」

「……姫が精霊様じゃないのか?」

「何言っているの? 確かに姫は綺麗だけど精霊様ほどじゃないよ?」

「……姫、その髪がブワ~って今出来る?」

「出来る」


 その言葉と共に姫が輝きだした。だが眩しいわけではない。薄暗い小屋の中を照らすその光は物質のソレ、光子とは違う未知の力であると俺は直感的に理解できた。

 まるで光が染め上げているかように、姫の髪が、眉が、睫毛がコントラストを変えていく。

 その色は黄金。俺はその色に見覚えがあった。香具内養蜂園の蜂蜜だ。姫の髪は採れたての蜂蜜が如く透明感のある黄金色へと変貌したのだ。

 姫のその姿は美しかった。普段の眠たげな美少女としてではない、神々しさと神秘性に溢れた眠たげな美少女へと、肝心なところ以外はより神らしくなっていた。

 つまり簡単に言うと不思議な力は感じるが、俺には髪の色が変わっただけの姫という認識であるということだ。

 

「どう?」

「おお……すご――」

「せ、せいれいさまッ!!」

 ガンと鈍い音がしたと思うと、そこには土下座せんばかりに縮こまって傅いたヒルダリアの姿があった。

 どうやら彼女にとって、今の姫は先程とは違う姫なのだろう。

「何処かぶつけたか?」

「……ど、どこもッ?」

 そう言う割には歯を食いしばっているせいで声が震えているけれど。ああ、机か椅子にぶつけたらしい膝にあざが出来て青く変色している。内出血か、痛そうだ。


 まあ、ヒルダリアのその態度が演技ではないということは間違いない。

 

「豊太、ここで私の力を見せてあげませう」

「何だ急に?」

「……降ろして」

「ああすまん」

「……蜂蜜を一匙持ってくるのです」

 何をするのだろうかと興味もあり、素直に蜂蜜を取りにいく。

 

 持って来たのは今日採れて、溜まっていたたれ蜜。香具内養蜂園の最高級品だ。

 

「これをどうするんだ?」

「こうする」

 

 姫は跪いて首を垂れているヒルダリアの元にしゃがみ込むと、その青あざの出来た膝へ蜂蜜をさっと塗る。

 すると――

 

「……ああッ!?」

「なんと!」

「ええー!」

「ほう……これは」

 上から順に、ヒルダリア、マグアギナ、香澄ちゃん、隆一郎の感嘆の声。

「なんだって!」

 そして俺もびっくらこいた。

 

 蜂蜜が患部に触れた途端、淡い光を放ち青みがかって腫れ始めた肌があっという間に元の褐色の肌に戻ったのだ。

 そしてその光には俺は見覚えがあった。

 

「マグアギナが初めて蜂蜜を舐めた時もあんな風な光が見えた……」

「マグっちは病気を患っていたから舐めさせた」

 なんと、気付かなかった。つまり“ヒメのはちみつ”には本当に病気を怪我を治す効果があったのか。

「凄い……が、これ不味くないか?」

 蜂蜜は既に売りに出している。もしこんな効能があるとバレたら大きな話題になるのは間違いない。そうなれば異世界にある香具内養蜂園も存続の危機に陥る。

「隆一郎。家の蜂蜜ってもう売ってるよね?」

「それはもちろんです。大好評で次の入荷は何時かと毎日の様にメールが……傷が治ったのが蜂蜜の効果なのですか……」

 隆一郎も不味いと気が付いた。

「え、何が問題? 売れるんならいいじゃない」

「そうだぞ、こんな素晴らしい蜂蜜。誰でも欲しがる」

 香澄ちゃんとマグアギナはそう言うが、俺達の売っているのは蜂蜜で、秘薬でも霊薬でもましてや不老不死の薬でもないのだ。

「豊太さんの蜂蜜は出自が特殊過ぎる。要らぬ勘繰りをする輩が出てくるのは俺達には大いに不利だ」

「ふーむ……まあ確かに異世界の蜂蜜なんてバレたら大事か」

「俺の目的は蜂蜜と楽してスローライフ。隆一郎の目的は異世界への興味だろう。薬になるっていうのは不味い」

「お、俺も養蜂園は大切ですよ」

 隆一郎は焦って弁明しているがその態度が確たる証拠だぞ。

 

 と騒いでいたが、姫の次の一言でそれは取り越し苦労となった。

「大丈夫。特別な蜂蜜でないと治癒効果は低い」

 ということらしい。

 

 何が特別で特別じゃないのかと聞くと、回復する蜂蜜には二つ違いがあるらしい。

 一つは蜂の幼虫に食べさせるための特別な蜜を混ぜていること。いわゆるローヤルゼリーだな。

 もう一つは何かと聞くと、姫はそっぽを向きながら「……私の愛情」と呟いた。

 なかなか姫も言うようになったじゃないか。と微笑ましげに笑うと「おっさん臭い」と香澄ちゃんに睨まれた。

 

「それなら大丈夫そうですね」

「まあ姫が与えた蜂蜜以外は普通の蜂蜜ってことだな」

「……まあ大体。あ、家にある蜂蜜は豊太だけが食べて」

「え”?」

 それはつまり今、家にある蜂蜜は全部姫お手製の蜂蜜に加工してあるということ。

「もしかして俺の体調が妙にいいのも、力が強くなったのも、動体視力が馬鹿みたいなのも……?」

「私のお陰」

 ふんす。と姫は胸を張る。

 

 お、俺は何時の間にか、改造手術を受けた怪人になっていたらしい。

 そんな気持ちになった。

 

 *

 

「で、これはどうするんだ?」

 マグアギナに尋ねられてようやく意識が戻った。

 

 彼女の指す方を見れば、膝を突いたまま号泣しているヒルダリアの姿。……いっけねほったらかしだった。

 

「あーヒルダリア? 大丈夫かい?」

 泣くほど痛かったのならもう痛くない筈だが。

「せ、せ”いれいさ”ま……が……ぼ、ぼぐに恩寵を……ごんなめいにょなことをして頂けるなんて……」

 

 どうやら痛みではなく感激のあまり感極まっていただけのようだ。

 

「マグアギナも姫ちゃんに何処か直してもらったみたいだけど……どう? なんか変わった?」

「ううむ……それがだな香澄殿。私の体調はすこぶる良いのだが、それはこうして毎日寝て、しっかりした寝床があるせいだと思っていたのだ」

「そうなの? まあそんなものなのかな?」


 だが俺だけにしか見えなかったあの光。マグアギナが蜂蜜を舐めた際の輝きはヒルダリアの比ではなかった気がする。

「姫」

「ん」

 この際と、姫を側に呼んでこっそり聞いてみることにした。

 

 姫によると蜂蜜を舐めた時の光は太陽やランプの光とは違う別の力なのだそうで、魔法的な資質がないと見えないらしい。

 つまりヒルダリアには見えていたからあんなに号泣しているのか。

 そしてマグアギナは結構な疾患を抱えていた可能性があるのだそうだ。

「長旅で命を落とす冒険者は結構いる」

 とは姫の談。

 しかし姫の異世界情報は500年オーバーな古いものだから、今はもう少し冒険家業が安全になっていると願いたい。


「豊太も始めて食べた時は凄かった。ビカーって光った」

「……まじですか?」

 つまり俺も何か病気持ちだったということか。そして魔法的な光が見えるようになったのは最近の事であると判明。……十中八九、姫のドーピング効果だろう。

「じゃあ蜂川兄妹はどうなんだ?」

「始めから健康。これからも健康」

 これが若さと老い、か……。




「ごめん。何処まで話したっけ」

 とヒルダリアが落ち着いてから話を再開することになった。

 姫はもちろん元に戻り、普段の不思議系黒髪美少女と変貌している。まあ俺にとっては髪の色以外はそんなに変わらない精霊様だ。

「精霊様が事態を収めてくれたって所」

「そうそう、それでね――」

「ちょっと待った」

「なに豊太。今いい所なんだから」

 この褐色ロリエルフ……敵対していたってのに物怖じしねえなあ。

「姫が精霊様だったんだから何か言うことぐらいあるだろ? びっくりしたーとか」

「? 姫ちゃんは姫ちゃんじゃん」

 あれれ? 俺が可笑しくなったのかな?

 

 俺は再び姫をヒルダリアの前に抱え上げて、

「……姫」

「うす」

「?」

「精霊様」

「はい」

「ひゃあああ~~~!!」

「姫」

「うす」

「?」

「精霊様」

「しぇいれいしゃま~~~!!」

「姫」

「うっす」

「?」


「……なにこれ?」

 いや俺も聞きたいよ香澄ちゃん。

「……これはもしかしたら、認識阻害の効果が働いているのかもしれません」

「何か知っているのか隆一郎!?」

「……え、ええ。恐らく姫さんは、自身の存在を見せたいように見せられる。つまり目の前で変化したとしても赤の他人と誤認させる。そんな能力があるのかも知れません」


 見せたいように見せられる? 誤認させる? そんなことが可能なら何でもしたい放題じゃないか。

 

「そうなのか?」

「……あんまり意識していない。けど人によって態度が変わる気がする」

「う~ん……」

 

 ここに来てまた出た姫の超常能力。

 蜂と会話、怪力、治癒ときて次は認識阻害と来た。

 ……そういえば姫は時折フラッと居なくなったかと思うと後ろから現れて驚くような事が多々ある。もしかしたらその能力があってのことなのかもしれない。

 

「精霊や神は様々な外見、様々な性格を持つ者も多いと聞きます。それはこの認識阻害……阻害とは言い切れない、何か不思議な力のせいだった。という説は面白いですね」


「まああんまりいたずらに使わないようにな」

「……」

 こやつ無言を貫きよった。


 *

 

「――で、他の皆は集落へ精霊様の顕現と、この『やしないようほうえん』? の不可侵の報告へ向かったってわけなんだ」

 

 そこで話を締めくくり、ヒルダリアは蜂蜜タップリ紅茶を一気に飲み干した。


「なるほどね……精霊様がその土地の保持を600年前に指示したと」

「だからあそこら辺は禁域だったって大ババ様から聞いたよ」


 つまり元凶は姫だったという話だった。

 その事を精霊様ご本人で在らせられる姫に聞いてみた所、

「忘れてた」

 と見事なテヘペロを決めた。ああ……ネットは怖いな。純真な神様とて毒されてしまうのだから。

 

 さらに聞くところによると、その場所は蜂達の住家候補だったそうだ。日当たりも程よく蜜源もそこそこあった優良物件だったらしく、近くに住んでいた当時のエルフに荒らさないように頼んでいたそうだ。

 しかし蜂の害になる生き物もそこそこ居たらしく、結局はもっと奥のこの草原へ居を構えることになり、その土地は忘れ去られたままだった。

 

「それをエルフ達は律義に守っていたんだな」

「それがエルフの生き方だからね」

「面目ない」

「姫ちゃんが謝らなくてもいいよッ。それに精霊様から直接謝罪と感謝を頂けたんだよ! みんな泣いて喜んで戻ったら自慢するって!」

 

 謝罪も精霊様モードで済ませてしまっていたようだ。


「これでマグアギナは無罪放免。エルフ達も襲っては来なくなったと。それでいいんだな」

「それでいいよ!」

「そうか。それじゃあこっちの損害だが……」

「え」

「当たり前だろう。こっちは命を狙われたんだ。お前達に損害請求をする権利はある。それともエルフっていうのは、殺しかけても謝るだけで済ませる暴虐な種族なのか?」

「う……そんなことはない! ……けど……」

 

 こちとら養蜂家だっていうのに張らなくてもいい命を張ったんだ。蜂川兄妹も危ない目に合わせてしまった。エルフには謝罪の品くらいは要求しても罰は当たらないだろう。

 

「それなら私にも責任がある。エルフ達という災禍を招いたのは私の行動によるものだ」

「マグアギナも被害者だよ。入って欲しくない場所があるならロープでも張って看板でも立てて置くとか、見張りでも就けて置けば良かったんだよ」

 しかもその場所が蜂達の居住候補地という事実が更にがっかり感が増す。エルフ達の財宝でも保管しているというのなら、弓で射掛けられるのもまだ納得できるというものだ。

 

「まあまあ豊太さん。お陰様で俺も香澄も怪我一つしなかったんですから。ヒルダリアさんも他のエルフの皆さんにも丁寧な謝罪を受けて、我々は了承したんです」

「そうそう、可哀想だよ。ヒルダリアちゃんも反省しているじゃない」

「むう……なんだか俺が悪者みたいじゃないか」

 弓を突き付けられたっていうのにケロリとしている。まあ本当に撃たれたのは俺とマグアギナだけだったのもあるか。

 

「それにエルフと不可侵条約も結びましたし」

「不可侵……そういえばそんなことを言っていたな」

「香具内養蜂園に侵攻しない。そしてこちらもエルフの領域を犯さない。そういう契約です」

「あ、それならちゃんとサインをしたよ!」

「へえ……」

 隆一郎は懐から一枚の紙を取り出して俺に見せた。

 ……なるほど。確かにそう言った趣旨の文言が書かれていて、最後に隆一郎のサインと見た事もない文字が書かれている。この文字がヒルダリアのサインなのだろう。

「しかしヒルダリアに何の権限もない場合はどうする?」

「それは大丈夫! 私は長の娘だから」

 意外と地位が高かったらしい。エルフ達に指示を出していたのもその為か。

 

「まあ、それは解った」

「じゃあ!」

「それとこれとは話が別」

「むうぅ~……!」

 その容姿で頬を膨らませていると姫より年下に見えるヒルダリア。一体彼女は何歳なのだろう。

 

「豊太」

「豊太さん」

「豊太殿」

「……豊太」

 おうう……全員が何とも言えない顔で俺を見てくる。そ、そんな目で見ないでくれ。

 しかし俺には考えがあるのだ。曲げるわけにはいかない。

 

「なにも取って食おうってわけじゃあない。頼み事があるんだ」

「……頼み事?」

「そう。それはな――」


 俺の提案にしばし逡巡したものの、ヒルダリアはその頼み事を快く引き受けてくれるのだった。

ざっくりながらこの話で第一章の区切りとなります。

書き溜め分はまだ少ないので後の物語は不定期です。

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