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異世界で養蜂園を創ろう! ~1から始めるハニーライフ~  作者: 世も据え置き
第一章 異世界養蜂園の作り方
19/23

19.新たな拠点

19.新たな拠点

 

 

 小屋の建設は急ピッチで進んでいた。

 一番の理由は基礎のコンクリートを流し込む作業を飛ばしたことだろう。コンクリートが固まるには意外と時間が掛かるらしい。

 俺は隆一郎が何処からか運んできた束石を、糸の張られた建設予定地に正確に置く作業を手伝い、それから本格的な建設作業に取り掛かった。

 

 先ず柱を簡単に組んで立ち上がらせ、自立できるように木を組んでいく。

 

「……おいおい、宮大工の真似事ができるとは思っていなかったぞ」

「太一の所の社長さんは凝り性で有名らしいです」

 

 なんと様々な個所が『木組み』と呼ばれる木をはめ込むだけで固定される伝統技法で加工されていたのだ。もちろん全てではないがそれでも凄い。小屋の工作キットでここまでするとは親方恐るべしである。

 それらをコンコンと木づちで叩いてはめ込んでいく。

 

 姫と香澄ちゃんは養蜂作業をしてくれていた。

 隆一郎が毎日の様に訪れるようになって、香澄ちゃんも一緒に付いて来る事が多くなった。その度にお土産としてお菓子を持ってくるので姫はもうべったりである。餌付けされたともいう。

 

 そして柱の立ち上げの段になって、自身の体の異常に初めて気づくことになった。

 

「せーのっ!」



 豊太は隆一郎と息を合わせて柱を持ち上げる。一番労力が要るのがこの立ち上げだ。

 柱はある程度組まれており二本の柱を梁で繋げている。つまり神社の鳥居のような見た目だ。それならば不安定になりにくく倒れにくい。束石には中央にくぼみがある。そこにピッタリハマる様に立てる必要がある。

 柱を立てる方法は単純。ロープを高い所で結んで引っ張り上げるのだ。


「お?」

 慎重に、しかしするりするりと柱は持ち上がっていく。滑車を取り付ける案は出たが、二人いるなら取り敢えず試そうと持ち上げてみたが、全然いける。これなら滑車を持ち込む手間が省けたぞ。

「隆一郎、いけそうかー?」

「……ぐぐ……」

 しかし隣の隆一郎は顔を真っ赤にしてロープを握っている。

「大丈夫か! 一回降ろすぞ」

「も、問題ないです……このまま、一気に……」

 大丈夫そうには見えない。それどころか足が今にも浮きそうに、地面をズルズルと滑りそうだ。

「……ぐ、だ、駄目か……」

「ほい」

 軽い声で隆一郎の持っているロープを掴んだのは姫だった。

「ひ、姫さん……助かりました」

「力仕事なら任せて」


 忘れていたが姫は俺より力があったのだ。しかし大工仕事は男のするものだという先入観から手伝いを頼むという選択肢が浮かばなかった。

 ……いやしかし。姫に幾ら力があるとはいえ、自分の体重以上はある柱を持ち上げる事など物理的に可能なのだろうか? ……今普通に持ち上げているが。

 俺の疑問はさておいて、柱は無事に立てることが出来たのだった。

 

 

「ありがとう姫。隆一郎もまだいけるか?」

「はい」

「よーし、せーのっ、せーのっ、せーのぅ!」


 三人だったらばあとの作業は余裕だった。

 こうして四方を囲む柱を立てる作業は何とか終了することが出来たのだった。

 

「豊太さんはやっぱり凄いですね……本当に何かスポーツをしていなかったのですか?」

「ああ、していない。自分でも驚いてるよ」

 

 間違いなく力が強くなっている。これは異世界の力かそれとも俺の中の秘めたる力が目覚めたのか……まあ十中八九は異世界的なものだろう。姫の怪力と同等の何かが原因だろうが、それは何かは解らない。


「これなら予定よりももっと早く完成しそうです」

 

 その隆一郎の勘は当たることになる。



 

 ***

 

 

 

 一日一日と着々と進み続ける作業は、少しずつ家の形を成していく。

 柱を全て立て、組んでいくと奇麗な箱型になった。軒桁は柱にあらかじめ固定されていた為高く吊り上げる必要はなかったが問題は棟木だ。

 棟木むなぎは屋根の一番上、三角の頂点の木材だ。屋根を支えるという重要な場所に使われるため長く太い。

 それを豊太と隆一郎の二人はどうやって上げるべきか二人で話し合っていた。

 


「やはり滑車で上まで吊り上げる必要があるでしょうね」

「じゃあ先ずは滑車を取り付ける作業台を作らなきゃな」

「はい。……しかしこんなに大きいとは。すみません、簡単だと言われていたので確認を怠っていました……」

 確かにDIYの規模ではない事が、既に骨組みからでも伺える。

 

 想定では異世界の出入口が建設中の小屋で囲う事になっている。庭からでも花畑からでも小屋から小屋に一度通り抜けすることになる。

 これは秘密保持の観点と、異世界からの外敵の侵入を想定していると隆一郎は語る。庭から直で異世界だと目立つのでカモフラージュ代わりに。異世界からでは逃げ込む際の防護壁代わりになる。

 

「じゃあ今日は作業の邪魔にならない所を進めようか」

「そうですね。明日、単管パイプを増やしましょう」


 単管パイプとはよく建設現場で作業者が乗っている銀色の足場のことだ。それを組むことで高い所も安全に作業ができるという訳だ。

 今回の件では更に高い所で単管を組んで、滑車の取り付け場所を作る必要がある。しかし今ある単管では足りないのだ。

 

 と作業を開始しようとしたのだが。

「手伝う」

「ええ、姫がか? 今は大丈夫だよ」

「違う、それ」

 姫が指さすのは、先程話題にしていた長く大きな棟木。

「幾ら姫が力持ちでもこれは一番高い所に載せなきゃならないんだぞ?」

「問題ない」

 言うや否や。

 姫は棟木を持ち上げると――

「でええ!?」


 フワリと浮き上がったのだ。

 

「この場所でいい?」

 姫はフワフワと浮かびながら屋根まで飛んで、指定の場所へ棟木を降ろした。

「……」

「……」

 俺と隆一郎は声が出ない。だって……だって、人が目の前で飛んだのだ。

「おーい」

 

「……ッハ。隆一郎、隆一郎! 上るぞ!」

「……ア、ハ、ハイッ!」

 二人で屋根へと上がり、置かれていただけの棟木を固定していく。時間が掛かる作業があっという間に出来上がった瞬間だった。

 

「凄い! 凄いじゃないか空を飛べるなんて!」

「むふふ」

「本当ですよ! あれが魔法なんですか!?」

「私は精霊。物理的な束縛を受けない現象の存在」

 神なのか精霊なのか説明がまちまちだがそれでも凄いものは凄い。

 

「こんなことも出来る。……おいで子供達」

 姫が呟くと、周囲を気ままに飛んでいた蜂達が一斉に集まりだした。

「うわわ!」


 俺達は数が多すぎて黒い塊となった蜂の勢いと音でビビりまくる。

 しかし集まった蜂達の向かう先は木材が並んでいる場所だった。蜂達が覆い黒い棒となった木材が、なんとゆっくりと浮き上がっていくではないか。

 

「これは垂木……だからココに置いて」

 姫の指示の元、それはゆっくりと俺達の居る屋根付近まで持ちあがり、設置場所に羽音と共に移動したのだ。

 

「こんな感じ。この子達にも仕事があるから無理にお願いは出来ないけど」

「……本当にただの子供じゃないんだな」

「いつも言ってる」

「いや、何度も目にしているんだが普段が普段だからなあ……」

 作業がないときの姫は寝ているか、本を読んでいるか、パソコンを使っているか、なのだ。それはどう見ても、以前の俺のような引きこもりにしか見えないのだから。

「む”う……」

「いや膨れるな、ありがとよ。助かった。蜂達にもそう伝えてくれ」

「わ、私からも!」

「分ればいい。あの子達にも伝える」

 

 そうして姫という戦力が加わり、さらに拠点建築は急ピッチで進むのだった。

 

 

 ***

 

 

 そして――

 

「出来たーーー!!」

 

 新しく出来た、通称『異世界小屋』は春に入る直前に完成した。驚異的なスピードだ。

 

 見た目は和洋折衷なログハウスといった景観。屋根に黒いガルバリウム鋼板を貼っていてシンプルな見た目。

 出入り口には広めのバルコニーがある。その入り口は両開きになっており、必要であれば大きな物も出し入れが可能になっている。最近御無沙汰の大根号も簡単に運ぶことが出来るのだ。

 室内は12畳ほどの広さがあり上部が吹き抜けで解放感抜群。

 キッチンはあるが風呂トイレなし。これは仕方がなかった。いずれは仮設トイレを小屋の外に置こうという話になっているが、結局排泄物を回収する手間が必要になるので、緊急時に使うだけになるだろう。

 そして特注した物もある。それは内側の壁をモルタルで仕上げたことと、窓に強化ペアガラスをはめ込んだことだ。ドアも金属製の丈夫なやつに、木目シールを貼っている。これらは隆一郎の拠点としてのこだわりだった。

 

 そしてなんと、この小屋には屋根裏部屋があるのだ。

 実は吹き抜けは半分の構造になっており、その半分に床が敷かれ、階段を昇ると個室になっている。ただ屋根に断熱材を張り付けてはあるが、思ったより夏は暑くなりそうな予感。まあそうであれば物置として使えるだろう。

 

 

 そして一番重要なのが、異世界とを繋ぐ扉である。

 

「へー……クローゼットから出てきた気分」

 新宅を見学に来た香澄ちゃんの第一声がそれだった。

 

 元の世界の小屋、紛らわしいから庭の小屋はこれから倉庫と言おう。倉庫から異世界へ繋がる空間を壁スレスレに配置し、クローゼットのような小部屋に格納したのだ。

 なのでこれからは庭から異世界に向かうには、倉庫の扉を開け、更にクローゼットの背面から異世界へ抜け、そうしてクローゼットの扉を裏から開ける感じになる。

 もちろん扉の大きさも倉庫の壁、つまり異世界の扉と同じ間口にしてある。これなら大きな物も運ぶことが可能だ。

 

「これなら向こうから見ても不審な感じはしにくいだろ」

 庭にある倉庫の中を不意に覗き込まれても、壁をぶち抜いて木材で拡張しただけに見える筈だ。

 一応は倉庫側の壁には目隠しとして布が張ってある。まあないよりはましだろう。

「なるほどね~……わあ、思ってたより広い! 木の匂い~」」

「まあ苦労しただけはあったよ」

 兄である隆一郎はくたびれた、しかし満足げな表情ではしゃぐ妹を見ている。

 

 彼は結局一日たりとも休まずこの異世界小屋の建設を続けるという快挙を成し遂げたのだ。称賛されて然るべきであるが、当の香澄ちゃんはそんな苦労など梅雨知らずといった体で部屋の中を散策している。

 

「でも何にもないね。これじゃあ只の箱だよ」

「まあ、これからね……」

 

 実際室内には何もない。あるのはキッチン予定の場所にあるステンレス製の流し台ぐらいだ。水は庭にある散水栓からホースを繋いでいる。川があるがそこまで汲むのも大変だろう。

 コンロはガスボンベを持ち込めば設置は容易であるが、取り敢えずはカセットコンロで充分だろう。

 ここを作業場とし、養蜂道具を運び込む予定だ。広さも充分。

 

 

 しかしこうして作業しながら庭と異世界を行ったり来たりしていて感じる。この世界と異世界とを繋ぐ不可視の扉。実際は“扉”というより“穴”と形容した方が正しい気がするのだ。

 何故かというと、いくら潜っても違和感というものが一切ないのだ。ワープしている気分もなく、遠い場所に飛ばされているという感慨もない。ただ敷居を跨いだ。そんな気楽さで世界を行き来できるのだ。

 さしずめ『ど〇でもドア』が実在するのならこんな感じなのだろうかと思わせる気楽さだ。

 という訳で気楽に家の水道から水を引くことにしたのだ。ホースは絶賛世界を跨いでいる最中である。



「取り敢えず拠点としては問題ありません。春までに間に合うとは思っていませんでしたが、これなら……」

「お兄ちゃん」

「ん?」

「ん? じゃないでしょ! また危ない事しようと考えているんでしょ。お母さんからまた何かしでかしそうだから監視してこいって言われてるんだから!」

「あ、いや、そんなことは……ねえ豊太さん?」

「俺に振るんじゃねえ」

 

 

 そんなこんなで完成した異世界小屋。お値段なんと100万円と安い! のだが痛い。隆一郎と折半しても50万円だった。もちろん貯金を切り崩す羽目になったが、年上として見栄を張らねばならないのであるから致し方ない。それにただで建ててもらうと俺が利用する時気兼ねしてしまう。隆一郎は金を持っているようだが梨栽培はそんなに儲かるのだろうか……?

 

 だがしかし、俺もこれからは問題ない。

 なんと収入が入った。リットル瓶一本につき2万で売れたというのだ。甚爺さんは「それでも安い」と渋ったらしいが、それでも相場の2倍以上だという。だが一つ売れるとあっという間に捌けたらしい。

 そのお陰で卸値も上がり前の月は30万の収入だった。養蜂を初めてたった数週間で、である。

 これも全て蜂川農園が良心的な価格で買い取ってくれているからだ。買取値は売値の半分と決めている。

 ネット販売もその旨さが話題らしく値上げしても直ぐに売り切れるそうだ。もしもの時の為と“豊太のはちみつ”改め“ヒメのはちみつ”と名を変えた我が養蜂園の蜂蜜はこれからもっと有名になるだろう。……名前を直ぐ変更してよかった。

 俺の蜂蜜は特殊なのだ。警戒しておくに越したことはないだろう。

 

 そして今や毎日のように蜜は採れており、六つの巣箱はハイペースで蜂蜜を生産。毎日蜂蜜が採れるのだから驚きだ。週一で蜂川農園へせっせと運んでも追いつかなくなりそうな勢いである。

 

 こうして香具内養蜂園は順風満帆のスタートを切ったのだった。来月の収入が楽しみである。

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