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異世界で養蜂園を創ろう! ~1から始めるハニーライフ~  作者: 世も据え置き
第一章 異世界養蜂園の作り方
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17.建築と太一

 17.建築と太一

 

  持って来た資材では足りないと、隆一郎がトラックで帰っていた。そう、彼は早朝から金網を積み込んだトラックで訪れていたのだ。何という行動力……。

 

 

「もっと蜂蜜飲んで」

「いや何時も食べてるだろ?」

「もっと、もっと私の蜜を飲んで」

「……なんか含みがある言い方はやめなさい」


 そんな会話を挟みつつ日常になりつつある姫との食事を終えて――

 

 

「小屋の外に小屋を作ろうと思います」


 同じ日の午後。トンテンカンと庭で巣箱を作っていた俺の前に、再び現れた隆一郎は会って早々そう切り出した。

 

 そう、俺は巣箱を作っていたのだ。

 実は以前、あまりにもこの巣箱づくりが大変なため、市販のもので済ませようとしたのだが「豊太の作った巣箱がいい」と姫に言われたのだ。そうして今もこうやって金槌片手に頑張っている訳だが、今度の巣箱には香澄ちゃんが言っていた覗き穴を取り付けようと考えている。

 

 いたのだが――

「……どゆこと?」

 唐突な隆一郎の発言に手は止まった。

 

「工務店勤務の友人の伝手で倉庫にある簡易キットを格安譲ってくれることになったんです。もちろん豊太さんにはご迷惑はお掛けしません。好きでやっている事ですから」

「豊太、おやつ。おやつの時間」

「ちょっと待って今接客中だから。……え、どういうこと?」

「DIYですよDIY。家庭で工作をする趣味の延長線上にあるのが、家を建てる事が可能なキットなんです。大掛かりではありますが全てが加工済みの資材で、一人でも持ち上げられるように柱以外は細かい資材で構成されています。ちゃんと庭の小屋から持ち込めることは採寸済みです」

「こ、行動力の野獣……」

 たった一日……たった一日でここまで事を運んでしまうとは。

「……どうもお兄ちゃんがすみません」

「あ、香澄ちゃん」

 妹がその兄の背中からひょっこり顔を出して手を合わせていた。

「時々あるんです。こういう事」

「そうなんだ。まあ、大変そうだね」

「豊太さんも直ぐに解りますよ、あこれ今日のお土産です」

「……そうなんだ、あ、ありがとう」

「やったーありがとう香澄」

 何時の間にか姫が現れ渡された箱をするりと掠めて行った。

「……俺の分も残しておいてくれよ」

「善処するー。香澄一緒に食べよ」

「うん、じゃあお邪魔しまーす」

 そんな言葉、一体どこで覚えたんだ……精霊的なネットワークか? まあテレビだろうけど。

 二人は母屋へと手を繋いで入って行った。女の子は仲が良くなるのが早いなあ。

 

 *


 そんな話題の人物であった隆一郎は車が家の前に停まったのを聞きつけて跳ねるように庭から出て行ってしまった。

 もしかすると今日から始めるつもりなのか?

 

「いやーこっちも助かったよ。倉庫にまだゴロゴロしててさ~」

 そんな声が向こうから聞こえてきた。きっと隆一郎の言っていた工務店に勤めているという友人だろう。

 

「親方が売れるっつって自作したんだけどさー売れないでやんの。こんな田舎じゃ木材も買えるしその場で加工できるし、何よりデカすぎて専用の機材が――あ、どうもこんちゃーっす」

「こんにちわ……思ったよりもデカいですね」

 隆一郎くんとその友人は大きな角材を抱えて庭へと入って来たのだ。小さな小屋を作るものだとばかり思っていた俺はその太さと長さに驚いた。

「ああ、これうちにある一番デカいヤツなんで。それでもこの棟木ぐらいで……あと支柱、そんぐらいですよデカいのは。後は一人でもよゆーで組めますから!」

 俺が購入者だと思っているのか、友人はセールストークで問題がないと言っているが、不安だ。

「豊太さん、庭に置いてもいいですか」

「はいもちろん!」

 家の庭に何もなくて良かった。子供の頃は日本庭園だったのだが、祖父が亡くなったのを契機に維持費の問題から芝生に変えてしまっただ。それがこんな所で役に立つとは。

「よし隅に降ろすぞ……よし、まだまだあるからドンドンいくぞー」

「あ、俺も手伝います!」

「いえ、こちらの都合ですから、豊太さんは何もしなくても――」

「いやいや俺の為にやってくれてるんですから手伝いますよ」

 元はと言えば俺の養蜂園の安全対策を考えてしてくれているのだ。ここで手伝わなくては男が廃るってものだ。

 

 道路に出ると大きなトラックの荷台には大量の木材が積まれているのが見えた。これは大変な作業だな。


「すみません、ありがとうございます。自分の我儘に付き合わせてしまって……」

「男三人もいるだからあっという間に終わりますよ。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」

「んじゃ、二人掛かりで持たなきゃならないのは支柱ぐらいですから、えーと……」

「香具内です、香具内豊太」

「じゃあ香具内さんはその筋交いを運んでください。あ、俺は田中太一ってんでよろしく」

「よろしく太一くん。俺も豊太でいいよ」

「そのクンっての止めてくださいよー背がかゆくなるっすから」

「ああそういうもんなの?」

「ヘヘッ、センコーに呼ばれているみたいで」

 と太一は照れるように笑った。

 

 そんなこんなで隆一郎と太一は柱を持って庭へと向かった。俺は積んであるやや短く細い木材に見当を付けた。恐らくこれが彼の言っていた「筋交い」だろう。

 

 

 筋交いとは、柱と柱の間に斜めに固定し強度を上げる為に設ける柱のことである。支柱を支えるという構造上、支柱より大きく太くなることはないが、運動を全くしない人間にとっては十二分な重さであり、豊太一人に任せるには些か頼りない。

 筈であったが――

 

 

「よっと」

 柱を肩に担ぐ。なるほど、最近の木材は軽く丈夫に出来ているのか。これならもう二三本同時に持っていけそうだ。

 スルスル滑らせるように肩に重ねていく。うん、大丈夫そうだ。

 

「持って来たけど、置く位置に決まりはあったりするの?」

「いや種類ごとに置いとけばいいんで……へー豊太さん力持ちっすねー。なんかスポーツやってたんですか?」

「いや文系も文系でスポーツはからっきしだなあ」

 俺のひょろっとした体型を見てどうしてそんな言葉が出るのだろうか?

 

 ちなみに隆一郎も太一もがっしりとした体付きをしている。隆一郎は農家だから痩せマッチョで、太一は大工らしい普通のマッチョといった感じだろう。

 

「へーもったいない」

「俺も驚きました。豊太さんは意外と着やせでもするんですか?」

「ふっふっふ、俺は脱いだら凄いんだ」


 アッハッハッハと三人で笑う。おっさん一人に若いもん二人だが、やはり男同士は気兼ねが無くて楽である。学業から離れてから久しぶりに味わったこの感覚を俺は楽しみながら作業を続けるのだった。

 

 

 ***

 

 

 暗くなる前に何とか作業を終え、この日は蜂川兄妹も太一も帰って行った。

 

「しかし俺もおっさんだと思っていたが、なかなか捨てたもんじゃないな」

 風呂に入ってヒリヒリする肩を撫でながら自己満足に浸る。

 

 あの後も合板だろう板を何枚か重ねて持ち上げたりするたび「凄い凄い」と文字通り持ち上げられたのだ。

 軽い素材であったろうに、わざわざ二人は一枚ずつ運んだりと工夫もしていた。客であると勘違いしてそうしてくれたのだろうが、若い者に褒められると悪い気がしないのはおっさんとしての自覚が出てきた為だろうかと少し寂しくもある。

 

「私も入っていい?」

 と脱衣所から声がする。またか。

「だめだめ、もういい年だろう。ご自愛くださいませ姫様」

「それ嫌い」

 曇りガラスからフイっと去っていく様子が伺える。姫はこうした扱いをすると拗ねるのだ。見た目は小学生高学年……いやスタイルからはそれ以上なのだが……何というか性格は幼い。やはり子供だ。

「……しかし姫を学校に通わせるべきなのか?」

 ふとそんな考えがよぎる。

 

 彼女は異世界の住人だ。国籍もないし住民票にも記載がない存在。自身を精霊、神と自称しその力の片鱗を俺は目撃している。

 しかしこうして俺の家に、香具内家に居候として住んでいる一人の少女でもある。

 姫は賢い。家中の書物を全て読破し、それだけでなくパソコンを使い暇を見つけてネットで情報を漁っている。前に覗いた時は英語の論文がまとめられたサイトを閲覧していた。面白いのだと言う。

 テレビの子供向け科学番組で地球が丸いと知り、はしゃいでいた時は既にはるか昔に思える。

 

「……ふう。まあ考えても仕方がない」

 風呂から上がる。少々のぼせてしまった。

 

 姫が本当に人でないのなら、もしかしたら歳を取らないのかもしれない。そうであるならこの世界にはずっと居られないのではないか……?

 

「ヤメヤメ……姫は姫、それでいいじゃないか」

 

 学校に行きたいと言えば考える。それでいいと思う。俺は姫の考えを尊重すればそれでいい。余計な気回しはお節介はになりかねないのだから。

 

 

「香澄のお菓子……残しといた」

「ありがとう、でもそんな辛そうに言わなくてもいいじゃないか」


 風呂から上がるとちゃぶ台に奇麗な形のタルトが一切れ置かれていた。……もしかして姫は1ホールの残りを全部食べたのだろうか? いや、香澄ちゃんも誘っていたしそれはないと思いたい。

 

「これは……ナニタルト?」

「はちみつかぼちゃタルトだって。凄く……美味しかった」

「そ、そうか……」

 姫の目が陶酔したように潤んで虚空を見つめている。は、反芻している……のか!? 今や姫は香澄ちゃんの作るお菓子に首ったけなようだ。俺もホットケーキとか作っているんだが、市販品の粉で作るソレとは手間も味もかけ離れているのだろう。

「そういえば、香澄ちゃんのお菓子を食べるのはこれが初めてか」

「……じゅるり」

「……半分食べるか?」

「ううっ……でも歯も磨いたし、パジャマも着ちゃったし……」

「もう一度磨けばいいじゃないか」

「食べるッ」

「はいよ」

 

 俺達は仲良くタルトを半分こして食べた。味はそのまま店を出せるくらい最高だった。姫はそのまま、俺は味変に自家製蜂蜜をたっぷりかけて。

 

 

 異世界蜂蜜は本当に食べ飽きず、どんな料理にも合った。

 砂糖を使う和食は甘い蜂蜜でもよく合って美味いのだ。豊太と姫の最近のお気に入りは肉じゃがの隠し味に蜂蜜を使うことだ。甘さにコクが増しご飯も進む。

 それにカレーには蜂蜜。トンカツのケチャップソースにも蜂蜜。サラダドレッシングに蜂蜜。つまり日本の家庭料理に蜂蜜は最強の組み合わせと言えるのだ。

 姫が積極的に蜂蜜を使った料理を推奨していることもあって、最近の香具内家の料理は蜂蜜尽くしと言っても過言ではない様相を呈しているのであった。

 

 

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