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異世界で養蜂園を創ろう! ~1から始めるハニーライフ~  作者: 世も据え置き
第一章 異世界養蜂園の作り方
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11.最初のハチミツ②

 11.最初のハチミツ②

 

 家に戻る頃にはどっぷりと日も暮れていた。

 

「だがやる事はまだあるんだな」

「大変」

「まあ……でもこれが美味しい蜂蜜を採る為だったら何でもやるぜ」

「お~」


 と言ってもやるのは明日だ。今日は飯食って風呂入ってクソして寝よう。

 

 

 という訳で夜食後、姫を風呂に案内したのだが、なんと初めてだからよく分からないと言い出した。

 

「で、ここを捻るとお湯になる。こっちが石鹸、こっちがシャンプー、こっちがリンス」

「ふんふん」


 一体この姫はどんな生活を送って来たのだろうか。随分とワイルドな姫も居たものだ。

 しかし姫から嫌な臭いはしたことがない。だから異世界的なお風呂があるのかもしれない。サウナとか砂風呂など、世界を見れば様々な清潔を保つ方法がある。

 

「風呂に入ったら百は数えて出ろよ」

「……一緒に入らないの?」

「……姫さま。貴方はお幾つでしょうか?」

「分からない」

「じゃあ駄目だ、一人で入れ」

「むう」

 むう、ではない。下手しなくても俺が犯罪者になってしまう。

 

 で、風呂の悶着が済んだと思ったら次は寝床だ。

「一緒に寝る」

「……姫さま。はしたのうございますよ」

「その喋り方イヤ」

「……淑女たれだ。一人で寝なさい」

 都合よく家には空き部屋が幾つもある。こうして考えると家族三人で住むには些か広い家だったな。

「じゃ、お休み」

「……豊太、手握って」

 

 布団に横になった姫が、寂し気にそんなことを言う。

 その様子は茶化せるような雰囲気ではなく……。


「仕方ない。寝るまでだぞ」

「うん」


 姫の年の頃は十代始め頃だと思う。幼い顔立ちに比べ、背は高い方だと思うし、出るところも出始めている。

 それでも。俺は姫の手を握り、布団の横で寝そべった。

 

 未だに姫の家族に出会った事がない。もしあの場所でずっと一人で生きてきたとしたら。

 姫と出会ってからの怒涛の日々。その間、俺達はずっと一緒に居た事になる。情が移るのには十分な時間だ。俺にとっても、そして姫にとっても。

 

「いい年して甘えん坊だな姫は」

「……そんなことない」



 眠るまで。その約束はしっかりと守られた。ただしそれは、豊太がそのまま寝落ちしてしまったという意味であったが。

 

 

 

 ***

 

 

 

「豊太」

「……グー」

「豊太」

「……もう舐めらえないよぉ~」

「ほ……蜂蜜の滝があるよ」

「なにッ!」

「おはよう嘘だよ」

「……おはようございます」


 飛び起きた俺を待っていたのは横に寝転んでいる姫の笑顔だった。

 何時の間にか寝入ってしまったらしい。そして何故か自身も布団に入っている。

 ……これは俺が無意識に潜り込んでしまったのだろうか。意図的でないならば法に触れる事はない? ……いや、他人が見たらアウトだな。

 

「姫が布団に?」

「寒そうだったから」

「……そっか、ありがとな」

 

 姫は見た目によらず力持ちだ。古い家なので隙間風もひどい。震える俺を見かねて布団に運んでくれたのだろう。犯罪になろうともそんな姫の好意を無下にすることは俺には出来ない。

 

「……今日はどうするの?」

 寝ぼけ眼の俺に首を傾げて尋ねた言葉。そんなものは決まっている。

「もちろん昨日の続きだ」


 *

 

 朝食を頂いた後。

 さっそくたれ蜜の溜まり具合を確認する。

 

「おおッ……こんなに採れるものなんだな!」

 巣箱の下のプラスチックケースには目に見えて大量の蜂蜜が溜まっていた。

「よし、これを漉して移す。それで完成だ」

 溜まった蜜には僅かだが素の欠片が混じっているので最後に綺麗にする必要がある。

「清潔な布で茶漉しをくるんで……瓶にセット」

 使う瓶は家にあった梅酒用の空き瓶だ。大きさも4リットルの大容量なので問題ない。もちろんしっかり湯煎した物だ。

 ゆっくりと傾けて瓶に流し込んでいく。慌てると漉す際に溢れてしまうから慎重に。

 

 

 結果。梅酒瓶には九割程度満たされた琥珀色の蜂蜜が溜まった。

 

 

 出来てみれば上出来どころか大上出来の結果だった。

「ムフフウフフフフフフ」

 手に持ってみると量にして3キロ以上はある。その重みにニヤケてしまう。これが全部俺の物だとか笑いが止まらないぜ。つい瓶に頬ずりしてしまうぜ。

「気持ち悪い」

「ムフウフフフウッフフ……何とでも言うがいい。今の俺は無敵だ」

 少女の雑言なんて気持ちいだけだぜ!

 

 

「……こっちはどうするの?」

 と姫が指したのは、残った蜂の巣だ。

「それにはまだたっぷり蜜が詰まっているから更にナイフで細かく刻んでいくんだ」

「それ私がやる」

「ナイフを使うぞ? 大丈夫か?」

「子ども扱いしないで欲しい」

 それはおませな年頃の定型句だな。

「まあ気を付けてな」

「うん」


 

「出来た」

「よし、それをだ――」

 ザルを入れたボウルの中で、巣を出来るだけ細かく刻む。そしてしっかり蜜が落ちるようにした後は布で包んで絞るのだ。もちろん絞り器なんて物はない。少しずつ手で絞っていくしかない。

 牛の乳を搾るようにギュ~と握りこむとポタポタと蜜が滴り落ちる。手がつるつるになりそうな作業だ。

「私もやる」

「おう」

 俺が絞っていた物を受け取り、姫が力を入れて絞ると蜜が噴き出す勢いで垂れだした。

「……腕相撲はしない方が良いな」

「?」

 握力で恐らく俺の手が砕けてしまいます。

 

 何度か交代しつつ絞っていくと、かなりの量の蜜が採れた。それでもたまり蜜よりは少ないがそれでも養蜂素人の俺には凄い量だ。


「ウフフフフ……この時出る蜜を『にごり蜜』と言うんだそうだよ」

「美味しくないの?」

「いや……分からん。栄養はあるらしい」

 

 調べたところによると、西洋ミツバチの蜜に似た味がするらしい。つまりいつも食べている市販の蜂蜜と同じ味ということだ。ならばこっちも美味しい蜂蜜に違いはない。


「これで作業はお終い。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


 こうして初めての蜂蜜作りは成功と相成ったのである。

 

 

 ***

 

 

「結果はっぴょう!!」

「うお~」

 いやもっと盛り上がってください。不思議系美少女のリアクションは平たんである。

 

「え~ではご覧ください! これがうちの香具内養蜂園で採れた蜂蜜たちです!」

「お~」



 ずらりと並べられた瓶に入った蜂蜜。たれ蜜が梅酒瓶に一つ。にごり蜜がジャム瓶三つに、インスタントコーヒー瓶一つ。最後のは瓶が足りなくなったので、急遽コーヒーの中身を移し替えた。

 恐らくは合計5キロ強は採れている。豊太は気付かないが一つの巣箱からは異常なまでの量、そして異常なほど短期間で、である。

 実際の日本ミツバチの採取は良くて年に二度である。そして一つの巣箱から4キロ程度が普通なのだ。なので目の前に並ぶ蜂蜜がどれほど異常であるか解るだろう。

 

 

 俺は並べられた蜂蜜を感慨深げに眺める。

 

「天国かここは……」


「もっと巣箱を増やそう」

「いやもっと他にいう事あるだろう?」

「そう?」

「そうだぞ……今この場所は最も天国に近い場所だ。……まああの花畑の次くらいに」

「私はお菓子がいい」


 そうだ、食べなければ蜂蜜は只の綺麗な琥珀の液体だ。つまりする事は一つ。


「蜂蜜料理だ!」


 *


「おお~」

 先ず手始めに作ったのはホットケーキだ。

 市販のホットケーキミックスがあれば誰でも簡単に作れて美味しい。しかも蜂蜜をダイレクトに味わえる。


「頂きます!」

「いただきます」


 ホットケーキはナイフとフォークで食べるのが俺のジャスティス。姫にもしっかりとその作法を教える。

 そして姫と一緒に頬張る。

 ……うん美味すぎる。火が強すぎて若干表面が焦げてしまったが、その苦ささえも蜂蜜の甘さが深みに変える。ホットケーキの焦げた部分はドーナツのような味がするな。

 

「美味い……蜂蜜をお菓子にするなんて逆転の発想」

「いや蜂蜜ってそういうものだから」

「そうだったのか……人間は色々なことを考える」

 ハハッ、まるで自分が人間でないみたいな言い草じゃないか。

 

 

 更に作ったのは鶏の照り焼きだ。

 これも簡単。砂糖の代わりに蜂蜜をたっぷり、醤油と料理酒を鶏肉にしっかりと絡ませて焼くだけ。

 今日のお昼ごはんはこれに付け合わせのサラダとお味噌汁を添えて完成だ。

 

「うまい~蜂蜜の優しい甘さと香りが鶏肉の油を軽くている!」

「美味しい美味しい」



 更に更に、3時のおやつに蜂蜜クッキーだ。

 これはオーブンレンジの説明書に付随していたレシピで作る。砂糖を少なめにその分蜂蜜を入れる。生地のが少し柔らかくなった分は目分量で小麦粉を増やした。

 

「これも美味しい……蜂蜜は偉大」

「だろうだろう! 姫はあんな所に住んでいて今までそれを分からなかったとは……かーッ勿体ない!」

 

 

 こうして豊太の壊れたテンションで蜂蜜三昧の一日は過ぎてゆく。

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