性癖規制委員会
走る。走る。ただ走る。
もしも“奴ら”に見つかればただでは済まない。
闇商人から購入した布に覆われた一冊の本を抱えて僕は家までの道を全力ダッシュしていた。
現在地は家から約800メートルほど離れた裏道。
自動車一台すら通ることができない細い道を駆け抜ける。
布団をバンバンと叩きながら「引っ越し!」と叫ぶおばさんの声を聞きながら右折。
そして『一般男性脱糞シリーズ』を大音量で流している少年がいるところを左折する。
ミトコンドリアが過労死してそうなくらいしんどいけど家に着くまで走ることをやめない。
やっと家にたどり着いたころには僕は息切れを起こしていた。
玄関の扉を開けて家の中に滑り込む。
――やった! やったぞ!
玄関の鍵をかけ、自室に入り、扉に鍵をかける。
誰も入って来られないよう、扉の前にバリケードをはった。
――よし!
僕は本を覆っていた布を取り去った。
『美脚美女踏み踏み教室』
ついに! ついに手に入れた!
性癖規制基本法によって禁書指定された伝説の本『美脚美女踏み踏み教室』!
西暦114514年、日本では性癖規制基本法というそれはそれはもうとてつもなく嫌な法律が制定された。それによって特殊性癖に指定された性癖とそれに関連する本は全て禁止にされてしまったのだ。
まず同性愛が禁止された。同性だと子孫を残せないかららしい。
次に女性がサドな性癖を持つことと男性がマゾな性癖を持つことが禁止された。女性が男性の尻を掘ったところで何も生まれないからだそうだ。ただ、足フェチもセットで規制されてしまったことが理解できない。
さらにJS、JC、JKとタグのついたものとそれに類似するものは全部アウトになった。もともと現実で手を出したらアウトだったがついに二次元の世界まで規制されるようなってしまったのだ。
強姦ものももちろんアウトだ。教育に悪いらしい。
結局最終的に許されたのは手ですることと口ですることと本番に突入することだけ。成人向けの本も新婚がイチャイチャして赤ちゃんが生まれてハッピーエンドになるものを除いて全て禁止にされた。
もちろん僕が闇商人から買った本も規制の対象である。
ピンポーン。
踏み踏みを読んで興奮していた僕はインターホンの音にビクッと身体を震わせる。
まさか……“奴ら”が……?
本をロック機能付きの箱の中に入れ、さらにその箱を金庫の中にしまう。
誰が来たのかとビクビクしながら僕は玄関の扉に手をかけた。
ガチャ。
そこにいたのは“奴ら”だった。
――性癖規制委員会。
「近所で布で巻かれた怪しい本を持った男が狭い道を爆走していたという目撃情報があった。君は何か知らないか?」
――大ピンチ!
しかも口を開いた人が委員会専用の制服を着た美脚美女だった。黒ストッキングに包まれたスラっと伸びた脚に目が行きそう。
――大大ピンチ!
もし欲情したような目線を向ければ家宅捜索エンドまっしぐらだ。もしそうなれば終わる。
とりあえず何か言っておこう。
「何も知りません。そんな怪しい人がいたことも初めて知りました。脱糞してたので」
「そうか。それは失礼した」
美脚美女は一瞬困惑したような表情になったあとすぐ真顔になり、「何かわかればすぐに連絡してほしい」と言い残して立ち去って行った。
僕の手には性癖規制委員会の名刺だけが残されていた。
☆☆☆☆☆☆
翌朝、僕はインターホンの音に起こされた。
僕の部屋には昨日のお楽しみの残骸が残っている。『美脚美女踏み踏み教室』は床に置いたままだった。
さすがに昨日の今日で彼女らが来ることはないだろうがさすがに禁書が床に落ちてる状況はマズイ。昨日と同じように処理をして玄関の扉を開ける。
そこには昨日の美脚美女がいた。
「やぁ嘘つきくん。今日はいい天気だね」
冷笑を浮かべる彼女。
「お姉さんが何をおっしゃってるのかわかりません。とりあえず惚れたので僕と結婚してください」
ごまかす僕。
「罪を犯した君と結婚などありえないな」
そう言って彼女は家宅捜索の令状を僕に見せた。
「これから君の家の捜索を行う。もちろん立ち会ってくれるね?」
☆☆☆☆☆☆
結局僕の『美脚美女踏み踏み教室』はあっけなく発見されてしまった。
手錠をかけられパトカーに乗せられ。
あれよあれよという間に僕の懲役刑が決定した。
そしてその懲役刑は年齢規制でここには表記できないほどおぞましいものだった。
――この国に性癖の自由は存在しない。
性癖規制委員会がもし現実にあれば最初に捕まるのは多分ワタシです。
『美脚美女踏み踏み教室』読みたい(真顔)