アリスさん、初めての友達を知る
「私は……真祖?の名前は……アリス。さっき産まれました。よろしく」
プロフィールを見せあった仲ではあるが、やはり面と向かった言葉での挨拶は大切である。知性あるものとして、言葉が通じるのなら、それはドラゴンだろうと同じことである。
「それでアリスはどうして私の封印を解いたの?」
「どうしてと言われても……私、封印なんて解いたっけ?」
いきなりのエディルアの質問に私は戸惑う。
封印……?解いてないよな……?と。
ステータスにも「黒死を解き放ちし者」なんて称号があったが、私はそんなの解き放った記憶がない。
した事と言えば、全裸で森を走り回ったくらいのものである。
「洞窟の封印解いたでしょう?ステータスにもちゃんと称号として表示されてたし。もしかして知らずに解いちゃったのかしら……恐ろしい娘」
洞窟の封印?
知らずに封印を解いてしまったなんて言われても、封印なんてものは見たことも無いのだから仕方ない。
学校で習って無いし、そもそも考えてみれば私は産まれてから数十分しか経っていないのだ。
この世界の事を何も知らない赤子である。
そもそも私は洞窟に入ろうとしただけで、封印なんてものを見た覚えはない。
否、何故かは知らないが吹き飛ばされたせいで、洞窟には入れてすらいないのだ。
……もしかしてそれだろうか?
吹き飛んだのが封印とかいうものなのだろうか。
「洞窟……。私が洞窟に入ろうとしたら吹き飛ばされたんだけど、あれが封印?」
「あそこにあったのは私を封じ込める為の25個の神級封印結界よ。アリスが洞窟に入ろうとした時にそれが砕かれちゃったのね。吹き飛んだのは結界が無理やり破壊された反動ね。超ビビったんだから!凄く久し振りに目が覚めて、封印解かれたんだなーって思ってたら、誰か物凄いスピードで飛んでっちゃうんだもの。必死で追い掛けたわよ」
「……あの洞窟の中にいたのはエディルアだったのか」
つまり私が洞窟に入ろうとしたから封印が解けちゃったと。
そのせいで私は吹き飛ばされたと。
そして中に封印されていたエディルアを起こしてしまったと。
洞窟に入ろうとした時に感じた感覚は、その結界とやらを砕いた感覚だったのだろう。パキリって音がしたし。
……何だそれ。
洞窟入っただけで壊れるなら、ちゃんと「入るな危険ー結界がありますー」って看板でも立てとけと言いたい。
間違って入っただけで吹き飛ばされたのでは、たまったものじゃない。
おかげでこっちは死を覚悟した。
「その様子じゃ何も知らなかったみたいね……。まあ、知らなくても仕方ないか、産まれたばかりだって言っていたし」
「ひょっとして封印解いたのまずかった?」
少し呆れたような表情のエディルアに、そんな風に確認をとりつつも、内心、私は悪く無いと思っている。
あり得ない程の威力で吹き飛ばされたし。
これでエディルアが人類抹殺しだしても、私には関係ない。誰でも入れるような場所に封印しておくのが悪いのだ。
ただエディルアが封印解かれたく無かったのなら少し申し訳無く思う。
言ってみれば不法侵入みたいなものだし。
その場合どうにかしてもう一度封印してくれる人を探してこよう。
「無問題よ!別に人類滅ぼしたりしないから安心して。今の私はちょっと生き物を殺すのが得意なだけの只のドラゴン。おかげでアリスみたいな可愛くて強くて面白い娘に会えたんだもの、私としては封印を解いてくれて有り難く思ってるわ!」
何だ。どっちも心配無いではないか。
「それなら良かった。産まれて数十分で人類抹殺の共犯者になるところだった」
割と本気で胸を撫で下ろす私に、エディルアは心外だと言いたげに頬を膨らませる。
「そんな事しないわよ。別に人類に恨みがあるわけじゃないもの。結界の封印だって、私が頼んで封印して貰ったのよ?本当は世界が消滅するまであのまま封印されている筈だったんだけどね」
何と。
自分から頼んで3000年も封印されていたとは、さすが異世界のドラゴン。スケールがぶっ飛んでいる。
詳しく聴いてみたいのは山々であるが、ついさっき他人の過去は詮索しないと誓ったばかりである。
想像するに留めよう。
しかし3000年も洞窟の中で何をしていたんだろうか。ずっと寝ていたのかな?
最早想像すら出来ないな。
「あれから3000年も経ったのね……。私の事覚えてる人類なんていないだろうからちょうどいいかな?ねえアリス」
「何かな?」
「アリスはこれからどうするの?さっき産まれたばかりなんでしょう?何かやりたい事はあるの?」
食べ物はどうしていたんだろう?とか、トイレはどうしていたんだろう?とか考えていた私は、エディルアに言われて、はたと思う。
そういえばこの世界でどうやって暮らせばいいんだろう?と。
生活するにはお金がいる。
お金を得るには仕事をする必要がある。
私の仕事、職業は「濃血を操りし者」とかいうものらしい。
内容は「新たな吸血鬼を生み出し、幾つもの眷属を従える」こと。
何だそれは。
お金はどうやって稼げばいいんだ。
それ以前に人が住んでいる場所が分からない。
国とか街とか村とか、近くにあるだろうか?
否、今の私は人類の敵らしいし、人里には近づかない方が良いのだろうか?
そうなると、この森でサバイバル生活の始まりである。
流石にそれは嫌だ。
「……まだ何も決めて無い。この森で目が覚めて、身体に慣れる為に走り回った後、あの洞窟に行って今に至るから」
「なら、私もアリスに着いて行っちゃ駄目かしら?アリスはこの世界の事何も知らないでしょう?私が少しくらいなら教えてあげられると思うわ。それに、私知り合いなんていないし……良ければだけど」
確かに私は知らない事だらけである。
文字通り産まれたばかりなのだから仕方がないが、そう言っていられない事もあるだろう。
エディルアの封印を解いちゃったのだって、結局は良かったものの、何も知らずに歩き回るにはこの世界は危ないものが多い。
叫んで消し飛んだ森の理由は未だに分からないし、魔物なんていう怪物もいるらしい。
魔法だってまだ使い方が分からないのだ。
教えてくれる人がいるのなら凄く助かる。
それに、独りで見知らぬ世界をうろうろするのは少し心細い。
せっかく出会い、会話をし、ステータスを見せあったのだから、相手がドラゴンだろうと吸血鬼だろうと仲良く出来るのならそうしたいと考える私にとって、それは願ってもない申し出であった。
素直に嬉しい。
「本当に?今のところエディルアしか生き物に出会ってないから頼れるものが何も無いんだよね。色々教えてくれると有り難いし、一緒にいてくれると嬉しい」
「勿論よ!と言っても3000年前と今じゃ全然変わってるだろうけどね。不滅どうし、仲良くしましょう。改めて宜しくね、アリス」
そう言って、エディルアは笑顔で手を差し出して来た。
そうか、エディルアにとっては3000年ぶりの外の世界という事だ。
彼女の知らないものがきっと沢山増えているだろう。
何処かに腰を据えて落ち着いたら、二人で観光の旅に出掛けるのもいいかもしれない。きっと楽しい筈だ。
「こちらこそ宜しく、エディルア」
私達のこれからに思いを馳せながら、私は笑顔で彼女の手を握った。
真祖の幼女姫と、黒死の龍の保護者の誕生であった。