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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、都に行く
77/89

side.ソフィア 正義の娘、ハッピーエンドを知る

残酷な描写、表現が含まれます。


そしてシリアスな展開があります。



心が疲れる。


ギャグだけを読んでいたい。


ほのぼのは?


これはコメディ小説ではなかったのか……。



そう思った貴方、安心して下さい。


途中の『☆』まで、いい感じに斜め読みすればとてもいい感じです。



人里離れたその森の奥に、打ち捨てられた小さな砦があった。



組まれた木は朽ち、積み重ねられた石は崩れ、かろうじて残るのは一部の石壁と土台のみ。


嘗て誰かが築き上げたそれは、大勢の人々の記憶にその面影を残す事もなく森の自然に呑まれるように苔と蔦に覆われていた。




廃墟と遺跡の合間にあるようなその場所で、崩れた瓦礫に隠れるように地下へと続く階段がある。


きっと通り掛かっただけでは気が付かない、忘れ去られたこの場所で誰にも見つかる事のないいただの竅。



ポッカリと口を開いた闇へ潜るように、地の底へと続くその長い石段を降りていけば薄暗く湿った場所に出た。



土壁が剥き出しになった地下室のような、ただの洞穴のようなそこは、様々な汚臭が逃げ場無く留まり、非道く息苦しい。


足元は不快に泥濘み、見たこともない虫の死骸が掻き分けられたように部屋の角に積まれている。



三人がそこに足を踏み入れた時、彼女達が見たのは悪意と欲望が苦痛と恐怖だけを集めて形作った地獄だった。






手足に枷を嵌められ、天井から鎖で吊るされた人間の女性がいた。


休むことなく上げ続けた悲鳴に擦り切れた喉で、振り絞るように彼女はどうにか救いを求める言葉を紡ぐ。


その身体は、無数のミミズ晴れと裂傷で埋め尽くされ、足元には滴り落ちた血が赤黒い水溜りを作っていた。




その隣には、ボロ切れのような布で目を覆われて、壁に磔にされたエルフの少女がいた。


何か少しでも物音を聞くたびに、彼女は拒絶の叫び声を上げる。


彼女の身体も血に汚れ、至る所に生々しい傷があった。




その前にある台の上には、右腕と両手足の無い血塗れの獣人の少女が縛り付けられていた。


体のあちこちの肉を削ぐように切り落とされ、片目さえも失った彼女は、小さな唸りのような声を呼吸の度に発していた。




部屋の奥には小さな檻に詰め込まれた三人の女性がいた。


人種も年齢もバラバラな彼女らは、汚れた床に蹲り、肩を寄せ合うようにして啜り泣いていた。





三人はその光景を、天井から吊るされた小さなランプの薄灯りの中に見た。



如何にしても晴らし難い悲惨を、筆舌に尽くし難いその惨憺を。


絶望に包まれた、確かな地獄を。




ここはどこだ?


ここは何だ?


彼女達は何なんだ?


そんな中で、ソフィアが感じたのは生まれて始めての途方もない焦燥だった。




どうすればいいのか分からない。


自分が何をすべきなのか分からない。




何かをしなくてはいけない、どうにかしなくてはいけない。


けれども、目の前の現実を受け入れたくない頭と心が、思考を拒絶する。



リアデの正義の娘はこれまで様々な悲劇を見てきた。


目の前で魔物に喰い殺されて死んだ仲間を。


寝込みを襲われた末に自らが斬り殺した仲間を。



勿論、盗賊に攫われた挙げ句慰み物にされた女性も。



けれども、それらはこんな風では無かった。




こんなにも酷くは無かった。


その何処かに、確かな救いようがあった。



こんなにも悪意に満ちた絶望を、彼女は知らなかった。



彼女は心の何処かで、人として超えてはいけないラインを守り続ける良心を誰もが必ず持っていると信じていた。


大抵の人は話せば分かる、話して分からないなら殴って分からせればいい、それでも駄目なら檻の中で相応の罰を受ければいい。



何時かタマちゃんに言われた、大抵の人間が大なり小なりの善意を心の何処かに持っているのだという言葉をその通りだと疑いもしなかった。


悪意が無くなる事はないという話も、納得出来ずとも理解は出来た。



だからこそ、彼女は自らの正義を持ち続けてこられたのだ。



人が理性を持つ生き物である限り、悪と善の境界は必ず存在する。


そう信じていたから。




……それがどうだ?



これは人が行える非道なのか?


人は悪意だけでこれ程の事が行えるのか?


この場所の何処に人間性が、善い心がある?






分からない。



息が酷く苦しい。


もう見ていられない。




今は楽しい旅行中だった筈だ。


王都へ行って、祭を見て回る予定だった筈だ。



何故、自分はここにいる?


何故、自分はこんな物を見ているんだ?


何故、彼は自分をここに連れて──






「ッ!!!!糞ったれがァッ!!!!」



ドロドロと淀んだ闇のような思考を巡らせていたソフィアは、直ぐ隣から発せられたそんな絶叫にゆす振られるようにして我に返った。


タマちゃんの声だ。


ヒラヒラとした、可愛らしいパーティードレスのようなメイド服を着た、可愛らしい少女のような少年。


小さく幼い見た目とは裏腹に52才だった前世の記憶と心を持つ彼は、何時もどこか適当で、ものぐさで、けれども優しくて、含蓄に富んだ感性を持つ一角の人。



ソフィアにとっては、穏やかさの代名詞であり、頼りになる年長者であり、世話の掛かる妹のような存在だった。


それが、振り向くようにして隣に見下ろした今日の彼は全くの別人のように思えた。



胸中を支配する怒りと憎しみが抑え切れずに、吐き捨てるように叫んだ彼のあの顔。


濁流のように押し寄せる苦痛に非道く歪んだあの表情は、ソフィアを困惑させた。




さっきもそうだ。



縛られて身動きの取れない盗賊に怒号を浴びせながら殴り続けていた時も、いつものぐでんとした彼とは別人のようだった。



優しさを何処かに忘れてしまったかのように。



そうか……。そう、ソフィアは理解した。



彼は、見ただけで相手の事は何でも分かってしまう。



ここにいる彼女達を見た瞬間、彼は分かってしまったのだ。


どんな非道に晒され、どんな悪意に甚振られ、どんな苦痛に踏みにじられてきたのかを。


彼は否応なしに、その全てを理解してしまう。



さっきの盗賊達を見て、彼はこの場所と彼女達の事を知ったのだろう。


だからあれ程までに怒り狂った。


これ程までに最低な悪意を、分かってしまったから……。






脚が強張り、手が震え、頭が非道く痛い。


胸と喉が灼けるように熱く、口の中が非道く辛くて苦い。


それでも、歯を食いしばり固く握った手から血を流しながら目の前の絶望を睨む彼を見て、ソフィアの思考は漸く動き始めた。



「……ッ!!クソッ!!待ってろ、直ぐ助けてやる!!」


そうして、刹那の内に彼が何故自分をこの場に連れて来たのかを理解した彼女は、最も近くにいた女性の元へ駆け寄った。


爪先が蹴りつけた血と肉片が混じる腐ったへドロが飛び散るのも構わずに、腐りきった汚臭に鼻と喉が焼けるのも厭わずに、慈愛と豊穣の戦神乙女(ヴァルキリー)である自分が今ここでやるべきだと考えた事を彼女は行う。



吊り下げられていた女性の拘束を引きちぎり、[癒しの抱擁]を発動させ、その女性の肉体的異常を全て癒す。


磔にされた女性の拘束を引きちぎり、[癒しの抱擁]を発動させ、その女性の肉体的異常を全て癒す。


台に縛り付けられた女性の拘束を引きちぎり、[癒しの抱擁]を発動させ、その女性の肉体的異常を全て癒す。


数人の女性が詰め込まれた檻をぶち破り、[癒しの抱擁]を発動させ、その女性の肉体的異常を全て癒す。



ソフィアは慈愛と豊穣の女神エイラに祈りを捧げ続けた。


傷付き、血を流した彼女達が少しでも安らげる癒しを祈りながら。



欠損を治し、傷を癒し、失われた体力を回復させる。



普段なら奇跡のように思えるそのスキルも、けれども今のソフィアには物足りなく感じた。



彼女達の悲しみも、心に残った苦痛の痕も、赤黒くベタベタとこびり付いた血垢も、ソフィアには拭い去る事は出来ないから。



「すまない……私が出来るのはここまでだ……」


瞬く間に全身のあらゆる傷と欠損すらも跡形も無く治ってしまった六人を背に、けれども悲しげな表情を浮かべるソフィアはヘデラとタマちゃんに苦しそうに告げた。



自分は無力だ。


剣を振るう事しか出来なかった少し前の自分に比べ、こんな時に出来る事はただの少ししか増えてやしない。


彼女達にかける言葉すら出てこない自分が情けないと、ソフィアは自らを貶んだ。





「人が人を飼う……ですか。やはり理解出来ませんね」


唖然とした表情で自分達を見つめる血塗れの女性達を、ヘデラはひどく悲しそうな顔で見ていた。



こんな物の何処に意味があるのか、理解出来ないのはソフィアも同じだ。



人が人を飼う。


酷く嫌悪を覚えるそんな言葉すら生易しく思える程に、ここには理解の出来ない事ばかりだ。



「他者を痛めつけ、辱め、慰みものにする……尊厳を踏みにじり、人格を否定し、家畜の糞にも劣る扱いで人を壊す……人として、最も最悪な行為でえ……ここは、鬼の畜生の住処だ」


「……そうですか」



鬼の畜生の住処。



聞き馴染みの無いそんな言葉にも、「ああ、確かにその通りだ」と、ソフィアは思う。


彼女にとって、悪魔の住処と言ったほうがしっくりきたが、そんなものは些末な問題だ。


悪魔だろうが、鬼だろうが、ここに住むのは言葉では言い表せない最低で最悪のナニか。



少なくとも、こんな場所には一秒だって長く居たくは無い事は確かだった。



「早くここを出よう……ヘデラ殿、頼めるか?」


「承知いたしました」





ヘデラの空間魔法を使い、その場にいた女性達を地上へと運んだ三人は、彼女達の体を清め、服を着せ、温かい食事を用意した。



感情も精神も不安定な彼女達を落ち着かせるのに、ヘデラの魔法とスキルを使えばそれ程時間は掛からなかった。



それでも、彼女達が助かったとは余りに言い難い。



彼女達の受けた恐怖や苦痛は、心に深い傷となって残っているだろう。



中には、帰る場所すらあの盗賊達に奪れたという者もいた。


村を襲われた。


家族を皆殺しにされた。


他の奴隷商から売り渡された。



最悪なのは六人全員が奴隷契約を結ばされていた事だ。



内容を伺い知る事は叶わないが、さっきの地獄のような光景を見ればそれが普遍的な奴隷が結ぶようなものでも、彼女達自身が望んだものでも無いのは確か。



彼女達は、所謂裏奴隷と呼ばれる存在であるとソフィアは理解した。


それも、自分の死すら主に管理されるような最悪の類。



彼女達はあの地獄のような場所から出られたからといって、簡単に救われるようなものでは無かった。





「……あぁ……私……あの、お願いします……ナイフを一つ、もらえませんか……」


捕らわれていた女性の内の一人が、ソフィアにそう声を掛けた。



両足と片腕、片目を欠損し、一番酷い状態だったと言える十代後半の獣人の少女だ。


俯いたまま覚束ない足取りでソフィアの側までやって来た彼女は、呟くような小さな声で言う。



「……ナイフを?」


そんな彼女にソフィアは首を傾げると、彼女は顔を伏せたままで小さく頷いた。


極普通な、他愛のない会話だと思った。


食事も食べずに、ある程度落ち着いた途端にナイフを欲しがるのは変わっているが、自分の持ち物が何も無い彼女達ならば仕方が無い。



いったいどうするつもりだろうか……ああ、髪でも切りたいのかな?


ソフィアは伸び切ってボサボサになった彼女の髪に目がいった。



それを見るだけでも、どれ程の間あの場所に彼女が居たのかが伺い知れる。



水浴びをして、拭き取り、ある程度は綺麗になったからといっても、気になるのだろう。


何て、そんなソフィアの考えはタマちゃんの言葉によって直ぐに覆される事となった。


思いもよらぬ言葉と共に。



「あんた、死ぬつもりか?」


「な……ッ!!」



ソフィアは言葉を失った。



死ぬつもり……?



彼女がナイフを欲したのは死ぬ為だと言うのか?



何故?




「……止めないで。私は全部失ってしまった……アイツらに………大切なものを何もかも……生きていく意味も、気力すら……」


力無く俯いたまま、その少女は虚ろに言う。


目の前にいるというのに、垂れ下がった長い髪に隠れたその表情を、ソフィアは見ることは出来なかった。



全部失ってしまった。


奪われてしまった。


あの地獄のような場所で、生きていく理由も、気力すら奪われてしまった。



だからもう死にたい。


生きたくない……と。



ソフィアは理解出来なかった。


否、理解したくなかった。



そんな事ある筈が無いと、拒絶した心が受け入れようとしないのだ。



認められるわけが無かった。




「止めやしないさ……」


「た、タマちゃん殿!!何を言っているんだ!!」


「オレは彼女に何か言う資格はねえ……オレも、一緒だからよォ……」



タマちゃんが何を言っているのか、ソフィアには分からなかった。




……否、違う。


今度もそう、分からないフリをしていたかったのだ。



そうしないと、自分の中で何かが壊れてしまいそうだったから。




だから、分からないソフィアは否定せずには居られなかった。



「何を言ってるんだ!!あの場所から抜け出す事が出来たんだぞ!!助かったんだ!!なのに死んでどうするんだ!!」



そう、この少女は助かったんだ。


あの場所から、苦痛から、恐怖から、盗賊達から、助け出す事が出来た。


助かった。


めでたしめでたしだ。


ほら、何処にだって死ぬ理由なんて無いじゃないか。と。


死んで良い理由なんて、この世界にある筈がないんだから。




「バカを言うんじゃあねえ……ッ!!この嬢さんがどんな思いでナイフをくれと頼んだと思う?生きたいと思う、そんな当たり前な祈りにすら縋れない意味が分かるか?」



何だそれは。



そんなの分かるわけ無い。


そんなの理解出来るわけ無い。


そんなの想像出来るわけ無い。



そんな言葉を認められるわけが無い。




だからソフィアは言う。


自分の正義を信じる為に。


信じ続けられるように。



「それは一時的なものかもしれないだろう!きっとまだ混乱しているんだ。時間が経って落ち着くまでは、早まった事はするべきでは無い!私達ならきっと救える。アリス殿だって、ヘデラ殿だって、エディルア殿だって、皆生きる伝説だ!凄い方々だ!!どうにか出来る筈だ!!だから死ぬなんて事は言わないでくれ!!生きていればきっと、楽しい事なんて山程ある。貴女方に酷い事をした奴らを見返す事だってできる筈だ!死んだら、死んでしまっては何も無いではないか!」



俯いたままの少女の肩を掴んで、ソフィアは言った。


力を籠めて握ったそれは非道く細くて、ともすれば簡単に折れてしまいそうだ。


それでも、力無く俯いたままの顔が上がる事を期待して。


頷いてくれることを祈って。


もしかしたら、笑ってくれる事を夢見て。





「ありがとう……でも、私はもう嫌……。私にはもう何も無い……帰る場所も、居場所も、大切な家族も、友達も、名前も、自由も、権利も……全て奪われた……今だって、生きているのが辛くて……ずっとアイツらの笑った顔が頭から離れなくて……身体が……覚えて…………」


「それなら私が当分面倒を見てもいい!!頼ってくれていい、何だって力になるさ!!もう辛い事なんて無いんだ!!嫌な記憶なら忘れる方法もあるだろう!!奴隷契約も私の知り合いに頼んで解除してもらおう!!だから……ッ!!だから……そんな悲しいことは……言わないでくれ」



ただの八つ当たりのようだ。


そんなのは分かっている。



俯いた彼女の顔が上がることも、瞳が揺れる事も、笑ってくれる事も無い。


声が震えている。


身体が震えている。



何だこれは?



分からない。


聞きたくない。


認めたくない。


生きたくないだなんて、そんな言葉、理解したく無い。




「無理……だよ……私……死ぬまで奴隷なんだから……」


「……ッ!」



死ぬまで奴隷。


かき消えてしまいそうな程に、か弱く呟いたそれは、ソフィアが最も聞きたく無かった台詞で、ずっと考えないようにしていた事だった。



裏奴隷とは、違法な手段で奴隷の身分へと身を窶された者の事だ。


脅して無理矢理に奴隷契約を結ばせる。


奴隷になる事を認めるまで痛めつける。



そうする事で、奴隷と主人の両者が承諾しなくてはならない筈の奴隷契約を用いて、どんな奴隷だろうが意のままに作る事が出来てしまう。


主が何をしても良い奴隷。


主の言う事に全て従う奴隷。


そして、死ぬまで契約を変更も解除も出来ないなんて事も勿論出来てしまう。



奴隷契約の魔法は何が在ろうと、誰で在ろうと背く事はできず、誤魔化す事も出来ない。


神の力で縛られた契約だから。



勿論、奴隷契約を悪用するような事は、何処の国でもきつく禁止されている。


見つかれば即処刑。


裏奴隷なんてものはその最たるものだ、一般的には裏奴隷に関わろうとする事さえタブー視されている。


真っ当な人間は誰も近づこうとしない。


当たり前だ、共に歩いているだけで処罰されるかもしれないのだから。


近くにいるだけで、何らかの疑いを掛けられるかもしれないのだから。



だからこそ、死ぬまで裏奴隷という鎖に縛られた彼女は、もう二度と普通の生活は望めない。



一人で容易に出歩く事も出来ない。


店で買い物をする事も、仕事につく事も、ひょっとすると町に入る事だって難しいかもしれない。


彼女に近づく者は犯罪を犯す事など厭わないようなクズか、罪を罪だと思っていないようなクズ。



そして、ともすれば、またあの地獄のような日々に逆戻りする事だってあり得る。



裏奴隷になるという事は、この世界から存在を消されてしまうようなものだ。



否、きっとそれ以上に残酷だろう。




そんなもの、死ぬ事より悲惨では無いか?


生きる事こそが、惨憺なのでは無いか?




そしてそれは、きっと他の五人も同じ……。



それが、ソフィアが認めたくなかった最悪の可能性であり、目の前にある現実だった。





「なあ……彼女はこれからどうすんだい?言葉通り、死ぬまでどっかの誰かの玩具になんだ……何の希望も無い、何の救いも無い。そんなもん、生きてると言えるか?生きてえと願えるか?いいかい?人ってえのは程度は違えど、誰だって色んなもんに縛られて生きてる。だがなあ、誰だって、どんな時だって、たった一つだけ自由な選択肢があんだ。最大で最後の選択でえ。それを取り上げちまうのはあの地獄と変わんねえ……違うかい?」




そんなの分かっている。


裏奴隷である彼女達が、これから先一人で幸せに暮らしていける可能性など、ほぼゼロだ。



だから死ぬと……?


だから生きたくないと……?


だから彼女の死を許容しろと……?


死んだほうが良いと……?




そんな事があるか?


そんな事があっていいのか?





「ク……ッ!!何故だ!!」


ソフィアは叫んだ。


こんなものはただの八つ当たりでしか無い。



そう分かっていても、それでも、彼女は言わずにはいられなかった。



「彼女は何も悪い事はして無いだろう!!救われるべき人間だ!!幸せになってもいい筈だ!!絶望に塗れながら、自ら命を経つなんて事があっていい筈がない!!こんな最後があるか?こんな悲劇があるか?こんな事があってたまるか!!タマちゃん殿は相手の事が何でも分かるんだろう!!人は共感出来る生き物だと言っていたでは無いか!!何故そんな事が言えるんだ?説得すらしないんだ?生きて欲しいとは考えないのか?見捨ててしまうのか?何でそんな酷い事が言えるんだ!!」



もう、自分でも何を言っているのか分からなかった。



ただ、認めたく無かった。


信じたくなかった。



彼女が生きた世界が、こんなにも非道いものだとは思いたく無かったのだ。




「ああ……ッ!!そうだ!!分かっちまいやがんだ!!この嬢さんに起きた事、あの糞ったれ共にされた事全部!!全部だ!!憎しみ、悲しみ、怒り、怨み、ドス黒い感情で張り裂けそうだっ!!何もかもぶち壊してやりてえ気持ちで一杯でえ!!でもなァ……死にてえなんて事を言う奴にゃあ絶対共感なんてしてやらねえ!!情けねえ奴だと笑えばいいさ!!心の無え奴だと貶めばいいさ!!オレは一度経験してるから二度は御免なんだっ!!死にてえ奴は勝手に死ねば良いんだッ!!そんな奴、オレが殺してやらァ!!」


そう、叫んだタマちゃんの声は震えていた。


肩を小刻みに揺らして俯いたまま、強く握られた小さな拳からは赤い雫が滴り落ちていた。



それが彼の答えだった。



死にたい奴は勝手に死ねば良いなんて、きっと本心じゃない。


彼はどうにかしてやりたいと必死に考えたのだ。


優しくて、情に厚い彼は、救われて欲しいと願った。


相手の事を何でも分かってしまう彼が、彼女の身に起こった悲劇を知り、共感し、救う方法を探した。



自分が一番彼女の事を理解してあげられるから。


自分も一度、自ら死ぬ事を選んだ経験があるから。



それでも、彼女の事を一番に考えて出た最善は、その願いを叶えてあげる事だったんだろう。


それ程に、生きたいという当たり前の願いすら無くしてしまう程に、彼女の絶望は深い。



もう楽にさせてやりたいと思う程に、彼女の身に起きた悲惨は救いようが無い。


彼女の最も大切なものは奪われてしまったのでは無く、永遠に失くなってしまったのだ。


そして、それを否応なく分かってしまうタマちゃんは……ともすれば誰よりも辛いのでは無いか。



これ以上に悲惨な事があるか?


これ以上に悲しい事があるか?



そんな彼が彼女を引き留めない時点で、ソフィアは薄々気が付いていた。


ただ、認めたく無かったのだ。



その現実を、受け入れてしまえば、認めてしまえば、自分が自分で無くなる気がしたから。


認めない事でしか、自分が信じたい「人の善い心」を信じられ無かったから。


この世界は、人の悪意は、そこまで残酷なんだと思いたく無かったから。



死んだほうがマシだなんて事が、許される筈が無いと思っていたかったから。



あの地獄のような場所で、必死に生きてきた彼女達がほんの少しだって救われない世界だとは、思いたく無かったから。


だから……。



「タマちゃん殿……泣いているのか?」


「煩え……ッ!泣いてねえやい!!」


俯いて、顔を背ける彼を見て、ソフィアは自分の無力さを再び嘆いた。



自分は何をやっているんだ……。


彼に八つ当たりのように非道い事を言って、ただ納得いかない事に駄々を捏ねているだけでは無いか……と。



自分が言った事など、彼が十二分に思考した通り道でしか無い。


彼は何時だって優しくて、かっこつけたがりで、とても頭の良い人なんだから。


出会ってから、共に行動したこの僅かな間に、様々な事を彼から教わったソフィアには分かった。



だから彼はソフィアを否定したんだ。


自分が彼女を殺すだなんて、残酷な優しさまで口にして。







「タマちゃん殿…………そう……か……済まない。非道い事を言ってしまった……許してくれ……」


「良いさ……何も間違っちゃいねえ……。オレは糞ったれさ……。おじさんは若い女の子の願いは何だって叶えてやりてえもんなんだ……」


「……おじさんとは大馬鹿者なのだな」


ソフィアは腰に吊っていた短剣を鞘ごと引き抜き、タマちゃんに手渡した。


それを重そうに受け取ったタマちゃんは、鞘から刃を引き抜いて、その少女の前に立つ。


死にたいと言う彼女を殺す為に、誰よりも優しい彼は格好つけるのだ。



そんな彼に笑い掛けるように顔を上げて、少女は静かに言った。


「ねえ……小さなメイドさん。貴女のお名前を教えて?」


そう言えば、この場の誰一人として自己紹介すらしていなかったな……と、ソフィアは思う。




「……玉垣源十郎だ。キュートにタマちゃんと呼んでくれ」


その台詞、気に入っているんだな……と、ソフィアは思う。




「ふふ……変わった人だね……ありがとう、タマちゃん」


こんな時に笑うのか……と、ソフィアは思う。




「礼なんて言うんじゃねえや……オレはあんたにとって、最後のクズ野郎になんだからよォ……手前を殺す、最低で最悪の男でえ……」


何て……格好いい台詞なんだ……と、ソフィアは思う。




「ふふ……優しいんだね……ねえ……もし生まれ変わったら……また会えるかな……?」


何だそのドキドキするような台詞は……と、ソフィアは思う。




「オレに会いたいのかい?……どうだろうなァ……あんたが天国に行かなきゃ、また会えるかもしれねえなァ……」


何て……格好いい台詞なんだ……と、ソフィアは思う。




「そっか……ありがとう、タマちゃん……心優しい女の子」


そうか……これが、ドラマチックと言うやつか……と、ソフィアは思う。




「馬鹿野郎……オレは男だ」



そう言って、タマちゃんが重そうに短剣を構えた時だった。



退屈そうに溜息をついたヘデラが甚も呆れたように言った。



「…………はぁ?何をやっているのですか、さっきから?しょうもないですね」


「…………何だって?」


「しょうもないと申し上げたのです。つまらない。馬鹿馬鹿しい。何が死にたいですか?何が私には何も無いですか?三文小説も良い所ですね」


何を言っているんだ?と、ソフィアは思う。



ソフィアは理解出来なかった。



自分なんて、滲んだ涙で目が痛いと言うのに。


鼻の奥と喉の手前がジーンとなって、悲しみと、怒りと、虚しさと、その他の様々な感動で前が見えないと言うのに。



こんな状況で、ヘデラはしょうもないと呆れているのだ。


果たして彼女に人の心があるのかを疑ってしまう。



「手前……本気で言ってやがんのか?」


「本気も本気です。死にたいならさっさとご自分で心臓をえぐり取るなり、頭をカチ割るなり、首をカッ切るなりしなさい。ナイフをくれ?死ぬまで奴隷?ゴタゴタと喧しい事を宣って……馬鹿ですか貴女は」


「ヘデラ殿!!いくら何でもそんな言い方は無いだろう!!彼女の気持ちを少しでも考えたらどうだ!」


強い口調で思わず叫んでしまったソフィアに、ヘデラはまたもや呆れたように言った。


「考えたら?いくら考えた所で、彼女達の気持ちなど分かるわけ無いでしょう。それはタマちゃんだって同じ筈です。お二人は少し考え過ぎですよ」


「それは!!え……そうなのか?」


そうなのか?


相手の事が何でも分かってしまうのでは無かったのか?



「んん……?まあ、そうだな……オレはそいつの考えてる事までは分かんねえよ。当たり前だろ?」




……まあ、確かにそうか。


相手の事が何でも分かるとは言っていたが、相手の考えている事や気持ちまで分かるとは彼は言っていなかった。



「相手の事が何でも分かる」には、相手の考えや気持ちまでは含まれていない。




……本当か?



いや、まあ良い。


そんな事は些細な問題だ。


だからといって、そんな言い方する事無いだろう。


最早暴言にしか聞こえない。


それも寄りにも寄ってこんな時に、こんな少女に向かって。


いつもの優しいヘデラらしからぬそんな言動に、ソフィアは注意したかったのだ。




しかし、そんなソフィアの考えを告げる前に、ヘデラはペラペラと話し始めた。



「他人の気持ちが理解出来る者などいる筈ないでしょう。タマちゃんも仰っていたではありませんか。出来るのは『共感』です。まして、わたくしには人の心など複雑過ぎて理解しようとも思えません。面倒くさい。正直、出会ったばかりの赤の他人の事などどうでも良いです。わたくしはアリス様のお考えさえ汲み取れればそれでよいのですから。ですが、彼女達が受けた仕打ちは、自ら死ぬ以外の選択肢が生まれ無い程に御大層な精神性が介在するものだったとは思えないのです」


「どういうことだ?」


「分かりませんか?ここは悲劇だけを描いた物語の中では無いのですよ?ただ痛めつけ、辱めるだけの拷問に、止めて欲しい、助けて欲しい以外の気持ちが湧きますか?憎しみや怨みよりも、諦めが優先されるのですか?貴女はただ、何もかもを奪われ、失くした結果、全てがどうでも良くなっているだけではないですか?生きる目的が無い事に気が付き、その気力も沸かないだけでは?」


ヘデラは獣人の少女にそう問いかけた。


言っている事は分かる。


そんな気がする。




だが、そうだからと言って現状が変わるわけではない。



「そんな事……じゃあ……私は……これからどうしたらいいの?」


問題はそれだ。


死ぬまで奴隷から開放されない彼女を救う方法などあるのか?


それでなければ、自分達が彼女達をずっと匿うという方法もあるが、そんなのは問題の根本的解決にはなっていない。



そう思うソフィアだったが、ヘデラはあっけらかんと言いきったのだった。



「簡単な事です。誰かの為に生きれば良いのです。」


「誰かの為……?いったい誰の?私にはもう家族も、友達も、大切な人もいない!帰る場所も!生きる理由さえも!!さっきの話聞いてたの?私には何も無いんだ!!」


叫ぶ少女。


何故か急に良く喋るようになった彼女に、ソフィアは少し驚いた。


きっとヘデラのあんまりな言いように、怒っているのだろう。


何か言おうとしたソフィアだったが、それを遮るように、ヘデラと少女はまるで口喧嘩でもしているかのように、荒々しく話し始めた。



「ええ、聞いておりました。『生きる理由が無い、生きていたくない。だから死ぬ』そんなつまらない事を言うなら今すぐ勝手に死になさいと申し上げているのです。最初から何も言わずに、人目のつかない所で、誰にも覚られる事無く、誰の手も借りずに、全て自らの手で勝手に死になさい。貴女のように、自分が死んだ事実をこの世に残そうとする時点でそれは生に対する未練です。或いは、自身による意味のある殺害です。誰かの言葉に頼るなど、それこそ未練たらたらではないですか?貴女は先程、タマちゃんの優しさに付け込んで、彼に自分を殺させようとしたのですよ?」


「違う!!そんな事思って無い!!何も知らない癖にそんな事言わないでよ!!」


「違わないでしょう。貴女が仰っていたのは『人生もうどうでも良いから死んじゃおうかな?こんな私に同情してくれるならナイフくれない?それと一人で死ぬのは怖いし寂しいから、ちゃんと看取ってね?』という事です。何て傲慢な……馬鹿馬鹿しいと理解しておられますか?」


「違う!!違う!!違う!!何なの!?何でそんな事を言うの!?貴女は何なの!!」


「貴女はどうしようもなく自分勝手で、情けない程に弱虫で、世界で一番怠惰なのです。全部が面倒くさいから、簡単に悲劇のヒロインを気取って美しく魅せようとしていただけです。自分の人生に責任すら持てない。質の悪い詐欺のようなものでは無いですか」


「黙れ黙れ黙れ!!もう止めてよ!!黙ってよ!!何で!?何で私ばかりそんな事言われなくちゃいけないの!?何時だって何時だって何時だって何時だって!!何なのよ!!何で私ばかりがヒドい目に合わなくちゃいけないの!!私だけが!!」



箍が外れたように泣いて喚き散らす獣人の少女が、ヘデラの胸ぐらに掴み掛かった。


何だか知らないが、水を掛け合うように言葉を並べ建てる両者に、ソフィアはただオロオロとした心で見ている事しか出来なかった。


言ってる事が、良くわからなかったから。



「そんな事言うなら貴女が変わってよ!!出来る!?奴隷から開放してよ!!ねえ、出来る!?私をどうにかしてよ!!ねえ!!ねえ!!家族も、友達も、大切な人も、帰る家も、生きる理由も、全部全部、私が納得できる物を全部用意してよ!!完璧に、完全に、すみからすみまで、私を助けてよ!!!私に、生きたいと思えるようなものを見せてよ!!この腐った世界から、私を救い出してよ!!」


しかして、激高する少女がそう矢継ぎ早に叫んだ時、ヘデラが始めて笑った。



そう、笑ったのだ。


いつも通りの優しい笑みで。


「ええ、しかと承りました。ふふふ、そうです。それで良いのです」


と。


「この…………え?」


唐突に和らいだヘデラに、少女は拍子抜けしたような表情を浮かべた。


「始めからそのように、可哀そうな私達を助けてくれと頼めば宜しかったのです。死にたいなどと馬鹿げた事は言わずに。貴女はさっき、タマちゃんの優しさに縋っていたでは無いですか。共に居たいのでしょう?友達になりたいのでしょう?もっと話したいのでしょう?未練があるのでしょう?」



先程までとは打って変わって、優しい笑顔と声でそう訊ねるヘデラ。


それは、ソフィアの良く知る、いつもの優しいヘデラだった。


「タマちゃん……と……?」


ヘデラの突然の変化に戸惑いながらも、真っ直ぐに彼女を見つめて、その言葉に耳を傾ける獣人の少女。


「そうです。本当は、生きたいと思いたかったのではないですか?貴女は」


「生きたいと……」


少女は力が抜けたように、掴んでいたヘデラを離して地べたに座り込んだ。



「そっか……私は、生きていたいと思いたかったのか……はは……何だ……」



少女は泣いた。



悲しさからではない。


彼女は諦めたフリをしていた自分の気持ちに気がついたのだ。


生きたいと思いたい。



彼女は最初からただ助かりたかっただけだった。



けれども、そんなのは無理だと諦めてしまった。


だから、ナイフをくれないかと頼んだ。


生きたいと思いたいから。


だから、タマちゃんの優しさに縋った。


生きたいと思いたいから。


だから、タマちゃんに未練を感じた。


生きたいと思いたいから。



全て、彼女が生きたいと思いたかったから。



その証拠に、涙でグチャグチャになった少女の顔は、けれども清々しい笑みを湛えていた。




「全てどうでもいいと言う癖に死にたいなどと言うのは、その実、世界で一番、世界に甘えているのです。まるで駄々を捏ねる子供のように……。どうでも良いならその場で何も言わずに死ねばいいのです。でしょう?人間は弱い生き物なのですから、簡単です。脆くて柔くて面倒くさい程に繊細。ちょっと小突いただけで簡単に死んでしまいます。心なんて物を持っているから余計に質が悪い。だから、時に決して救いようが無いような現実が生まれてしまう。ですが貴女達は大変幸運です。わたくし達と出会ったのですから。縋る相手ならここに居ります。頼る相手ならここに居ります。助けてくれる相手ならここに居ります。わたくし達が貴女達をどうにかしてあげましょう」


「貴女が……助けてくれるの?本当に……?頼ってもいいの?信じてもいいの?」


「ええ。貴女がそれを望むのならば」




何だこれ……と、ソフィアは思う。


全く持って良く分からないが、何だか上手く行きそうな雰囲気になっている。


ソフィアはアリスと同じくらい、難しい話が苦手だったのだ。



しかしそんな事は些細な問題だ。


大事なのは目の前の光景。



ヘデラならどうにかしてくれるような気がする。


彼女達が救われるような気がする。


ここには確かな優しさが、とても温かい、世界の正しさがあるような気がする。



ソフィアは胸が熱くなるのを感じた。


病気では無い。


これが興奮だ。


ソフィアは自分が昂ぶっている事に気が付いた。



しかして、ヘデラは黙って聞いていた他の裏奴隷達を振り返り、仰々しく言い放った。


声高く、手を広げ、甚も真剣な表情で。


その様はまるで国民相手に演説をする王族か、信者に神からのお告げを告げる神父のようだ。



「聞きなさい!自分の人生がどうでも良くなってしまった、とても怠惰な者達よ!足掻く方法すら忘れてしまったお馬鹿な者達よ!死にたいと願うほどの絶望の中で、それでも生きている可哀そうな者達よ!帰る場所も、大切な物も、生きる理由も、希望も、何もかもが無いと言うのならば、この世で一番素晴らしい役目をわたくしが差し上げましょう!神に仕える敬虔な神職者よりも尊く、千年生きた賢者よりも崇高な存在です!この世で最も偉大な御方に仕える、誇り高き大変名誉な御役目です!死んだような今の自分から、生まれ変わりたいと願うのならば立ち上がりなさい!!わたくしが貴女達の我儘を全て叶えて差し上げましょう!!」



おいおい、まさか……と、ソフィアは思う。


ヘデラが何をしようとしているのかは想像もつかないが、どうしようとしているのかは何となく予想がついてしまったから。




きっと、それこそが、彼女達が唯一救われる方法だろう。


彼女だけが出来る、滅茶苦茶で、突拍子が無くて、ぶっ飛んだ、たった一つの冴えた方法。



「わ、私……っ!私はあいつらに村を襲われた!皆殺されて、生き残ったのは私だけ……助けてくれるって言うなら何だって良いよ!!もうこんなのうんざりだ!!」


それを聞いていた内、一人が勢いよく立ち上がる。


それに続くように、他の者も声を上げて立ち上がった。



「私はエルフの里から逃げてきた所を捕まりました。里長の息子と無理矢理結婚させられそうになったんです。でも、ハイエルフである私はエルフの里以外に居場所はありません……何処に行っても目立つんです……。私にも生きていける居場所を頂けますか?」


「あたしも、家族に売られたから帰る家がないわ。頼る宛も無いし……出来る事なら助けて欲しいわ」


「私も。せっかく助けてもらったのに、生きていく方法が無い……禄なステータスしてないし……スキルだって持って無いし……」


「ボクも。もう死んじゃうしかないかと思ってた。あそこから助けてもらった上に頼り過ぎかもしれないけど……何か役目を貰えるっていうならそれに縋ってもいいかな?」


「わ……私も!私わかったよ!私はタマちゃんともっと仲良くなりたい!お喋りしたい!一緒にいたい!」


最後に手を上げて続く獣人の少女。


まるで愛の告白のようだ……と、ソフィアは思う。


しかし、きっと彼女もタマちゃんの事を女の子だと思っているのだろう。と考え、何も言わない。



そう、そんな事は些細な問題だ。


大事なのは目の前のこの光景。



果たして、六人全員がヘデラの言葉に答えて立ち上がった。


助けて欲しい。


どうにかして欲しい。


救って欲しい。



ソフィアだって最初からそうだった。


ずっと、彼女達から聞きたかったのは諦めの言葉では無く、救いを求める言葉だった。



こんなにも嬉しい事は無い。


こんなにも待ち望んだ言葉は無い。


これ程に胸を打つ光景は無い。



彼女達は今、生きたいと願っている。


自分の人生に希望を見出そうとしている。


人らしい輝きに満ちている。



こんなに素晴らしい事があるだろうか。と。



ソフィアは改めて、視界が滲むのを感じた。




「ああ、可哀そうな貴女達。そして世界一幸運な貴女達。何もかもを無くしてしまったのならば、これから誰よりも沢山の幸せを得られる筈です。さあ、わたくしが貴女達にその術と生きる目的を与えて差し上げましょう」



そして、ヘデラが芝居がかった所作でそう言った瞬間、彼女の周囲の空中に大量の血液が現れたかと思うと、六人の奴隷達へと一斉に飛び散った。


否、飛び散ったと言うのは正確ではなく、瞬時に鋭いトゲとなって彼女達の心臓を貫き、その後彼女達の体内へと吸い込まれていった。



ヘデラが操るその血液は彼女達の心臓を貫き、彼女達を殺し、更には真祖の吸血鬼であるヘデラの血を取り込んだ彼女達は眷属の吸血鬼となった。



結果、死んだ瞬間ヘデラの眷属となった彼女達は、『死ぬまで奴隷』という奴隷契約が解かれ、吸血鬼化した事により得た超再生能力により生き返ったのだ。



そんなややこしい事が一瞬の内で起きた結果、彼女達は声を揃えて驚愕の言葉を口にした。



「「「「「「グフォァッ…………んな……ッ!なんだこれッ!?」」」」」」



そう、正に奇跡が起きた。



肌は透き通るように白く、髪は輝かしい程の銀色に、そして瞳はルビーのような紅色に……。


一瞬で驚きの変化を遂げた自分の身体を見回した後、彼女達は何故か着ている服を脱ぎ捨てて、魔力で作り上げたメイド服を纏った。


ピシッとメイド服を着て並んだ元裏奴隷の六人達を見て、ヘデラは満足そうに頷いた後、また良く分からない事を言い始める。



「テストです。貴女達の仕えるべき主は誰ですか?」


と。


そして、それに声を揃えて答える六人の新しいメイド達。


「「「「「「我らが愛しき姫君、アリス様です」」」」」」


「貴女達の役目は何ですか?」


「「「「「「我らが尊きアリス様の笑顔を守る事です!」」」」」」


「貴女達は何ですか?」


「「「「「「高潔誉れ高き、真祖の姫アリス様に仕え、絶対の忠誠を誓う吸血メイドです!!」」」」」」



「良いでしょう。ふふ。ようこそ、我が誇り高き血族よ。夜を統べる闇の仲間達。歓迎致します」


「「「「「「イエス!!マム!!」」」」」」



何だろうこれは……と、ソフィアは思う。



何故メイドなのか。


何故そんなにも揃った声で同じ台詞を言えるのか。


何故誰も何も疑問を抱かないのか。


何故皆洗脳されたような感じになっているのか。


何故皆アリスに忠誠を誓っているのか。


何よりも、吸血メイドとはいったい何なのか。



しかしそんな事は些細な問題だ。


大事なのは目の前のこの光景。



驚く事に、ヘデラは六人を確かに救ってみせた。


いとも簡単に。



見よ、彼女達の見違えるような笑顔を。


見よ、生きる希望に満ち溢れたその姿を。



彼女達はもう救いようが無い哀れな裏奴隷では無い。


彼女達はもう絶望に暮れて死を願う事は無い。


彼女達は、確かな生きる希望を得たのだ。



誰かが輝く瞬間とは、こんな人間らしさの中にこそある。


ソフィアには、彼女達が確かに輝いて見えた。


  


鼻の奥と喉の手前がジーンとなり、目から流れた熱いものが頬を伝うのを感じる。


病気では無い。


これが感動だ。


ソフィアは自分が泣いている事に気が付いた。



「あ……ああ!!なんて事!!私にこんな奇跡が起こるなんて!!」


「本当です!!あの地獄のような日々が全て、この時の為の試練だったかのように思えてきます!!」


「「「「「それよ!!」」」」」


「きっとそうだったんだわ!!あたし、アリス様にお会いして早くお礼を伝えたいわ!!」


「アリス様のお姿を早く見たいだけじゃないの?」


「そうかもしれないわ」


「「「「「「あはははっ」」」」」」



笑い合う彼女達を見て、もうソフィアはいてもたっても居られなかった。


感情が溢れ出して止まらない。


胸が熱くて仕方が無い。


この思いを誰かと共感したくて堪らない。



そんなソフィアは、隣にいたタマちゃんに今の感情をありのまま使えた。



「よっ、良かっ……良がった゛な゛ぁ……ダマち゛ゃん殿ぉ…………」


「…………な、泣いてやがんのか……」



「どうですかお二人共。わたくし、実はハッピーエンド以外は認めない主義なのですが」


「あ゛あ゛ぁ……どでも゛ハッピーだぁ……」


「……何故泣いているのです」


「ゔぁぁ……あああ……」



ソフィアはもう限界だった。


色んなものが溢れて止まらないのに、それを言葉に出来ないのだ。


人はそんな時、言葉の代わりに涙が溢れるのだと、ソフィアは始めて知った。


しかして、泣き崩れてしまってヘデラに優しく介抱されるソフィアが泣き止むまで、そこそこの時間を要する事になった。



しかしそんな事は些末な問題だ。


大事なのは、目から流れたその涙。


悲しみでも怒りでも無い、暖かく、優しいそれは、その場を少しハッピーにさせた。


そういう事にしておこう。




基。



「人はどこまでも弱い生き物です。何時だって簡単に死ぬ事が出来ます。しかし、ちょっとしたきっかけで簡単に生まれ変わる事も出来るのですよ、このように。彼女達は今日、一度死んで生まれ変わり、本当の人生を歩み始めたのです。さあ、皆でこの素晴らしき門出を祝いましょう」


そんなヘデラの無茶苦茶理論に呆れながらも、泣き止んだソフィアは感心して止まない。


「本当に、貴女方は滅茶苦茶だな。ヘデラ殿もアリス殿もエディルア殿も、私が知る常識というものが全く通用しない……驚かされてばかりだよ……」


「わたくしにとっての常識は、アリス様ただ一人ですので」


それなら仕方が無い。


自分の仲間達は何時だって滅茶苦茶だ。


ソフィアはそんなヘデラを見て微笑んだ。



「はぁ〜あ……馬鹿馬鹿しいったらねえや…………御主人様、ありがとうな」


タマちゃんがダランとその場に座り込みながら、呆れたように言う。


ソフィアはそんな彼を見て、嬉しく思った。


彼もきっと、自分と同じだろう。と。




「ふふ、良いのです。全て忘れましょう。面倒な事と、嫌な事は忘れても良いのです」



そう言ってヘデラは笑う。


いつも通りの優しい笑みで。



それを見て、ソフィアは思った。


きっと、彼女達がいる限り……否、そうで無くとも、きっとこの世に不可能なんてものは無い。


諦めるのは何時だって、ほんの少し早いんだ。


やはり自分が信じたこの世界は、正義は、間違っていなかった。


だって今の自分は、こんなにも晴れやかで、気持ちの良い気分なんだから。


きっとそんな時、人は何だって出来てしまうのだろう。




「さて、お二人共。今から少しだけ、わたくしに付き合っては頂けませんか?」


新らしく増えたメイド達と少しばかり話をして、辺りに取り出していた種々の物を片付けた後、ヘデラはソフィアとタマちゃんにそう言った。



「それは良いが……何をするつもりだ?」


「わたくしはアリス様に笑顔でいて頂きたいのです。何時、如何なる時も、悲しい顔はして欲しくないのです。アリス様はわたくしを生み出す際、こう願われました。『愛する者を愛しいと思える親愛の心を持ち、何者にも邪魔されず何処までも伸び続ける力強さと、揺るぎなく決して曲げる事のない誠心を持て。優しくて、頼りがいがあって、しっかりした者でいてくれ』と」


「優しくて、頼りがいがあって、しっかりした者……なる程、ヘデラ殿にピッタリだな」


「わたくしの名は、その願いを籠めてアリス様が名付けて下さったのです」


「そうだったのか……」


「わたくしは人間の事などどうでも良いのです。何処で、誰が、何人死のうがどうでも良い。ただ……わたくしは、何時如何なる時もアリス様が笑顔になるような報告をしなくてはいけない。『虐げられ続けた罪の無い哀れな女性達が絶望の中で自ら息絶え、お二人がただ悲しんだ』などという事を伝えるわけにはいかないのでございます。アリス様が居られるこの世界で、アリス様と、アリス様が大切だと思う全てのものを、愛し、守り、救う事が、わたくしの存在意義なのですから」


ヘデラはそこで一つ息を吸うと、至って真面目な表情で二人を見て告げた。


「全ては、愛しい我が主様の為に。今からこの国の悪を一つ滅ぼそうと思います。お二人共、力をお貸し頂けますか?」



その言葉の意味を、理解出来無い者はいないだろう。


パーティーへのお誘いだった。


「ハハッ、良いのかい?御主人様達には関係の無い事だぜ?」


「良いも悪いも有りません。わたくしにとって、この世はアリス様が全てなのです。この世はアリス様のものなのです。関係無いわけがありません」


「そんならぁ仕方ねえや……ご一緒しようじゃあねえか、御主人様。おじさんがいりゃあ尋問要らずだ」


タマちゃんは得意げな笑顔で言う。


返事など決まりきっている。


何故なら彼は、優しくてカッコつけたがりなおじさんだから。




「悪を滅ぼすか……願ってもないな!私の剣は何時だってその為にある!お供するぞ!」


また瞳が少し濡れはじめているソフィアは鼻が詰まったような声で言う。


返事など決まりきっている。


何故なら、彼女は『リアデの正義の娘』であり、『慈愛と豊穣の戦神乙女(ヴァルキリー)』であり、ソフィア・ヌーヴェルだから。



そんな二人を見て微笑んだヘデラは、新たに増えたメイド達を振り返って訊ねた。


「貴女達はどうしますか?復讐劇とは、スッキリとした正義心も同時に満たせてしまう故、いつの世も人が憧れ好むのです。今の貴女達は、悪人を殺して罪に問われますか?」


そう、彼女達も今は吸血鬼。


夜を統べる者達の支配者、真祖の姫アリスに絶対の忠誠を誓う夜の眷属達。


返事は勿論決まっていた。



「「「「「「勿論、お供致します」」」」」」


ヘデラが姫様の為に行う正義なら、自分達にもその義務がある。



そして、復讐の始まりだ。



「私、ゴミ掃除は得意なんだ」


「私は精霊魔法が使えますよ」


「力には自信があるわ」


「生まれて始めてスキルを覚えたから試したい……」


「復讐か。正義の味方って呼び方の方が、ボクは好きかな」


「私、狩は得意だよ。タマちゃんは私が守ってあげる」


「そりゃあ、心強え」


「悪党退治とは、久し振りに腕がなるな」




「ふふふ。それでは皆様参りましょう。はしゃぎ過ぎて余りアリス様をお待たせしないよう、手短にお願い致します」



ヘデラは無数の分身を生み出しながら楽しそうに笑う。




長くて濃い、数多の影を生み出す、夕日が差し込んだオレンジ色の森の中。


一つ風が木々を揺らした後、そこにはただ朽ちた砦があるだけだった。



果たして、彼女達がいったい何処に消えたのか、知る者はいない。





ーーーーーーーーーーーーーー




王国暦3164年 199日



王国内部特殊情報捜査室 


第1級王国内特殊事件特別捜査情報極秘報告資料



No.001





違法奴隷組織壊滅事件について




王国暦3164年 193日 王国内に存在する違法奴隷に関与したと思われる組織、団体、個人の全てが壊滅し、関係者の全てと、違法奴隷の大半が行方不明となった一連の事件である。



以下に捜査報告概要を記す。



王国暦3164年 193日の夕刻から同日の夜に掛けて、王国内に所在する違法奴隷に関与した疑いのある組織、団体の施設、及び個人宅が次々と襲撃を受けた。



被害者は盗賊団を始め、孤児院、教会、スラム組織、奴隷商、貴族邸、富豪宅、商業組合、各職業ギルドの幹部、王国騎士、地方騎士、傭兵、冒険者、農家、大工、商店、等、多岐に渡る。


大規模組織や有力者の他、末端の小規模組織や一見関係無いように見える一般人など、王国各地の場所が僅かな時間の間に襲撃を受けていることから、非常に高度な情報と計画性を持った犯行であり、数千〜数万人規模のかなり大規模且つ強力な組織による犯行だと推測された。



この襲撃により、43の組織※1が完全に壊滅、198箇所※2の関連施設が破壊された。


関係する組織の構成員、及び個人の2682名※3が消息不明となり、取り扱われていた違法奴隷だと思われる裏奴隷の内、1483名※4が消息不明となった。



※1 『組織一覧 1_A〜1_G』を参照。


※2 『施設一覧 1_A〜1_V』を参照。


※3 『行方不明者、被害組織及び個人リスト 1_A〜4_N』を参照。


※4 『行方不明者、違法奴隷リスト 1_A〜3_P』を参照。





また、本件発生の翌日、194日の明け方に、本件の被害組織、及び個人が違法奴隷に関わっていた証拠と思われる大量の資料※5と、10000枚を超える精巧な絵※5が王城内の国王執務室に届けられた。


この際、掃除の為に室内に入った担当のメイドの一人がそれを発見し、城内騎士に報告した。



※5 『違法奴隷関与及び売買証拠資料一覧』を参照。




調査の結果、その資料の全てが信頼性の高いものであると判明。




絵はどれも本件の被害組織、及び個人が違法奴隷に関わっていた証拠となり得る様子を精巧に描いたもので、何らかの未知のスキル、魔法、魔道具を用いたものであると推測できるが、詳細は不明である。




尚、内容が本件と関連性が高く、本事件の実行組織によるものと考え捜査を進めた。




証拠資料に基づき調べる上で、資料に記載されていた一部の違法奴隷が奴隷契約を解かれた上で家族の元へ帰っている事が判明。


数名の元違法奴隷に聞き取り調査を行った結果「吸血鬼」「真祖の姫」「真祖のメイド」「慈愛と豊穣の女神エイラ様の御使い」という言葉が頻出した。


※6 『元違法奴隷聞き取り捜査報告書』を参照。



彼女達の話で一貫しているのは以下の内容である。



「真祖のメイドが助けてくれた」


「慈愛と豊穣の女神エイラ様の御使いが癒やしてくれた」


「真祖の姫が自分達を助ける為に行動してくれた」


「自分は偉大なる真祖の姫に忠誠を誓う吸血鬼である」



などと、余りにも不明な点が多い為、同人達に精神異常分析、状態異常分析をするも、どれも至って正常であるとの結果が出た。


更に、彼女達のステータスと能力値※7を確認した所、信じられない事に種族が『吸血鬼』であり、飛び抜けたステータスと能力値を保有している事が判明した。


※7 『元裏奴隷ステータス及び能力値一覧』を参照。



これにより、本件は「真祖の姫」「真祖のメイド」「慈愛と豊穣の女神エイラ様の御使い」と呼ばれる者達による犯行だと推測された。


これは二週間程前から王都内で広がりを見せている『四乙女教』※8が信仰する四人の乙女の内、「真祖の姫アリス」「真祖のメイドヘデラ」「慈愛と豊穣の戦神乙女(ヴァルキリー)ソフィア」と酷似する。



※8 『四乙女教に関する調査資料』を参照。





また、余りにも常識から掛け離れた点、疑問な点が多々ある事から、本件は確かに「真祖の姫アリス」「真祖のメイドヘデラ」「慈愛と豊穣の戦神乙女(ヴァルキリー)ソフィア」が行った事であると推測する。



本件は四乙女達による、王国内の非道な犯罪組織、犯罪者への何らかの私刑、及び裏奴隷達の救助が目的である可能性が高く、本件の国家に対する反逆性は皆無であり、王国全土の平和と治安維持を躍進させる為の、王国に対する何よりも素晴らしい貢献であると判断する。






これをもって、本件の一切の捜査を終了。


尚、以降の元裏奴隷達とその周囲への接触の一切を固く禁ず。



本件を第1号第1級王国内特殊事件とし、これを超特級の極秘事項とする。




ーーーーーーーーーーーーーー






「あぁ〜……何これぇ〜……宰相、これどう思う?」


「……………」


「ねえ、宰相?聞いてる宰相?宰相〜?」


「…………………」


「宰相?宰相……宰相宰相宰相宰相宰相宰相宰相宰相宰相宰相宰相宰相宰」


「グゥオアアアア!!なんですか!!せっかく現実逃避していた所だと言うのに!!」


「現実逃避するなよ!」


「いや……もうこれ、あれでしょう」


「どれよ」


「……四乙女」


「やっぱりそう?」


「窓から外を見て下さい……今や王都中が『四乙女教』一色です。王城内ですら『四乙女教』信者がいる程ですよ……」


「何で知らない間にこんなに広まってるわけ?」


「陛下が面倒くさがって放っておいたからかと」


「…………」


「陛下?」


「…………今年のキングダムフェスティバルのテーマは『四乙女教』らしいな」


「そうです。四日前に急に変更になりました」


「……皆頭大丈夫か?」


「貴女の国の民達ですよ?」


「だってさぁ〜……」


「……実在するんでしょうか?」


「儂、実はちょっと信じてたり……」


「…………実は私も」


「これに出てくる『真祖のメイド』って、絶対ヘデラ様の事じゃん。王国中の犯罪組織を同時に潰すって、絶対あり得ないし」


「実際、助けられた奴隷達は吸血鬼になったらしいですしね。どうなんですかねこれ」


「ちょっと羨ましいよな」


「馬鹿なんですか?」


「何でよ、格好いいじゃん吸血鬼」


「……まあ、否定はしませんが」


「確か、『虹の夜明け』達はリアデで出会ったんだったっけ?明日からのキングダムフェスティバル、来てくれたりしないかな?」


「もし来られるような事があれは嘸かし驚かれる事でしょうね。何せ王都中が四乙女で埋め尽くされているんですから」


「会ってみたいなぁ……」


「私もです」



そんな王城内、国王執務室での会話。



『超特級極秘事項』である筈の『真祖のメイド裏奴隷組織襲撃事件』が王都中の新聞で大々的に取り上げられたのは、僅か翌日の出来事だった。



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