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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、都に行く
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アリスさん、異世界の怪談とスルメを知る

むかしむかし、ある海辺の町に一人の少女がやって来た。



町から続く丘の頂上から見える景色を気に入った彼女は、そこに家を建て一人で暮らし始めた。




暫くして、丘の上に何時の間にか出来ていたその家が気になった町の者が数人、その少女の家を訪れた。


快く家に招き入れてくれた兎人族の少女に彼らは気になった事を口々に訊ねた。



「ここには一人で住んでいるのかい?君は誰なんだい?何処から来たんだい?」



少女はそれに嫌な顔一つせず快く答え、彼らに自身の身の上を語った。


自身が不老不死である事、年齢は500を超えている事、12賢者の子孫である事、超凄い魔法使いである事、ここが気に入ったので暮らすことにした事、家は魔法を使って自分で建てた事、新しい魔道具の研究をしている事。


名前も生い立ちも。


その少女の話す事はどれも突飛なものばかりで彼らにはとても信じられたものでは無かったが、幼い少女が一人で暮らすのはきっと何かのっぴきならない事情が有るのだろうと、誰も深く探りを入れる事はしなかった。



しかして、そんな少女の話の中に神秘の水という物があった。


何でも、どんな怪我や病でも飲めばたちどころに治ってしまうという。


小さな瓶に入った水が銀貨10枚もする事に驚き、少女からその水の出鱈目な凄さを聞かされた彼らは、心の内で単なる子供の戯言だろうと一笑に付したものだが、それでも少女が一人で暮らしていくのは大変な事だろうと考えた一人の男が「町の皆へのみやげ話の種にでもなれば良い」と言って一本購入してみた。




そうして、町に帰った彼らは、少女の話を他の町の住人に伝えた。


「どうやら訳有の兎人族の少女が移り住んだらしい。まだ幼い子供だ。皆、気に掛けてやってくれ」と。


勿論、「神秘の水なんてものが売っていた」という事も笑い話として語り、水を買った男が町の者達の前で試しに飲んで見せた。



するとどうだろう。


男は途端に「身体中の傷が消えた、腰の痛みが無くなった、力が湧いてくるようだ」と言って興奮し始めたのだ。



それを見ていた町の者達は驚いた。


皆で男の身体を確認してみると、その男の身体には小さな傷跡すら無く、持病の腰痛も治ってしまっていた。


見るからに活力に満ち溢れ、彼を良く知る者からは見違える程だった。



少女が売っていた水は、飲めばありとあらゆる体の異常をたちどころに治し、身体能力を著しく上昇させ、精神高揚作用により精神的な異常をも消し去るという、信じられない効果を持った奇跡の水だったのだ。




神秘の水の噂は忽ち町中に拡がり、軈て、その少女の家には沢山の人が訪れるようになった。



町の住人は勿論、貿易商人、旅人、冒険者、お忍びの貴族。


何処かで話を聞きつけて来た彼らは、皆一様に期待の表情を浮かべて丘の頂上へと続く長い坂道に列を作った。


勿論、彼らの目的はそこで買えるという奇跡の水ただ一つ。




そんなある時、町に沢山の兵士がやって来た。


欲に目が眩んだ何処かの貴族が私兵を差し向け、武力でもって強引に神秘の水を独り占めしようとしたのだ。


町は騒然となった。


皆、一度は神秘の水に救われた事がある町の者達にとって、少女は恩人だった。


訪れた者を分け隔てなく歓迎し、いつも楽しそうに魔道具の話をする少女を、自分達の娘、孫も同然のように思っている者も少なく無かった。


皆、どうにかしなくてはと考えたが、武装した多数の兵士に逆らう事が出来るだけの勇気がある者はいなかった。


その貴族は自分の利益のためなら他を顧みない、傲慢で横暴な人間だと有名だったからだ。


もしこの兵士達に何か言おうとすれば、殺されてしまうかもしれない。


邪魔だと思えば、きっと町の人間全員を殺してでもあの貴族は神秘の水を独占しようとするだろう。



隊列を組んで町を進む兵士達を、歯を食いしばり、拳を握りしめ、ただただ苦い表情で見つめる事しか出来なかった。



軈て、兵士達は列を成して丘を登った。


剣を抜き、槍を構え、少女の家を包囲した。



その時、突如目の前に現れた二体のガーゴイルに石化魔法を受け、兵士達は呆気なく全滅してしまった。


後日、それを知った貴族が再び兵士を引き連れて少女の家を訪れるも、簡単に石像の仲間入りを果たした。



それ以降、少女の家を訪れた者の前には二体のガーゴイルが立ちはだかるようになった。


誰も少女の家に辿り着く事が出来なくなってしまったのだ。



冒険者ギルドから高ランクの冒険者が数人派遣されたが、そのガーゴイルのあり得ない強さを前に、太刀打ち出来る者は誰もいなかった。


まるで少女の家を守っているかのようなガーゴイルを見て「あれはきっと少女と神秘の水を守る、守り神に違いない」と町の者達は話した。


それに留まらず、「神秘の水などという奇跡を自分達に与えてくれていたあの少女は、女神様の御使い、若しくは女神様の化身だったのかもしれない」とまで、誰かが言い始めた。


確かに、少女が売っていた神秘の水はまるで神の奇跡のような代物だった。


彼女が癒やしの女神だったと言われても、驚く者はいなかった。



そんな少女に武装した多数の兵士を差し向けた貴族。


兵士達がやって来た時、見ている事しか出来なかった自分達。


ガーゴイルが現れたのは、そんな人間の傲慢さと無情さを少女が見て自分達を見限ったからなのだ。


そう考えた町の者は皆、自分達を恥じ、悔いた。




「せめて、これ以上少女が住むあの場所の平穏を乱すことが無いように、出来るだけ人を近付かせ無いようにしよう」



そうして、彼らは秘密と偽の噂を作りそれを広める事にした。


これ以上あの場所と神秘の水の話が広まらないように。


嘗て起こった悲劇を決して忘れぬように。



親から子へ、子から孫へ語り継ぎ、途絶える事の無いように。


何があろうと、町の者達はそれを守り抜こうと決めた。




そして、いつしかその町ではある話が言い伝えられるようになる。



『丘の頂上にある危ない雰囲気が滲み出ている家にはお爺さんが住んでいる。危ないから、近づいてはイケない』




それから数百年。



今やその真実を知る者は誰もいない。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「何てえのはどうだい……?」


だらしなくベッドに胡座をかいて話し終えたタマちゃんが、そう締めくくった。



女の子のような可愛い見た目と声で、可愛いフリフリの部屋着を着ているにも関わらず、大事そうに抱えた一升瓶の中身を時折ラッパ飲みする彼の姿はやはり違和感の塊だ。



小学生みたいな子供が、行儀の悪いおじさんみたいな所作で飲酒をしている。



事案である。





しかし案ずる事なかれ、この世界のこの国では飲酒や喫煙の年齢制限が無いらしい。


お酒は二十歳になってからでは無いのだ。


色んな人種が存在するこのマジカル世界で、年齢制限なんてものは殆ど意味を成さない。


成人の年齢だって種族毎に異なったりするらしいのだから、法律なんかもきっと複雑なんだろう。


そんな所も、私にとっては大きなカルチャーショックである。




そんなわけで、さっきタマちゃんはとても嬉しそうにお店で酒瓶二本を堂々と購入していた。


彼はどうやらお酒が好きらしい。


違う世界に生まれ変わった挙げ句に女の子のような男の子になってしまった彼だが、そんなの知るかとお酒を飲むのだ。


『おじさんって生き物は酒と煙草がないと生きていけねえのさ……車だってガソリンを入れないと走らねえし、排気ガスを吹いてんだろう?つまりそう言うことだ』と、彼は言っていた。


全く何を言っているのか分からないが、つまりおじさんだからお酒を飲みたいし、煙草を吸いたいという事らしい。




「何だか悲しい話だけど、凄く辻褄はあってる気がする」


木の椅子に座った私が膝に乗せたセチアを撫でながらそう言えば、彼は得意そうにニコリと笑った。



そして抱えた瓶に口をつけるのだ。


何を飲んでいるのかは知らないが、もう一瓶空っぽにしているにも関わらず全く酔っ払った素振りを見せない所を見るに、どうやらタマちゃんはお酒に強いらしい。


体は子供なんだから程々にしておくようにとソフィアに言われていたがこの通り。


きっとザルというやつなんだろう。



「これで全員だな。どうする?」


そう言って手に持ったグラスに口をつけるソフィアは、タマちゃんの隣に座って酒盛りに付き合っている。


注がれたワインを一口含み、味わうようにゆっくりと飲みこむ部屋着姿の彼女は、戦神乙女(ヴァルキリー)になったせいで全く酔えなくなってしまったと嘆いていた。


どうやら状態異常無効のスキルはアルコールにまで影響するらしい。


便利なのか不便なのか……。


相変わらず変な事が多い世界だ。



「自分以外の一人に投票していくのはどうでしょうか」


そんな、ワインの味だけを楽しんでいるらしいソフィアに、何時もと変わらないメイド服姿のヘデラがお酌をする。


ワインボトルを丁寧に持ち、ソフィアが持つグラスにゆっくりと注ぎ入れる姿はとてもメイドさんっぽい。


何だか大人っぽくて格好いい。



そんな二人を見て、外見も中身も子供でお酒はまだ早い私は少し憧れを感じてしまう。


良い子な私はお酒なんて飲まないのだ。



「そう言う事なら、私はソフィアの『お爺さんの幽霊が住み着いている』話が面白くて良かったと思うわ」


そして、スルメを咥えたエディルアが手を上げてそう言った。


彼女は屋台で買ってきた山盛りのスルメをさっきからずっと食べている。


何やら、噛めば噛むほど美味しい所がとても気に入ったらしい彼女は、屋台で売っていた分を買い占めた。


そのせいで部屋にスルメのにおいが充満してしまっていたりするのだが、別に皆は気にならないらしい。


まるでスルメ工場のようだ。




……後でにおいを消す方法を考えよう。




「ハッ……!!幽霊なんて子供騙し……いるわけねえんだ!」


「ふふふ、タマちゃん殿は幽霊が苦手なのだな」


「ははぁ……そうじゃあねえんだなァ……おじさんってえ生き物は、幽霊と宇宙人は皆信じねえもんなんでえ!手前が見たもんしか信じられねえんだなぁ、これが」


「ほう。なら今度、幽霊を見に行くか?ゴースト系の魔物が良く出る墓地を知っているぞ」


「…………んなァッ!?は、墓に観光なんて罰当たりだろうがいっ!」


「そう言うものですか」


「肝試しって言うんじゃないの?」


「見るだけなら別に構わないわよ、きっと」


「なあに、ついでに討伐すれば良いんだ。放っておくと奴らは墓を荒らすだけで無く、近くの町や村にやって来て悪さをし始めるからな。人助けだぞ」


「と、討伐だァ……?いいやっ!オレは戦いなんざ出来ないもんね!どっちにしろおじさんは行かないね!行かないし信じないね!!」



一升瓶を抱えたタマちゃんはそう言ってそっぽを向く。


彼はどうしても幽霊を認めたく無いらしい。



それよりも、さては幽霊が怖いという事を認めたく無いのだろう。



まるで本物の子供のよう。





そんな夜の宿屋の一室。



さて、私達は何の話をしているんだろう……?




はい、そう。その通り。



良く分からないままだった謎のお爺さんについてのお話である。



「丘の上にある危ない雰囲気が滲み出ている家にはお爺さんが一人で住んでいる。危ないから近づいてはイケない」


そんなこの町の言い伝え的な言葉に出てくるお爺さんとはいったい何者なのかを皆で話していたのだ。





お魚の美味しいレストランで夕食を食べた後、私達は他の町の人にも丘の頂上の家について話を聞いた。


レストランに居合わせたお客さん、道行く夫婦、公園のベンチに座ったカップル、屋台のおじさん、宿屋の受付のおばちゃん、などなど。


遭遇した人に片っ端から訊ねていったのだが、果たして、誰も言う事は同じようなものだった。




丘の上の家は危ない雰囲気が滲み出ているから近づかない方がいい。


言い伝えを皆知っているから、町の者は誰も近づかない。


お爺さんが一人で住んでいるらしいが、見た事は無い。


詳しくは誰も知らないと思う。



そんな感じ。






何故、丘の上の家にはお爺さんが住んでいる事になっているのか。



何が危ないから近づいてはイケないのか。



何故、態々そんな話が町で言い伝えられているのか。



何故、この町の人は皆その話を鵜呑みにして疑問を持たないのか。



首を傾げるばかりだった。




全ては謎で、謎の鍵になるのは別の謎だ。


byラルフ・ワルド・エマーソン



しかし残念ながらその手掛かりすら私には皆目見当も付かない。



「ふうん、不思議な話ね」と言って、スルメを延々と噛み千切るエディルアも、


「皆さん同じような事を言っていましたね」と言って、屋台で買った大量の荷物をアイテムボックスに仕舞うヘデラも、


「お爺さんとはいったい何なのだろうな?」と言って、エディルアから貰ったスルメを咥えるソフィアも、


「さあねぇ」と言って、ニコニコしながら酒瓶を抱えるタマちゃんも、


『眠たくなってきちゃった……』と言って、私の腕の中で丸まるセチアも、


誰もこの謎を解く事は叶わなかったのだ。



もう何も分からない。


きっとシャーロック・ホームズでも連れて来ないと解りっこない。


お手上げである。



お爺さんの謎は私達の中で迷宮入りを遂げた。






しかし、それじゃあ何だか腑に落ちない。



お爺さんが何だろうが私達にはどうでも良い話ではあるのだが、ムズムズとしたものが胸の端っこに引っ掛かってどうにも気になってしまう。


それはまるで喉に刺さった魚の小骨の如き、どうしようもない煩わしさ。



なので、私達は泊まった宿屋の一室に集まりパジャマパーティーならぬ推理大会を開く事にした。


一人ずつ順番に「町の言い伝えに出てくる謎のお爺さん」に対しての推理を披露していき、最後に皆で一つの仮説を決めてそれを真実だという事にして納得するのである。


名探偵になれない私達の探偵ごっこだ。


案外これが楽しい。




誰かがレミーちゃんをお爺さんと見間違えた説。

byエディルア


誰かが適当に作って広めた作り話説。

byヘデラ


長い間、人から人へ伝えていく中で話の内容が変わっていってしまった説。

by私


お爺さんのおばけが住み着いている説。

byソフィア


町の人達が敢えて間違った話を言い伝えとして作った説。

byタマちゃん


僕には分からないし、そんなのどうでも良いや。

byセチア




三人寄れば文殊の知恵なら、五人と狐一匹が寄ればもう無敵だろう。


案外この中に正解が隠れているかもしれない。


否、そうに違いないのだ。



不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであってもそれが真実となる。のである。


私達の場合、多数決で決まった回答が事実になるのだ。





そして今、何故か幽霊の話で盛り上がっていた。



「良いじゃない幽霊が苦手でも。認めちゃいなさいよ」


「苦手なんてえ事は、断じて無い!オレは幽霊を見た事が無えんだから!」


「私は幽霊苦手だよ、一緒だね」


「あら、アリスは相変わらず可愛いわね!幽霊が怖いの?」


「アリス様を怖がらせるなど許せませんね。この世界の幽霊を全て根絶やしに致しましょう」


「そうね、そうしましょう!死を司る神である私が、彷徨える霊魂をさっさと死後の世界へ送り届けてあげるわ」


「……根絶やしにしなくて良いよ。良い幽霊もいるかもしれないし」


「そう?…………そうね、止めておきましょう。ふふ、タマちゃんが怖がる姿を見られなくなるわね」


「だあぁッ!!幽霊の話はもうどうでも良いじゃんか!!投票をするんだろう!」



そうして多数決の結果、見事ソフィアの仮説が私達の中での事実となった。



レミーちゃんの家にはお爺さんのおばけが住んでいるのだ。


それを見た町の人達があの言い伝えを広めたのだろう。



幽霊の正体見たり、幽霊だ。



幽霊なら仕方が無い。


これで万事スッキリ解決である。



お爺さんの謎を目出度く解決した私達は、遅くまで幽霊談義に花を咲かせたのだった。



どんな世界に行ったって、こんな探偵はきっといないだろう。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「アレイシアの言うておった通り、面白い娘達じゃったの」


丘の上に佇むおかしな見てくれの家の中、少女は一人、虚空に向かって楽しそうに笑う。


奇抜な魔道具が犇めく室内にいるのは彼女ただ一人。


天井からぶらさがったライトから発せられたカラフルな光が喧しく照らすその場所に、何処かから、響くような声が木霊した。


それは優しく包み込む様でいて、澄んだハープの音色のように美しく、どこか神聖さを内包していて、そして喧しかった。



『そうでしょう!!そうでしょう!!私のアリスちゃん超絶キュートでしょう!!』


『私のソフィアちゃんも最高に可愛いですよね!!どうです?生ソフィアちゃんはやっぱり違いますか?』


『ホロビちゃん、タマちゃんと話せて羨ましい……』



そんな三人の女性の声が、一人きりの筈の少女に語りかけるように虚空に響き渡る。


辺りには誰も居らず、ただ一点を見つめ続ける少女はその声の出処を探そうとすらしない。


他の誰かからすればあり得ないようなそんな状況にいて、彼女は驚く事も、気にする事も無く、当たり前のようにその声と話し始めた。


「うむうむ、そうじゃな、全くもってその通りじゃあ、そなたらに全面的に禿同じゃあ。それで?アリス達の素晴らしさを世界中に広めるんじゃったかえ?」


『その通りです!今いる神の中で、ごく自然な形で地上に干渉が出来て、且つ情報を広める事に長け、更には数多の化身を持つ貴女にしか出来ないミッションなんです!サクッと世界中にアリスちゃんの素晴らしさを広めちゃって下さい!』


『頼みましたよホロビルシン。ついでにソフィアちゃん達が困っていたら助けてあげて下さい。後、決して私達の存在が悟られないようにお願いしますね』


「よし!あい任された!!儂は矛盾と不定を司る女神ホロビルシン!世界征服とかそんな楽しそうな事、超大好きやんに!!」


『え……?世界征服……?』


『ヒューヒュー!!さっすがホロビちゃんですぅ〜!!出来る女神ですぅ〜!!』


『所で、見ていてずっと気になっていたんですが、そのキャラは何なんですか?』


「これは儂が思い付きでついさっき生み出したような、もっと前からいたような、程よく彼女達の興味を惹いて仲間に入れてもらえるのに丁度良い程度の設定を持った都合のええ化身。儂そのものじゃあ」


『何を言っているのか全く分かりませんが、なる程。色々丁度良いと言う事ですね』


『普段の貴女と違い過ぎて正直戸惑いを隠せませんが……貴女の化身って幾つくらいいるんですか?』


「儂は矛盾そのものやんに。儂は唯一の存在じゃし、ホロビルシンとしては個であり、同時に複数でもあり、化身は無限に存在しちょる。そして今の儂はただ一人じゃ」


『同じ神とは思えない程、良く分からない存在ですよね貴女……何なんですか?』


「何なんじゃろうな〜?」


『ねえ……前から思ってたんだけど……ホロビちゃんってもしかしてニャ──』


『おっとっと!!すとーっぷ!!それ以上はいけませんカゲラエ!詳しくも無いのにどっかから持ってきた設定を付け加えるのはよして下さい!色んな方達に怒られてしまいます!!特にその辺はダメです!うちはほのぼの日常系でやってるんですから!』


『た、確かに……邪神ですしね』


「ほお、なる程。そりゃあ気が付かんかったが、そうかもしれんの。もしかしたら違うかもしれん。そうとも言えるし、違うとも言える。儂は儂自身を良く知っておるが、真実は何にも分かりゃせん。今の儂は矛盾と不定を司る女神ホロビルシンであり、同時に、確かに12賢者の末裔の兎人族の少女、レパミドレシュファリー・エンデルテミュールなんじゃあ。1121年の月日を確かに生きておるし、ついさっき生まれたばかりの神の化身でもある。もしかすると全く違う別の存在なのかもしれんの」


『はわわわ……わ、わけが分かりません〜……止めてください、恐ろしいですぅ〜……』


「カッカッカッ!真実とは、誰かがそれを認識した時初めて事実となる。少なくとも、ここでの儂はアリス達の友達で新しい家族の超凄い魔法使い、うさぎのロリババアレミーちゃんじゃあ。それ以外の何でも無い。この物語を破綻させはせんから安心しなしゃんせ」


『それはくれぐれもお願いしますよ。アリスちゃんに何かあったら、私本気で怒りますからね』

 

『さっき世界征服とか言ってた……』


『私的にはソフィアちゃんの可愛くて尊い姿を見続けられるのなら何でも構いません』


『ねえ……さっき世界征服って……』


「分かっちょるよー」


『え……何で急に、無視……?』


『それではまた。その場所でしかこの[神様通信]は使えませんので、ちょくちょく定期報告をお願いしますね』


『お気を付けて。良き働きを期待しています』


「うむ、任しんしゃい」

 

『うぅ……創造神様ぁ……二人が私を無視する……』


『こらこら、仲良くしないとダメだよー』


『もう!何──』



ピッ───────



声が止み、少し呆れたように少女は一つ息をついた。


「ほんに、騒がしいやつらじゃあ」


座っていた奇抜な見てくれの椅子から立ち上がった彼女は、少し楽しそうに笑って伸びをする。


「さて、アリス達が王都に行っておる間にひと仕事しておくかの…………お?窓の外に爺がおる……」


適当に貼り付けられたように、壁に無数にくっついた窓の一つ。


振り向きざま、半開きになっていたそれの外に一人の老人が立っているのを少女は見つけた。


「……んん?おかしいのう……儂の[視理の眼]が効かんとは……ガーゴイルは寝ちょるんか?」


そう言って、首を傾げる少女は少し煩わしそうに入口へと向かう。


もう日付が変わる頃だ。


こんな時間に非常識だと思うのは仕方の無い事だろう。



大きな鉄製の扉を押し開き、そして扉の前に置かれた二体の悪魔のような石像を確認した後に、彼女はまた首を傾げた。


つくづく不思議な事があるようで、彼女は少し頭を悩ませた後に、仕方が無いという億劫さを息と共に漏らしながら、少女はさっき老人が見えた方へと足を向けた。


「こりぇ、何の用向きかえ?」


建物の角から顔を出して辺りを見回した少女。


窓の外に見えた老人が立っていた場所には、果たして、誰もいなかった。


「ありゃ?誰も居よらん」


辺りを確認するように見回してみるが、何処にも人の気配は無い。


明るい月明かりで照らされた丘の上は、夜風が草を鳴らす音だけが静かに……なんて事はなく、テレテッテッテレレレッテレーという場違いに陽気な音楽が流れていた。


派手に飾り付けられた看板、用途の分からない無数のパネル、動かない人間の石像。


建物の周囲をぐるりと数度見回してみて、やはり誰もいない事を確認した少女は納得したように頷いた。


「ふむ、見間違いじゃな」


少女はそう呟くとさっさと屋内へと戻っていく。



彼女は時間をかけて考える事の無意味さを知っているのだ。



謎というものは何時でも、何処にでも見つける事が出来る。


世界の全ては謎で出来ていると言っても過言ではない。


未完成で不確定で、歪だ。




だから、考えても意味の無い問いは必ず存在する。



その問いには答えが無く、ありとあらゆる事象と仮定が同時に正解であり、間違いでもある。




その名を矛盾。





そして、自らが理解出来ない事に納得がいかない別の者はそれをこう呼ぶのだ。



幽霊と。





海の見える少し騒がしい丘の上。



少女が去ったその場所で、月明かりにぼんやりと浮かび上がる白い人影は夜風に揺れる草葉と共に、笑うように少し歪んだ。




いったいソレはどちらなのか。


きっと誰にも分かりはしない。








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