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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、都に行く
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アリスさん、兎の女の子を知る3

その後、私達はレミーちゃんのガイドの元、部屋中の魔道具達を片っ端から見て回った。



滑り降りると突き刺さった風車が高速回転し始める滑り台。


グニョグニョと蠢きながら転がりまわる、ぐちゃぐちゃに丸まった鉄パイプの塊。


一斉に飛び跳ねて逃げ回るうさぎのハリボテがくっついた机の山。


等など、最早その奇天烈な発想に感服してしまうものばかりである。




レミーちゃんが400年かけて研究開発してきた物をとやかく言うのは良くないし、全て凄い技術で作られた魔法の道具なのだという事は分かっている。


エディルア曰く、新しい魔道具を開発するのはとても難しい事らしいのだから、レミーちゃんはやはりとても凄い人なのだ。


12賢者の末裔で、超凄い魔法使いで、おまけに新しい魔道具を研究開発している1121歳の可愛いうさぎの女の子。



私のちんまい不老不死仲間で、新しいお友達。



そんな彼女が、とても嬉しそうにテンション高く見せてくれる魔道具の数々は、彼女にとって誇らしい宝物に違い無い。


最高傑作とか言ってたし。



それでも、無意味に高速回転したり、無意味にそこら中を飛び跳ねまくったり、無意味に七色に光ったりするそれらを見ていると思ってしまう。


心が、何だかしょんぼりしてしまうのだ。




『ああ……やっぱりここはパラダイスだったんだ……』と。



さっき、ブランコに乗ったまま無茶苦茶に振り回された時なんか、特にだ。


いったい、魔道具とは何なのだろう……。



私が初めて魔法の道具を見た時の驚きと感動はもう何処にも無い。



「わあ、魔法の道具があるなんて、この世界はやっぱり凄いなぁ」


そんな事を考えていたのが懐かしい。



魔道具と聞いて、ワクワク期待していた私の気持ちなんて、ブランコ on the シーソーに振り回された拍子に何処かへ飛んで行ってしまった。



次々に紹介されるレミーちゃんの最高傑作達を見ていて、それは変わらないどころか、心がどんどん過疎化していく気分になるのだ。




正直に言ってしまえば、どれもこれも、やっぱりガラクタにしか思えない。



とても悲しい事に。




物の価値なんてものは人それぞれで全く違うが、レミーちゃんの大切な物をそんな風に思ってしまう私は、きっと心の汚れた悲しい人間なんだろう。



とても悲しい事に。



「続いてはこれじゃあ、『眠った瞬間飛び上がって楽しいヤツ』!」



しかして、またまたハイテンションなレミーちゃんがそんな風に紹介してくれたのは、もれなくゴチャゴチャした装飾がくっついた木製のベッドだった。



これで21個目、今度は眠った瞬間飛び上がるベッドらしい。



分からない……。



また、私なんかには理解出来ない先進的でユーモア溢れる発想とセンスだ。



何だろう、眠った瞬間飛び上がるベッド。


最早ただの嫌がらせグッズにしか思えない。




私はセチアを抱きしめながら、びっくり箱みたいなベッドの説明を始めたレミーちゃんの話を聞いていた。





ところで、退屈だといつも直ぐに寝てしまうセチアだが、今は珍しく楽しそうにしていた。



『アリス!今度も飛ぶんだって!凄いね!』


私の腕から垂れた二本の尻尾をパタつかせながら、そんな風に念話で興奮を伝えてくる彼は、大きな魔道具が派手に動き回ったり飛び跳ねたりするのが超楽しいらしく、さっきから超楽しそうにしている。


ブランコに高速で振り回された直後、悟りが何なのか分かった気がした私に、『アリス!アリス!僕もあれやりたい!』なんて言って、器用にブランコにしがみついて独りで振り回されていた程である。



私にとって、可愛いセチア君が楽しそうにしているのが、この場で一番の救いだ。


燥ぐセチアがとても可愛い。


そして、彼が喜んでくれているだけで満足な私は、最初のブランコ以降、何かに乗せられそうになる度に丁重に断り続けていたのだった。



何だか、私の心が空っぽになってしまいそうだったから。





しかして、そんな私の隣ではタマちゃん達が話をしている。


「ただの嫌がらせグッズだなァ……」


「なる程。これも実用性は皆無ですね……」


「エンデルテミューリュの魔道具……」



タマちゃんは呆れたように腕を組み、ヘデラは困ったような表情を浮かべて静かに言う。



最初、「エンデルテミューリュの者が造った魔道具なんて、さぞ凄い物なんだろう!」と楽しそうにしていたソフィアは、途中から遠くを見るような眼をして「エンデルテミューリュの魔道具……」としか言わなくなってしまった。





どんな気持ちなんだろう……。



分からない。





そして、そんな私達四人とは対象的に、超楽しそうに燥いでいる人物がセチア以外にもう一人。


「凄いわ!さっきの風呂桶みたいにこれも飛び上がるのね!」


テンション高くそう言って、とても良い笑顔を見せるエディルアだ。


彼女は、今まで紹介された魔道具の全てに目を輝かせながら、楽しそうにお試し体験していた。



高速で滅茶苦茶に振り回されるブランコも、入れたお湯を撒き散らしながら凄い勢いで飛び上がって天井に衝突する風呂桶も、このベッドも、ドラゴンお姉さんの好みにジャストフィットしているらしい。



「ふっふっふ、黒死の龍よ……それだけじゃあないんやえ。何と!!これは飛び上がった後に回転しながら飛び回りよるんじゃあ!」


「何よそれ!凄く楽しそうだわ!早速試してみましょう」


『僕も!僕も!』


「儂も!儂も!」



しかして、燥ぐ二人と一匹は、ベッドに飛び乗ると仲良く寝転がった。


飛び上がって回転しながら飛び回る為に、このまま眠りにつこうとしているらしい。


まるで、ホームセンターでベッドの寝心地を確かめているかのように、ワクワクした面持ちで目を瞑ってゴロゴロし始めた彼女達を、残された私達は静かに眺めていた。




どんなに洗練された大人の中にも、外に出たくてしょうがない小さな子供がいる。


ウォルトディズニーさんは良い事を言った。



彼女達は洗練された大人であり、何事も心から楽しむ事が出来る純粋な心を持っている。


素敵な事だ。


いつの世も、そういう人間が発明家と呼ばれてきたんだろう。



純粋に物事を楽しめない私は、発明家にはなれ無い、きっといつの日か忘れてしまった子供心を見つけられない、寂しい子供なんだろう。



私は空っぽになってしまった腕の中を寂しく感じながら、二人と一匹を眺める。



彼女達が寝息を立て始めるまでの暫しの間、無味な沈黙が広間を包んでいた。






数時間後。


広間内にある大量の魔道具をきっちり全て見学した私達は、先程のようにベンチに座ってお話していた。


ここにある大量の魔道具全てがレミーちゃんの最高傑作なのだ。


その数、何と183個。



超凄い。



レミーちゃん曰く、「既存の魔道具はどれも楽しく無いに。型に嵌らんような、あっと驚くような、楽しい魔道具を儂は作っちょるんじゃあ」らしい。


そして、訪れた人に遊んで貰うために造った魔道具を全てここに置いているのだとか。



正に魔道具のパラダイス。


ここはそういう場所なのだと、それだけ見てみればとても素敵な事のように思える。



それが、しまってある食器全てが猛スピードで飛び出してくる、ショットガンみたいな食器棚とかでなければもっと素敵だっただろう。


ふらっと訪れた人が遊ぶには、危険な物が多すぎる気がする。




それに、建物の外観を一目見ただけで分かる程に、危ない雰囲気が滲み出ているのはよろしくない。




家の前に大量にある、変なポーズした人の石像とか。



あれからして、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。


妙にリアルだし、沢山あって気持ち悪いのだ。





まさか、動き出したりするのだろうか……。



学校の七不思議とかでよくあるアレみたいに……。




「家の前に沢山あった人の石像とかも、何かの魔道具なの?」


そう、私が気になって訊ねてみれば、レミーちゃんから思いもよらない返答が返ってきた。


「おお。ありゃあ、昔にここを襲いに来よった襲撃者じゃあ」


と。



襲撃者じゃあ?


……石像が?


石像が襲いにくるの?





そんな……事が……。





なんて事を思った私だが、聞けば石像が襲って来たのでは無く、襲って来た人を石像にしてしまったらしい。



あの変なポーズの石像達は、元は全部人間だったのだ。



驚きだ……。


人を石にしてしまうなんて……メデューサみたい。



そう言えば、シュバルツに突かれただけで石になってしまうらしいし、この世界では結構簡単に人の化石が作れるのかもしれない。


石化の魔法とか、そんなものを私も使えた気がする。




恐ろしい……。


石になっちゃうなんて、超怖い。




「ここは最新の魔道具に関する機密情報が満載やんに、それを盗もうっちゅう事じゃろうて。けしからん奴らやえ」



そう言ってプンプン怒るレミーちゃん。



そうなのか……。




そうなのか?



絶対、他に何か理由があったと思うが……。




「石化魔法ですか……あのように、目に付く場所に置いておくのは見せしめに有効かもしれませんね。わたくしも今度、不埒者に試してみましょう」


それを聞いたヘデラが優しい笑顔でそんな事を言う。



見せしめとか……。


怖い。


「ヘデラ殿は容赦がないな……」


「お城の前に並べたりしないでね」


「ええ、承知しております」



本当だろうか……。



「ほおん……石にしちまうたァ、えげつねえ事をするもんだ」


「ガーゴイルが勝手にやった事やに、儂は知らん」


しかして、だらんとベンチに座ったタマちゃんが呆れたように言うと、レミーちゃんは肩をすくめた。



ガーゴイル?




何かなそれは?



扉の両脇に置いてあった、翼の生えた気持ち悪い悪魔みたいな石像の事だ。



実はあれ、ガーゴイルという魔物らしい。



さっき、魔道具を見て回っている途中に教えてくれた。


レミーちゃんのペット兼、門番だ。


気持ち悪い石像だと思っていたが、あれはちゃんと生きていて動くらしい。


不思議な生物だ。



「普段ならここにやって来よった奴を驚かして遊びよるんじゃがの。あやつら、そなたらにビビりよって、石像のフリをしておったわ」


「儂が色々弄ったガーゴイルやんに、超凄いガーゴイルなんやえ。上位魔法を6属性全て無詠唱で発動できるんじゃあ!」



そう言って、レミーちゃんはハッハッハと笑っていた。




あのガーゴイルが昔、ここを襲撃してきた人達を石にしてしまったらしい。


そして、この建物の前にそのまま捨て置かれている。



ガーゴイルさん達は石像仲間が欲しかったのかもしれない。





何だか……ここに人が訪れなくなった理由が少し分かった気がする……。






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