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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、都に行く
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アリスさん、丘の上を知る2

テレレレレテッテッレーテッテッテー!!



テッテーテレレッテッテレレッテー!!



テレレーテレレッテッテレレレレー!!




馬鹿でかい文字で


『──入口──ようおこし!ご自由にどうぞ!』


と書かれた、両開きの赤い大きな鉄扉の前に立った私達を、そんな相変わらず喧しい音楽が迎えてくれている。


辺りには勿論インターホンなど無く、表札も無ければドアノッカーすら見当たら無い。


人間の手足が生えた大きなカラスみたいな、気持ち悪い謎の石像が扉の両脇に置かれているだけである。



扉は真っ赤で大きいし、石像は気持ち悪いし、テレテレ音が相変わらず鬱陶しいし……意味不明なガラクタでゴチャゴチャしている他の場所に比べると何だか殺風景なのに、やっぱりまともなお家に見えない。


なんと言うか、とても趣味が悪いのだ。


ここに住んでいるというお爺さんは、やっぱり変わった人物なんだろう。


どんなお爺さんが出てくるのか、最早会うのが楽しみに思えてきた。



「ご自由にどうぞと書いてあるけれど……勝手に入っても良いのかしら?」


「どうだろうか?」


「音が鳴ってるから、少なくとも休日とかでは無いんじゃないかな」



テッテレテレテッテレテー!と鳴っているんだもの。


このパラダイスは絶賛陽気に営業中の筈である。


多分。



これでまさか今日はお休みですとかだったら、私はこのテレテレ音に一生忘れない恨みを抱くだろう。




「おう待ってな、おじさんが開けてやらァ」


すると、そう言ったタマちゃんが扉まで駆けて行った。



おじさんが扉を開けてくれるらしい。


助走の勢いそのままに、彼は何の躊躇もなく扉を開けようとする。



おじさんはノックなんて知らないし、開ける前に声を掛けたりもしないのだ。


きっと、居酒屋さんに入る時のように、扉を開けながら「邪魔するよお!開いてるかい?」とか言いながら入って行くに違いない。



そんな事を思いながら見ていた私だったが、しかして、タマちゃんの助走の乗った両手で思いっきり押されたその扉が開く事は無かった。


ペチ!という手が扉を叩いた小さな音が鳴っただけで、その大きな鉄扉はピクリとも動かない。


見ただけで分かる、きっと重たいんだろう。


鉄製だし、大きいし。



「おおん……?何でえ……っ!さては……建付けがわりいんだなァ?」


そう言って押したり、引いたり、スライドさせようとしたりするタマちゃん。


小さな子供の身体で必死にどうにか動かそうとするが、しかしその大きな鉄製の扉はびくともせずに、彼は軈て躍起になり始めた。


「んにゃろっ!テメェっ!何で動かねえんだっ!こんちくしょうがっ!」


そんな掛け声と共にタックルをかます。


フリフリの綺麗なメイド服が汚れてしまうかもしれない事など構わずに、ぴょんぴょん跳ねては鉄扉にトントンぶつかっている。



そんな、突然扉相手に格闘し始めた彼を私達は直ぐ後から眺めていた。




大きいし、鉄製だし、扉が重くて開かないなら力持ちなエディルアか私がどうにかするのに……。


若しくは、今ちょっと留守にしていて鍵が掛かっているのかもしれない。



「楽しそうね。いい事だわ」


「タマちゃんはどうしたんだろ」


「さては、重そうな扉を開けてエスコートし、わたくし達に良い所を見せたかったのかと」



そんな健気な……。



おじさんのジェントルマン精神的に私達女性を気遣ったのだろうか。



自分も女児みたいな見た目をしているのに。


私達の誰よりも非力なのに。



「お……おいおい、止めないかタマちゃん殿!怪我をしてしまうぞ!」


「止めんじゃねえやいっ!……くそぅっ!何でこいつァ……ビクともしねえんだっ!!」



タマちゃんは悔しそうに言いながら、軈て止めに入ったソフィアに脇に抱えられて戻って来た。


まるで騒がしい子供を捕まえたお母さんのようだ。


スーパーマーケットとかでたまに見かけた光景。



そんな彼を見ていると、中身がおじさんなのだという事が疑わしくなってくる。


見たまんま子供のようだ。




基。



「閉まってるのかな?」


「どうでしょうか?」


そう言って、今度はヘデラが試しに扉を開こうとしてみると、大きな鉄扉はギィという鈍い音を立ててすんなりと開いてしまった。


何ともすんなりと。



「おや……開きましたね」


「開いたね……」


ヘデラも人間からすれば馬鹿みたいに力が強いのだが、1ミリも動かなくて四苦八苦していたタマちゃんの様子を見た後だと、まるで嘘のように感じてしまう。



しかして、呆気なく開かれたその扉を見て目を丸くしたタマちゃんは怒っていた。



「んな……ッ!?『どなたでもお気軽に……』なんて事を書いておいて……力のねえ奴は入るなと言うのか……っ!!客商売を何だと思ってやがる、出て来いっ!!」


ソファに脇に抱えられたまま、手をばたつかせてそんな事を叫ぶタマちゃん。


もう子供にしか見えない。



「落ち着けタマちゃん殿。大きな扉だからな、仕方が無い」


「くぅ……今のオレはドアすら手前一人で開けられねえってのか……!こんな身体になっちまって…………」


「何を言うか、タマちゃん殿には良い所が沢山あるではないか」


「……そうかい?」


「そうだとも!」



悔しそうに項垂れるタマちゃんを抱えたまま、ソフィアが彼を宥める。



まるで親子のようだ。





しかして私達は[丘の上の素敵なお城]の入口へと足を踏み入れた。



大きな鉄扉を抜ければそこは大きな広間で、これまた珍妙な物で溢れかえっている中の様子が見て取れた。


良く分からない鉄のモニュメントが沢山あったり、シーソーの上にどデカいブランコが乗っているような物や、風車が刺さった滑り台のような物など、良く分からない遊具が幾つも置かれている。


控えめに言っても、ガラクタがそこかしこに転がっているようにしか見えない。



おまけに、何故か建物の中はテレテレ音が聞こえないのが何よりもムカつく。


何故かは分からないが、扉を抜けた瞬間、テッテレレテレッテッテー!が聞こえなくなったのだ。


何の為の音楽だったんだあれは。




しかして、そんな部屋に入った私達を、ガラクタだらけの部屋の中央で待ち構えていたのは、白くて短い尻尾が生えたお尻だった。




基、短い浴衣のような衣装を着て、お尻を丸出しで蹲っている女の子のようだった。


「ごめんくださーい。あら、誰かいるわね」


そうエディルアが声をかければ、そのお尻はピクリと動いた後に、ぶるぶる震えながら何故か命乞いのような事を言い始めた。



「ヒィッ……!た……助けてくりゃれえ……!食わんでおくれぇ……!」




「……えぇ」




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