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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、都に行く
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アリスさん、テドロの町を知る

お魚が食べられるお店を探し初めて数十分後、沢山のお店が軒を連ねた、街のメインストリートっぽい通りを歩きながら、私達は自分達が目立つ存在なのだという事を再確認していた。


超絶美人なメイドさん二人(片方はフリフリのメイド服を着た美少女っぽい男の子おじさん)、黒いドレスを優雅に着た超絶美人なドラゴンお姉さん、背中から神々しい感じの翼が生えた超絶美人な伯爵令嬢、そしてフリフリのドレスを着て黒い子狐を抱えた私。


こんな団体、目立たないわけが無いのだ。


道を歩けば遠巻きに眺められるし、ソフィアの翼は相変わらず人気だし、セチアも人気だし、商店の店先を通り掛かれば店員さんが輝く笑顔で飛んでくる。




「おい!何か凄い人達が来てるぞ!纏ったオーラが普通じゃない、きっとやんごとなき方々に違いない!」



何処からかそんな声が聞こえてくる港町の陽気な日盛り。


暖かい風に運ばれてきた海の香りが心地よい白壁の町並みも、そこかしこでお魚が売られている商店街も、買い物客で賑わうレンガ貼りの綺麗な通りも、行った先々で私達を取り囲む人だかりが出来ていた。



「何だ何だ……何処かの貴族様か?……おお!?天使様がいらっしゃるぞ!!」


「皆、凄く美人だなぁ」


「見て見て!あの小さなメイドさんとお姫様、凄く可愛い!」


「本当だ!あの抱っこしてるの何かな?」


「あ、こっち向いた」


「キャー!」


「どうしよ!私、手振られちゃったっ!」


「いいなー!」



そんな、まるで有名人がやって来たかのような反応がそこかしこに伝播して行くのだ。



リアデでも同じような光景を見た事がある……。



何だろうかこれは。


人気者になったようで悪い気はしないが、恥ずかしいったらありゃしない。


気にせずに普段通りの日常を過ごしていてくれれば良いのにという私の思いに反して、人だかりはどんどん人数を増やして行く。


もしかして、何処に行ってもこんな感じなのだろうか……。


何だかそんな気がする。


町で顔バレして困る芸能人の気持ちが少し分かる。


サングラスとマスクが必要ではないか。



「けったいなこった……みーんなこっちを見てやがる。有名人なんだなァ……」


「ソフィアが目立つんだよ」


「私か?皆アリス殿を見ているぞ」


「アリス様の偉大さに目を奪われているのですよ」


「流石はアリスね!何処に行っても大人気だわ」



私?


私のせいなのか?



そんな馬鹿な。



違うでしょう。


一番目立つのはソフィアだ。



翼生えてるし、お貴族様だし。




そんな中でも私達に話し掛けて来る人は多くて、やっぱりお年寄りがソフィアの翼を拝んだり、女の人や子供がセチアを触らせてくれと寄って来たり、おばあちゃんに頭を撫でられたり、握手したり、美味しいから食べてくれとお魚をくれたり、お茶をご一緒しないかとナンパされたり、良い物揃ってるよと客引きされたり。


どうやらこの街の人達は皆気さくな性格をしているようで、明るく楽しく話し掛けてきて、明るく笑顔で去ってゆく。


周りで見ている人も、通り掛かった人も、笑顔で手を振って挨拶する。


漁師の町だというのが何となく分かる、おおらかでアットホームな町だ。


皆楽しそうに話しているのを見ると、私も何だか暖かい気持ちになってくる。




しかして、お魚をくれたおじさんにオススメだと教えてもらったレストランで昼食を食べる事にした私達は、町の中腹まで登った所にあるその場所へとやって来た。


白壁とレンガ道の迷路のような町の中、見上げた空の青さが対象的なその場所で、美味しそうな匂いが漂ってくるそこはどうやらお魚料理の専門店らしい。


お昼時という事もあり、数人のお客さんがこれまたおいしそうなお魚料理を食べている。


期待通り、美味しいお魚が食べられるお店だ。



席は海側に突き出たバルコニー席のみで、店員さんに案内されて白いウッドテーブルに着けば、柵越しに空と海、そして町を見渡す事ができた。


海が近い坂の町ならではの光景だ。


食事を楽しみながら、綺麗な海と町を眺める事が出来るなんて、お洒落なお店ではないか。


私はひと目で気に入ってしまった。


私以外の皆も同じようで、柵越しの風景を眺めて息をついた。



「あら、いい眺めね」


「ほほぉ……こりゃあ洒落てるじゃあないか。あのおっさんは趣味が良い」



同感だ。


魚も貰ってしまったし、感謝しなくてはいけない。


ありがとう名も知らないおじさん。


今度出会ったら何かお礼をしなくては。



残念な事に、この辺では生魚を食べる習慣が無いらしく、メニューにお刺身は載っていなかったが、皆で頼んだ店員さんのオススメだと言う見た事もない魚の煮付け定食はとても美味しいものだった。


良い景色を眺めながら、暖かい陽の中で食べる昼食は格別だ。


本を片手にティーセットでも頼んで、のんびりとここから海を眺めていれば、直ぐに時間が過ぎてしまうだろう。


ゆっくりと流れる昼下りの時間は、この町をよく表している。



私達は食後のお茶を飲みながらしばし談笑した後に、お皿を下げに来てくれた店員さんにこの町の見所を聞いてみる事にした。




「テドロの見所ですか?それは、何と行ってもこの町並みですよ。町の何処からでも海を眺める事が出来るのは、とても気持ちが良いでしょう?」


柵の向こうを指しながら、とびきりの笑顔でそう答えてくれた三十代半ばくらいの優しそうな女性の店員さん。



彼女はきっとこの町が好きなのだろう。


思えば、この町の人達はみんな楽しそうにしている。


皆、自分達の町が好きで、きっと自慢に思っているんだろう。


他の住人に訊ねてみても、同じ答えが返ってくるかもしれない。


それはきっととても素敵な事で、この町もそこに住む人達も、皆が幸せなんだ。


確かに、こんなに気分が良い町はそうそう無いかもしれない。



「時間があったら、日の沈む頃に丘の頂上に登ってみてください。空と海と町が夕日で真っ赤に染まって、それはそれは綺麗ですよ。あ……後、丘の頂上には変わった家があるんですが、あまり近づかない方が良いですよ」



後ろの方は声を潜めて、店員さんはそんな風に続けた。


赤く染まった海と空、それらに照らされた町並みはとても美しい事だろう。


是非とも見たい。そして写真に残さなくてはいけない。



そう思う私だが、気になってしまうのは『変わった家』という言葉である。



変わった家……?



態々声を潜めて、近付かない方が良いと言うのは、いったいどういう事だろう。


危ない人が住んでいるとか?


態々教えてくれたのだからと、気になった私は訊ねてみた。



「変わった家ってどんなの?」


そんな私に、店員さんは少し微笑んで教えてくれる。


「ああ、気になりますよね。行けば分かりますよ、変わっている……というより、何だか危ない雰囲気が建物から滲み出ています。ある意味この町の見所かもしれませんね」


何だそれは……。


危ない雰囲気が滲み出ているお家なんてあまり見かけるものじゃ無いぞ。



「家という事は何方か住んでいらっしゃるのか?」


「ええ、お爺さんが一人で住んでいるようなんですが……そのお爺さん、町には全く降りてこないみたいなんですよね。なので私は見かけた事も無いんですが……。『丘の上の危ない雰囲気が滲み出ている家にはお爺さんが一人で住んでいて、危ないから近づいてはイケない』と、子供の頃からそう大人達に言われて育ったので、詳しくは分からないんです。この町の人間は皆そうですね」



危ない雰囲気が滲み出ているお家にはお爺さんが一人で暮らしているらしい。


『丘の上の危ない雰囲気が滲み出ている家にはお爺さんが一人で住んでいて、危ないから近づいてはイケない』


そんな事を大人から子供に言い聞かせるくらい、危ない雰囲気が滲み出ているんだろうか。


それとも、その言葉のせいで誰も近付こうとしないのだとすれば、そのお爺さんにも何か秘密があるのかもしれない。



おお……?



何だろう。



とても気になる。


私の好奇心が騒いでしまう。



「町には降りてこないのか。ご老人が丘の頂上に一人で住んでいるなんて、大変な事も多そうだが」


「どうなんでしょうか……?いつから住んでいるのかも分かりませんし……建物は遠目に何度か見た事はあるんですが、町の人間は皆近付かないようにしているので……。誰も知らないんじゃないかな?」


兎に角、見れば分かりますよ。危ない雰囲気がぷんぷんしてますんで。


そう告げて、店員さんは空いた食器を持って去って行った。



長閑な昼下りのティータイムに舞い込んだ、少し不思議なこの町の見所情報。



気になるぞ。


町の人達が近付こうとしない程に、危ない雰囲気が滲み出ているお家とはいったいどんなお家なのだろう。


町に降りてくる事もなく、そこに一人で住んでいるお爺さんはどんな人物なのだろう。



とても気になる。



「へえ……一度行ってみましょうか?どんなお家なのか気になるわ」


「私気になる」


「おいおい……本当に危ねえ爺さんがナタもって追っかけてきたらどうすんだい?」



うわ……。


何それ……そんな事もあるかな?


想像すると超怖い。



「老人の家はさて置いても、丘の頂上からの夕焼けは見てみたいものだな。きっと綺麗なんだろう」



おっと、そうだ。


危ない雰囲気の家に住むお爺さんの話で掻き消されていたが、夕焼けの景色が綺麗だと教えてくれたんだった。


それは是非見たい。


夕焼けの海と町をバックに皆で写真を撮ろうではないか。




私がそんな事を思っていると、ヘデラが妙な事を言い出した。



「わたくし、少し疑問に思ったのですが。あの女性が子供の頃からお爺さんが一人で暮らしていると言うのは、少し妙ではありませんか?お爺さんはいつからその家にお爺さんとして住んでいらっしゃるのでしょう?」


と。



んん〜……??



何だろう。


このメイドさんは何でそんな怖い言い方するんだろう。



少し背筋が寒くなってしまった。


気がつかなかったけれど、さっきの店員さんの言葉を思い出してみれば言いたい事は少し分かる。



──ええ、お爺さんが一人で住んでいるようなんですが……そのお爺さん、町には全く降りてこないみたいなんですよね。なので私は見かけた事も無いんですが……。『丘の上の危ない雰囲気が滲み出ている家にはお爺さんが一人で住んでいて、危ないから近づいてはイケない』と、子供の頃からそう大人達に言われて育ったので、詳しくは分からないんです。この町の人間は皆そうですね。





──いつから住んでいるのかも分かりませんし……建物は遠目に何度か見た事はあるんですが、町の人間は皆近付かないようにしているので……。誰も知らないんじゃないかな?







ああ……本当だ……。


何だか少し怖くなってきた。



あの店員さんは三十代半ばくらい。


すると、少なくとも三十年以上もの間、町に降りてくる事も誰かと会う事も無く、お爺さんはお爺さんとしてずっと丘の上の危ない雰囲気が滲み出ているお家に一人で住んでいるというのだ。


加えて、町の人達は誰も近付こうとしないので、そのお爺さんを見た事は無い。



そこはかとなく、サスペンスホラーの臭いがする。



「……お、おおう、ご主人様よォ。変な事言うんじゃねえや……っ!怖え事想像しちまっただろう……」


「お爺さんはエルフか何かの長寿族なのかしら?」


「ふむ……。誰もお爺さんを見た事が無いらしいからな……若しくは、そのお爺さんはもう……」


「行ってみる?」


「色々気になるし、行ってみましょうか」


「そうですね」


「おじさん、ちょっと腰が引けちまうなァ……」



そうして、お会計を済ませた私達は、危ない雰囲気が溢れ出ている家があるという丘の頂上まで行ってみる事にした。



大丈夫。


ホラーな展開になれば、急いで次の町までワープだ。


私の魔法は超便利なのだ。







「タマちゃん、どんな怖い事を想像したの?」


「いやよォ……爺さんのゆうれ……ッんにゃ……っ!?おおう!何でもねえやいっ!!」




おじさんはどうやら幽霊が怖いらしい。



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