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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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side.アレイシア 神様、アリスちゃんを広める3

ここは神の空間、そして私はアレイシア。


こんにちは、アレイシアです。




結論から言いますと、カゲラエもアリスちゃんの素晴らしさを分かち合う同志になってはくれませんでした。


エイラと共に、アリスちゃんとソフィアちゃん、それぞれが如何に素晴らしく尊い存在であるのかを、色んな神様パワーを使いまくり、長い時間を掛けてもう一度彼女に説いたのですが、相変わらずの無口、無感情キャラを貫く彼女からは、半分寝ているかのような暈けた反応しか帰って来ませんでした。


正に不毛の境地。


この世界はこれ程までに残酷だったのです……。



アリスちゃんの絵本も、名言集も、写真集も、彼女はチラリと見ただけで『凄い凄い……』と言って終わりです。


女神である私は、こんな絶望を知りません。



非常に悲しく、残念な事この上ありません。


何故彼女はアリスちゃんの可愛いさを理解出来ないのか……。



世界が滅ぶ程の衝撃ですが、最早仕方がありません。


きっと彼女の脳みそは永久的に半分寝込んでいるのでしょう。


聡慧の諢名でもある、魔法と魔術を司る女神として致命的です。




私とエイラはそんな彼女にとうとう諦めて、アリスちゃん達の様子を見守る事にしました。


布教活動も大事ですが、これを忘れてはいけません。


伝わらない相手に手間取って、可愛くて尊いアリスちゃんの様子をリアルタイムで見ないなんて、蕎麦屋でカレーうどんを食べようとしてハヤシライスを注文するようなものです。


つまりただ間抜け、信じられないお馬鹿さんってなもんです。




創造神様は相変わらず偶にバカ笑いを上げ、エイラはソフィアちゃんを愛でまくり、カゲラエは半目でそれを眺めます。



勿論、私はリアルタイムのアリスちゃんを思う存分堪能していました。


ショッピングを楽しむ可愛いアリスちゃん。

ナンパ冒険者を容赦無く半殺しにする超絶格好いいアリスちゃん。

セクシーな格好の奴隷を見て赤面するウルトラメガトン可愛いアリスちゃん。

長い話に退屈して抜け出してしまうハイパーエクストリームサンシャイン可愛いアリスちゃん。

セチア君が居なくて少し寂しそうにするエクストラアルティメットルミナスメガドリーム可愛いアリスちゃん。



可愛い過ぎる!!


何故エイラもカゲラエも、こんなにも可愛いアリスちゃんの可愛いさが分からないのか。

「ウッヒョおぉお!!アァアリスちゅわぁああんッ!!スキ!!!」と、夢中になって然るべきなのに、何故そうならないのか。



何時まで経っても解せませんね……。



基。


ゲスクズ商会とかいう、何もかもが心配になってくる名前の商会にやって来たアリスちゃん達は、しかして、新たな人物と出会う事になりました。


そう、新しい仲間です!



何と、ここには奴隷の人達も売られているのです。



これは奴隷の新キャラ来ますね!?


待ってました、ハイファンタジーの大定番、奴隷のお仲間です!


好きな人は好き、嫌いな人は嫌い、と別れはしますが、大抵の異世界モノの主人公は奴隷の仲間を手に入れるんです。


そう決まっているんです。


奴隷のハーレムとか流行りですから。


つまり根強い人気がある!




今度は獣人でしょうか?


それともエルフでしょうか?


ダークエルフというのもありますね。




……なんて。



私がそんな風に思っていたのも束の間。



私を含めた女神三柱と創造神様が見守る中、地上の様子を見る事が出来るスクリーンに映し出されたのは、フリフリのメイド服を着た少女のような少年でした。


フィナード・ゲスクズとか言う、ゲスでクズそうな商人に連れられて、アリスちゃん達がいる部屋に入ってきた一人の奴隷。


磁器のように白く細い首には、人類が奴隷の証に着ける鉄の首輪が巻かれ、小さく華奢な身体に痛ましい違和感を与えていました。


幼さが残る整った可愛らしい顔立ち。

白い肌に輝くエメラルドのような翠眼。

肩口まで伸びた艷やかな金髪をサイドテールに結った、誰がどう見ても美少女にしか見えない、驚く程に可愛いらしい男の子。


獣人でも、エルフでも、ダークエルフでもありません。



その名も玉垣源十郎。



おっとぉ……。



何だか見覚えがありますよ……。



私は記憶力がとても良いんです。


いえ、神様は見ただけで分かるんですが。





基。


こ、この子はあれじゃないですか……!


私が少し前に、適当なチートと適当な身体を、神様ルーレットを使って適当に選んでこの世界へ転生させた、渋い感じのおじさんじゃないですか!



前世では、金を横領した上司にその罪を着せられ会社をクビになり、訴訟を起こしたものの敗訴して社会に絶望し、やけっぱちになった先で賭け事にのめり込んで気が付けば借金塗れ。


仲睦まじかった妻と娘には大喧嘩の末に出て行かれ、昼は競馬か競艇かパチンコ、夜は雀荘か裏カジノを独りで往復する毎日を過ごして十数年。挙げ句の果にはヤクザに追いかけ回され深夜の東京湾に沈んで行った……悲惨過ぎて言葉も出てこない博打おじさん。


転生したこの世界では、少女のような自身の身体にもう戻らぬあの日の娘の姿を思い重ねて涙を流し、慰めに娘にしてやれ無かった事をしてみるかと、娘にプレゼントした気分で、借りた金で買った少し高いドレスを自分で着てみれば、何故か女装癖に目覚めてしまい、可愛い服を買い漁り出して気が付けば借金塗れ。


働いて金を返そうにも非力で華奢な少女のような彼が就ける仕事など無いに等しく、商店の呼子に雇って貰えても「言葉遣いがなっていない」と速攻でクビになり、やけっぱちになってまた服を買いまくり、挙げ句の果には「はあ!?テメェ男だったのかよ!!くっそ、あわよくば高く売れそうな嬢ちゃんだと思って大金を貸していたが、男だと!?舐めやがって!!今すぐ金返せないなら奴隷だ!」とキレた金貸しに奴隷にされて商会に売られてしまった……


女神である私でも最早憐れみすら沸いてこない、借金男の娘おじさんじゃないですか……っ!!!



何故よりにも寄ってこんな人物と出会ってしまうのですかアリスちゃん!!


これは不味い……非常に不味いですよ……。


冷や汗が止まらない気分です。



「転生者ですが……アレイシア様、何ですかこの借金女装おじさんは?ステータスというか、能力というか……存在が適当過ぎませんか?」


ああっ……ほら、エイラがそんな事を言い出してしまいました。


私が神様的な仕事をサボって適当な転生をさせたのがバレてしまいますよ……。


創造神様の前で、これは非常に宜しくありません。


剰え、アリスちゃん達の仲間枠として登場してしまうなんて……。



……いえ、もう手遅れですね。



ここは……取り敢えずすっとぼけておきましょう。


「こ、これはぁ〜……あれれぇ?……創造神様が何かしたんですかぁ〜?」


怒っていますかね……?


怒っていますよね?



何せアリスちゃんは創造神様のお気に入り。



こんな所にこんな人物がいるのは、ひいては私のせいなのですから……。




創造神様の方をチラリと覗き見ると、何時ものニコニコした笑顔で私を見ていました。




いえ……。



よく見れば、オデコに青筋が浮いています。




わ〜ぉ、やっぱり怒っていらっしゃいます。


「これ……アレイシアの仕業だよね?アレイシアが適当に転生させたんでしょう?ちゃんと仕事してよね、こんなキャラ出てくるなんておかしいよ……普通、奴隷って言ったらセクシーダークエルフとか、巨乳お姉さんエルフとか、活発ケモミミロリとかがお決まりでしょ!何さこれ!!じょそ子おじさんなんていったい何処の誰が特するのさ!!!」


いえ、そんな事を私に言われましても……。



「ご、ごめんなさい……」


素直に謝るしかありません。



普段はちゃんと仕事しているんです。


本当ですよ?


この時はちょっとだけ手を抜いたと言いますか……。


漫画を読むのに忙しかったと言いますか……。


何と言いますか……。



微妙な空気が神々の間に流れる中、突然、カゲラエが彼女らしからぬ興奮したような声を上げました。



「可愛い……っ!私このおじさんにする」


と。



「「「……え……」」」





可愛い?



私このおじさんにする?



フォワッツ?


この女神は何を言っているんでしょうか……。



彼女を見れば、さっきまで半分しか開いていなかった目が開き、輝く笑顔でスクリーンに齧り付いていました。


えらい変わり様です。


さっきまでの半分寝ていたような彼女は何だったのでしょうか……。


本当に半分寝ていたのでしょうか。



いえ、逆に今の彼女が眠っている状態なのかもしれません。




「え……ちょ……カゲラエ正気ですか……!?」


「貴女……その性癖は同じ女神として看過できませんよ?ほら、寝ぼけた事を言っていないで、超絶可愛い私のアリスちゃんを見て落ち着いて下さい」


驚愕の表情を浮かべるエイラに続き、私も彼女に近付いて、取り敢えずアリスちゃんの(盗撮)写真集「アリスちゃんの彩〜全ページフルカラー〜」の巻頭見開き、「お風呂で泳ぐアリスちゃん〜セチア君と一緒〜」を彼女に見せました。


鼻血ブーですよ。


これを見て正気に戻って下さい。と。


すると、何時もの半目、無口キャラの彼女に戻り、ムスッとした表情で言いました。


「む……二人にとやかく言われたく無い……。私は正気……」


カゲラエは寝ているわけでも無く、正気のようです。


本気で、彼女はこのおじさんが気に入ったようなのです。



アリスちゃんでは無く、ソフィアちゃんでも無く。



まさか、こんな事が……。



アンビリーバボー……。


言葉が出ません。



「あ……ああ、何て事でしょうか……。おお、神よ……」


「エイラ、気を確かに持ちなさい。貴女が神ですよ」


「何故……可愛くて、渋くて格好いいのに……」


「貴女、私達がソフィアちゃんとアリスちゃんの素晴らしさを言って聞かせた時は『へぇ……』『凄い凄い……』『もう飽きた……』なんて言っちゃって、禄に興味もへったくれも無かった癖に、こんな『無謀にも新ジャンルを開拓しようと一晩考えたけれど、一周回ってわけが分からなくなったから思い付きでポイと出したようなキャラ』が良いんですか!?あり得ませんよ!」


「そうですそうです、どう見ても彼は色物というものですよ!」


「それは色んな意味で失礼……。むぅ……もう良い……二人なんて知らない。私は創造神様と一緒にタマちゃんを応援する……」


「……え?僕も?」


カゲラエはスクリーンの前に創造神様を引っ張って行くと、二人、基二柱で源十郎ちゃんの様子を見始めました。



「創造神様見て……!タマちゃん格好いい事言ってる、格好いい……っ!」


なんて事を言っています。



は〜ぁ。この世界の神は馬鹿ばかりです。


神は死にました。



「最近の女神は歪んでますね」


「全く同感です」


「二人の方が歪んでる……」


「彼女はもう手遅れですね……仕方がありません。次に行きましょう」


あんな色物好きは放っておいて、次の布教活動を始めましょう。


アリスちゃん達の様子を見ながらアリスちゃんを愛で、同時にアリスちゃんの素晴らしさを伝え広める。


女神とは斯くも忙しいのです。



まあ、カゲラエのおかげで私のサボりが有耶無耶になったのは幸いです。



「そうですね。次は誰にしますか?」


エイラがそう私に訊ねます。


なんだか、さっきのカゲラエを見た後だと、彼女に親近感を覚えてきました。



また同じように女神を此処に呼んでも良いのですが、私は二回失敗していますので、今度は少し視点を変えてみましょう。



「エディルアとヘデラちゃんのおかげで地上にも彼女達の信者が生まれました。王都で着々と信者を増やしている彼らも、ひいては、アリスちゃんの信者だと言えるでしょう。この世界の遍くにアリスちゃんの素晴らしさを広める為に、邪神サイドにも一度手をつけておきましょう」



この世界の神々は最上位神の私を除き、三種類の神がいます。


エイラやカゲラエ達、人類に恩恵や加護を齎すと崇められ、人類から善神や大いなる神々と呼ばれている女神達。



反対に、世界に災いを起こすと恐れられ、人類から邪神や魔神、邪悪なる神々と呼ばれる女神達。

エディルアもここに分類されます。



そして、昔、神同士で喧嘩した時に怪我をしてから、長い間寝込んでしまっている、人類からは古の神々と呼ばれる女神達。



まあ、人類が勝手にそう呼んで区別をしているだけで、皆同じ神です。

信仰される対象が違ったりしますし、便利なので私達もそう呼んでいますが、別にお互い仲が悪いという事もありません。



善神と邪神の違いは人類にとって都合の良い概念を司っているかどうかなんですから。


勝手なものですね。




因みに、極々稀に変わったりする事もありますが、この世界の神は全員女神です。


これは創造神様の『この世界の神は僕のハーレムっぽくしよう』という意味不明な考えで造られたからです。


勝手なものですね。




「邪神ですか?どの神です?」


「矛盾と不定のホロビちゃんですよ」


「なる程、それは良いお考えですね!上手く行けば、直ぐに世界中にソフィアちゃん達の素晴らしさを広める事が出来ますよ!」



そうして私は、矛盾と不定を司る女神ホロビルシンを呼び出しました。


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