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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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アリスさん、再びナンパを知る3

その後、エディルアによるSランク冒険者達へのお説教と銘打ったお話が始まった。



曰く、先に攻撃を仕掛けた貴方達が全部悪いのだから、誠意を持って謝罪しろ。


私達のような、可憐で、お淑やかで、誇り高く、儚き乙女を前にして、ヘラヘラと馬鹿にしたような態度で接し、頭を撫でたり、翼を触ろうとした事に対し、とても腹が立つので誠意を持って謝罪しろ。


エディルアは神災級の化け物で、邪神で邪龍。更には伝説の滅ぼすべき最悪の人類の敵かもしれないが、本人は平和と融和を好み、人類を滅ぼそうとも、敵対しようとも、魂を食べようとも思ってはいない。至って無害な、優しく、穏やかで、か弱く、淑女的な乙女である。それなのに一方的な根拠の乏しい誹謗中傷を受け、心優しきエディルアの繊細な心は深く傷付けられた。とても腹が立つので誠意を持って謝罪しろ。


私達は平和と融和を好み、人類と敵対しようとも、闘おうとも思ってはいない。優しく、穏やかで、か弱く、淑女的で、儚き乙女である。そんな私達に男がよって集って刃を向け斬り掛かって来るなど、正に鬼の畜生の所業である。とても腹が立つので誠意を持って謝罪しろ。


本来ならば身体中の皮を丁寧にはぎ、末端から少しずつヤスリで削り、意識が途絶えぬよう回復薬をかけ続け、蘇生を繰り返し、出来うる限りの苦痛と絶望と破滅を味わわせてから殺している所だが、心優しき私達の慈悲で助けてやり、且つ怪我も元通りに治してやったのだ。その事に最上の感謝をし、私達への謝罪の意味も篭めて、平和で心優しき私達の偉大さと慈悲深さと優しさを人間達に伝え、そんな私達に手を出せばどうなるのかをお前達自身が言って聞かせ皆に広めろ。そして誠意を持って謝罪しろ。



私達は何人たりとも隔たりなく愛情と親愛の心を持ち、平和と融和を人類と共に築いていきたいと考えている。


私達は自ら進んで人類に刃を向けることは決して無い。人類が私達に刃を向けた時、私達は初めて人類に対しての敵対者になるのだ。


私達が人類を愛し、共に在ろうとするように、人類も私達を愛し、尊重の心を持って接するべきである。


私達をよく見ろ。こんなにも、麗しく、か弱く、儚い乙女である。繊細な心を持ち、穏やかで、平和的で、慈愛に満ちた乙女である。


謙虚で奥ゆかしい私達は力をひけらかす事はしないが、示す必要がある場合はその限りでは無い。


私達は何ものにも縛られず、私達は私達を第一に考え行動する。


人類が望み、願い、求むのならば、相応の対価を持って、私達の力を貸す事を考えよう。


私達は万能では無い。しかし人類には到底持ち得ない強大な力を持っている。


私達は最強では無い。しかし人類が決して届かぬ高みに座している。


私達は善人では無い。しかし自らが正しいと思う正義を持っている。


私達は悪では無い。しかし人類にとっての都合の良い正義でも無い。


私達は神では無い。しかし神にも等しい偉大な存在である。


私達は人類の理解者であり、友人であり、隣人であり、家族である。


私達と共にあれ。


そして偉大なその名を讃えよ。



エディルア様万歳。


アリス様万歳。


ヘデラ様万歳。


ソフィア様万歳。


万歳。万歳。万歳。



と、言うような内容を長々と、繰り返し丁寧に丁寧に言い聞かせたエディルア。


所要時間は約四時間。


ヘデラが、その合間合間に闇魔法の精神支配と魅了の魔眼を使って何かしていたのはきっと気のせいだろう。



しかして、相変わらずぐるぐる巻で床に転がったまま、怯えた表情でエディルアの話を聞いていたSランク冒険者五人は、エディルアの話が終わる頃には皆涙を流しながら、私達への謝罪と感謝と歓喜の言葉を繰り返していた。


まるで人が変わったように。



びっくりだ。


これが洗脳とかマインドコントロールとか言うやつだ。



セチアと戯れながらその様子を眺めていた私はドン引きである。




ヘデラがぐるぐる巻にしていた糸を解き、身体の自由を取り戻した彼らは、その場に跪くと胸で手を組み、祈りを捧げ出した。



そして彼らは口を揃えて言うのだ。


「偉大なるエディルア様、アリス様、ヘデラ様、ソフィア様。私達は貴方様のお陰で生まれ変わる事が出来ました。皆様に刃を向け、剰え斬り掛かった愚かなこの身をお許し下さり、皆様の偉大さを人類に伝え広めるという大変幸栄な役割まで与えて下さいました。この身の奇跡と皆様の慈悲深き御心に感謝を。エディルア様万歳!アリス様万歳!ヘデラ様万歳!ソフィア様万歳!」



「ああッ!エディルア様達の前でいつまでも祈りを捧げていたいが、俺達は今直ぐにでもエディルア様達の偉大さを全人類に知らしめなきゃいけない!!エディルア様、アリス様、ヘデラ様、ソフィア様、どうか見ていて下さい!!皆様の偉大さ、尊さ、清く優しきお心、穢れなき麗しいお姿、その全て、余す事なく私達が全人類に伝え広めますので!!さあ、行くぜお前ら!!」


最後に、赤い人がそんな事を言い残して、五人のSランク冒険者達は去って行った。


何なのだろう。



怖過ぎる。



「……何なんだあれは。エディルア殿はいったい何をしたんだ」


「お前さん方は新しい宗教か何かを始めるつもりなのかのぉ?」


戦神乙女(ヴァルキリー)になった事を報告していたソフィアと、それを聞いていたグロムさん。

そんな二人は、謎の洗脳によって私達万歳な状態になってしまい息もつかせず去って行った彼らに唖然とする。



私も同じ気持ちである。



私達の偉大さを人類に広めるとはいったい何だろう。


何を広められてしまうんだろう。



果たして、あんな状態になってしまった彼らを世に解き放っても良かったのだろうか。



「わたくしの意識改変は上手くいった様ですね。彼らにはアリス様達の偉大さを広める為に精々働いて頂きましょう」


「ええ。これで、私達にちょっかい掛けてくる鬱陶しい人間が少なくなるわね」



そして、施術者達はそんな彼らに満足した御様子だ。


私は二人が分からない。


親友の闇を覗き見た気分だ。



彼らが私達のどういった話を広めるつもりなのかは知らないが、それを聞いた人達はどう思うだろう。


逆しまに、鬱陶しい人間ばかりが寄って来るような気が……否、深く考えるのはよそう。





とても不安になってくるがどうしようもない。



何かとんでもない事をやらかした気がするが、もう遅い。



彼らは飛び出して行ってしまったのだから、手遅れである。



賽は勝手に投げられてしまった。

思いも依らぬ明後日の方向に。



覆水盆に帰らず。


後の祭りだ。





考え方を変えてみよう。


彼らの私達に対する誤解が解け、皆五体満足に無事無傷。


良かったでは無いか。



ただ、私達は彼らと仲直りをした。



それで良いじゃないか。


そういう事にしよう。





私はしーらない。







気にしない事に決めた私は、ソフィアと話をしていたグロムさんに訪ねた。


「グロムさん。ミスリルどうなった?」


「おお、そうじゃ!それなんじゃがのぉ、実は全部買い手が付いたんじゃ。支払いは五日後になる。すまぬが、それ以降に取りに来てくれぃ」


「もう買い手がついたの?」


「あら、すごいわね」


「それでのぉ、実はこの街のとある商会がお前さん方と話したがっておってのぉ。お前さん方の素材を殆ど買い取りよった所じゃ。会って貰えるように頼んでくれと言われておるんじゃが、どうじゃ?面倒くさいなら放っておけばよいぞ」



私達の素材を殆ど買い取ったとなると、とてつも無く大きな商会なのだろう。


概算では百億程になると言われていたそれらを、昨日の今日で殆ど買い取ってしまったのだから。


有り難い限りだ。



これで私達は晴れて億万長者。


一生遊んで暮らして行ける。



そしてその金持ちな商会様が私達と話をしたいらしい。


ミスリルはそこそこ貴重な物らしいので、大量に売っぱらった私達が気に留まったのだろう。

それともエディルアが狩ってきた魔物の死体の方かも知れ無いが。



商売人とはコネクションというものが大切なのだ。




「ほう、それはどこの商会だ?」


「ゲスクズ商会じゃな。」



この街の事は何でも知っているソフィアが訊ねると、グロムさんからそんな名前が飛び出して来た。



ゲスクズ商会。



ゲスクズ商会?



ゲスクズ商会だ。



何だそのふざけた名前の商会は。


ゲスでクズそうな名前だ。


商会の名前としては壊滅的によろしく無い気がする。


大丈夫な所なのだろうか、とても心配になってくる。



「おお、ゲスクズ商会か。あそこなら安心だろう。リアデ一番の大商会だ。会長が私のお父様と親友で、私とも親しくして貰っている」




へええ……。


そんな事が……。



これが、名前だけで決めつけてはいけませんと言うやつだ。



でも、流石にゲスクズは無いだろう。


自分の会社の名前を何だと思っているんだろう。


マイナスイメージしか無いではないか。


誰か名前を変えた方が良いとは教えてあげないのだろうか。



「あら、ソフィアが言うのなら安心ね。ソフィアのお父様の知り合いなら会ってみましょうか」


「そうですね」


「うん」




そうして、私達は2日後にゲスクズ商会とやらへ行く事になったのだった。





ーーーーーーーーーーーーー



ある日の王都。


その中心に聳え立つ王城。


その中の国王執務室での会話。




「陛下!陛下はこちらに!?」


「おお、どうした宰相、そんなに慌てて。あんたが宰相」


「大変です陛下。先程『虹の夜明け』の五人がいつものナンパ旅行から帰って来たんですが、どうも様子がおかしいんです!」


「何を言っているんだ宰相。彼らの様子がおかしい?それならいつも通りじゃないか」


「そうですが……いや、そうじゃ無くてですね。何やら、黒死の龍、真祖の姫、真祖のメイド、慈愛と豊穣の戦神乙女(ヴァルキリー)という人物を讃える言葉を大声で叫びながら街中を練り歩いていまして、五月蠅いからどうにかしてくれと、苦情を訴える住人が王城に詰め掛けて来ています」


「うっわ……何それ怖……新興宗教ってやつ?」


「鬱陶しいやら、怖いやら。わけの分からない事を言い続ける彼らを騎士たちが止めようとしたのですが、彼らは腐ってもSランク冒険者。誰も止める事が出来ずにいるのです……陛下。どのように致しましょうか」


「詳しく話を聞くために『虹の夜明け』をここに……いや、やっぱり何か怖いから絶対呼ぶんじゃないぞ。うーん……五人は今回何処へ行っていたんだっけ?宰相聞いてる?」


「さぁ……。ああ、そう言えば彼らによると、リアデで四人の麗しい女神に出会い、自分達は生まれ変わったと言っておりましたので、リアデに行っていたのでは無いですかね」


「リアデ……ヌーヴェルの領地か。儂トルガ苦手なんだよね……あいつ合う度に娘の自慢話しかしないし」


「じゃあ『虹の夜明け』はどうしますか?」


「五月蠅いだけでしょ?気にしなければ大丈夫だ。放っておこう」


「ではそのように」




その一週間後、王都にて新宗教『四乙女教』が誕生する事になる。


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