アリスさん、再びナンパを知る
リナリアさんのお店「カフェ&バー マロッカナ」を後にした私達は、ソフィアの案内の元、リアデの観光を再開した。
午前中の武器屋巡りとは打って変わり、ソフィアは私達を様々な商店へと案内してくれた。
大通り沿いの賑わう人気のお店は勿論、広場に出た露店や、見つけにくい裏路地にある隠れた名店まで、この街を知り尽くしたソフィアは私達の要望を聞きながら、色々なお店に連れて行ってくれる。
中でも面白かったのは魔法の道具を売っているお店。
魔力を流すと水がでる不思議な石。
魔力を流すと灯りがつく不思議なランプ。
魔力を流すと浮かび上がる不思議な絨毯。
魔力を流すと声が大きくなる不思議なマスク。
などなど、色んな魔法の道具が売ってあった。
その大体が魔力を流せば何かが起きるのだ。
どうなっているのかは分からないが凄い技術である。
中には何に使うのか分からないような物もあり、兎に角見ていて面白い。
試してみても良いとお店の人が言うので、私達は気になった物を手に取っては魔力を流してみて燥いだ。
当然のように皆何個か衝動買いしていたのは責められないというものだ。
その後も、ソフィアの案内に着いて周りショッピングを楽しんだ私達。
軈て日が暮れ、大衆酒場のようなお店で酔っ払いのおじさん達と騒ぎながら夕食を食べた後、冒険者ギルドへと向かった。
リアデに来たついでに、昨日引き取って貰ったミスリルとトーチャー・ビーストの死体のその後がどんな感じなのか聞こうという心算である。
流石に昨日の今日で売れてはいないだろうが、一応様子を見てみようと私が言ったのだ。
別に、早く億万長者になりたくてそわそわと心せいているわけではない。
あくまで一応のついでだ。
私達が冒険者ギルドの建物に入ると、またも居酒屋部分では冒険者だろうおじさん達がどんちゃん飲み会を開いていた。
今日はガッツさん達はいない。
九人組の変な格好をしたおじさん達と、五人組の変な格好をしたお兄さん達の二組が、それぞれどんちゃん騒ぎながら飲み食いを楽しんでいる。
知らない冒険者達だ。
まあ、私はガッツさん達しか冒険者に知り合いはいないのだが。
ガッツさん達曰く、この世界の冒険者ギルドというものには居酒屋がくっついているらしい。
何故かは分からない。
仕事を終えた冒険者達が疲れを癒やす為、旗また情報交換と言う名のどんちゃん騒ぎをする為、彼らはこの場に集まるのだ。
お酒を飲まない私には分かりようもないが、冒険者達の為を思って設けられたこの空間は、少しだけ暖かい気分になれる。
しかして、私達が入って来た事に気がついた彼らは一斉にこちらを振り返ると、方や恐怖の表情で固まり、方や酔っ払いハイテンションで私達に声を掛けて来た。
「ヒュー!お姉さん達超可愛いじゃん!こっちで一緒に飲もうぜ!」
「おい止めておけ。失礼だろ」
「何いい子ぶってんの?皆奇麗だな、どっかの貴族様かな?ねぇ!君らこんな所に何しにきたんだーい?」
「ハッハッハ!おい見ろよレン!あの娘翼生えてるぞ!」
「アハハハッ!!本当だ、何あれ」
ハッハッハ、楽しそうで何よりだ。
五人組のお兄さん達が陽気に声を掛けてくる中、私達は彼らを気にも止めずに受付のカウンターへと向かった。
最早、酔っ払いに絡まれるのも、ソフィアの翼が目立つのも慣れたものである。
気にしなければ良いのだ。
しかして、四つ並んだ受付カウンターにナンシーさんの姿はなかった。
今日は休みなのか、もう帰ってしまったのかは分からないが、カウンターにいたのは明るい茶髪のショートヘアのお姉さんが一人だけ。
胸に付けた名札にエバと名前が書かれた彼女は、私達がカウンターの前までくると慌てた様子で「あ、いらっしゃいませ!あのあの!ギルマス呼んで来ますね!」と言って奥に引っ込んで行ってしまった。
グロムさんを呼んで来てくれるらしい。
そんな彼女が戻ってくるのを、大人しくカウンターの前で待っていると、さっき声を掛けてきた五人組の酔っ払いお兄さん達がやって来た。
きっと私達からは、酔っ払いを引き寄せるような何かが出ているに違い無い。
さっきの居酒屋みたいなお店では気の良いおじさん達、そして今はチャラチャラした印象の若いお兄さん達だ。
エディルアもヘデラもソフィアも、皆美人さん揃いなのできっと男の人的には放っておけないのだろう。
とても良く分かる。
そしてこのお兄さん達、特徴的な事に髪の色がとてもカラフルだ。
態と染めているのか何なのか知らないが、赤、青、黄、緑、ピンクと、まるで何とか戦隊みたいなカラーバリエーションだ。
仲良しなのだろう。
顔は皆イケメンと呼ばれるような整った顔立ちをしているのに、五人並んだカラフルな頭がとても面白い。
いけない。
笑ってしまいそう。
「ねえねえ、お姉さん達この街の人?俺達今日ここに来たばっかりでさ、良かったらこの辺の事教えてくれない?向こうでご馳走するからさ」
そして、近くまで来たお兄さん達の一人、鎧姿の赤い短髪の人がそんなそんな事を言った。
それを聞いて思うのは、ごく最近も感じた既視感。
おや?もしや、これはあれでは無いか?
と。
私が噂でしか聞いた事の無い、この冒険者ギルドでは私達はもうお目にかかる事は無いだろうと思っていた、ナンパというやつだ。
ニコやかな笑みを浮かべつつ、無難で当たり障りのない普通な誘い文句。
客観的に見てみても主観的に見てみても、私が前世のドラマで見たことのある、theナンパという状況だ。
何と。
再び、私達は今ナンパをされているのでは無いか。
鎧を着ていたり、身体中にベルトを沢山巻いていたり、暑苦しそうなローブを着ていたりと良く分からない服装だし酔っ払いではあるが、前回の消えてしまったナンパさん達よりナンパさんらしいナンパさん達だ。
何だ。
普通のナンパもいるのでは無いか。
私がそんな普通のナンパお兄さん達に少しの感動を覚えていると、ナンパお断りなエディルアが彼らに口を開いた。
「あら、それは良いけど、取り敢えず私達の用事が済んでからにしてくれるかしら?」
「おお!本当に!?待つ待つ!超待つ!やったぜお前ら!」
すると、声を掛けて来た男の人がそう言って、ガッツポーズと共に他のお兄さん達に振り返った。
エディルアの言葉をオッケーだと捉えたらしい。
これがナンパに成功した男の図だ。
何と言うかチャラい。
これがパリピというやつだろう。
ハイタッチなんかしちゃっている。
おかしいな。
エディルアはナンパお断りだった筈なのに。
ナンパに成功した彼らは一様に喜んだ様子で、赤髪の人の後に控えていた他のお兄さん達も私達に話しかけて来た。
「こいつがどうしてもと聞かなくて。他の方々は迷惑では無かったか?」
これまた鎧を着た青髪のお兄さんが真顔でそう訊ねる。
何故だろう。
このお兄さんは表情が変わらない。
ムスッとした仏頂面である。
これが俗に言うところの「クール」というものなのかもしれない。
ふむ……。
分からん。
「アリス様達がよろしいのでしたらわたくしは構いませんが、くれぐれもご無礼な事はなさら無いようお願い致します」
「貴方がたはリアデに来たばかりなのか。なら私がこの街の良さを存分にお教えしなくてはいけないな!」
すると、仏頂面の青い人にヘデラとソフィアがそんな風に返した。
二人は別に構わないらしい。
おかしいな。
ヘデラもナンパお断りだった筈なのに。
この男の人達がまだ消えちゃっていないという事は、彼女達的にオッケーなナンパさん達という事なのだろう。
以前彼女達をナンパしたおじさん達は謎の失踪を遂げたのだ。
少なくとも、見た感じはそのナンパさん達よりは良い人そうだ。
チャラい大学生のようだが。
きっとお酒で気分が高まっているんだろう。
私達にこの後の予定なんて無いし、ご馳走してくれるというのなら別にいいかも知れない。
前食べたここの照り焼きみたいなお肉は美味しかったので、この人達のお金でまた食べよう。
前世、ナンパにホイホイついて行くと禄な目にあわないと聞いた事があるが、それについては問題ない。
変な事されそうになったらぶん殴って帰れば良いのだ。
私は大木を殴って木端微塵に吹き飛ばせてしまうが、弱めに殴ればきっと大丈夫。
エディルアもヘデラも人を消してしまえるイリュージョンが出来たりするので間違いなく大丈夫。
ソフィアも戦神乙女になって強くなったので多分大丈夫。
セチアは私が守るので勿論大丈夫。
つまり私達は自分の身を守る事ができるので、もし何かあっても大丈夫。
安心して奢られよう。
そんな失礼極まりない事を考えながら、私も頷いた。
「私はどっちでもいい」
「皆とても奇麗な格好してるけど、何処かの貴族様なのかな?特にそこのお嬢ちゃんなんて、近づき難いようなとても高貴なオーラを纏ってるけど……もしかして何処かのお姫様だったりする?俺達不敬罪でしょっ引かれたりしないよね?」
しかして、ベルトを身体に沢山巻きつけたような、よく分からない格好の黄色い頭の人が緩い笑顔でそんな事を言った。
私は近づき難いようなとても高貴なオーラを纏っているらしい。
きっと、スキル「高貴なる者」の効果なんだろう。
近づきがたいなんて、少しショックだ。
私は誰にでも隔たりなく優しさと愛情を持って接しようと心掛けているのに。
少し落ち込んでしまった私に代わり、ヘデラが黄色い人に返事をしてくれた。
「此方にいらっしゃるのは、夜闇を統べる高潔誉れ高き高貴なるお方、真祖の姫アリス様です。お嬢ちゃんとは何ですか?貴方達、もう少し敬意を持って口を開きなさい」
「はぁ……?真祖?真祖って吸血鬼の事でしょ?真祖のお姫様って……プッ、アハハハッ!このメイドさんは面白いな」
しかして、ヘデラが少し怒ったように言うと、黄色い頭の人が笑いながら何故かヘデラの頭を撫で始めた。
何と、ヘラヘラした笑みで、ヘデラの頭を撫で始めたのだ。
大変だ。
何故かは分からないが、ヘデラが男の人に頭を撫でられている。
これが胸キュンとか言うシチュエーションなのだろうか。
そう思う私だが、頭を撫でられている当のヘデラはお怒りのご様子で、肩を震わせながらとても怖い顔をしている。
「……貴方どういうつもりですか、これは?」
そ冷めきった声で静かにそう言うヘデラ。
私はあのヘデラを知っている。
マジでキレている時のヘデラだ。
これはとてもマズい。
全然胸がキュンしない。
別の意味で心の臓がキュンとなる。
即座に撫でていた手をヘデラに払われた黄色い人は、「そんな怖い顔しないでよ」なんて言って笑っているが、非常によろしくない。
早く謝らないと消されてしまうかもしれない。
ヘデラは凄く怖い表情でずっと黄色い人を睨みつけ、黄色い人は意に介さずヘラヘラと笑う。
何をヘラヘラしているんだろう。
解せない。
「じゃあ、他の皆は?特に、そこのお姉さん。何でそんな翼生やしてるんだ?奇麗だけどさ」
そんなMK5なヘデラを他所に、真っ黒な暑苦しいローブを着た緑頭の人がそんな事を訪ねた。
黄色い人が今にも消されるかもしれないなどという事に、彼らは気が付かないのだ。
「ああ、私はこの地を治めるヌーヴェル伯爵家の三女、ソフィア・ヌーヴェルだ。こんな事を出会ったばかりの赤の他人に言うのは少し憚られるが、私はつい最近、とても光栄な事にエイラ様の戦神乙女になってな。その証のようなものだと私は思っているぞ」
そして、戦神乙女として堂々とするらしいソフィアが意気揚々と答えた。
彼女はもう完璧に翼を受け入れていた。
今日一日街を回っていて、彼女は道行く人に何度か訊ねられていた。
「その翼は何なんだい?」と。
初めこそ戸惑いつつ恥ずかしそうに説明をしていた彼女だが、何十回も同じ事を答える内に慣れたのか、それは次第に堂々としたものになっていき、今ではこうして嬉しそうに説明するようになった。
神様に認められた証として、彼女は誇りに思っているらしい。
そして、そんな事は知るよしもない緑髪の人。
ソフィアの言葉を聞き、一瞬驚いた表情を浮かべた後に彼は笑いだした。
「プッ!ワハハハッ!そうかそうか!お姉さんは戦神乙女なのか!!面白い娘達だな、翼も良く出来てる」
なんて言いながら、ソフィアの翼を触ろうとする緑髪の人。
作り物か何かだと思っているらしい。
伝説の存在「真祖」の姫に、今度は戦神乙女か……この娘達は頭がちょっとあれなんだな。
なんて思っているのだろう。
しかし本当の事なのだ。
そんな態度を取られたものだから、当然ソフィアは怒った。
「んな……ッ!何だ貴様は!失礼では無いか!?」
語気を強めて言いながら、翼を触ろうとしてくる緑髪の人の手を払い除ける。
女性の身体を何の躊躇もなく触ろうとするなんて肝が座っている。
傍から見ていると、ただの痴漢のようだ。
否、ただの痴漢だ。
そして、「おっと、ちょっと触ろうとしただけだろ?怒らないでくれよ」なんて笑う緑の人をソフィアは睨みつける。
このナンパさん達、チャラいのか、初対面の距離感が測れないのか、何なのか分からないが、余りとっつきやすい人達では無かったようだ。
仏頂面の青い人を除き、全員ヘラヘラと笑いながら馬鹿にしたような態度だし、初対面でボディタッチが過ぎる。
チャラいお兄さん達だ。
ナンパは禄なもんじゃ無いとは本当だったのかもしれない。
「アハハハッ。じゃあ黒いお姉さんは?」
今度はピンク髪の白いローブを着た少年がエディルアに訊ねた。
そして、エディルアは何時もの自己紹介文を告げる。
「私は黒死の破滅龍エディルア。生きとし生ける総ての敵よ」
と。
彼女の決まり文句だ。
私はもう覚えてしてしまった。
しかしてお決まりのように、それを聞いたピンク髪の少年も笑い始める。
「アハハハ!今度は黒死の龍だって!!このお姉さん達、皆面白いね!僕気に入っちゃったよ」
どうやらこの人達は、私達が冗談で言っていると思っているらしい。
大変楽しそうで何よりだが、本当の事なのだ。
今まで私達の正体を知った人の例に漏れず、この失礼なナンパさん達にも早々に私達のステータスを見せてびっくりさせてやろう。
エディルアが本物だと知って、この人達はどんな顔をするだろうか。
ドッキリを仕掛ける人の気持ちが分かった気がする。
そんな事を私が思っていると、赤い人が笑いながら不穏な事を言い始めた。
「黒死の龍?ハハハッそれが本当なら、俺達はお姉さんと戦わなくちゃいけないわけだ」
何と、彼らはエディルアと戦うらしい。
閻魔様的ポジションの彼女と戦うとは……。
いったいどんな思考回路をしているのだろう。
それを聞いたエディルアが「あら、そうなの?」なんて、面白がって訊ねてみれば、今度は何とも面白くない事を言い始めた。
「そりゃあ黒死の龍エディルアって言えば、神災級の化け物だろ。邪神で邪龍。伝説の滅ぼすべき最悪の人類の敵じゃねえか。まあ、本当にいればの話だけどな」
なんて。
本人を目の前に、良くそんな事が言えたものだが、彼らは冗談だと思っているらしいので仕方ない。
化け物。
滅ぼすべき最悪の人類の敵。
そんな赤い人の言葉を聞き、私は胸を締め付けられるような怒りとも悲しみとも取れない息苦しさを感じたが、それと同時に、諦めに似た虚無感も感じた。
私もエディルアも、称号には人類と敵対する存在なのだと書かれている事を、思い出したから。
私は人類の敵対者。
エディルアは生物の敵対者。
そして、そう呼ばれるに足る理由もちゃんとあるのだと書いてあった。
私の場合は無罪だと今でも思っているが。
今まで私達の正体を知った人達は、快くその事実を受け入れてくれた。
内心どう思っているのかは分からないが、私達を一人の個人としてちゃんと見てくれ、少なくとも皆優しく接してくれたと私は思っている。
リアデの街はもう、私にとって大切な場所になりつつある。
そしてそこに住む、私達とごく普通に接してくれた人達も。
だから、こうして私達の正体を知って、否応なしに敵対しようとする人が現れる可能性なんて私は忘れてしまっていた。
とても悲しい事だが、そのせいで人間と戦わなくてはいけない事が、この先あるかもしれない。
この人達ももしかすると、そうなのかもしれない。
私は誰と敵対したいわけでも、戦いたいわけでも、殺したいわけでも無い。
それでも、私達に剣を向け、私達を傷付けようとする人が現れたなら、私はその剣を叩き折り、持ち主の心臓を抉り取る事を選ぶ。
何人殺そうとも、誰かに憎まれようとも、世界を敵に回そうとも、私は大切なものを守りたい。
私の大切なものを奪おうとする者に掛ける言葉を、私は知らない。
そんな人間を生かしておいて安心出来る程、私は強く無い。
何もかもを守る術を知らないし、何もかもを守る為に行動する気になんてなれない。
私は大切なものを放ってまで、それ以外を守ろうと思える程善人ではないのだ。
自分の為に他人を殺す事を厭わない私こそ、化け物なのかもしれない。
そう思える程には、私はきっと弱い。
私は私の大切なもの達もそうであって欲しいと思う程に、独りでは抱えきれない大切なものがもう沢山出来てしまったから。
弱面倒臭がりで、自分勝手で、非道なのだ。
だから、そんな自分が、ほんの少しだけ悲しい。
ほんのちょっぴり複雑な心境の私が眺める中、人類の敵である自分を倒すという彼に、エディルアは少し苦い表情を浮かべながらも、面白がって訊ねた。
「……へぇ。でも貴方達に勝てるかしら?相手は黒死の破滅龍よ?」
「俺達はこう見えて王都じゃ名のしれた冒険者でな。自慢じゃ無いが腕は立つんだ。『虹の夜明け』って知らないか?」
「俺達五人、王国唯一のSランク冒険者なんだ。聞いた事ない?ドラゴンなんて片手間で倒せちゃうぜ?」
「そうそう!僕達に適うやつなんていないよ。黒死の龍なんて関係ないね、いちころだよ」
青い人、黄色い人、ピンクの人がそんな事を言う。
そう言えば、ガッツさん達がそんな事を言っていた気がする。
この国にはSランク冒険者は五人しかいなくて、その全員が王都に住んでいるとかなんとか。
そして何と、彼らがそのSランク冒険者で、ドラゴンなんて片手間で倒せちゃうし、エディルアもいちころらしい。
彼らがどれほど強いかは知らないが、きっとエディルアには適わないだろう。
人間とドラゴン。
人間と吸血鬼。
それらの強さには隔絶された違いがある事を、この数日で私は知っている。
そして何より、私は彼らの血に惹かれない。
この国で一番強い人間。
英雄だとか呼ばれているらしいSランク冒険者。
それはチャラくて失礼で図に乗ったナンパさんだった。
「貴方達がSランク冒険者なのですか。貴方達ならばエディルア様に勝てると、だからエディルア様と戦うと、そう宣うのですか。挙句、誇り高き真祖の名を笑うなど……何とも、愚かな者達ですね。わたくしが教育してさしあげましょう」
「あらヘデラ、この人達は私と戦いたいらしいわよ。私の仲間を馬鹿にしてくれたお礼に、痛めつけて泣かせてあげるわ」
「私もエイラ様に認められた証を貶されて黙ってはおけない。ヌーヴェルの者として、御三方の友として、私がこの者たちに灸を据えよう」
しかして、三人はこのカラフルなSランクナンパさん達に非道くお怒りのご様子である。
「え?何何?どうしたの?」
「よく分からないが、どうやら怒らせてしまったようだな」
「なぁ、まさか……さっき言ってたのって」
「いやいやそんなわけ無いだろ。何に怒ってるのか知らないけど、そんな怖い顔しないでよ」
「えぇー何で怒っちゃったの?」
えぇー何で怒ってるって分かってるのに、そんな感じなの?
「ふふ、お馬鹿な貴方達に私のステータスを見せてあげるわ」
そうして、エディルアが自分のステータスを表示し、おちゃらけナンパ五人がそれを見た瞬間、彼らは剣を抜いた。