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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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アリスさん、カフェを知る2

「いらっしゃぁい。あらぁ……?」


心地良いベルの音と共に開かれた扉の中へ私達が入ると、店員さんだろう女性の声が奥から聞こえた。


語尾を伸ばす特徴的な喋り方。


そんな何処かで聞いたことのある声の主は、正面のカウンターの内側から此方を驚いた表情で見ていた。



料理の良い香りに混じり、少しの花の香りが漂う綺麗で落ち着いた木製の店内。


開けられた窓から差し込む明るい陽が店内を明るく照らし、暖かな陽だまりと明るい影を作り出している。


様々な鉢植えが彩に飾られた素敵なその空間で、露出の多いヒラヒラとした薄い布と紐で出来た派手な衣装姿の彼女は、とてつもない違和感を放っていた。



長い黒髪に柔和な笑顔がチャームポイント、おっとり清純そうな印象も、大胆セクシー過ぎる服装がギャップを共なって塗り潰す。

何と、踊り子冒険者のリナリアさんである。



「失礼するぞ。久しいなリナリア。今日は私の友達を連れて来た」


ソフィアが店内を進み、カウンター越しに挨拶を告げた。

ソフィアの言っていた知り合いと言うのはリナリアさんの事だったようだ。


何と奇遇な事か。


人の世は斯くも狭いものだ。



「キャァ!!アリスちゃんだわぁ!お姉さんのお店にようこそぉ!」


なんて言って、目の前に来たソフィアには目もくれずに、私に向かって笑顔で両腕を広げたポーズをとる彼女。


ここは彼女のお店だと言う。

リナリアさんは冒険者で踊り子でおまけにカフェ&バーもやっているらしい。

働き者だ。


彼女とは一度冒険者ギルドで会ったきり。


唯一私達が仲良くなった冒険者達だからまた会いたいとは思っていたが、まさかこんな形で再開出来るとは思っていなかった。


私はそんな偶然を心嬉しく思いながら、彼女に微笑み返した。


「こんにちは」


私がそう挨拶を告げると同時に、店の奥からまたしても聞き覚えのある声が投げ掛けられた。


「おお、エディルアちゃん達じゃねぇか!こんな場所で奇遇だな!」


「何だぁ?ソフィアと一緒なのか?おお!今日のアリスちゃんは可愛いのを抱いてるな。ペットか?」


「あら、三人共久しぶり。ジャビットの馬鹿はいないから安心してね」



そちらを見てみれば、鎧姿の大きな男性二人と、ブラとホットパンツみたいな格好の女性が、三つ並んだテーブル席の一つから此方に手を降っていた。


見覚えのある三人。

冒険者ギルドでリナリアさんと一緒にいた冒険者達、ガッツさん、ダンさん、ネルサさんだ。


これまた偶然だ。


彼らはどうやらお昼ごはんを食べていたらしく、そのテーブルからはお腹が空く良い匂いが漂ってきていた。



「おお、何だ?皆知り合いだったのか?」


「私達が初めて冒険者ギルドに行った時に仲良くなったのよ。ソフィアの知り合いって彼らの事だったのね」


「お久しぶりでございます皆様。何とも、このような偶然があるものですね」


「そうだったのか。それはここに来て正解だったな。テーブルで良いか?」


ソフィアは嬉しそうにそう言って、勝手知った様子で空いたテーブル席へと私達を案内してくれた。


思いもよらない再会。


別の知り合い同士が知り合いだった。


そんな、良くあるような偶然と驚きは、なんてこと無い嬉しい誤算だ。




私達は店内を進み、ガッツさん達三人が座っている隣のテーブル席に座った。


リナリアさんはきっと花が好きなのだろう。


木造りのその店内には様々な種類の鉢植えが飾られている。

女の子らしい、可愛い店内だ。


ホールには、真ん中に花の植えられた小さな鉢がちょこんと置かれた四人がけの木のテーブルが三つ並んでいる。


きちんと整理整頓されており、3ヶ所ある窓からの明かりも十分。

そのおかげか、少し狭い店内も窮屈さは感じない。


とても良いでは無いか。

正しく私が思い描く、お洒落なカフェだ。



私達がテーブルに着くと、直ぐにリナリアさんが水差しと木のコップを持ってやって来た。


彼女は店員さんらしいが、その格好は例のひらひらセクシー衣装。


そんな彼女が接客をするこのカフェは、客観的に見ると何のお店なのか分からなくなってくる。


この空間で、彼女だけが違和感だ。



「皆来てくれてありがとぉ。ソフィアが連れて来てくれたのねぇ…………ん〜??ソフィアはイメチェンかしらぁ?羽が生えてるわぁ」


コップと水差しをテーブルに置きながらソフィアの背中に生えた翼を見て首を傾げるリナリアさん。


知り合いがいきなり背中に翼を生やしてやってきたらそりゃあ首を傾げてしまうだろう。


青い綺麗なドレスを優雅に着こなしているにも関わらず、背中から大きくて白い翼を生やした今のソフィアの姿は、イメチェンというよりかはまるでコスプレのようだ。


そんな格好をした知り合いが訪ねてきたら、私は「ドッヒェー」と叫ぶ自信がある。



そして、当のソフィアは翼が背もたれに支えるのが邪魔くさいらしく、何回か普通に座ろうと試した後、諦めて椅子を横向きにして座った。


大きくて白くて、少し光っているようにも見える神々しい感じの翼。


ソフィアの翼は、当然ここでも目立ちに目立っていた。



「ダッハッハ!!おいソフィアどうしたんだ、似合ってるじゃねぇか!」


「うお!本当だ!まるで女神様みてえだな」


隣のテーブルにいるガッツさん達もソフィアの翼に釘付けだ。


笑いながらそう言って誂っている彼らの様子を見るに、ソフィアと彼らは仲が良いらしい。

顔見知りと言っていたが、皆この店の常連さんなのだろう。


ネルサさんは「何これ本物?」なんて言いながらソフィアの翼を掴んでは、左右に動かして遊んでいる。


ファサファサと動く様は奇麗だが、翼を弄られているソフィアは引き攣った表情を浮かべていた。



「んぐぅ……。いやお前達、聞いて驚くがいいぞ。実はな……私はエイラ様の戦神乙女(ヴァルキリー)になってしまったらしいんだ」


しかして、ソフィアはそんな彼らに、少し恥ずかしそうにしながら一息にそう告げた。

堂々とするらしいソフィアは、隠すことなくその事実を口にする。



しかし、今の彼女を客観的に見てみれば「私は神話に出てくる存在なんだよ」と言っているわけで。


そう考えてみると、何だか私までむず痒い気持ちになってくる。



まるで従兄のたっくんを見ているようだ。


厨二病だか何だかというものを患っていた四つ歳上のたっくん。


「我が名はタクミ・ザ・ペリパトス!堕天使サマエルの化身にして死を司りし反逆者だ!」とか。

「欺瞞と偽りで満ちたこの世界に、今こそ終焉の黄昏を齎さん!往くぞ我が同胞キョーコよ!」とか。

「糞ッ!!組織の奴らがここまで来ていたとはッ!!仕方無い……これを使う時が来たと言う事か……我が奥の手『裁かれし(ジャッジメント・)原初の(プロパトリコン・)(アマルティマ)』を!」とか。


働きもせずに、日がな良く分からない事を言っては伯母さんに張り倒されていたたっくん。



彼は元気だろうか……。


就職先は決まっただろうか……。


まだプー太郎をしているのだろうか……。



思えば、この世界の固有魔法とかたっくんの好きそうな名前ばかりだ。

きっと彼がこの世界にくれば、大はしゃぎするに違いない。




そんな事はともかく。



ソフィアの言葉を聞いて、虚をつかれた様子のリナリアさん達は、勿論驚き戸惑う。



「んん〜?エイラ様の戦神乙女(ヴァルキリー)ぃ?お姉さんちょっと何言ってるか分からないわぁ」


「ハハッ。戦神乙女(ヴァルキリー)ってあの戦神乙女(ヴァルキリー)かぁ?いきなりどうしたんだソフィアよぉ。働き過ぎなんじゃねぇのか?」


「おいおい、騎士隊長の次は一体何を始めたんだ?芸人にでもなるのか?」



否、驚きというよりかは「何を言ってるんだこいつは?」という反応である。


翼が背中から本当に生えているのが分かったのか、弄くっていたネルサさんだけは「うわ、これ本物なのね」と驚いている。



何だか、ソフィアはこういう事が多い気がする。


本当の事を言っているのに信じてもらえ無かったり、頭を心配されたり。



不憫だ。


それとも、それ程に突拍子も無い事が彼女には良く起こるのかもしれない。


何せ、この世界は突然様々な事が起こる、びっくり箱みたいな世界なのだ。

きっとこれが運命の悪戯というやつだろう。




「いや、それが本当に戦神乙女(ヴァルキリー)になってしまったんだ」


優しげな微笑を浮かべる彼らに、信じて貰えていないらしいと覚ったソフィアは、「ほら」と自分のステータスを見せた。


ステータスというものはとても便利だ。


この世界の人達は、自分の身分証明にステータスを見せ合う事があるらしい。


忘れる事も無くす事も無ければ、偽造する事もできない身分証みたいなものである。


前世にもこういうものがあれば良かったのに……。




基、空中に浮かんだ透明の板のような、超リアルなホログラムのようなそれを、ガッツさん達はソフィアの周りに集まって「どれどれ」と確認した。

 

そして当然、彼らは驚きの声を上げる。


「どぅぉおお!?おいおい、マジかよ」


「何だこれ、どうなってんだ!凄えじゃねぇか!!」


「わあ!これ本当!?凄いじゃないソフィア!」


「ふぁぁ!!うそうそぉ!と、取り敢えず、拝んでおかなくっちゃぁ!!」


そんな事を言うリナリアさん達に、やんややんやと今度はもみくちゃにされ始めたソフィア。


それは友人の出世を喜ぶかの如く、頭をワシャワシャと撫で回し、ハイタッチする彼らは、紛れも無く仲の良い友達だった。



歳の近い友達がいないと言っていたが、彼女にはちゃんと仲の良い人達がいたようである。



当たり前だ。

ソフィアはとても良い娘なのだ。


真っ直ぐで、正直で、真面目で、優しくて、ちょっとだけ抜けている可愛い女の子。

超が付くほどの美人で、おまけに胸も大きい。

胸は関係ない。



そんなソフィアと仲良くなりたいと思う人なんて、きっと腐る程いるに違いないのだから。



それでも、喜びと共に満面の笑顔でソフィアを囲む彼らの様子を見ていると、私はとても嬉しくなってくる。



私は膝に乗せたセチアを撫でながら、やがてソフィアを拝みだした彼らを暖かな心持ちで眺めていた。




その後、ソフィアが彼らに事情を説明した。


と言っても、「何故かは分からないが慈愛と豊穣の女神エイラさんに気に入られて戦神乙女(ヴァルキリー)にされ、どうやらそのせいで翼が生えてしまったらしい」という、何とも呆気の無い、良く分からない事実である。


他にも、騎士隊を解散した事、お父さんと仲良くなった事、私達と一緒に暮らす事などを、リナリアさんが運んできてくれた今日のランチを食べながら私達は話しに花を咲かせた。


料理が得意なのだと言うリナリアさんが作ったそれは、これまたお洒落で可愛いものだった。

大きな器に複数の料理が少しずつ盛りつけられたプレートランチ。

そこにも彩に小さくてカラフルな花びらが添えられていた。


ハーブや香辛料の香りが食欲をそそるそれは、私の前世で言う所のエスニックに親しいものを感じるが、癖がなくて子供舌の私でもパクパクと食べられてしまう不思議な料理。


訊ねてみれば、大陸の東側にある国の料理らしい。


何と、このカフェでは異国の料理が楽しめるのだ。

リナリアさんは昔旅をしていた事があり、その時に食べた料理を日替わりで出しているのだとか。


何ともお洒落だ。




「しかし、エディルアちゃん達と一緒に住むなんて、羨ましいなぁ。俺も一緒に住んでいいか?」


「駄目に決まってんだろうが」


「何処に住んでるの?」


「ヤタの村の近く」


「すっごく遠いじゃない」


「アリスの時空魔法を用いれば一瞬なのよ」


「おお!そりゃあ凄ぇ!流石はアリスちゃんだぜ!」


「当然です。アリス様のお力を持ってすればその程度造作もない事。アリス様は偉大なお方なのです」


「そうだアリス。ここにもゲートを作っておいたらどうかしら?」


「そうだね。今度皆も遊びに来てよ」


「わぁい!お姉さんアリスちゃん達のお城見てみたかったのぉ」



食後に出されたハーブティーを飲みながら、そんな他愛もない会話をしていると、私達が彼らに付与した加護の話題になった。


「そうそう。多分エディルアさんの加護の影響で覚えたんだろうけど、私の『死神の邪矢』ってスキル!これがもう凄いのよ!」


なんてことを、ネルサさんが興奮気味に切り出したのだ。


きっと、「死神エディルアの加護」の効果で習得出来る「死系統の高位スキル」の事だろう。


名前からして弓矢を使うらしいネルサさんにはピッタリのスキルだ。


「ああ確かにありゃあ凄かったなぁ。ネルサがでけぇトロール3匹を一発で即死させた時はビビったぜ」


そして、ガッツさんがそんな事を可笑しげに言う。



ネルサさんはトロール3匹を一発で即死させたらしい。



トロールと言うのがどんな魔物か、傍また動物かは知らないが、でけぇやつ3匹を一発の矢で即死させるなんて一体どう言うスキルなんだろうか。


わけが分からないが、兎に角凄いスキルだという事は、彼らの口ぶりから分かる。


矢が三つに分かれたりするのだろうか?



「俺の『斬殺の死線』ってスキルも、もの凄い代物だったぜ。そんなスキルを覚えちまったもんだから、俺達今調子に乗ってバンバン魔物討伐に出かけてるんだ」


「二回も使えば皆魔力が空になっちゃうんだけどねぇ。おかげで私達、超強くなっちゃった気分よねぇ」


「ふふ。気に入ったのなら良かったわ」



どうやらエディルアの加護で手に入ったスキルを重宝しているようだ。

彼らは冒険者なので、魔物を狩るのに便利なのだろう。


やはりエディルアの加護は凄い。

なんてったって強そうなスキルを貰えるのが凄い。


私も『死霊術』とかいう幽霊を操ったり出来るらしいスキルが貰えた。


幽霊である。

何だか怖いが、操れるのならきっと驚かされたり、襲われたりはしないだろう。


私も今度試してみよう。



そんな事を考えながら私は、リナリアさんが用意してくれた鶏肉を食べて私の膝の上で眠ってしまったセチアの耳をくにくに悪戯していた。


時折ピクピク動くのが可愛い。



そんな中、ソフィアが思い出したように言った。


「ああ。そう言えば、私も加護を付与出来るようになったのだ。皆付与させてはくれないか?どんなものなのかは分からないのだが」



そう言えばそうだ。


ソフィアは戦神乙女(ヴァルキリー)になって加護を付与出来るようになったのだ。


戦神乙女(ヴァルキリー)ソフィアの加護」という加護。


彼女もまだ試した事が無いので、どんな内容なのか気になるらしい。


私も気になる。


「そう言えばそうだったわね。私は喜んで貰うわ」


「わたくしも頂戴致します。どんな内容なのか、楽しみですね」


「私もちょうだい」



「おお!俺達にもくれるのか?」


「ソフィアの加護か。鍛錬が捗るようになったりするのかねぇ?」


「それは素敵ね!『リアデの正義の娘』の加護なんて、皆に自慢出来るわ!」


「ソフィアから加護を授かるなんて、少しむず痒いわねぇ。でもとっても嬉しいわぁ」




「おお。皆貰ってくれるのだな!それじゃあ付与させて頂くぞ」


そうして、ソフィアは私達に加護を付与してくれた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ソフィア「····ただ、一つだけ問題があるんだ·····」 『ん?』 ソフィア「この翼が邪魔···!」 『···あァ~』
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