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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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アリスさん、カフェを知る

明くる日。


私達は四人と一匹で再びリアデの街を訪れた。



自転車も車も無い。

電柱なんて建っていないし、コンクリートのビルも無い。


土を固めた道や、レンガや石を敷き詰めた道の両端に、石と木で造られた可愛い建物が建ち並ぶその町並みは、何度見ても目新しく感じる。


お店では見た事の無い食べ物やアクセサリーが売られ、中には武器や鎧を売っている所もある。



前世の私は見た事の無い風景。


気になる物が無いかとつい探してしまうような、ワクワクする光景。

一日見て回っただけでは満足できそうに無い、私にとっての新鮮がそこかしこに並んでいる場所。


まるでそれは、この世界にはまだまだ私の知らない物が沢山あるのだと教えてくれているようだった。



これが異国情緒というものなのかもしれない。




そんなリアデの街中には、朝から人が大勢いた。


呼び込みをするお店の人。

買い物をする親子。

馬車に荷物を積み込んでいる人。

変な服装の冒険者っぽい人達。



沢山の店が両脇に軒を連ねる大通りは特に人が多く、以前来た時と相変わらずの活気をみせていた。



今日、私達がここに来た目的は、買い物と観光。


色んな事の方が付き、金貨数枚のお金も手に入ったので、買い物がてらソフィアに改めてリアデの街を案内して貰おうという魂胆である。


自身の故郷であり、そこを治める伯爵家の娘であるソフィアにとって、この街を誰かに紹介するのは嬉しいらしく、ノリノリでガイド役を引き受けてくれた。


彼女曰く「リアデは私の自慢の街だ!何か要望があれば言ってくれ。取り敢えず、私オススメの場所を御三方に紹介しよう!」との事である。



そんなソフィアの案内の元、大通り沿いの店を冷やかしつつ見て回っていた私達だが、直ぐに予想外の出来事が二つ発生した。





一つ目。



ソフィアがオススメだと言って案内してくれるその押し並べてが、武器や防具を扱うお店なのだ。


そしてご丁寧にも彼女は店頭に並んだ剣や鎧を私達に見せて、嬉々としてその説明を始めるのである。


「この鎧は私の愛用している物の最新モデルだな!新進気鋭、ロックウィードの人気新人鍛冶師、サルドホッグ氏が手掛けた一品だ。彼はロックウィード切っての名鍛冶師、ガドマス氏の作る鎧に惚れ込み、エルフでありながらドワーフに弟子入りした凄腕の新人鍛冶師として最近有名なんだ。サルドホッグ氏の作る鎧は頑丈なのは勿論の事、如何に軽量化出来るか、如何に身体の動きを阻害しないかという事に重点を置き、細かいパーツ毎に違った合金を使用し、デザインもさることながら関節部の防護の仕方が画期的で──」


などと。



案内して貰っておいてあれだが、最新モデルの鎧の話など正直どうでも良いことこの上ない。


どこの世界に「オススメの場所を紹介する」と言って、女子四人で武器屋巡りをしながら、武器の説明をする20歳の伯爵令嬢がいるだろうか。



ここにはいるのだ。

びっくりである。




まあしかし、これはこれで私が絶対に知ろうとしないような事を知れるので良い。


剣の種類や形、名前の違いなんて知らなかったし、ソフィアが細かく丁寧に、且つテンション高く説明してくれるので、聞いていてとても面白い。


きっとソフィアは武器が好きなのだろう。






そして二つ目。



私達がこの街の人達から、えらく注目されているようなのだ。



道を歩けば人混みが割れ、店に入れば店主が慌てて要件を聞きにやって来る。

そしてその様子を野次馬の群れが遠巻きに眺めるのだ。


超VIPな有名人みたいだ。



そして、その原因は十中八九ソフィアだろう。


彼女は元々この街では有名人だったらしい、というのはトルガさんが自慢気に話していた事である。


ソフィアの騎士隊は魔物の討伐以外の人助けも行っていたらしく、中でもソフィアは率先して領地のあちこちに行っては困っている人を助けてきたらしい。


そんなソフィアに救われたという人はリアデでも少なくないのだ。


ゴロつきの隊員を統率し、人助けに尽力する伯爵家の末娘ソフィア。

彼女は「リアデの正義の娘」と呼ばれ住民からは慕われているそうである。


そんなソフィアが街を歩けば皆注目するだろう。

ソフィアに助けられた事のある人なら話しかけにすら来るかもしれない。


そして気が付くのだ。

「うわ!『リアデの正義の娘』背中から翼生えてる!」と。



そう。



彼女の今の格好は、昨日着ていた青いドレス姿に、背中から大きくて白い綺麗な翼を生やしているという、何とも目立つものなのだ。



ドレスは昨日お風呂から上がった後、着る服が無くなったソフィアがエディルアに魔力で服を作る方法を教えてもらって作った物である。


作り方は簡単。

魔力を濃縮しながら自分の身体に纏わり付かせ、想像した服の形に固定するだけ。

ソフィアは破れた青いドレスを見ながら何回目かで成功させていた。



基、昨夜戦神乙女(ヴァルキリー)と翼を受け入れて、堂々とする発言をしていた彼女であるが、やはりこうして注目されるのは少し恥ずかしいらしい。



「くぅ……やはりこの翼が目立っているのか」



店先に出来た人だかりを気にしてそんな事を言いながらも、最新モデルの槍の説明をするソフィア。


そんなソフィアの後ろで、困惑した表情の店員さんがおろおろしている。



最早お店の迷惑になっているような気がしてきたが、今の所怒られたりしていないのできっと大丈夫だ。




エディルアもヘデラも、ソフィアの武器講義と武器屋巡りは楽しんでいるようで、ソフィアに色んな質問をしては興味深そうにしていた。


二人共武器なんて使わないから新鮮なのだろう。


そしてそれは私も同じである。


自分が絶対に行かないような所を案内されるのは案外楽しいものなのだ。


そんな中、唯一退屈なのはセチアだ。

私に抱えられたまま眠ってしまった。


後で美味しい物を食べさせてあげよう。




そんな風にソフィアオススメの武器屋巡りを続ける事数時間。



お昼の時間になると、ソフィアがオススメの料理屋へ案内してくれた。



やって来たのは大通りから離れた静かな場所。


きっとこの辺りは住宅地なのだろう。

道で遊ぶ子供達、井戸端会議に花を咲かせる主婦達、洗濯物を干す人、散歩中のお婆ちゃん。

等等、多種多様なお店が並び人で賑わう大通りとはまた違ったこの街の風景を見る事が出来る。


勿論、そんな場所でもソフィアは目立つ。


遊んでいた子供達がやって来てソフィアの翼に飛び付いたり、井戸端会議のネタにされたり、道行くお婆ちゃんに拝まれたり、犬に吠えられたりと、大人気だ。



しかして、石と木で作られた低い家が並ぶ通りを歩き、小川の流れる小道に入ると、民家に挟まれてひっそりと佇む、レンガと木で造られたおしゃれな外観の建物があった。



木製のドアに掛けられた看板に書かれた名前は「カフェ&バー マロッカナ」。


軒先の花壇には小さくてカラフルな可愛い花が植えられており、側を小川が流れている。


小川のせせらぎと、遠くから聞こえる子供達の声が、暖かな昼前の時間に流れる。


そんな、静かで、長閑な所だった。



ソフィアがオススメだと言うので、てっきり鎧や武器を器替わりに料理を盛って出して来るような、アバンギャルドな料理店を楽しみにしていたのだが、とてもオシャレで可愛いお店だ。


こういうのを隠れ家的と言うのだろう。



そう、これだ。


こういうので良いのだ。


武器屋を回って最新モデルの鎧や剣を見るのも良いけど、ドレスとメイド服を着た女子四人と子狐が似合うのは、こういう如何にもお洒落で静かな雰囲気が漂う、可愛い場所なのだ。


お洒落に機敏な今時のJKであった私は、やはり惹かれてしまう。


国立科学博物館で恐竜の骨を見るのも良いけど、代官山のオシャレなカフェで静かにまったり女子トークをしたい。

そんな気分と似ている。




しかして、お店の前に立つとお腹が空く良い匂いが漂ってきた。

時刻は丁度お昼時。

私達の他にもお客さんがいるのだろう。



ドアの取っ手に掛かったOPENと書かれた看板を見て、ソフィアは安心したように言った。


「おお、良かった。今日は開いていたようだ」


そんな口ぶりからするに、閉まっている可能性もあったようだ。


きっとここは不定休なのだろう。


「綺麗な場所ね。ここでお昼ごはんを食べるのね?」


「静かで可愛らしい、良い所ですね。アリス様にピッタリです」


エディルアとヘデラも可愛らしくお洒落なその外観を気に入ったようだ。




さて、飲食店である。


私の前世では衛生的な観点から、ペット入店禁止の所が大半な飲食店である。


そして今の私達はセチアが一緒なのだ。


この世界の飲食店がペットを連れての入店がオッケーなのかどうなのかは分からないが、他のお客さんもいるとなると、私達がセチアを連れている事を嫌がる人がいるかもしれない。


ソフィアもそんな事は百も承知だと思うのできっと大丈夫なのだろうが、一応確認はしておこうと思い私は訊ねた。


「セチアは連れて入っても大丈夫かな?」


「ああ、私の知り合いの店なので大丈夫だ。きっと他の客も顔見知りしかいないだろうしな」


どうやらソフィアの知り合いのお店だったようである。


それなら安心だと、私達は「カフェ&バー マロッカナ」の扉を開き中へと入った。



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