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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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アリスさん、戦神乙女を知る2

お城へと帰って来た私達。



そして、ソフィアからすれば、新しい住居にやって来たという事になる。


今日から私達のお城に、住人が一人増えるのだ。


何だかワクワクしてしまう。




そして、そんな新しい住人はと言うと、自分の背中から生えたままの白くて大きい翼を、どうにか隠したり仕舞ったり出来ないかと躍起になっている所だ。


「……ああ、駄目だ。大きすぎて服の中には入れられない」



リビングのソファーでセチアと戯れる私の隣で、さっきからああでもないこうでもないと色々試しているソフィア。



所で、ソフィアが光って翼が生えた怪奇事件だが、エディルア曰く、十中八九私の思った通りの真相だろうという事だ。


エイラさんという神様がソフィアを戦神乙女(ヴァルキリー)にしたのが原因で、何故かは分からないが、急に光ったり翼が生えたりしたのである。



そして、どうやら、そんな彼女の翼は私達のように魔力で出来ているわけでは無いらしく、出したり消したり出来ないようなのだ。



じゃあ何で出来ているのかな?



それは謎である。


白い羽毛が生えているので、見た感じは鳥の翼っぽいが、良くわからない。



私の魔眼で見ても、


「神翼」


:神属の翼。


という事しか分からないので、良くわからない。



兎に角、ずっと生えっぱなしである。


肩甲骨の辺りからドレスと下着を突き破って生えているソフィアのそれは、最早彼女の身体の一部と化しているのだ。


感覚もちゃんとあるようで、手足の様にちゃんと動かす事が出来るらしい。

そして痛覚もあるので、引っ張ると痛いし、抓っても痛い。

折り曲げようとしても勿論痛い。


本人曰く、大きくて邪魔だし、何よりも目立つので、外に出る時くらいは隠したいらしいのだが、どうにも上手く行かないようだった。



そして、そんなソフィアを不思議そうに見ているセチアのお腹をムニムニしながら、私も彼女を眺めている。



『ソフィアは何をしているの?』


と念話で訊ねてきたセチアに、


「あれは彼女流の体操だよ」


と私が適当な事を言ったせいで、自分の翼を色々と弄くっては残念そうに肩を落とすソフィアを見て、セチアは兎角不思議そうにしているのだ。


そんなセチアがとても可愛いので、私の膝の上で仰向けになった彼のお腹をムニムニ悪戯しているのである。


セチアのお腹は気持ちが良い。


まるでふわふわの毛が生えた大福のようである。

想像してみると気持ち悪い例えだが、そんな感じなのだ。


前世で動物を飼っていなかった私は、初めてペットを撫で回す人の気持ちが分かった。

ムツゴロウさんとか。


可愛いのでつい「よーしよしよし」としてしまうのだ。


たまに擽ったくて「キュー」と鳴くのも可愛いので、絶賛私の中でブームになっているのだった。




そんな事はさておき、今度は自分の身体に紐を巻きつけてみたソフィアだが、やはり上手くいかなかったようで、


「……紐で体に巻き付けても駄目か。ああ……どうすれば……」


などと言って項垂れている。


紐でぐるぐる巻きになりながら肩を落とす彼女の姿は少し面白い。



否、面白がって見ていないで、何か手伝ってあげたらどうなんだ?


とは思うが、如何せん、セチアのお腹が私の手を離してくれないのだ。

非常に残念ながら。


それに、さっきから私も考えてみたのだが、彼女の翼を隠す良い案は思い浮かばなかったのである。


彼女の翼は大きいので、目立たないように隠すのは難しい。


無理矢理押し込んだりすると勿論痛いので、折り畳んだりも出来ない。


何か魔法を使えば簡単に隠せるような気もするが、丁度良い魔法も思いつかない。


そもそも、邪魔だというのは少し分かるが、奇麗だし、可愛いし、似合っているので、そのままでも良いような気がする。



なので、役に立たない私は出しゃばらずに、こうして頑張っているソフィアを見守りつつ応援しているのである。


決して面白がって見ているわけでは無い。




「別に良いじゃないの。可愛いわよ」


「そうですね。とても奇麗ですし、女神様のようですよ」


しかして、悪戦苦闘するソフィアを眺めながらテーブルで優雅にお茶会を開いていたエディルアとヘデラがそんな事を言っている。


彼女達も私と同じく「別にそのままでも良いんじゃない?組」だ。


「いやしかし、こんな格好で外を出歩くわけには……そうだ!エディルア殿の闇でこれを隠してはくれないか?」


しかして、そんな事を言うソフィア。


どうしても翼が生えているせいで目立つのが嫌なようである。


「別に良いけど、闇が背中に纏わり付いている女なんてそっちの方が目立つわよ?その内気にならなくなるから、慣れるまで我慢しなさいな」


「いっそ開き直られては如何ですか?ソフィア様は神に認められたのですから、慈愛と豊穣の女神エイラ様の戦神乙女(ヴァルキリー)として、堂々と目立てば良いのです。隠す必要なんてありません」


「うぐぅ……」


優雅にティーカップを傾ける二人にそう言われ、ソフィアからは唸りのような声が出た。

不満なようである。



因みに、慈愛と豊穣の女神エイラはこの大陸で一番広く信仰されている神様で、エイラ教というのがあるらしい。

大陸の西の端には聖教国という国があり、国単位で信仰しているくらいポピュラーな宗教である。


他にもアレイシアさんを始めとした、私達に加護をくれている神様は、全員メジャーな信仰の対象であるらしい。


そして、そんなエイラさんの戦神乙女(ヴァルキリー)になったソフィア。


この世界の人間達に伝わる伝説では、戦神乙女(ヴァルキリー)とは、今いる神々が邪悪なる神と戦っていた古の時代に、神の尖兵として悪と戦ったりしたと言われている九人の乙女の事で、これまた伝説の存在、というか神話に登場する存在である。

更にそれが慈愛と豊穣の女神エイラの戦神乙女(ヴァルキリー)だと言うのだから、最早エイラ教の信者達からすればソフィアは信仰の対象。

強さも神様の折り紙つきである。


ソフィアはそんな生ける伝説となってしまったわけだ。


というのはソフィアが教えてくれた事である。


トルガさん達がサプライズ親孝行だ何だと言っていた意味は分からないが、自分達の娘が戦神乙女(ヴァルキリー)なんてものになってしまったのだから、驚き燥ぐのは当然なのかもしれない。

何せ、戦神乙女(ヴァルキリー)なんて、私達三人のように、実際にはいるかどうか分からないようなものだったらしいのだから。


否、燥ぐどころの騒ぎでは無い。卒倒するレベルの一大事では?と思うが、彼らからすれば娘が神様に認められた事の方が嬉しかったのだろう。




しかして、そんな存在になってしまった彼女は、翼が生えているせいで益々目立つのが嫌なようである。


何せ戦神乙女(ヴァルキリー)は信仰の対象になり得るらしいのだ。

街を歩いていて、道行く人に拝まれたりするのかもしれない。



色々と試した結果上手くいかなかった彼女は、エディルアとヘデラが仲間になってくれずに、とうとうしょんぼりとした表情で言い訳のような事を言い出した。


「いや……しかしこれでは仰向けで寝る事が出来ないし、背もたれに凭れる事も出来ない……ドアにも引っ掛かって……」


何だか拗ねた子供のようである。


「ああ、もう!大手を振って私達伝説組の仲間になれたんだから、そんなグチグチ言わないの。今日からうつ伏せで寝れば良いし、背もたれもドアもぶち壊せばいいのよ。貴女がずっと求めていた強さがおまけ付きで手に入ったんだから、翼が生えているくらいその対価だと思えばいいわ」


そんな彼女に対して、エディルアが謎理論を展開しだした。


何だか子供を宥める母親のようなテンションであるが、言っている事は無茶苦茶である。


このドラゴンお姉さんはたまに、いい加減な事をさも当たり前のように言うのだ。

私は知っている。



「い、いや……そうなのだろうか……?」


そうなのだろうか?


そんな事は無いと私は思うが、私はセチアのお腹をムニムニするのに夢中なので何も言わない。


「そうですよ。どの道、アリス様達と行動を共にすれば嫌でも見立ちます。有名料と言うものですよ。このお城に住む仲間ならば、翼が生えている程度普通です」


そうなのだろうか?


初めて知った。




「……そ、そうなのか?……いや……うん。そうかもしれない……。いや、そうだな!何故かは分からないが、私はエイラ様に認められたのだ!とても光栄な事ではないか!それに御三方と肩を並べるのなら、これくらいどうってことないな!ありがとう二人共。私は堂々としようと思うぞ!」


そして、二人の「仲間」という言葉に反応して満面の笑みを浮かべるソフィア。


何とも早い心変わりと立ち直りである。


私達の伝説仲間になれたのが嬉しいのか、トルガさんが言っていた「同世代の友達なんていなかった」という事と関係があるのかは分からないが、とても無垢で可愛らしい反応である。

素直で真っ直ぐな彼女らしい。


そして、そんな彼女を見ていると私も嬉しくなってくる。


私だってソフィアとお友達になれて嬉しいのだ。




しかし、私はどうしても同時に思ってしまった。




ひょっとして、この戦神乙女(ヴァルキリー)さんはお馬鹿さんなのだろうか?と。




そんな事を思いつつも、私はセチアの二本の尻尾を掴んでふにふにしながら、笑みを交わし合う彼女達を眺める。


セチアは尻尾も気持ち良いのだ。



「ええ、その意気だわ」


「そのとおりで御座います。大変御立派ですよ、ソフィア様」


「ああ!改めて、これから宜しく頼むぞ御三方」



しかして、そんな事を言いながら、ソフィアは自分用の椅子の背もたれの上半分を手刀で奇麗に切り裂いた。


高速空手チョップである。


彼女は早速、よりアクロバティックになった身体を使いこなしている。





そうして、ソフィアは自分の翼を受け入れたのだった。



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