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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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アリスさん、家族を知る



トルガさんと話してから数時間後。


私の魔法パワーと、ヘデラの(本人曰く)メイドパワーを使って、ソフィアの引っ越しが一瞬で終わってしまい、私達はヌーヴェル伯爵家の皆さんと食事をご一緒していた。



ソフィアの弟さんのクライン君、お母さんのレイリアさん、そしてお父さんのトルガさん。


他にお姉さんが二人いるらしいが、二人共お嫁に行ってしまったので今はこの三人にソフィアを合わせた四人が、ヌーヴェル家の家族達である。


その食卓に私達三人が加わった。


流石に他人の家の食卓に狐を連れ込むわけにはいかないので、セチアはこの家のメイドさんに預かって貰っている。

セチア用の料理も用意してくれたらしいので、きっとあの子もこの家の美味しい食事を食べているのだろう。

セチアは基本何でも食べるのだ。

本人曰く、好物は鳥。

地面に降りてきた鳥を獲って食べるらしい。

油揚げでは無い。



とまれ、友達の家で夕食をおよばれだ。

何と素敵な事だろう。


私は今、みっちゃん以外の友達の家で、夕食をおよばれしているのだ。


前世で私と家が隣同士だったみっちゃん。

友達が少なかった私の唯一の親友である彼女は、今元気にしているだろうか……。

そう言えば、彼女に漫画を借りっぱなしで私死んじゃったけど、誰か返してくれただろうか……。



そんな喜びと少しのノスタルジーに浸りながら、私は目の前のテーブルに出されたスープを一口飲む。


ヌーヴェル伯爵家の料理は、子供舌な私には少し複雑な味がするがとても美味しい。

そんな気がする。

これがオサレな味というやつである。


例えるなら、本格フレンチ料理の高級店で、聞いた事も無い名前の料理を食べているような感覚。


お母さんの料理に慣れ親しんだJKの私には「とても美味しいんだろうけど複雑な味」という残念な感想しか出てこないのである。

とても残念な子だ。


そして、今食べているのはお貴族様のお家の料理なのだと思うと、途端にとてつもなく美味しく感じてくるのだから、本当に全くもって残念な子だ。


きっと、真祖である私の舌は血の味意外には関心が薄いのだろう。

高級料理なんて、私にはまだまだ早いのである。




そんな残念な私は置いておいて、今夜のヌーヴェル伯爵家の食卓は、とても幸せな空気に包まれていた。


全員が笑顔で楽しく話しながら食事を取る光景は、見ているだけで心が暖かくなる。


またしても「私はメイドですので」と言ってテーブルに着こうとしなかったヘデラを、私がどうにか説得したかいがあったというものだ。


これでまたヘデラだけ後ろで一人立っていたら、笑いの絶えない食卓も苦笑いになってしまう。


ヘデラ曰く、ここが伯爵家という畏まった場所なので、メイドである彼女は普段よりもメイドらしくあろうとしたらしい。


良く分から無いが、私がついて行けないので、彼女のそのメイド観について一度話をする必要がありそうである。




基、そんな食事の中心は勿論、トルガさんとソフィア。




少し前、彼女達は二人きりでお話をしたのだ。


きっと、二人共上手く自分の気持ちを伝えられたのだろう。

彼女達は二人揃って赤く腫らした目で、私達三人と家族が待つ食堂に入ってくると、とても良い笑顔を見せてくれた。


娘の事を思うあまり不器用な接し方しか出来なかった父親と、そんな父の気持ちが分からずに、がむしゃらに努力する事しか出来なかった娘は、誰が見ても仲の良い幸せそうな父と娘になれた。


とても嬉しい。


仲の良い親子程に、見ていて気持ちの良いものは無いと私は思うのだ。

それが、今までお互い上手に接する事が出来ていなかった親子なら尚更である。


そして、他の家族二人もそれは同じだったようだ。



「姉さん、父さんと仲直り出来たんだね!本当に良かった!」


クライン君が、そんな喜びの声と共にソフィアに抱きついた。


年の頃にして、13歳というまだ幼い彼は、どうやら二人が喧嘩をしていたと思っていたらしい。


「ありがとうクライン。どうやら心配を掛けていたようだな、すまなかった。しかし、私とお父様は喧嘩をしていたわけでは無いんだぞ?」


「そうなの?でも、何だかずっとギスギスしてたみたいだから、二人共仲良くなれたみたいで僕は嬉しいよ」


ソフィアに頭を撫でなられながら、満面の笑みと共にそんな事を言うクライン君。

複雑な様子の姉と父親の関係に、弟として心配していたのだろう。


何としっかりした良い子なのだろうか。



そして、ソフィアのお母さんレイリアさんも、どこか安心した表情でトルガさんに声を掛けた。


「あなた、やっと素直に話せたんですか?」


「ああ、彼女達のお陰だ。レイリア、お前にも随分迷惑を掛けたな」


「本当ですよ。あなたは何時もソフィアの事を心配する癖に、自分では何もせずに事ある毎にコソコソ私の所に来て様子を聞いたり、裏工作のような事をしたり……。いつソフィアにチクってやろうかと思っていましたが、ソフィアはソフィアで騎士の事以外何も見えていなくて……。年頃の娘だというのにあんなゴロつき集団といつも一緒にいて、私は気が気じゃ無かったんですからね。それなのに、二人共私が何を言っても聞かないんですから。本当に面倒臭いやら、世話がかかるやら……私がどれ程貴方達二人を心配して、どれだけ気を使ったか分かりますか?クラインを見てみなさい、この年で二人よりずっとしっかりしたものです」


すると、途端にレイリアさんが二人に説教をし始めてしまった。


否、説教と言うよりかはもはや愚痴のようである。


夫と娘に挟まれた妻の鬱憤が、二人の問題が解決された事によって爆発している。

きっと、色々苦労があったのだろう。


そして、そんな彼女の話の内容から察するに、ソフィアはソフィアでお母さんや周りの人の話を全く聞いていなかったらしい。

父親に認めて貰う事に必死で、見えなくなってしまっていたのだろうか。



正直、二人共少々難ありである。

近所のおばちゃんが良く言う「悪い子じゃないんだけどね」というやつである。

親子は似る。

蛙の子は蛙だったわけだ。



「す……すまん」

「ご、ごめんなさいお母様」


「……まあ、お互いちゃんと話し合えたのならそれで良いです。良かったですね……二人共、良く頑張りましたね」



しかして、そう言って微笑んだレイリアさんは、とても優しいお母さんだった。




所で、ソフィアとお父さんの蟠りは解決して、家に居場所が無くなるというソフィアの心配は杞憂に終わったわけだが、それでもソフィアは私達と一緒に住むことになった。


私達にこの世界の事を、人間の事を教えるという約束の為と、何かあった時に私達と人間の間を取り持つ役目をする為にそうする事に決めたようである。


彼女の家族も、ソフィアのやりたい事をすれば良いと皆了承したが、やはり少し寂しそうだった。

ならばと、いつでも会いに来れるように、時空魔法で私達のお城と空間を繋げるゲートを私がこの家に作ったのである。


やはり、家族は離れていても家族だとは言うが、会いたい時に直ぐ会える方がいいに決まっている。


そして私達としても、彼女と一緒に住む前提でいたので何も問題は無い。


つまりオールオッケーである。



一方、ソフィアの騎士隊は解散、隊員はそれぞれ他の隊に割り振られる事となった。


その中でも、ソフィアにどうしても着いて行きたいという人が数人いるらしく、聞けばブランさん達、ソフィアが頼りに出来る組の人達だと言うので、後日会って話をする事になった。


私達四人共、仲良くしてくれるのなら住人が増えるのに反対する者はいない。

それがソフィアの人柄に惚れてついて行きたいと言う人達なのなら、きっといい人達だろう。

少なくとも、出会って数分で私達を大勢で取り囲んで、口汚く罵りながら殺そうとはしない筈である。





閑話休題。



そして今。


皆で楽しくお喋りしながら、食事をしている最中なのである。


私達の種族の話をしたり、ソフィアの家族の話を聞いたり、トルガさんが自慢げに話すソフィアの活躍を聞いたり。


とても暖かく、楽しい時間だった。



そうしてそんな楽しい食事の時間が終わりを告げようとしていた頃。


それは突然起こった。



この世界は突然何かが起こる事が多い。


突然爆発したり、突然吹き飛ばされたり、突然お城が建っていたり、突然土下座させたり。


「突然」それはこの世界の不思議の一つである。


そして今回の突然は、食後の紅茶を飲んでいたソフィアが突然物凄く光ったかと思うと、彼女の背中から翼が生えたという突然だった。


これまた突然過ぎる意味不明、不可思議超常現象だ。


もうお腹いっぱいである。

なんちて。



「なッ!な、ななな何だ!?」


しかして、突然発光した自分に驚き、ティーカップを落としてしまったソフィアは、身体の彼方此方を見ながらそんな困惑の声を上げた。


当然だろう。

ただお茶を飲んでいるだけの自分の身体が突然光ったら、誰だって「な、ななな何だ!?」となってしまう。


しかし、もっと驚いているのは周りで彼女の様子を見ていた私達である。


何せ、身体の彼方此方を見回しているソフィアは気づいていないようだが、彼女の背中から白くて大きくてちょっと光っているようにも見える、どう見ても神々しい何かを感じてしまうような立派な翼が生えているのだから。


まるで天使か神様のような翼なのだから。


それを生やした今のソフィアは、まるで天使か女神さまのようなのだから。



それを見たトルガさん達家族は、目を見開き、口をポカンと開けたまま固まってしまっていた。


当然だろう。

ただお茶を飲んでいるだけの家族が、突然光って背中から神秘的な翼を生やせば、誰だってそうなってしまう。


エディルアとヘデラも、ソフィアを見たまま固まってしまっていた。


皆パントマイムが上手だ。

私も今度練習してみよう。



「な、何だったんだ今のは?誰か何かしたのか?ん?どうして皆黙っているのだ?」


そんなソフィアの困惑した声だけが響く中、固まってしまった皆を代表して、固まっていない私が彼女に訊ねてみた。


「ソフィアって天使か何かだったの?」


「は?何を言っているんだアリス殿?」


「背中から羽が生えてる」


「はね?」


私が言って指差した自分の背中を確認するように、ソフィアは背後を振り返った。


そして目の当たりにしたのだろう。


「な、何だ……」


そう言って、確かに自分の背中から生えているように見えるその白い翼を、今度は背中に手を回して掴んでみた後、彼女も固まってしまった。


触れて、その存在をより確かに感じて思考が止まってしまったのかもしれない。



先程の和気あいあいとした、笑い声の絶えない楽しい食卓は一転、今や私以外の誰もが黙って固まってしまった、物悲しい静寂に包まれていた。



そんな中、一人取り残されたような気分の私は、出された食後のお茶に口を付けてみる。


熱くもなく、ぬるくもなく。

きっと丁度良い温度で淹れられたのだろう伯爵家のお茶は、あい変わらず美味しい味がした。



後書きにて失礼します。

ここまで読んで下さってありがとうございます。


諸事情により、次回更新は4/3になる予定です。


これからも一日一話程度のペースで更新していこうと思っているので、気の向いた時に読みに来て頂けると嬉しいです。

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