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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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side.アレイシア 神様、アリスちゃんを広める

布教。



それは自身の信じる教理を伝え、教え、広める事。


他人を自分と同じ場所に引き込み、自分が信じるもの、崇めるものを共に語らいたい。

何よりも、自分が信じるものの素晴らしさを多くの人に知って欲しい。

周囲の親しい人間から、果ては遠く離れた地に住む赤の他人まで、誰でも良いから勧めたい、教えたい、広めたい。


そんな思想が齎す、一種の感染症。



布教。



それが正に今、神々の間で繰り広げられていた。














「ほら!ちゃんと見てくださいよ、私のアリスちゃんを!天使でしょう?」



そんな台詞と共に始まるのが、私、35番世界最上位神アレイシアの一幕。



こんにちはアレイシアです。



創造神様が神様パワーで作った、地上の様子を映し出す事が出来るスクリーン。


そこに映しだされたアリスちゃんの超絶可愛い姿を指差しながら、私はさっきから何度も口にした台詞を、再び繰り返していました。


アリスちゃんの素晴らしさを知って貰う為に呼び出した慈愛と豊穣を司る女神エイラに、狐の眷属セチア君と戯れるアリスちゃんの尊い姿を見せながら、アリスちゃんが如何に素晴らしいのかを説明している所なのです。




可愛い子狐と戯れる可愛いアリスちゃん。


ああ……何と素晴らしい光景なのでしょうか……。






とまれ、先刻の事です。

アリスちゃんがセチア君を眷属にする時、私はエイラにその光景を見せました。



彼女にもアリスちゃんの素晴らしさを知って欲しい。

共にアリスちゃんの素晴らしさを語りたい。

行く行くはアリスちゃんの素晴らしさを全神々に伝え広めたい。

私にはその義務がある。


そんな私の思いに反して、エイラは

「うわぁ!可愛い狐ですね!」

「え?この子、この少女に命を救われたんですか?」

「なる程、そんな出来事があったんですね!感動です!正に奇跡です!」

「そんな幸運なこの子には、私の祝福をあげますね」

なんて言って、セチア君に加護を与えたのです。


確かにセチア君は可愛い。


ちっちゃくて、ふわふわしていて、兎に角可愛い。


世界一可愛いアリスちゃんが溺愛しちゃうくらいに可愛いです。



しかし!


そんなセチア君と戯れるアリスちゃんの方がもっと可愛い。


セチア君を抱きかかえるアリスちゃん。

抱きしめたセチア君の毛に顔を埋めるアリスちゃん。

セチア君の尻尾で遊ぶアリスちゃん。

セチア君に悪戯をするアリスちゃん。


可愛い過ぎる。


正に天使です。



そんなアリスちゃんを一目見て、「キャ〜ん!何この天使さ〜ん!素敵過ぎるぅ〜!」と、ならなくてはおかしい。

アリスちゃんを見た誰もが一目惚れしないなどとはあり得ないのです。



しかし、彼女は違った。

私がアリスちゃんの事を話すまで、可愛いという当たり前の感想すら言わなかったのです。


そんな事があり得ますか?

いえ、あり得ません。



それからも、エイラは中々にアリスちゃんの素晴らしさを理解してはくれませんでした。


私が神様パワーで編集した「これまでのアリスちゃんオススメシーン総集編(私の解説入り)」を見せようとも

今のアリスちゃん達の様子を一緒に見ながら私がリアルタイムで説明しようとも

私が書いた「超絶キュート♡アリスちゃん♡」の詩を朗読しようとも

嫌がる創造神様を無理矢理参加させて、私が書いた「ありがとう、アリスちゃん」の寸劇を繰り広げようとも


万の言葉で可愛いさを説明し、億の言葉で素晴らしさを説明したというのに、一向に彼女は私の大天使アリスちゃんを真に理解しようとはしないのです。


今だって、


「はあ……そうですね。とても可愛いと思います」


なんて、投げやりな言葉で済ましてしまうのです。


嗚呼!何という事でしょう!


正に悲劇です!


こんな悲しい事があっても良いのでしょうか!?


いえ、良くありません!



そろそろ本気でエイラには分からせなくてはいけませんね。




「そんなの当たり前じゃないですか!!私が言ってるのは、もっと内面から滲み出るような健気さとか、尊さとか、美しさとか、可愛さとか、そういうアリスちゃんの天使オーラというやつです!もっとメンタルに寄り添った審美眼で見て下さいと、さっきから何度も言ってるじゃないですか!エイラは馬鹿なんですか?」


「だぁーかぁーらぁー!それが分からないって言ってるんじゃないですか!何ですか天使オーラって!アレイシア様こそ頭大丈夫ですか?」


「貴女、慈愛の権能を司っているのに、慈愛を向けるべき概念全てを煮詰めて、固めて、遠心分離機に掛けて、アルコール沈殿にも掛けて濃縮したようなアリスちゃんのスーパー慈愛的天使オーラを理解出来ないとは何なんですか!?貴女本当に神ですか?」


「アレイシア様こそさっきから何なんですか!?テンションとか、言語能力とか、押し付けがましさとか、ぶっ飛び過ぎていて何一つ言ってる事が理解出来ないんですけど?意味不明なんですけど?貴女本当にこの世界の最上位神ですか?」


「だから私の大天使アリスちゃんの尊さ、儚さ、優しさ、健気さ、可愛いさ、清さ、その他諸々の素晴らしさを、貴女にも知って欲しいと、さっきから懇切丁寧に説明してるんじゃないですか!私には皆にそれを教え、広め、理解させる義務があるんです!!」


「まずその義務とかの時点でわけ分からないんですよ!と言うか、アレイシア様はこの真祖の少女に何故そこまで拘るんですか?貴女この世界の最上位神でしょう?良いんですかそんな依怙贔屓して」


「依怙贔屓とは何ですか!アリスちゃんの素晴らしさを理解すれば分かります!アリスちゃんが、アリスちゃんこそが特別なのです!アリスちゃんは私の全て、アリスちゃんこそが神なのです!これは一種の布教です!神様的な仕事の範疇です。貴女だって教会だとか聖教国だとか何とか言って、大々的にファンクラブ作ってるじゃないですか!」


「教会はファンクラブじゃありませんよ!さっきからアリスちゃん、アリスちゃんって、アレイシア様がこの少女の事が大好きなのは十二分に分かりましたから、その鬱陶しい価値観を私にまで押し付けないで下さい!」


「私のアリスちゃんへの思いを、鬱陶しいとは何ですか!!貴女、アリスちゃんの素晴らしさを理解出来ないなんて、どうかしています!大罪です!ギルティです!神罰が下りますよ!」


「女神である私に神罰なんて下りませんー!それに、この少女の素晴らしさは理解しました!確かに可愛いくて優しい、素敵な娘だとは思いますが、しかし、私のタイプはもっと真面目で努力家で、真直ぐで、応援したくなるような……あ!この娘!この娘とか良いじゃないですか!」


「この娘……?ソフィアちゃんですか?ハッ、私の大天使アリスちゃんを差し置いて、ぽっと出の女騎士の方が良いだなんて、貴女の頭は草餅でも詰まっているんじゃないですか?確かにソフィアちゃんも可愛くて、頑張り屋で、真面目で、とても良い娘ですが、アリスちゃんと比べてしまうと一枚劣ると言わざるを得ませんねぇ〜」


「何なんですか!何なんですか!アレイシア様こそ、自分のお気に入りの娘に天使だなんて称号を与えて、ちょっと頭痛いんじゃないですか?厨二病ってやつですか?神なのに?100万歳超えてるのに?」


「ハッハッハ!言っていれば良いじゃないですか!これで愛しのアリスちゃんが私のものだと誰の眼にもハッキリと分かるでしょう?そんな事を人間のファンクラブしか持たない貴女に言われても痛くも痒くもありませんねぇ〜。しょうもない有象無象にチヤホヤされて楽しいですかぁ〜?」


「へえー。そんな事を言っちゃうんですかぁー。良いでしょう!ならば私はソフィアちゃんに私の戦神乙女(ヴァルキリー)の称号を与えます!私のソフィアちゃんとアレイシア様のアリスちゃん、どちらがより尊いか勝負しようじゃありませんか!」


「良いでしょう、望む所です!まあ、そんなのアリスちゃんの方が可愛くて、清くて、尊いに決まってますけどね」


「甘いですね、アレイシア様!甘々ですよ!見て下さい今のこのソフィアちゃん!隠れてこっそり聞き耳を立てるソフィアちゃん!父親の本当の気持ちを知って涙が止まらないソフィアちゃん!アリスちゃん達に仲間だと認められて、色々な感情が溢れてただただ号泣してるソフィアちゃん!これですよ!これ!この普段とのギャップ!真直ぐで、凛々しくて、真面目で、弱さを見せないけれど、本当は認めて欲しくて、不安で、甘えたい。強さの中に垣間見えるほんの少しの弱さ、それがいい意味で垣間見えるこんな瞬間こそ、人が一番輝くんです!」


「そんな良くあるテンプレに嵌りきったキャラ設定で、ギャップだとか言われても私には響きませんねぇ〜」


「ソフィアちゃんのこの可愛いさ、儚さ、真直ぐで高潔な尊さが分からないなんて、アレイシア様には情と言うものが無いんじゃないですか?心がさもしいですね」


「貴女こそアリスちゃんの可愛いさ、儚さ、ずっと愛でていたくなるような尊さが分からないなんて、きっと脳が壊死しているんでしょうね。可哀想に」


「何を言ってるんですか?愛を語るのは私の領分ですしね!!何せ私は慈愛と豊穣を司る女神ですから!!アレイシア様は愛なんて分からないんじゃないですか?何せ100万歳超えてるんでしょう?痴呆入ったBBAじゃないですか?恋心なんてシワッシワのカラッカラじゃないですか?」


「おお〜ん??貴女いい度胸してるじゃないですか!!天啓だとかお告げだとか言って、自分のファンクラブに適当な事吹き込んで、右往左往する様子を楽しむような、根暗で性格の悪い、根性ひん曲がった貴女が、愛を語るなんてチャンチャラおかしいですねぇ〜!!慈愛の権能、他の神に替えた方が良いんじゃないですかぁ〜??豊穣と豊胸の女神になった方が良いんじゃないですかぁ〜??盛りに盛った似非乳のせいで頭悪くなってるんじゃないですかぁ〜??」


「ああ〜ん??胸の話は関係ないでしょうが!!それにお告げは神様の仕事の範疇ですー!!ちゃんと人間の為になる事を言ってますー!!何もせずに日がなこんな所でゴロゴロしてるようなクソババアと違って、私は働いてるんですー!!」


「私をまるで引きこもりのニートか、隠居中の老人みたいに言わないで下さい!!貴女、口が悪いですよ!私はまだピッチピチしてます。貴女みたいに胸も萎んでません。それに、これでもちゃんと最上位神としての仕事はしてるんです!前から思ってましたが、貴女話し方が私とキャラ被ってるんですよ!見分けがつかなくて読みづらいでしょう!止めてくださいよね!私まで頭も性格も悪い偽乳女神だと思われたらどうするんですか!」



おかしいですね。


どうしてこうなったのでしょうか。



気がつけば、私はエイラと言い争いになっていました。

何故かは分かりません。


アリスちゃんとソフィアちゃん。

どちらがより尊いか。


私とエイラ。

どちらがより正しいか。




不毛な争いだとは分かっています。


しかし、愛するアリスちゃんの為に、相手が誰であろうとこれだけは譲れないのです。



こうなれば創造神様に決めて貰いましょう。


最終、そう思い立った私は、ずっと側で私達の言い争いを引き気味に眺めていた創造神様に訊ねました。



「創造神様!私のアリスちゃんの方が尊いですよね!!」


「いいえ、創造神様!私のソフィアちゃんの方が尊いに決まっていますよね!!」



「……え?何?その良く分かんない争いに僕を巻き込むのは止めてよ」


「何を言ってるんですか?創造神様はちゃんとアリスちゃんの素晴らしさを分かっているんですか?仕方ありません、三人で1からもう一度アリスちゃん達の様子を見返していきましょう」


「それが良いですね。ソフィアちゃんの素晴らしさを知る為の映像集も私が作りましょう」


「……何でこんな事になるんだよ……」




そうして、私とエイラは創造神様を脇に捕まえて、再び「これまでのアリスちゃんオススメシーン総集編(私の解説入り)」の上映会を始めたのでした。



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