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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、街に行く
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アリスさん、完全犯罪を知る

数分後、私達は応接室のような部屋に通された。


部屋の真ん中には大きな長方形の机が置かれ、向かい合うように椅子が数個並んでいる。

綺麗で整った印象を受ける、見るからに応接室っぽい部屋である。


進められるままに席に着いた私達三人の反対側には、ギルドマスターのおじいさん、ナンシーさん、そして、ここに来る途中で合流したスーツのような服を着た、メガネを掛けたお姉さんが座った。





しかして、まずはお互いの自己紹介が初まった。


自己紹介はお互いを知る第一歩目。

会話の握手である。


何事も最初が大切なのだ。


それは会話も然り、第一印象というのはとても肝心である。


加えて、ギルドマスターのお爺さんはここの社長さん。

一番偉い人なのだ。


こういう偉い人と話をする時は特に気を付けないといけない。


会社の偉い人達は、何故か最初の第一印象でその人の中身まで決めてしまうらしいのだ。

きっと観察眼と人を見る目というやつだろう。

ドラマで言ってた。


なので、ビジネスマナーなど全く知らない私でも、せめて失礼にならないようにしなくてはいけない。



幸い、私は見た目小学生児童でも、中身は社会の良識をきちんと持ち合わせた真面目なJK。


「ジィさんよろピクねぇ〜!てか、そのカッコちょーウケるんですけど!鎧とか無いわwww」なんて事を初っ端で言っちゃうような、頭の仕組みが少し変わった方々とは違うのだ。


要は普通に自己紹介をすれば良いのである。



早速、私達三人が自己紹介していく。



「私は黒死の破滅龍エディルア。生きとし生ける総ての敵よ」


「わたくしは真祖の姫君であらせられるアリス様のメイド、ヘデラと申します。そして、此方にいらっしゃるのが、わたくしの敬愛尽きぬ主様にして、夜闇を統べる高潔誉れ高き高貴なるお方、真祖の姫アリス様です」


「よろしく」








……ふむ。



全体的に何か思っていたのと違うな。



エディルアは気に入っているのか、何時もの物騒な自己紹介を披露していたし、ヘデラなんて自分じゃなくて私の紹介をしていた気がする。


そんなヘデラのせいで私はよろしくしか言えなかった。


……が、まあ良いだろう。


良い事にしよう。


そもそも、私は口数が多い方では無いのだ。


別に私がコミュ障と言う事ではない。

自己紹介なんて、名前と所属とよろしくが伝われば十分なのである。



私はそんな事を考えながら、最早定位置になりつつある、抱き締めていたセチアのふわふわした背中に顔を埋めた。




しかして、そんな私達に続き、ギルドマスターのお爺さん達も自己紹介を始めた。


それによると、ギルドマスターのお爺さんの名前は、グロムさんというらしい。

言わずもがな、彼はこの冒険者ギルドの一番偉い人である。


そんなグロムさんは、なんと齢74歳。

グレーの髪にグレーの無精髭を生やした、褐色肌がよく似合ったワイルドないぶし銀。快活で優しそうなお爺ちゃんといった感じである。



ナンシーさんは受付の美人なお姉さん。


冒険者の人達との依頼のやり取りをする仕事である。


昨日今日と会って話して、ガッツさん達から少し説明も聞いたので何となく分かる



続き、スーツっぽい姿で眼鏡のお姉さんはフィリアさん。


冒険者ギルドの細々とした雑務を取り仕切ったり、グロムさんの補佐をしているらしい。

秘書さんっぽい立場の人である。


そんなフィリアさんは、これまた眼鏡の似合う、キリッとした美人さんである。


きっと、この世界の女性には、美人になる遺伝子が高確率で組み込まれていたりするのだろう。

私が出会う女性の尽くがとても美人なのはそういうことなのだろう。


この世界はまだまだ不思議が一杯である。



「お前さん方の話はナンシーから聴いておる。今日はよく来てくれたのぅ。御足労感謝する」


「態々起こしいただきありがとうございました。待たせてしまったようで、申し訳ございませんでした」


「私からも、来ていただいてありがとうございました」


そんな風に三人がお礼を告げた後に、私達のお話は始まった。


「して、下が何やら騒がしかったようじゃが、何かあったのかのぅ?」


私達が今日来た目的は、ナンシーさんが私達をグロムさんに紹介したいという事だったので、きっと世間話でもする感じなのだろうと私は思っていたが。

しかして、グロムさんが早速切り出したのは、正にそんな世間話だった。


やはり気になっていたのだろう。

もしかすると、私達が何かしでかしたのだと薄々勘づいているのかもしれない。


何せ彼は社長的ポジションの偉いお爺さん。


数言話しただけの私達の人となりを、観察眼とかで見抜いたり出来ちゃうに違いないのだから。





どうしよう……怒られるかな?



人を五人程消してしまった気がするのに、怒られるかな?も何も無いとは思うが仕方ない。


今の私の心配は、もしかするとここで素材を買い取って貰えなくなるかもしれないという所にあるのだから。


私達の「穴を掘るだけ!超簡単に三人共億万長者計画!」が、あと一歩の所まできているのだから。


このお爺さんを怒らせて、社長権限で私達から素材を買い取る話を無かった事にされてしまえば、もう直ぐ億万長者になれると思い上がっていた私のテンションはどうすれば良いのだ。


どうしようもないのだ。



そんな事を考えながらも、取り敢えず私は何も言わずに傍観する事にした。


だって、私は何もしていないのだから。


そしてセチアの背中が私のお口を離してくれないから。


決して、私が何か言って怒られるのが嫌だからというわけではない。




「私達に失礼な言葉を掛けて来る人達がいただけよ」


しかして、エディルアが少し冷めた口調でそう言った。


ナンパお断りな彼女は、未だ少し引き摺っているらしい。


「そうか。うちの冒険者が無礼を……それはすまなんだ。許して欲しい」


「もう大丈夫だから気にしなくてもいいわ」


そうだろうとも。


きっと、もうこの建物で私達がナンパされる事はないだろうから。



何だか少し残念である。



「わ、私が止めに入れられれば良かったのですが……すみません」


そして、肩を縮めて申し訳なさそうにそんな事を言うナンシーさん。



受付として、職場でナンパをしている人達がいる事に気づけなかったのを、気にしているのかもしれない。

更に、その相手が、自分が招いた客である事を申し訳無く思っているのかもしれない。



若しくは、止める事が出来ていればおじさん達は消える事は無かったのに……と、思っているのかもしれない。


何れにせよ、ナンシーさんに何も非が無いのは確かである。



「受付嬢のお主に荒くれた冒険者共を止めよと言うのは酷というものじゃ。誰も責めたりせん」


「そうよ。ナンシーは関係無いんだから、貴方が気にする事無いわ」


「ナンシーさん。誰だか分かりますか?」


「赤い鷲の方達です」



あのおじさん達は赤い鷲の人達だったらしい。


赤い鷲。


何だろうか?


チーム名みたいなものだろうか?



何と言うか……ダサい名前だ。



「また、あ奴らか……。お前さん方に迷惑を掛けた冒険者は儂が罰を与えておく。本当にすまなんだのぅ」


「あら、それは良いけど、きっともうここには来ないと思うわよ?」



しかして、事もなげに言ったエディルアの言葉に、私は少し驚いてしまった。


おや?エディルアさん、そんな事を言ってしまっても良いのかな?と。



それは何だか、遠回しに、私達が何かしましたと言っているように聞こえちゃう。


後々バレる事とは言え、ここでそんな何て事無い風に喋るのはどうなのだろう。

せめて、私達のミスリルとかを買い取って貰ってから自白するべきなのではないだろうか?


何せ、私達がやった証拠など何処にもないのだから、バレたとしても自白が無ければ訴訟は避けられる気がするのだ。




否、私は何もしていないし、何も知らないのだが。



そんな事を思いつつ、何だかハラハラしながら様子を見守る私。



そんな私の心情に反して、


「それは……そういう事ですか。ご苦労をお掛けしました」


「ほう、そうか。お前さん方直々に灸を据えてくれたか。それは益々申し訳ない事だのぅ」


しかして、グロムさんとフィリアさんから返って来たのは、そんな反応だった。



ご苦労とか、灸を据えるとかの話しではない気がするが、このお爺さん達はそれで良いのだろうか。


自分の会社の社員が五名程行方知れずになってしまったのだが……。





まぁ、彼らがそれで良いのなら一向に構わない。


私が気にする事では無い。


怒られる事も、素材の買い取り拒否も、出禁を言い渡される事も無かったのだ。


これで私の屈託が全て解消されたわけである。


後顧の憂いを断つとはこの事だ。



「あの者共は色々と問題の多い冒険者でして。手口が狡猾で証拠は掴めず。その癖、腕はそこそこ立つものですから、ギルドとしても目の上のこぶだったのです……」


どうやら問題児だったようである。

きっとナンパの常習犯だったのだろう。


確かに、あんな白昼堂々と人目も気にせずにあんな誘い方をしちゃったら、クレームも沢山来るだろう。

ナンパをするのが駄目だとは言わないが、もう少しきちんと弁えて、紳士的に行って欲しいものである。


あれでは力ずくで連れて行こうとする強姦か、誘拐犯のようだ。



「私達は何もしてないわ。ねぇ二人共」


「ええ、その通りです」


その通り。

何の証拠もない、完全犯罪だったもの。


そして私は本当に何もしていないもの。



なので私は自信を持って言えるのだ。



「私は何も知らない」




そんな、たった一つの真実が闇に隠れてしまった瞬間だった。



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