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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、異世界へ行く
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アリスさん、新しい世界を知る

風の音が聞こえる。

草を鳴らす音、葉を揺らす音。

それらが耳に届いた時、私は自分が眠っていたのだと気がついた。


ゆっくりと眼を開くと、覆い重なった木枝の隙間から覗く夜空が見えた。

覚醒し切らない頭は次第に思い出す。


そうだ、私はお風呂で転んで死んだ後、神様に色々言われて別の世界に来たんだった……と。


言葉に表してみれば、何とも頭のイカれた状況である。

否、もしくは私はこの森で眠っていて、さっきまでの神様とか異世界云々が全て夢であったという可能性の方が余程高い。


私は起き上がろうとゆっくりと両腕を動かすが、何故か力の入れ方に違和感を感じる。

全身の違和感を探りつつ、ゆっくりと慣れさせるように、身体を動かしていき私は上半身を起こした。


そうすると嫌でも目に入る自分の身体。


透き通るように白い肌、細く柔らかそうな腕。

小さく、極薄っすらと脂肪ののった胸と、小さな桜色の頂点。

小さな腹と、柔くスラッと伸びた脚。


何と言うか、全体的に小さい。


自分の記憶の何処を辿ってみても、それが自身の身体では無いことは明白であった。


どうしよう知らない身体だ……。


私は眼を閉じて考える。


落ち着け私。

つまりこれは神様が言っていた新しい身体で、ここは異世界。

つまり今しがた私は産まれたと言うことだ。


「赤ん坊じゃ無いけど大丈夫か?」とか。


「私は一体何から産まれたんだ?」とか。


「元の記憶とか残ってるけど大丈夫か?」とか。


色々と疑問は尽きないが、しかし深呼吸を一つした後、口を着いて出た言葉はそのどれでも無かった。


「また裸じゃないかぁああ!!」


心からの叫び。

魂の絶叫。


夜の森で独り何をやっているんだとは思うが、身体と心がかってに動いたのだ。仕方ない。


そうして私が叫んだその瞬間、空間が爆ぜた。


轟音と爆風を八方に撒き散らしながら、瞬きの間に私の正面にあった木々と地面が消え失せた。


「……えぇ」


砂埃が漂い、何かの破片が空から降ってくる中、私は周りを唖然と見渡した。


わけが分からない。


私の座っている地点から半径数十メートル分の森が、まるで抉り取られたかのように消え失せていた。


パラパラという何かが降ってくる音を聴きながら、私は内心焦りに焦る……と、思っていたが、自分でも驚く程に落ち着いたものであった。


「ふむ……私が叫んだからかな?」


そうなのか?


いや、叫んだだけで森が消し飛ぶって何やねん!

などと内心自分で突っ込みをくれてやるが、ここには誰も応えてくれる人はいない。


そうだ、ここは元の世界では無いのだった。

魔物とかいう怪物と、聴いたことも無い種族の人類が日夜闘っているような世界。

ドラゴンもいるし、魔法だって使えるらしい。


そして、私の身体も元のものとは違う。

神様オススメのチートとかいう特典で、若干……少し……若返った気がする。


そんな事で、不発弾頭が近くに埋まっていたとか、突然水蒸気爆発が起こったとか、森の精霊の悪戯とか、そう言う事があってもおかしくは無い。

もしかすると、今のが魔法なのかもしれない。


そうして、考えても分からない私は、ここは「突然爆発したりする事のある森」だと思うことにして、深く考えない事にした。


そんな事よりもこんな場所でずっと座っている訳にもいかないと、とりあえず立ち上がってみるとやけに身体が軽い事に気が付いた。

否、軽いというよりも、行動全ての抵抗が無いに等しい。自分の体重というものを感じない。


例えるならば……何だろうか。

分からないが、兎に角、違和感の塊である。


「……あの神様は何て言ってたっけ」


確か身体の確認の為に魔物を数匹狩ってみると良いとかなんとか……。

つまり、新しい身体に慣れなさい。という事だろう。


「この辺りに魔物っているのかな?」


というか魔物ってどんな外見をしているのだろうか。

怪物と言っていたし、手が4本生えていたりとか、目が沢山あったりするのだろうか?


そう思って三度辺りを見回して見るが、森の中だというのに、生き物の気配がまるでしない。

少なくとも周囲3キロの範囲には生物らしきものがいないのが分かる。

森が爆発したから逃げていったのだろうか。

まあ、急に爆発して木々諸共吹き飛ぶような森に生物は寄り付かないだろう。


そしてもう一つ、起きてからずっと気になっている事があった。

何か身体に纏わりつくような不快感が辺りに漂っているのだ。

ゾワゾワとして落ち着かない黒い霧のようなそれは、一定の方向から冷気のように漂ってきているようである。


そんな事を考えていて疑問に思うのは、私は何故そんなことが分かるのか?という事であるが、これも神様がオススメで付けてくれたチートとかいう特典なのだろう。

若しくは魔法の力である。

人間探知機、あるいはガス探知機みたいな。

何とも釈然としないが、そういうものだと思う他ない。分からないことは気にしない。


自分でも自分が訳の分からないものになった感覚である。

思ってみれば、夜だと言うのに昼間と変わらないくらいに良く眼が見えるし、頭の中にある情報量も多く、思考も何だか澄んでいる。

思えば周りの森が爆発して消し飛んだのに、私の身体にはかすり傷一つ無い。

きっと他にも色々とあるのだろうが、出来るといっていた空の飛び方も、魔法の使い方も分からない。

説明書か何かが欲しいものだ。


そう、ここはこういう世界なのだ。

郷に入れば郷に従えと。


神様の言うとおりに、取り敢えず新しい身体に慣れるところから始めようと私は決め、その不快な感覚が強くなる方へと歩き始めた。

一種の冒険のような感覚である。


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