アリスさん、普通を知る
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名前:リナリア
種族:人間
性別:♀
年齢:28
職業:踊り子
識別:ーーーーー
レベル:48
称号:ーーーーー
魔力:324/411
スキル:舞踊(Lv.4)
細両刃曲剣術(Lv.3)
体術(Lv.1)
風魔法(Lv.2)
魅了魔法(Lv.3)
装備:淫欲のアリヴィンナイト
催欲の首飾り
堕踏のレースアップサンダル
黒鉄のショーテル
加護:ーーーーー
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「ふむ……」
今、私はそんな声を漏らしながら、リナリアさんのステータスを眺めている。
目の前に映された彼女のプロフィール。
ホログラムのような、宙に浮く見えない板に書かれたような、摩訶不思議なそれを何度も見直している所である。
なぜか。
そのステータスが、私達のそれと余りに違い過ぎているからだ。
これはどうした事だろう……。
何と言うか……そう。
ショボい気がするのだ。
この世界の事を全然知らない、産まれたばかりの私でも分かるショボさだ。
ステータスを見せて貰っておいて、そんな事を考えるのは失礼だとは思うが、私の中で今、気抜けした好奇心と理性的な思考がゴッツンコしている。
だってここは摩訶不思議な魔法やスキルが使えて、超人アクロバティックな事が簡単に出来てしまう、ビックリドッキリ世界だ。
吸血鬼や獣人や魔物や、剰え黒死の破滅龍なんて言うビックリドラゴンお姉さんまで存在する世界なのだ。
そんな世界で、日夜魔物と闘っているらしい人類。
その中でも、魔物と闘う事を一部生業としている冒険者。
それもこの街のトップクラスの人達。
産まれたばかりの私やヘデラより、引き籠もりをして3000年もブランクのあるエディルアより、超強そうなステータスなんだろうと思っていた私のドキドキはどうすれば良いのだろうか。
どうしようも無いのである。
他の人はどうなのだろうかと思い、ガッツさん達にもステータスを見せて貰ったが、そんなに代わり映えのしないものであった。
つまり、これがこの世界の人間の、少なくともこの街トップクラスの冒険者達の平均だという事である。
まるで、可愛くて大人しそうな仔犬を撫でようとして指を噛みちぎられたような、思わぬカルチャーショックだ。
……否、待て待て。
落ち着け私。
良く考えるんだ。
そもそもこの世界の人間が、超人アクロバティック種族だと私は思いこんでいたが、本当にそうなのかは分からなかったでは無いか。
産まれて最初に、私のこの身体が「何だか知らないが色々ともの凄い身体だ」という事を知り、何だか知らないが凄そうな自分のステータスを知り、エディルアもヘデラも同じようなステータスをしている事を知ったせいで、この世界の人達は皆こういう感じなのだろうと思っていたが、確かめた事は無かったでは無いか。
今思えば、私はこの世界の騎士達を簡単に虐殺出来ちゃったし、エディルアは大昔に人類を大量に殺しちゃった事があるらしいし、そんな人類が殺したり殺されたりしているという魔物は只の大きな動物だし、私の中での「この世界の人間」像と私が知っている「普通の人間」像は、思ったよりもかけ離れ過ぎていたのかも知れない。
つまり、この世界の人間は私が思っていたよりも、弱いのかもしれない。
そうだとすれば、魔物の事を凶悪な怪物だと神様が言っていた事も、そんな怪物と殺したり殺されたりの闘いを繰り広げている事も頷ける……気がする。
それでも魔法を使えたり、摩訶不思議スキルを使えたりする分、私の知っている人間よりも断然超人アクロバティックな存在なのだろう。
何だか肩透かしを食った気分であるが、それは私が勝手に思い込み、決めつけていただけなのだ。
反省しよう。
私のお馬鹿。
だがしかし、私はまた一つこの世界の事を知ることが出来た。
この世界の人間は、そこまで「普通では無い」という事は無い。
何方かと言うと私の知る普通寄りの、魔法やスキルが使えて超人アクロバティックも出来る存在だという事だ。
そんな風に思ってみれば、ちょっとステータスがゴチャゴチャしていて、種族が真祖な私とそんなに変わらない気がする。
良かった。
思っていたのとちょっと違ったが、何だかスッキリした気分である。
しかして、ステータスを見せて貰った事と、私達にこの世界の事を色々と教えてくれたお礼に、ここの皆に私の加護をあげようと私は思い立った。
転けなくなるというだけのものだが、加護はステータスに表記されるのでお近づきの印としてはバッチリである。
「見せてくれてありがとう。お礼に皆に私の加護をあげる」
少しの間、思考の迷宮を彷徨っていた私は、ステータスを見せてくれていたリナリアさん達にそう御礼を告げた。
「ええ!?良いのかいアリスちゃん!?そんな簡単に加護なんてくれちまって!!」
「ア、アリスちゃんの加護?お姉さん達、そんなの貰っちゃってもいいのかしらぁ……」
「いいよ。あげる」
「あら、じゃあ私の加護もあげるわ。貴方達弱っちいもの。私の加護は凄いわよ」
「え、エディルアさんも加護をくれるっていうの!?……そんなに簡単に加護を授けちゃってもいいの?」
「別にいいんじゃないかしら?加護の付与に制限なんて無いし。貴方達には色々と教えて貰ったからそのお礼よ」
そんな風に、戸惑いながらも何処か興奮気味にしているリナリアさん達冒険者8人に私とエディルアは加護を付与した。
加護の付与は一瞬で終わり、皆揃ってステータスを開き恐る恐るといった様子で自身のそれを確認している。
そして、ほんの少しの静寂の後に訪れたのは、誰かの津を呑む音と歓声のような所感だった。
「う……ウオオォオ!!凄え!凄えよ!!」
「ぼ、僕達加護持ちになっちゃったよ!!それも4つも!」
「な……何よこの『死神の邪矢』って即死スキル……。加護ってこんな出鱈目なスキルも覚えられるものなの?」
皆、喜んでいる様子である。
「死神エディルアの加護」の「ランダムで死系統の高位スキル習得」効果で習得出来るスキル以外、加護の内容は付与した本人にしか分からない筈なのだが、それでも喜んでいる様子である。
何だか分からないが、喜んでくれるのなら転ばなくなるだけの加護でも付与した甲斐があると言うものだ。嬉しい。
なので、敢えてその内容は伝えないでおこう。
転けなくなるだけだと知ったら落胆してしまうかもしれない。
「俺はヘデラさんの加護も欲しいんだが。いや、寧ろヘデラさんが欲しい!」
そんな中、ジャビットさんがヘデラにそんな事を言っている。
このおじさんはヘデラを気に入り過ぎでは無いだろうか。
最早プロポーズだ。
対してヘデラは、そんなジャビットさんの言葉に少し申し訳無さそうな表情を浮かべた。
「申し訳ありません。わたくしは加護の付与は出来ないのです。しかし、アリス様達が皆様に御礼をなさっているのに、わたくしが何もしない訳にはいきませんね……」
しかして、ヘデラは「少しお待ち下さい」という言葉を残して、足元の影に溶けるように沈んで消えてしまった。
どうやら彼女は唐突という言葉が好きなようだ。