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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、異世界へ行く
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side.アレイシア 神様、アリスさんを知る

 真っ白い空間に、白いローブを身に纏った男がいた。

今しがた別の世界に少女の魂を送り届けた彼は、先程の少女を思い出して実に面白そうに笑い声を上げる。


「あはははっ!いやぁ。面白い娘だったなあ。あんな娘は久しぶりに見たよ。人間の魂の癖にそんじょそこらの神と同格かそれ以上の存在なんて、この先どうなるか楽しみだなあ」


独り言、というにはどうにも台詞臭い、そんな事を言いながら、「フフフ」という楽しげな男の声が響くその空間に、一人の女が突如現れた。


突然である。


しかしこの空間においてそれを驚く者はいない。

何せ、ここは神が造った空間。

時空と空間の狭間という、良く分からない処なのだから。


しかして、突如現れたその女性。


誰もが息を呑むような計算しつくされた美貌と身体は、それだけで彼女の存在が人智を超えたものである事を覚らせる程に神々しく美しい女性だった。


純白の透き通るようなドレスを纏ったその女は、男がそこにいることに気が付きギョッと目を見開くと、慌てた様子で男に声を掛けた。


「ちょ……!そそ、創造神様!?ど、どうしてここに!?」


「ああ、アレイシア。お邪魔してるよ」


創造神と呼ばれた男は女が現れた事など気にも止めずに、その場に真っ白な椅子を二つ創り上げると、その一つに腰掛けた。


そして創造神は、アレイシアと呼ばれた女にも椅子に座るように促し、目の前にある空間に、とある世界の夜の森の中の映像を映し出すスクリーンを浮かび上がらせる。


そんな摩訶不思議な神様パワー的な何かに驚く者も、この空間にはいない。

何故なら、ここには二人の神様がいるだけなのだから。


しかして、そのスクリーンに映し出されたのは35番目に位置する世界の大陸南西の才端。


死の森と名付けられた広い樹海の奥の奥。

黒死の破滅龍が眠ると言われる秘境中の秘境。


普通の人間ならまず近づくことすら不可能なその場所に、一人の幼い少女が倒れていた。


夜の闇の、更に闇の中にいて尚輝く蒼銀の髪。

精巧な人形のように整った顔は透き通るように白く、ぷくりと桃色に染まる小さな唇が不意に小さく震える。


もはや人間味が無い程に完成されたその顔がゆっくりと動き、長い睫毛に囲われた少し釣り上がった大きな眼が開いた。


ピーナッツ型の紅い二つの双眸は虚ろを映し、やがて光を灯す。

パチクリと三度瞬きを繰り返した少女は自身の身体の感覚を確かめるように、右手、左手、と全身をゆっくりと動かしていく。

シミ一つ、産毛一つない陶器のような自らの肌を撫で、やがて半身を起こした。


叢の中に裸で寝ていたというのに、彼女の肌は傷付くどころか土汚れすら着いていないように見える。


少女は自分の身体を見回すように確認し、やがて息を付くと、眼を閉じ肩を震わせた。


いったいどうしたというのか……。


悲嘆か歓喜か、彼女のその表情からは測れない。


その姿は何処か儚げで、幻想的で、神秘的だった。


やがて少女は一つ深呼吸をすると眼を開き、口を開く。


『また裸じゃないかぁああ!!』


少女は叫んだ。


それは、心からの想い。


魂を震わせる悲嘆であった。


しかして、その様子を見ていた創造神はたまらずに吹き出した。


「っぷわっはははは!!っふははは!!いひひひひ!!」


「え、えーっと……。創造神様?これは、一体……」


創造神と共にその映像を見ていたアレイシアが、急に爆笑しはじめた彼に困惑しつつ尋ねた。


女神である彼女は知っていた。


この映像の場所は、自分が最上位神として管理する世界の、死の森と呼ばれる場所であるということを。

そして、そこは普通の人間が素で入り込めばコンマゼロ秒で死ぬ、死の邪気が漂っているということを。

あの全裸の可愛らしい少女は今から私が案内する筈だった魂であるということを。

その少女が何故か下級神に匹敵するような馬鹿げた性能を有していることを。


だから戸惑う。


この上司、私の世界で一体全体何をしてくれちゃってるのでしょうか……。と。


映像の少女が圧縮された魔力を周囲に一気に解き放ち、森の一部を吹き飛ばすのを傍目に見ながら、アレイシアは深い溜息をついた。


創造神がしでかす事ならば、自分はもう見守る事しかできない。

神の世界の上下関係は厳しいのだ。

彼は神々の絶対最上位者。文句など言える筈も無い。


……諦めましょう。と。


彼女は少しだけ考えた結果開き直り、自分も一緒に少女の様子を鑑賞し始めた。


この場所は……あの娘が眠っている場所ですか……。


黒死の破滅龍。


このおちゃらけ神が何を考えているのかは知らないが、偶然では無いだろう。


随分と長い間屈託に思っていた事が、この映像の少女を見ていると思いが強くぶり返してくる。

この少女に期待してしまうのは、随分と虫が良い話だが、もしかすると……と、思ってしまうのだ。


やはり、諦められないですよね……私は結局何も出来ないのですから……。


引き笑いを始めた創造神の声が響く白い空間。


二人の神は少女の様子を見守る。


そんな神々に見守られていると少女が知るのは、もう少し先のお話。



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[一言] 前話を読んだ感想であんまり悪い存在ではないのでは?と述べましたがこの話で撤回し深くお詫び申し上げます。 コレで良いのか神々のトップ。
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