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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、異世界へ行く
29/89

アリスさん、食事を知る

ヘデラを探してお城の中を二人で彷徨い、やがて辿り着いたキッチンで彼女を見つけた。


私が具現魔法で色々な物を置いた為、中々様になった広々としたキッチンである。

そんな部屋の中で、ヘデラは机に向かって何やらウンウンと唸っていた。


「?ああ、アリス様、エディルア様。おはようございます」


「おはよう、ヘデラ」


「おはよう。ヘデラは何をしているのかしら?」


部屋に入ってきた私達に気が付いたヘデラとそんな挨拶を交わし、彼女の元へ近づくと、机に置かれていた何やら目立つ大きな丸い物が目に入った。

彼女はそれを見て悩んでいたようだ。


「今朝産んだシュバルツちゃんの卵をもらって来たのですが、とても大きな卵なので、何を作ろうかと思いまして」


「これがシュバルツの卵……」


しかして、机にあったそれは正しく見知った卵の形をしていた。


卵型である。


私が知っている鶏の卵と違う部分と言えば、大きさが私の身長程あり、色が黒と赤の斑模様をしている所。


正直、食べるのを躊躇する見た目である。

毒とかありそう。


「私が知ってるコカトリスの卵は緑色をしていたけれど、シュバルツのは黒なのね。卵も格好良いわね」


「えぇ……」


緑の卵とか、それもどうなのだろうか。


緑色のバカでかい卵と、黒と赤の斑柄のバカでかい卵。


両方共、本当に美味しいのだろうかと疑ってしまうビジュアルだ。


最初に食べた人は勇気がある。

ふぐを二番目に食べた人くらい勇気がある。

私ならば食べようとは思わない。


まるで恐竜かエイリアンでも産まれてきそうだ。


そして、そんなシュバルツの卵を格好良いというエディルアの感性は良く分からない。


決して格好良くは無いと思うのだ。

どちらかと言うと、本能的に忌避感を覚えるような禍々しさを感じる。


しかし、そんな趣向は人それぞれ。何も言うまい。


「そう言えばシュバルツは何処にいるの?」


「それなら庭園の右側、森の奥にシュバルツちゃんのお家がありますよ」


シュバルツのお家……。


あんな大きなシュバルツが入るのなら家もさぞかし大きいのだろう。後で見に行ってみよう。



基、ヘデラはこのシュバルツの卵の使い道について悩んでいたそうだ。


初めて食べるコカトリスの卵。


エディルア曰く凄く美味しいらしいし、こんなに大きいのだ。

何を作ろうか迷う気持ちは分かる。


「何か御要望は御座いませんか?」とヘデラに訪ねられたので、私は素直に食べたい物を答えた。


「私ホットケーキが食べたい」


前世、朝食に食べるホットケーキが私は好きだった。


混ぜて焼くだけなので手間も掛からないし、工夫の余地が幾らでも有るので飽きも来ない。

ホットケーキミックスは人類の大発明だと私は思うのだ。


「良いですね。小麦粉などはありませんので、昼から街で買ってこなくてはいけませんね」


そう言えば、今は卵しか食材は無いのであった。後、大きな黒い猪。


そりゃそうだ。

何せ私達は手ぶらで、昨日の夜にここに着いたばかり。ホットケーキに必要な物など何一つ無い筈なのだから。


しかし、そんな時こそ私の出番である。


「私出せるよ」


はい。と、私は具現魔法でホットケーキミックス、牛乳、バターなどを机の上に出す。

私が前世でいつも買っていた、スーパーなどで売られているやつである。


調理器具はガスコンロからフライパンまで、既に一頻り揃っているので、後は混ぜて焼くだけだ。

oh!手軽だね。


「なる程、先程の魔法ですね!流石はアリス様。直ぐに準備しますので、出来るまで少しお待ちください」


ヘデラはそう言ってさっそく調理を始めた。


所で、ここでの料理は基本的に全てヘデラがやると言いだした。

何でも、家事はメイドの仕事なので全て任せて欲しいと。


本人がやりたいのなら別に私は文句無い。


私は特別料理が好きと言う訳でも、食に拘りがあるわけでも無いので、たまに一緒に作ったり出来ればそれで満足である。


全て任せるのは申し訳無いのでちゃんと分担することにしたが、きっとヘデラは家事が好きなのだろう。

良いお嫁さんになる。


しかして、そんなメイドさんがデカイ卵を、デカイ容器に割っている光景はかなりシュールだ。


黒い卵に殴ってヒビを入れ、何処から持って来たのか分からない風呂釜みたいな大きさの容器の上で、殻を半分に割っている。


外見は毒々しい色をしているシュバルツ産の卵は、中身は私の知る普通の卵の色だった。


中まで黒いのではないかと少しドキドキして見ていたのだが、予想が外れた。



そんな光景を椅子に座って眺める私とエディルアだったが、ふと何でもない風にエディルアが口を開いた。


「ねぇ、私思ったんだけど。さっきのアリスの魔法があれば人間のお金とか稼ぐ必要無いんじゃない?」


「……確かに」


私が魔力を消費するだけで何でも出せてしまうせいで、良く考えなくても買い物などする必要が無い。

生活費が丸まんま不要だ。


実は私も思っていた。


というか、お金が欲しいなら具現化してしまえば良いのだ。

おっと、それは犯罪である。


「でも、旅行とかしたいしお金は欲しい」


旅行先で買い物をしたり、宿に泊まったり、その地の美味しい物を食べたり。

それにはお金が必要になってくる。


エディルア達とこの世界を見て回るのが私の密かな夢なのだ。きっと楽しい。


「いいわね旅行。人の国がどんな風に変わったのか、見て周りたいわ」


「うん」


やはりお金は欲しい。

どっちにしろ、あるに越したことは無いのだし。


ソフィア隊長の話では魔物を狩ってくればお金を稼げるらしいし。

他のコカトリスとか捕まえて持っていけば買ってくれるかもしれない。

何せ卵がこの世の物とは思えない程に美味しいらしいのだから。


そんな事を話しながら、私はボールで生地を混ぜ始めたヘデラにカメラを向けて写真を撮る。


銀髪美人メイドさんの調理風景である。

凄く絵になる。


コスプレってこんな感じなのだろうか。


「それは何なの?さっき庭園でも持ってたけど」


私が何枚かヘデラの写真を撮ってカメラを弄くっていると、不思議そうな顔をしたエディルアがそう尋ねてきた。

カメラが気になるらしい。


私の前世の世界の物が、きっと物珍しいのだろう。


「これはカメラだよ。写真を撮る機械」


「ふぅん……良く分からないけど、前世のアリスがいた世界の物?」


「そうだよ。教えてあげる」


私はプリンターを出してカメラを繋いだ。


興味深そうにそれを見るエディルアに使い方を説明しながら、さっき撮った写真達をプリントアウトしてみる。


2L版という、よく見る写真の2倍の大きさの用紙に綺麗にプリントアウトされた写真達が印刷されて出てきた。


鮮やかな色の花や葉と、麗らかな光の庭園。

それらを切り取った風景は、やはり美しかった。


我ながら上手く撮れたのでは無いかと、一枚ずつ確認しながら私は満足する。


やはり写真は良い。


自分が見ている風景を、自分が残したいと思った瞬間を、何時でも簡単に誰かと共有する事が出来る。


そして数年後に見返して、こんな事があったなぁ。と思えるのはとても素敵な事だ。


人は忘れてしまう生き物だから、大事な事を忘れてしまわないようによく記録というものをつける。


写真も同じようで、少し違う。


有り触れた、どんな些細な景色だって、一枚の紙に閉じ込めてその瞬間を思い出す事が出来る。

記憶がどんなに色褪せたって、その光景をもう一度同じように見る事が出来る。

それを見た誰かと、自分の思い出を分かち合う事ができる。


だから私は、写真は記録では無くて、記憶なんだと思うのだ。


そんな写真達を眺めながら、私はこれから、この世界の色んな写真を撮ろうと決めた。


何せ私達は不老不死らしいのだから、きっと普通の人よりも忘れる事は多い。

前世では一昨日の晩御飯も覚えていなかった私が、数千年前の事なんて覚えているわけが無いのだから。


だから沢山写真を撮って、エディルア達と昔の写真を見返して、こんな事があったねと話をするのだ。


そんな私の夢が一つ増えた瞬間だった。


そんな事はともかく。


「ほら、これが写真。こうやって、この機械で写した景色を保存しておく事が出来る」


そう言って私は、エディルアに一枚写真を手渡すと、彼女はそれをまじまじと見ながら感心したように言った。


「うわぁ。凄い綺麗な絵ね!これは魔法じゃないんでしょう?」


絵じゃ無いけど。


「魔法じゃないよ。これエディルアにあげる」


私は一枚の写真をフレームに入れてエディルアに差し出した。

綺麗な庭園で血塗れの猪を頭上で持つ、これまた血塗れのエディルアが写った写真である。


どう見てもホラー写真にしか見えない。


「あら、さっきの私ね!凄いわ!ありがとうアリス。でも私はアリスの絵が欲しいわ」


私の写真が欲しいのか……。

残念ながら私の写真は無い。


「じゃあカメラあげるから、エディルアが私を撮ってよ」


デジカメを新しく具現化して、それをエディルアに手渡す。

私とは色違いのデジカメである。


それを受け取った彼女に使い方を細かく教えて、私を撮って貰う。


「これもくれるの?……ここにアリスが映っている時に、ここを押せばいいのね?」


「そうそう。可愛く撮ってね」


私はそう言って椅子に座ったまま、ピースサインをカメラを構えるエディルアに向ける。


そんな素っ気ないポージングで可愛く撮っても何も無いとは思うが、写真を撮られる時はいつも言ってしまう私の口癖だった。


元々お婆ちゃんの口癖がお母さんに伝染り、いつの間にか私にも伝染ったのだ。

親子3代、カメラを向けられれば皆「可愛く撮ってね」と言う。最早遺伝である。


エディルアがそんな私の写真を何枚か撮った後、早速写真をプリントした。


「うわぁ!可愛いアリスの絵だわ!私の宝物にする!ありがとうアリス!」


自分で撮った数枚の私の写真を見ながら燥ぐエディルア。


自分の写真でそこまで喜んで貰えるとは、嬉しいものである。

嬉しいのだが、私の写真にまで頬ずりするのは止めて頂きたい。


「どういたしまして。プリンターもここに置いておくから、好きに撮って写真にすればいいよ。押しても動かなくなったら言ってね」


「ええ!これで色んなアリスの絵を作りまくって、お城中に飾りましょう!」


「……それは恥ずかしいから止めて」


それから暫く、ホットケーキの焼ける甘い香りが漂い始めた台所で、楽しそうに私の写真を机に並べるエディルアと他愛ない会話を楽しんでいた。


軈てヘデラがお皿に焼けたホットケーキを載せてやって来た。


三つの皿にそれぞれ乗った、焼き立てのホットケーキ。

綺麗な狐色に焼かれたそれは、ほんのりと甘い香りと湯気を漂わせながら机に置かれた。


上に乗ったバターが溶け流れているのを見ているだけで涎が出て来てしまう。


食べなくても分かる。これは美味しい。


「お待たせ致しました。さあ、冷めないうちに召し上がって下さい」


そう言ってヘデラは自分も席に着いた。


三人で摂る初めての食事である。

そう思うと、なんとなく感慨深いものがある。


気がする。


「ありがとうヘデラ!凄く美味しそう!」


「これは知ってるわ、パンね!いい匂いだわ」


パンでは無……否、パンなのかな?


パンの親戚?


パンケーキとか言うし、パンのケーキ?

……まあ、何でもいいや。


「それじゃ。いただきます」


言うや否や、私は早速手にフォークとナイフを持って、お皿に乗ったホットケーキを切り取る。


心なしか、私の知っているホットケーキよりも何だかフワフワしている気がする。


何だろうか。

シュバルツの卵効果だろうか。

それともヘデラの調理法に何かあるのか。


まあ、そんな事はどちらでも良い。


「いただきますって何かしら?食べる前の挨拶?初めて聴いたわね。私もいただきます」


「わたくしもいただきます」


二人もホットケーキを切り分けて口に運ぶ。


そして三人とも一口食べては同じ感想を口にした。


言わずもがな、とても美味しい。と。


しかし、自然に口をついて出たそんな言葉は、風に舞い散ってしまった桜の花弁に似ている。

止めようが無いし、止める必要も無いのだ。

それこそ無粋というもの。


「何これ!凄い美味しい!!」


「美味しいわ!何だかフワフワとしていて甘くて。とにかく美味しいわね!」


「ええ、とても美味しいですね。驚きです」


『この世のものとは思えぬ美味しさ』とシュバルツの備考欄に書いてあった卵を使ったホットケーキは、私が食べたどんなホットケーキよりも美味しかった。


美味い(うまい)甘い(うまい)だとは、魯山人はよく言ったものだ。


正しく、甘くて美味い。

後、ふわふわで濃厚でとにかく美味い。


そして、美味しい美味しいと言いながら食べる私達。


こんな時、前世のテレビレポーターのような気の利いた感想が言えれば良いのかも知れないが、私にはそんな事は不可能であるし、この場にそんなものは不要である。


美味しいものは余計な事は考えず、美味しいと言って食べれば良いのだ。

後は一緒に食べる仲間と楽しく会話をする。何とも素敵な時間である。


この世界での初めての食事は、そんな風に終えた。


「美味しかったわぁ。流石メイド、流石ヘデラね」


「そう言って頂けると光栄ですが、しかしアリス様が出して頂いた材料を使えばとても簡単に作れましたので、素材が良かったのかと」


「そんな事無い。私が作ってもこんな風にならないし、ヘデラの作り方が良いんだよきっと。それにシュバルツの卵も秘訣だね。また作ってねヘデラ」


「ありがとうございますアリス様。シュバルツちゃんの卵もまだまだ残っていますので、言って頂ければまたお作り頂いしますね」


そんな会話をしながら、ヘデラが淹れてくれた紅茶を三人で飲みつつを食後の団欒をする。


片付けを終え、ヘデラにもデジカメの使い方を教えたり、三人で写真を撮り合ったりしていると、そう言えばエディルアが持ってきたあの猪の事を忘れていたのを思い出した。


血塗れのデカくて黒い猪。


ヘデラにどうするか聞こうと思って探していたのに、エディルアも私もすっかり忘れてしまっていた。


シュバルツの卵のインパクトが強かったのだ。ついうっかり。


私がヘデラにその事を話すと、彼女は見せて欲しいと言う。


部屋の中であの大きな猪を取り出すわけにもいかないので、三人でお城の外へとやって来た。


向かったのは湖の湖岸。


そこにヘデラが土魔法で石の大きな台を作り、その上に私が仕舞ってあった黒い猪を取り出して置く。


改めて見ても、最初に見て思った通り、とても大きな黒い猪である。

図鑑で見たことがある、豚のワイルドバージョン。


シュバルツも大きいし、この世界の動物は基本的に大きいのかもしれない。


……否、もしかするとこの世界の大きな動物は魔物なのかもしれない。


そんな事を思いたって、魔眼で詳細を見てみるとやはりブラックボアという魔物だという事が分かった。



ーーーーーーーーーーーーー


種族:ブラックボア


レベル:26


魔力:1362


スキル:突進


    風魔法(Lv.1)


    闇魔法(Lv.2)



備考:大陸南部から中央にかけて広い地域に生息する猪型の魔物『ワイルドボア』の亜種。闇魔法と風魔法を操る魔物で、長く伸びた大きく鋭い牙と黒い体毛が特徴。牙、革、は素材として、肉は食肉に人気が高く、肉は大変美味である。


ーーーーーーーーーーーーー



私の思っていた怪物像からどんどん離れていくこの世界の魔物達。


何だ、案外大きいだけの、只の動物である。


シュバルツは可愛い大きな鶏だし、この猪も大きいだけだ。

エディルアは魔物というか凄そうなドラゴンで神様だし、今は美人のお姉さんだし、私の大切なお友達である。


凶悪な見た目の怪物だとか、街を破壊するだとか、人類が日夜闘って、殺したり殺されたりしているだとか、どうやらあの神様は私を脅してからかっていたらしい。いい趣味してる。



「お肉美味しいって」


「そうだと思ったわ!ヘデラはこの猪の料理のし方とか分かるかしら?」


「お任せください。解体も問題ありません。今日の昼食はステーキにしましょう」


「私も手伝う。ヘデラ教えて」


「あら、なら私も教えて貰うわ。皆でやりましょう。お願い出来るかしら?」


「ええ、勿論です。ではさっそく解体していきましょうか」


動物を捌くなんて事は、した事も無ければ見たこともない。


既に加工された物が溢れ返り、野生動物なんて身近にそうそう居るものでは無かった前世とは違い、この世界は魔物がそこら中に沢山いるらしいので、こういう機会に触れる事も多いという。


ならば是非とも挑戦してみたいのだ。


前世では、生き物の解剖なんて学校の授業でもやらなかったような今時のJKであった私である。


出来るかな?大丈夫かな?などと少しドキドキしながらヘデラに解体の仕方を教わる事になった。


「首筋、若しくは太腿の付け根に大きな血管が流れているので、ここを切って吊し血抜きをします。死んでから時間が経つと血流が滞って血が抜けにくくなるので、普通、血抜きは早めに行います」


ヘデラは何故か手慣れた手付きで、猪の首を切る。

血液操作で作成した、ナタみたいな血のドスで猪の首を叩き切るメイドさん。

スプラッタである。


「血を抜くほうがいいの?吸血鬼は血が好きなんじゃなかったのかしら?」


するとエディルアがそんな事を尋ねた。


確かに、ごもっともな質問である。


私も吸血鬼になって自覚したが、どうやら思っていたよりも吸血鬼というものはアホみたいに血が好きであるらしい。

当然血を吸うし、魔力で血を作り出せるし、それを超器用に操る事が出来るし、アイテムボックスでも血、翼を生やせば血、何かと言うと血、血、血である。


私自身、エディルアの血を飲んだ時から、私の好きな飲み物の堂々一位にエディルアの血がランクインした程だ。


しかし、私は今のところエディルア以外の血を飲みたいと思った事が無い。

私のステータスに「強い者の血に惹かれる」とか何とか書いてあった事に関係があるのだと思うが、ソフィア隊長や、その他の今まで見た人間達の血は別段美味しそうだとは思わなかった。


そして、この猪の血はどちらかと言うと不味そうなのだ。

何故か見ただけで分かる。


それはどうやらヘデラも同じようだった。


「……どうなのでしょうか?解体の基本として肉が臭くなってしまうので血抜きは絶対なのですが。何故かわたくしはこの獣の血を飲みたいとは思いませんね。アリス様はどうですか?」


「私も要らないかな。美味しくなさそう」


なので、猪の肉が美味しくなくなってしまうのなら、ちゃんと血抜きをするべきだ。


美味しくなさそうなので、捨てても別に惜しいとは思わない。


それがエディルアの血なら欲しいし、惜しいと思うが、何とも、吸血鬼とは不思議な生き物である。


「へえ。そういうものなのかしらね?」


「多分。エディルアはどうしてこの猪が美味しいって分かったの?」


「黒くて大きい。格好良い魔物は大抵美味しいのよ」


「……そうなんだ」


なんて話をしながら作業を続けていく。



血抜きは、吸血鬼である私とヘデラがいれば実は簡単に出来てしまう。


魔力で作った血を他の生き物の血に混ぜれば、一緒に操る事が出来る事が判明したのだ。

なんて恐ろしい……。


そして血抜きの次は皮を剥いでいく。

内蔵を傷付けないように、お腹側に縦に切れ目を入れて、首の部分からバリバリと引っ張って剥がしていくのだ。

スプラッタである。


ヘデラに教えて貰いながら三人で解体作業進め、終えたのは太陽が随分登った頃だった。


出来上がった猪のお肉や皮などはざっぱに部位ごとに別けて、「食材はわたくしが管理頂します」と言うヘデラがアイテムボックスに仕舞った。


解体してみて思ったのは、以外にもお肉の脂で手がベトベトになって大変だというくらい。

前世では虫も殺せぬような、「スプラッタとかマジ無理だしぃ。チョーかんべん」なごく普通の今どきJKは、今や猪の解体などでキャーキャー言う事は無かった。


ヘデラの教え方が丁寧でとても分かりやすいので、同じ猪なら一人でも解体出来るんじゃないかと思う程。


寧ろ内蔵の位置や種類などの良い勉強になった。

なんて事を思うのだから、何とも不思議なものである。



そして、恐ろしい怪物だと思っていた魔物のイメージが、私の中でますます崩れ去っていくのであった。


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