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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、異世界へ行く
28/89

アリスさん、朝を知る

ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます。


拙い文で見苦しい所があるかもしれませんが、これからも気の向いた時に読んで頂けると幸いです。


しかして、色々とお城の内装を弄くっていると直ぐに朝が来た。

この世界でも、楽しい時間は一瞬で過ぎてしまう。


明るくなってきた外を窓越しに覗くと、東の山脈から顔を出した朝日が草原に差し込み、お城の周りの湖がそれを受けてキラキラと蒼く輝いていた。


窓から薄っすらと差し込み始めた日の光は、お城の中を薄明るく照らし始め、そこかしこから朝独特の空気が漂い始める。


窓を開けてみれば鳥の囀りが一日の始まりを告げ、少し冷たい澄んだ空気が、否応なく私を一日の始まりへと引っ張り込む。


晴天の朝は何故こうも気分が良くなるのだろうか。


私は浮かれたように軽い足取りでお城の中を彷徨い、やがて草と朝露の香りにつられてお城の外に出てみた。


明るくなった朝日が外の世界を白明るく照らしている。


湖面に掛かる大きな白い石造りの橋を渡り、そして橋の始部にある門を越えて湖岸に辿り着いた時、私の目の前には色とりどりの花や植物が咲き乱れる広大な庭園が広がっていた。


突然の目が覚めるようなその光景に、私は時が止まったかのように感じた。

否、驚き過ぎて、死んだのかと思った。


手前には大きな噴水が、庭園の中心には白亜の塔が建てられ、そこから四方にレンガ張りの道が幾何学的に伸びている。


さらに庭園の外側にはぐるりと木々が立ち並び、庭園と湖畔を取り囲むように広い森が出来ていた。

そして、その森の正面にはとてつもなく長い真っ直ぐな並木道が伸びているのが見える。

きっとあそこがこのお城への入口になっているのだろう。


「うわぁ綺麗……」


なんて感嘆を漏らしながら、私はその光景を見廻す。


朝露を貼り付けてキラキラと煌めくそれらは、綺麗だという言葉しか出てこない。


朝の爽快な気分と合わさって、涙が出てきそうな程に美しい。


感動の瞬間とは正しくこの事なのだ。

なんて思う程に綺麗な風景だった。


この景色を写真に収められないのが残念である。


そんな事を思って、直ぐに私は思い直す。


「……いや、カメラ出せばいいのか」


そうだ。


私は想像した物を具現化出来る魔法が使えるようになったんだった。


今やカメラを出すなんて事は朝飯前である。

なんちて。


思い立ったが吉日。

しかして、私は早速カメラを具現化する事にした。


ではさっそく。と、私は今や優秀過ぎる性能を幾つも併せ持った現代科学の申し子、ミラーレス一眼のデジカメさんを具現化しようとして、はた、と、ここでは充電が出来ないことに気が付いた。


そもそもこの世界は前世のように電気が普及しているのだろうか?


分からないが、昨晩山の上から見た感じ、リアデの街に電気なんて通っている風には見えなかった。

自動車なんて何処にもなく、灯りはランプ、家の煙突からは煙が立ち昇っていた。


前世の田舎なんて比じゃない程の文明落差を感じたのは記憶に新しい。


この世界の何処かには電気が普及している街がもしかすると有るかもしれないが、少なくともこのお城には電気は通っていないのだ。


デジカメは駄目である。


ならばフィルム式の一眼レフカメラだ。


と思うが、しかし直ぐにフィルムを現像する方法が分からない事に気がついた。


フィルムの現像なんてドラマでしか見たことがない。暗い部屋で赤い電球をつけて何かする、くらいしか私は知らない。


私は別に写真屋さんでも、ドラマで出てくるような後ろめたい盗撮魔でも無いのだ。

そんなもの知っているわけが無い。


……駄目では無いか。


ではどうしようかと私は考えて、考えて、考え抜いた結果「なら、電気を作るか?」という、私的逆転ホームランな発想に至った。


発電機があれば電気を起こせるというのは知っている。

お婆ちゃん家にあったから。


電気があれば何の憂いも無く、デジカメで撮って、パソコンで編集して、プリンターで簡単にプリントアウトが出来る。

日本の科学技術は凄い。


そして更に、お城をより快適にする事が可能である。


冷蔵庫とか洗濯機とかエアコンとか、トイレもウォシュレット付きのやつに変えられるし、灯りも電球に変えられる。


電気、魔法より便利なのではないか?


「電気、作るか」


そうして私は早速お婆ちゃん家にあったのと同じ発電機を具現化してみる。


私が15歳の時に死んだお婆ちゃん。

家は和歌山県のド田舎にある。


偶然遊びに行った日に台風が直撃し、停電した時にこの発電機にお世話になった。

お婆ちゃんが物置から引っ張り出してきて、私に使い方を教えてくれたのをまだ覚えている。


これはディーゼル燃料を入れるのだ。

ポリタンクに入った軽油と、何かシュコシュコするやつも出して、発電機のタンクに注いでいく。


そして準備が整った所で、満足していた私は、またもふと思う。


待てよ、私は配電の仕方とか知らないぞ?と。


お城に電気を通すのはいい。私にしては大胆でナイスな発想だと思う。

しかしその方法を考えていなかった。


私は電気工事士でも、関西電気保安協会の人でも東京電力の社員でも無いのだ。

お城中に配電する方法なんて知っているわけが無い。


………何たる失態。


……適当に電線繋げばイケるかな?


否、漏電とか感電とかしたらどうするんだ。危ないだろう。


そして更に思う。


発電機って点けっぱなしにして良いものなのだろうか?と。


点けっぱなしに出切なければ電球とか冷蔵庫とかが使えない。


そして、更に言えば燃料の補給とか面倒臭い。


そもそもこの発電機だけでお城中の電気を賄えない気もする。


「……止めよう」


電気を作るのは中止である。


私は出した発電機をアイテムボックスの代わりにしている異空間にさっさとしまった。


夢のお城オール電化計画は諦める事にしよう。


何だかテンションが下がってしまった私は、改めてデジカメで写真を撮ることにした。


デジカメだけなら、充電出来なくても新しいバッテリーを出せば良いのだ。

それか、空になったバッテリーを時空魔法で状態を巻き戻すなんて事も出来る。


やっぱり魔法は便利である。


庭園を歩きながら、綺麗に開いた名前の知らない花や、葉に朝露を乗せている植物達を見て回り、時々カメラを向けて写真を撮る。


綺麗な庭園に、清々しい朝の空気と澄み渡った青空。


涼しい風に揺られる植物達を眺めながら、レンガが敷き詰められた道をゆっくりと歩く。


こんな朝の過ごし方は初めてである。


清々しく、静かで、心が洗われるとはこういう事だ。

明日からも、朝はこの庭園を散歩しようと私は決めた。


そうして、暫く庭園を歩き回っていると、エディルアが大きな猪を持って森の並木道をやって来た。


朝から何のサプライズであろうか。猪である。


「あら、アリス。何をしてるのかしら?」


「それは私の台詞だけど」


近くに来たエディルアにデジカメを向けて写真を撮り、改めて彼女を眺める。


エディルアが軽々と頭上で持っているそれは、全長4mはありそうな、大きな牙が前に飛び出した黒い猪である。

そして血塗れである。


そんなものを頭上で持っているものだから、彼女の身体も血塗れである。


正にホラー映像だ。


「お散歩していたら居たから狩って来たの。大きくて美味しそうでしょう?ヘデラに料理して貰おうかと思って」


朝の散歩ついでに美味しそうなバカでかい猪を狩る女性。

ワイルドとかいう次元ではない。

原始時代でもそんな事はしない。


「……そうなんだ。私は庭園を見て回ってた」


「ここ素敵よねぇ。メイドって庭師の才能もあるのね」


そんな事は無いとは思うが……。

きっとヘデラのセンスが良いのだろう。


そんな事はさておき、こんな所でそんな血塗れの猪を持っていると、その素敵な庭園が血塗れの殺人現場みたくなってしまう。


湖岸でエディルアと猪の血を洗い流してから、多少綺麗になった猪の死体を異空間にしまい、私達は二人でお城に向かう事にした。


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