アリスさん、マイホームを知る2
ブックマークありがとうございます。
書き溜めが無いので、これからはボチボチの更新になると思いますが、気の向いた時に読んで頂けると幸いです。
何故こんな所で魔法の披露会をしたのかとソフィア隊長に尋ねられ、貴女の隊を吹き飛ばそうと魔法の発動準備をしたが貴女が来て発動出来なかったのだと説明すると、二人とも顔を蒼白にしながら震えていた。
可哀想に……私のせいで怖がらせてしまったようだ。
まあ、当然である。
広範囲を跡形も無く焼き尽くし吹き飛ばす魔法の標的にされていたのだから、そんな事を言われたら私だって怖くてチビってしまう。
二人に言う事では無かったと、言ってから気がつく私。
私は聴かれたので答えただけなのに、これではまるで私が二人を脅したみたいでは無いか……。
そんな気無いのに。
所で、「ごめんなさい」と「ありがとう」はちゃんと言える大人になりなさいとは、両親に昔言われた事である。
謝罪と感謝。
大切な事だ。
今の私は、見た目は小学児童だが、中身は17歳のJKである。
ちゃんとごめんなさいを言う大切さを知っているのだ。
なので、二人には「何かごめんなさい」と謝っておいた。
しかして、ご所望だった派手な魔法の数々に満足したエディルアと疲れた表情の隊長と隊員を率いて、私は元いた場所に空間を繋ぎ草原へと戻ってきた。
時空魔法を使えば異空間内の時間の流れを弄ったり出来るのだが、今はそんな事していないので、私達が派手な魔法お披露目会をしている間に、きっと三十分くらい経っただろう。
なので、きっとまだ途中であろう、ヘデラの家造りを手伝おうかと思ったのだ。
が、しかしである。
「……なんだこれ」
しかして、そこにあったのは元のだだっ広い草原……では無く、広い湖の上に浮かぶ真っ白な家。いやお城だった。
湖岸から広く長い橋が掛かり、蒼く月光を反射する綺麗な湖の上に浮いたように建てられたそれは、まるでフランスにある有名なお城のようだ。
あれは川に架るように建てられたお城だったが、目の前のお城は大きな湖の真ん中に、月明かりに照らされながら静かにそびえ立っている。
高層ビルのように凄く高く、そして大きいお城である。
「お帰りなさいませ皆様。今し方建物が出来上がったところです」
城の入口へと架かる大きな石造りの橋の前で待っていたヘデラがそんな事を告げる。
メイドさんとお城。
とても画になる光景である。
まるで絵本の中から飛び出たようなその光景に、私は何だかとても楽しくなってきた。
だって湖に浮かぶ大きな真っ白いお城。
凄く素敵ではないか。
テンションが上がってくる。
こんな湖なんてあったっけ?とか
何故家を建てると言っていたのにお城が出来上がっているのだろうか?とか
と言うか、一人でどうやれば30分お城建設なんて事が出来るのだろうか?とか
そんな疑問が一瞬思考の片隅に浮かぶが、そんな事は直ぐにどうでも良くなってしまった。
何せ、ここは魔法の世界。
「凄い凄い!お城だ!」
気がつけば、私は目の前のお城に夢中になってしまっていた。
「凄いわね。私も土魔法のレベル上げようかしら?」
「な……何なんですか、次から次に……」
「なあ、ブラン……私は頭がどうかしてしまったのだろうか、どうなんだろう……?」
「……私も同じ気持ちですよ」
しかして、私達はヘデラに案内され、お城の中へと入った。
ヘデラに着いて大きな長い橋を渡り、城の入口から中に入ると、そこはとてつもなく広いエントランスであった。
白亜の壁と天井、床には黒と白のタイルがチェック柄に敷き詰められ、手前の一部が二階までの吹き抜けになっている。
電気など無いため、壁に取り付けられた松明の灯りが照らす、所々に細やかな意匠が施されたその空間は、荘厳で美しい。
神殿だと言われても驚かない程であった。
「凄いわねぇ。立派なお城だわ」
「素敵だね、凄く綺麗」
どうやって作ったのか分からないが、正面の壁には綺麗な硝子貼りの窓が並び、そこから外を覗けば、静かに月を水面に揺らす碧い湖と、その向こうに広がる草原が見渡せる。
俄然テンションが上がってくる。
だってお城だ。
私達がここに住むのだ。
お城に住むなんて王様みたいである。
これがテンション上がらずに要られようか。
否、ない。
「正面の庭園や二階以降の部屋、細々とした家具、装飾、照明、上下水道など、まだまだ未完成では御座いますが」
「これだけでも十分だよ、ありがとうヘデラ!」
「あぁ、アリス様……勿体ないお言葉です」
「燥ぐアリスは年相応で可愛いわね」
「何なのでしょうか……この方々は……」
「ブラン、私はもう気にしない事に決めたぞ」
「……そうですか」
お城の中を所々見て周りながら、しかして一つの部屋にやって来た私達。
大理石のようなツルツルした感触のテーブルと椅子に着き、それ以外は何も無い部屋で私達は向かい合い、改めて話をする。
「改めて挨拶させて頂く。ヌーヴェル領騎士団リアデ直轄部隊隊長、ヌーヴェル伯爵家三女。ソフィア・ヌーヴェルだ」
そう言って自己紹介をするソフィア隊長。
伯爵というのは聴いた事がある。
爵位と言うやつだ。学校の授業で習った。
この世界にもそういうものがあるのだと知り、少し驚きである。
前世の歴史の授業で出てきそうな世界観だ。
中世の西洋とか。
伯爵家三女と言う事は、ソフィア隊長は実はお貴族様だったという事である。
伯爵家の娘が騎士団の隊長をする。
別に歴史に興味があった訳では無いので詳しくは知らないが、そういうものなのだろうか。
「ヌーヴェル領騎士団リアデ直轄部隊所属、ブランです」
次いで、ブラン隊員も二度目の自己紹介をする。
そして、そう言えば、今まで私達の誰も名乗っていなかった事に気がついた。
なんて事であろうか。
「そう言えばまだ私達の自己紹介してなかったね、ごめんなさい。私はアリス。宜しく」
「わたくしはアリス様のメイドのヘデラです。宜しくお願い致します」
「私は黒死の破滅龍エディルアよ。宜しくね」
私達もそれぞれ自己紹介をするが、エディルアの名を聴いて、一瞬固まった後に呆けた表情を浮かべるソフィア隊長とブラン隊員。
目を丸くして驚いている。
3000年もの間封印されていたドラゴンとは言え、エディルアの事は知っているらしい。
現にここから山脈を超えた所にエディルアがいた森があるくらいなのだから、昔話くらいにはこの辺の人達も知っているだろうと思ってはいたが、当たりである。
「……へ……?あ……ああ。黒髪の貴方は冗談がお上手なのだな」
「あぁ、冗談でしたか……ハハハ、そりゃあそうですよね」
「冗談だなんて失礼しちゃうわね。ほら、ステータス見せてあげるわ」
そう言って自分のステータスを二人に見せるエディルア。
それを目を擦りながら凝視する二人は、軈て青い顔で玉の汗をかきながら体を震わせ始めた。
可哀想に……怯えているようだ。
やはり生物の敵対者やら何やらと書いているのを見たからだろうか……。
否、そもそもドラゴンなのに人間の姿をしている事にまず驚きであろう。
とんだビックリドラゴンだ。
「ああああ……な、なんて事だ……私はどうすれば……」
「は……はは……何なんですかね今日は……この国は滅びるのでしょうか……」
そして、慌てだすソフィア隊長と、天を仰いで虚空を見つめるブラン隊員。
少し面白い。
「……何よ、別に滅ぼしたりしないわよ。私はアリスと一緒にのんびり楽しく暮らせられればそれでいいんだから。ねぇ、アリス」
「そうだね」
私を持ち上げて座った自分の膝の上に抱き抱え、またもや撫でくり回すエディルア。
私は何も言わずにされるがまま、最早慣れたものである。
しかして、暫くして落ち着いた様子の騎士二人は、揉みくちゃにされる私を、何とも微妙な表情で眺めていた。
「遥か昔に大陸中の人類を文明ごと滅亡させ、神をも殺した伝説の龍……まさか実在したとは……」
なんて事を言うブラン隊員。
まさか、実在したのである。
「私は大陸を滅亡なんてさせてないわ。ちょっと脅しただけよ。国の何個かはそれが原因で滅んじゃったけど……。それに元はと言えば人類が調子に乗って馬鹿な神に喧嘩を吹っ掛けたのが原因だもの。自業自得よ」
「そ、そうなんですか……?」
「そうよ?私って人間の間ではどんな風に言われてるのかしら?」
「何千年も前の事なので詳しい文献は残っていなかったと思う。眉唾ものの伝説や、お伽噺のような存在として伝わっているな。悪さをした子供達を脅したりするんだ。『悪い子は黒死の龍が食べにくるぞ』とな」
閻魔様に舌を抜かれるぞ、的な扱いである。
3000年も昔の事なら、エディルアを直で見た人なんてもう生きて無いだろうし、それも仕方ないのかもしれないが。
「そんな伝説の龍と一緒にいるアリス殿とヘデラ殿はいったい何者なんだ?」
「私は真祖。吸血鬼の始祖で生みの親らしい。ステータス見る?」
「わたくしはアリス様に造られた真祖です」
私とヘデラのステータスも見せると、またもや一頻り驚く二人。
仕掛けたドッキリに引っかかった相手を見ているようで、何だか良い気分である。
「真祖……また、神話やお伽噺の存在じゃないですか……」
「御三方共、生ける伝説じゃないか……あぁ……我が隊はこんな方々に喧嘩を売ったのか……やはり、私の命で償うしか……」
「止めてよ。ガイド役がいなくなる」
「そうよ。私達三人とも人間の常識とか知らないんだから。貴方がちゃんと見ていないと、何も知らずにとんでもない事をしでかすかもしれないわよ?」
「そ……それは困るな……」
そんなエディルアの良く分からない脅し文句に呆気なく屈したソフィア隊長。
やはりエディルアが怖いのだろう。
私だって閻魔様が目の前に現れたら震えて許しをこうだろう。
チビる自信がある。
そうして、ソフィア隊長は何かを少し考える仕草を見せた後、至って真剣な表情で切り出した。
「なあ御三方、無礼を承知で頼みたい……私をここに置いてはくれないだろうか?」
なんて事を真っ直ぐ私達を見つめて言うソフィア隊長。
つまりここで暮らしたいという事だろう。
騎士団の隊長とか良いのか?とは思うが、本人が言ってるんだし良いのだろう。私が気にする事では無い。
さて、ではソフィア隊長がここに住むことに反対する理由はあるだろうか?
ソフィア隊長には、色々とこの世界の事を教えて貰う上で、私達と一緒にいるのは都合が良い。
幸い大きな家、というかお城をヘデラが建ててくれたので、住人の一人や二人増えた所で住む場所なんかどうとでもなる。
それに人間の友達が増える。
つまり無い。
寧ろ私としては大歓迎である。
「私はいいよ」
「私も別に構わないわよ」
「お二人が宜しいのでしたら、わたくしも構いません」
「え、いいのか?」
エディルアとヘデラも良いのなら、最早何も問題は無い。
新しい仲間の誕生である。
終焉邪龍、真祖のメイド、ときて、やっと私のよく知る種族、人間である。
きっとこの世界の人間だから、私の知る人間とはかけ離れた身体能力とかしているのだろうが、それでも何か安心感を覚える。
私がそんな事を考えていると、隣で聴いていたブラン隊員が、不安気に尋ねてきた。
「隊長どういう事です?まさか……」
まさか……?
何だろうか、その気になる言葉の区切り方は。
そこはかとない不安を感じさせる。
「何か訳あり?」
そう尋ねた私に、ソフィア隊長は悲しみと気まずさの綯交ぜになった表情で応えた。
「……ああ。実は先日、お父様……領主様から話しがあった。今回の遠征任務が失敗したら、私の隊長の任を解き、隊を解散すると。今度こそ私は、伯爵家から爪弾きにされてしまうだろう……」
そうして、ソフィア隊長は自らの身の上を話しだしたのだった。