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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、異世界へ行く
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アリスさん、魔法を知る

しかして、ソフィア隊長はそれを見送ると、一人の隊員を引き連れて戻ってきた。


「お待たせした。それと、信頼出来る私の側近を一人連れてきた。野営するなら彼が隊で一番頼りになる。こき使ってやってくれ」


「ブランと申します。隊員共が大変な御無礼を働いたようで、申し訳ございませんでした。街に帰った後、無礼を働いた隊員には全員処分するつもりです。それと……隊長の命を取らずに頂いた事、感謝致します」


そう言って跪き深々と頭を下げるブラン隊員。

三十代程の真面目そうな男性である。


まともそうな人だ。


何故こんなまともそうな隊長と隊員がいるのに、他の隊員はチンピラみたいな者達だったのか。


「彼も私と共に後から来た隊員の一人なんだ……こいつを悪く思わないでやってくれると嬉しい」


なる程、隊長に付き添っていたのか。


もしかして、まともそうな隊員は全員隊長に付き添っていたから、あんなヤンキー集団だったとか?それは笑える。


「そういう事なら、私は気にしないわ。貴方も大変ね」


「アリス様達に無礼の無い限りは、わたくしも特に思う事はございません」


「私も気にしない」


それよりも、ここに来て私は忘れていた事が一つあった。

発動準備が完了したまま放置していた、辺りを吹き飛ばす魔法である。


何か、魔法に使う為に固定してある魔力がさっきから私の中で暴れているのだ。

どういう状態なのかは分からないが、よろしく無い状態なのは分かる。


「そんな事はさておき、私が発動準備した状態で放っておいてる魔法、そろそろどうにかしないとなんかヤバイ気がする」


「……どうやら、魔力暴走一歩手前のようですね。その辺に放ったらどうですか?」


そしてヘデラに確認して貰うと、どうやら魔力暴走という物になりかけているらしい。

きっと魔力が暴走してしまうのだ。

良く分からないが、やはり暴走というからには、なったらやばいのだろう。


しかし魔法をその辺に放とうにも、この魔法は「広範囲を跡形も無く燃やし尽くして吹き飛ばす魔法」である。

それをその辺にポイするのは気が引ける。


何せここは一応、人が通る道の近くなのだから。

今思えば、広範囲と言うのがどのくらいの広範囲なのかも分からないのだから。


「意味もなく自然破壊するのはなぁ……。ちょっと異空間作って放って来る」


何も無い異空間に魔法をダストシュートである。

環境に優しい。


「私も見たいわ」


「いいよ」


「ではわたくしは家を作っておきます」


ヘデラはそう言って、シュバルツと一緒に行ってしまったので、私は適当に広くて頑丈な異空間を創り上げてそこに繋げるゲートを目の前に開く。

どこでもトビラみたいである


ぽっかりと目の前の空間に穴が空き、その向こう側には何処までも続く真っ白な空間が広がっている。

神様がいた白い場所と似ている。


「なッ……何だ??この、魔法か!?」


「時空魔法でこの世界とは異なる時間軸と空間軸を創り出して、そこに空間を作ってここと繋げた。略して異空間」


「ええ……何がどうなって……」


「ほら、貴方達もいらっしゃい。凄い魔法が見られるわよ」


そんな事を言って背を押すエディルアに困惑しながらも、ソフィア隊長とブラン隊員も恐る恐ると、私に続いて異空間に入る。


そして四人共異空間に入った事を確認して、繋いでいたゲートを閉じた私は、早速遠く離れた場所に向けて、広範囲を跡形もなく燃やし尽くして吹き飛ばす魔法を発動した。


「じゃあ下がっててね。『破壊の彗星コメット・オブ・ディストラクション』」


私が、えいっ!とやると、離れた場所の上空(この空間に空は無いのだが)に直径3km程の馬鹿みたいに巨大な赤色の魔法陣が現れた。

そしてそれが砕け散ったかと思うと、ゆらりとその魔法陣と同じ直径の、球体形の空間の歪みが生まれる。


空に浮かぶ、どデカい陽炎のようである。

この空間自体が何処もかしこも真っ白なので、非常に分かりにくいが、ゆらゆらと表面の空間を歪めている。


そんな物が現れた次の瞬間、とてつもない轟音と爆風、熱炎を辺りに撒き散らしながら、その球体が地に落ち、砕け散った。


見た目は降ってきた透明の隕石が、地面に衝突したようだ。

恐ろしい。


そしてその爆発は急速に中心に向けて収束してゆき、全てが跡形も無く消え去った。


一瞬の出来事である。


「もう終わり?何だか、何も無い空間じゃいまいち迫力に欠けるわね」


少し不服そうにするエディルアの、そんな感想も一理ある。

一面真っ白な何も無い空間なだけに、距離感も分かり辛い。背景か何かあったほうが良いだろう。

今度何か作ってここを魔法を試す場所にしよう。


何て思っている間、ソフィア隊長とブラン隊員は、


「んなッ!?なななな……ッ!!何だ!!?何だ今の!!」


「わ、私は夢でも見ているのでしょうか……」


などと、魔法の世界の住人らしからぬ事を言って驚いていた。

おかしな人達だ。


魔法を見るなんて日常茶飯事なんじゃないのか?と、尋ねると、あんな魔法は見たことが無いと言う。


「原初魔法、第七位階固有魔法の『破壊の彗星コメット・オブ・ディストラクション』広範囲を跡形もなく燃やし尽くして吹き飛ばす魔法だって。見たまんまだったね」


「げ、原初魔法!?それに第七位階など……。神話やお伽噺の中の魔法ではないですか……」


「い、今の魔法が……それだと?」


神話やお伽噺だなんて、こんな世界に住んでいながら何を……。

私からすればこの世界そのものがお伽噺のようである。


「そうだよ。もう一回見る?」


「今度はもっと派手なのにしましょうよ」


派手なの。

さっきのは何がどうなったのか解りにくかったからな。


何だか私の魔法お披露目会の様になりつつあるが、エディルアがいた森では「派手そうなの」は試せなかったので丁度良い。

また突然森が消し飛んだりしたらと思うと、森に申し訳無かったのだ。


「派手なの……絶対零度の聖域フロースト・サンクチュアリ


説明だけで派手そうな固有魔法を選んで発動する。


私が、えいっ!とすると、またもや前方に巨大な魔法陣が出現した。今度は地表を覆う直径300m程の蒼く輝く綺麗な魔法陣である。


軈てそれが薄れて消え、魔法陣のあった場所の空中にキラキラと細かな氷の結晶が出現した。


見たことはないが、アイスダストみたいな感じである。キラキラと煌いて、とても綺麗だ。


そして、それは宙を漂いながらも次第に地に落ちて行き、その結晶が落ちた端から地面が凍り始めた。

見る見るうちに地表は透明な蒼く輝く氷に埋め尽くされ、軈て氷は草を、花を、木々を形作って行く。

最後には恐ろしく美しい、蒼く輝く自然が広がっていた。

氷で出来た虫や動物までが戯れる、その様は正に聖域と呼ぶに相応しい。


これは凄い。

綺麗だし、中々に派手である。


「魔法を発動した者に、害意を持つ者が踏み入れた瞬間凍り付く不解の聖域らしい。第九位階の原初魔法」


「わぁ、これは綺麗ねぇ。ねぇ、もっと見せてよアリス!」


「いいよ。後、派手そうなのは……贖罪の神槌(アトンメント・トール)


何だか楽しくなってきた私は、次から次に派手そうな魔法を放っていく。


派手な魔法を発動させると気分がスッキリする。

何せ見ていて迫力があるし、そんな魔法を発動した私も気持ちが良い。

新しい娯楽とストレス発散法を見つけた気分である。


「きゅ、九位階!?こんな魔法を今の一瞬で!?詠唱もせずに連発を!?」


「ああ……何が何だか」


「た……隊長!いったい何なんですかあの方は!」


「……分からん」


なんて言っている隊長と隊員は無視して、私は散々派手そうな魔法を何も無い空間でお試し発動し続けたのだった。


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