アリスさん、マイホームを知る1
「貴女、何だか大変ね。ねぇ、アリス。お詫びなら彼女にこの辺の事とか色々教えてもらいましょうよ。私達知らない事多いから丁度いいわ」
なる程、それは良い案である。
リアデまでの案内役兼、この世界のツアーガイドでもしてもらおう。
「それはいいね。お願い出来る?」
「ああ、そんな事ならお安い御用だ。もう夜も遅い。先に村まで案内しよう」
村というのはさっきの話で出てきた村だろう。
ソフィア隊長は私達をそこに案内してくれるらしい。
しかし、それを聴いて不思議そうにするのはエディルアとヘデラである。
「別に村に行かなくても、ここで良いんだけど……ああ、人間は夜眠らないといけないものね」
「何とも、人間は不便ですね。」
まあ、私達は眠らないものね。
と言うか、吸血鬼である私とヘデラは何方かと言うと夜行性である。
夜の方がほんのちょっとだけ調子が良くなるのだ。
しかしその何たら村に行くのは良いが、私達には不安要素が一つあった。
「その村はシュバルツ……このコカトリスを連れて行っても大丈夫?村人に怒られない?」
「実はずっと気になっていたのだが、この……コカトリスは、貴方がたの従魔なのか?見た限りとても懐いているようだが……」
「そう言えば、このコカトリスって、隊長達が探してたんだっけ?さっき捕まえて、ヘデラの眷属にしちゃったんだよね……まずかった?」
「つ、捕まえた……?眷属……と言うのは分からないが、さっきテイムしたと言う事か?コカトリスを、しかも見た事のない変異種をテイムするなど……とんでもない凄腕のテイマーなのだな」
「テイムが何かは分かりませんが、今はわたくしの可愛いペット、名前はシュバルツちゃんです。アリス様の命で眷属化したのですから、誰にも渡しませんよ」
ヘデラは大分このコカトリスを気に入っているようである。
今も頭を擦り寄せてくるシュバルツを優しい笑顔で撫でている。
こうして見る限りは優しそうな美人のお姉さんなのであるが……。
「いや、貴方の従魔になったと言うのなら我々は問題無い。幸いそのコカトリスも目撃例だけで被害は報告されていないからな。……しかし、そのコカトリスを村に連れて行くのは止めたほうがいいだろう。従魔とは言え、コカトリスはAランクの魔物だからな。村人がパニックになり、貴方がたに被害が及ぶやもしれん。少なくとも確実に騒ぎになる」
じゃあ駄目じゃん。
果たして鶏如きでパニックになるのだろうか。とは思うが、きっと大きいからだろう。
ちょっと暴れれば家とか破壊しそうだし。
そもそも魔物は人類の敵だとか何とか神様も言っていた。
「本当人間は面倒ね。大きい鳥如きで何なのかしら」
「全くです。こんなに可愛いというのに」
「やっぱり私が異空間作ろうか?」
最早、それが一番手っ取り早い解決手段だろう。
何ならその辺の動物を適当に捕まえて、一緒に入れておけば餌にも困らない。
「どうせならここに家を建ててしまうのはどうでしょうか。私に任せて頂ければ数分でアリス様に相応しい豪邸を用意致します」
好物だという何とかラビットはその辺にいるのだろうか?などと私が考えていると、ヘデラがそんな事を言い出した。
ここに家を建てる。
なる程家か……。
豪邸は要らないが、家は欲しいかも。
土魔法か何かを使えば楽に造れそうである。
何と、土魔法を使えば土や砂、岩の加工なども自由自在。岩の塊から鉱物だけ抽出したりとか、一瞬でレンガみたいなものとか作れちゃう事が判明しているのだ。
原初魔法の(Lv.)が最大の私は言わずもがな。
ヘデラも土魔法が(Lv.9)なので、石造りの家を建てるくらいお茶の子さいさいだろう。
流石は魔法の世界。
簡単に夢のマイホームが建てられてしまう。
きっとこの世界には大工さんはいないに違いない。
「それはいいわね!ここからなら街へ行くのも飛んでいけば一時間くらいで着くでしょうし、なんならアリスが時空魔法で街に繋げるゲートでも作ってくれれば労なく毎日家と街を往復出来るわ。落ち着ける拠点があるっていいものよ」
そう、時空魔法はそんな事も出来ちゃう。便利過ぎるね。
家を造って、そこでソフィア隊長にゆっくりこの世界のお話を聴けば良い。
そして、シュバルツは鶏小屋みたいなものを近くに作ってそこにいてもらえば良い。
一石二鳥である。
「良いね家。そうしよ」
私は家具でも作るかな。ベッドとか。
しかし、土魔法じゃベッドは作れない。石の台みたいになってしまう。
いっその事、一度しか使えないという魔法創造でそういう魔法を作ってしまうのはどうだろうか。
家具を作る魔法。
勿体ないかな?
一度だけ新しい魔法を創り出す事が出来る「魔法創造」という私のスキル。
「一度だけどんな願い事も叶えてあげます」というのに、「じゃあ願い事いっぱい叶えて」と返す。みたいな事をしたかったのだが、「自由に新しい魔法を幾つでも創れる魔法」みたいなのは創れ無かったのだ。
一度だけだからこその夢やロマンという事だろう。私にもそれくらい分かる。
そんな魔法を私にくれるなんて、神様も粋ではないか。
「あ、あの……いったい何をするんだ?」
そんな中、一人蚊帳の外にされていたソフィア隊長が困惑気味に尋ねてきた。
家を建てるのだ。
土魔法、知らないのだろうか?
「家を造るのよ。そんな事より部隊の人達は村に帰らないのかしら?それとも貴方と一緒に残る?正直目障りなんだけど」
「い……家?……此処に?今からか?」
「その通りです。貴女の隊の方達が邪魔なので何処かに行くよう言って頂けますでしょうか?一度ここ一帯の土を根こそぎさらいますので、あのままあそこに居られると穴に落ちて死んでしまいますよ」
エディルアもヘデラも、ソフィア隊長の隊員達にはあからさまに辛辣である。
きっとそれ程腹が立っていたのだろう。
何せ自分達を殺そうとした人達なのだから、気持ちは分からんでもない。
「?うん……あ、ああ。何かよく分からないが、コカトリスの報告と、全員リアデに帰るように伝えてくるよ」
すまないが、少し待っていてくれ。と言って、隊員の元に走っていったソフィア隊長は、隊員の数人と話込み、全員に街に帰るよう言うと、やがて鎧の大群は仲間の死体を持ってガチャガチャと元来た道を引き返して行った。
何だか呆気ないものである。