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アリスさんはテンプレを知らない  作者: 干木津上
アリスさん、異世界へ行く
21/89

アリスさん、隊長を知る

その時である。


「止めろ!!止めてくれ!!武器を下げろお前等!!」


取り囲む鎧の人達を掻き分けつつ、そんなことを叫びながら、一人の鎧姿の人間が前まで躍り出て来た。

その声を聴く限り、どうやら女性のようである。


何だろうかと見ていると、どうやら私に斬り掛かろうとしている人達を止めているようだ。


突っ込んでくる人がいなくなったので、私は取り敢えず首切りを止めてその様子を眺めるが……どうしたものだろうか。


「あら?何かしら、今更謝る気にでもなったのかしら?」


「どうだろう?まあ、謝って許さない程、私も鬼じゃない。と言うかさっさとどっかに行って欲しい」


「自らに剣を向けた相手をお許しになるなんて、アリス様は本当にお優しい……。しかし、アリス様がお許しになられても、わたくしが許しません。それにアリス様は見たところ魔法の発動準備を終えてしまっているようですので、手遅れですね」


そう、今更止めに来ても遅い。

何せ、私はもう魔法の発動準備を終えてしまったのだ。

後は魔法を放ちたい方向を決めて、えいっ!とやるだけである。

今更キャンセルは出来ないのだ。


「そうね。しかしアリスのその魔法。また凄い魔力量ね」


「面倒くさいからここら一帯吹き飛ばそうと思って」


そんな話をしながら、前方の鎧集団を見ていると、私に斬り掛かろうとしていたらしい一人が、止めに来たであろう女性に渋っていた。


「た、隊長!しかしこいつ等は……ッ!」


なんて言っている。


鎧の女性は隊長であるらしい。


隊長と言うことは多分この鎧集団の長なのだろう。

今までどこで何をしていたのか。

ちゃんと部下の面倒を見ろと言いたい。


「黙っていろ馬鹿がッ!!」


しかして、隊長がそう言なからその男を殴り倒した。

即頭部に強烈な一撃である。


殴られた男はヘルムを凹ませて地に伏し、体を痙攣させている。

大丈夫だろうか?

死んだんじゃないか?


そんな隊長を見ていた他の鎧の人達も余りの迫力に気圧されたのか、言われた通りに手に持った武器を下げた。

全員が隊長に従いそれぞれの武器を収めるのを見届けた隊長は、私達の前まで悠然とやって来くると、何故かヘルムと銅に着けていた鎧を脱いでその場に跪いた。


唐突に何をしているのだろうか。


またわけの分からない人が出てきたようだと思っていると、跪いて頭を下げたままの隊長が話しだした。


「私の隊の者共が大変失礼した。私はこの隊の長をしている、名をソフィア・ヌーヴェルという者だ。貴方がたへの無礼を侘びたい。隊の不始末は私の責任。どうか、私の首で他の者達は許して頂けないだろうか」


深々と頭を下げながらそんな事を言うソフィア隊長。

部下の不始末を自分の首で許して欲しいと言う。


鎧を脱いだのは今ここで自分の首を刎ねろということか……。


まるで時代劇か任侠映画のようである。


「殊勝な心がけですね。いかが致しますか?先程は、アリス様がわたくしとエディルア様の事を思い、闘って下さっていましたので手は出しませんでしたが、わたくし的にはアリス様を貶めるような発言をした者、アリス様に武器を向けた者は、今すぐにでも殺したいのですが」


「私はどっちでもいいわ、アリスに任せる。何ならこんな奴ら全員殺しちゃえばいいわよ。私が許すわ」


二人共そんな事を言っちゃう所を見るに、余程腹が立っていたのだろう。黒死の破滅龍に皆殺しのお許しまで頂いてしまった。


物騒な世の中である。


さっきまで殺しまくっていた奴が何を、とは思うが、別に私は好き好んで人を殺したい訳では無い。

私達を殺しに掛かって来たので殺しただけである。

やむ無し、自業自得である。


なので何もしてこないなら殺すなんて事はしない。私は殺人鬼でも蛮族でもないのだ。


しかして、謝ると言うのなら、許してあげるのが人情というもの。隊長の首なんて貰っても困るだけである。


「別に隊長の首なんて要らないし、謝るなら私は許してあげる。自衛とは言え、隊の人達殺しちゃってごめんね」


我ながら人を殺しておいてごめんねはどうかと思うが、何せ何の罪悪感も感じないのだ。

この人達がここで死のうが生きようが正直どうでも良い。

というか、気が済んだなら早くどっかに行って欲しい。


人の命が軽い等とあの神様は言っていたが、私の中でも人の命が軽くなってしまったようである。

そしてそのことに対して特に何とも思わない。


体感では数日前まで虫も殺せぬような、ごく普通の今時のJKだった筈なのに、不思議なものである。


「許して頂けるのか……?」


隊長は恐る恐る頭を上げ、私を見ながら何処か意外そうにそんな事を言う。


私の背が小さいのか、隊長が大きいのか、座った状態の隊長と立った私の身長がほぼ同じ事に、私は少しの侘しさを感じる。

私はもう身長が伸びることは無いのだ。


何だか悲しくなってきた。


そんな事はさておき、初めて正面から見たソフィア隊長の顔は、濃い金髪のロングヘアが似合う、キリッとした顔立ちのこれまた美人さんだった。

胸も大きい。


いや、胸は今関係ない。


「いいよ、別に。ヘデラがあの男を強制的に土下座させたのだって原因だし」


「そう……か……」


何故だろうか。

そういって俯いたソフィア隊長の声は何処か悲しそうであった。


「わたくしはアリス様の前での無礼な態度を改めさせただけです。アリス様の従者として、メイドとしての務めを果たしただけです。しかし、アリス様がそう仰るのならば……大変不本意ですが、これ以上アリス様達に関わらない限り、あの者達を殺すのは止めておきましょう。二度はありませんよ」


さいですか……。

ちょっとその思考回路は私には分からないが、私もあの男の言い様にムカついていたので正直良い気味であった。


「と言うか、私達は何故急に貴方達に絡まれたのかしら?殺気立った大勢で囲んだりして、大人しく従えだ何だと。私達じゃなくても失礼じゃないかしら?」


それは言えている。

そもそもこの人達は何処かに行こうとしていたのでは無いのだろうか。

まさか、私達が目的で大行進してきた訳でもあるまいに。


私達が見ていたから突っかかって来たと言うのなら、私はこの世界の人間とは仲良く出来ないだろう。


「本当に申し訳ない。それは、貴方がたの後ろにいるその……コカトリスが原因だと思う」


そう言って、何処か疲れた表情でソフィア隊長は話しだした。


ここから少し行った所にあるヤタという村でコカトリスの目撃情報があり、領主の騎士団の部隊の一つであるソフィア隊長の部隊が確認の為にリアデから派遣されたらしい。


そして、村に着いて話を聴いてみればつい先程も村の近くで見たと言う複数の話が寄せられた。

それを聴いた副隊長(ヘデラに強制土下座させられた男)が、明日から捜索するという隊長の命令を無視し、こんな暗い時間から勝手に隊を率いて討伐に向かったらしい。


数人の部下と共に村長や村人に挨拶をしていたソフィア隊長はその事は知らず、挨拶を終えて村人に自分の部隊がさっき討伐に向かった事を聴き、共にいた部下共々慌てて追いかけて来た。

しかして、少女とは思えない程に恐ろしい殺気を放つ私に、何故か周りを取り囲んだ隊員が自棄のように斬り掛かろうとしては、謎の魔法で片っ端から首を斬り飛ばされ殺されていく場面に出くわしたわけである。


その後方で腰を抜かして怯えきっていた隊員達に事情を聴き、事のあらましを知ったソフィア隊長は呆れつつも、隊長として部下の尻を拭う為、死ぬ覚悟で止めに入り今に至るという。


そんな事を肩を落として話す彼女の話を聴く限り、一番の被害者は彼女かも知れない。


正直同情する。

肩を叩いて「元気出せよ」と言いたくなってくる。


そして、この鎧集団が騎士団だった事に驚きである。

良く知らないが、騎士って昔の軍隊みたいなものだろう。


こんな奴らが軍……ハハッ色んな意味で笑える。


「私の管理不行き届きだ。本当に申し訳ない。貴方がたのような可弱い女性に大勢でよって集って酷い事を口にし、剰え斬りかかるなど……我が隊の恥だ。どうか、何か謝罪をさせて頂けないだろうか。このままでは私の気が収まらない」


そしてそんな事を言うソフィア隊長。


何て常識人、何て良い人なのだろうか……。


あの土下座男達とは大違いである。

まともそうな人間もこの世界にいた事を知れて、少し嬉しい。


というか、何かこの隊長が可哀想になってきた。


別にお詫びとかはいいのだが、気が収まらないのなら何かしてもらうかな?お金でも貰おうか?


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[一言] ·······あの、魔法は····?
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