アリスさん、異世界転生を知る
「いやー、ごめんね。何か最近ここに来る子達は妙にその辺の知識が豊富でさぁー。チートだのスキルだのにガメついんだよね。君みたいに、本当に何も知らない子って全然いなかったんだよ。て言うか初めてじゃないかな?」
「はぁ……そうなんですか?」
「そうだよ!最近は特に酷い!『貞操観念逆転の世界が良い』だとか、『転生じゃなくて勇者召喚が良かった』だとか、『なろうじゃなくてノクターンが良かった』だとか、そんな文句ばっかり言ってくるんだよ!まあ、そういう奴に限って魂のランクはショボいから、しょうもないチート適当にあげて適当な世界に放り込むんだけどね」
「……何か良くわかりませんが、神様も大変なんですね」
「ああ!分かってくれるかい?君はいい奴だね!!」
さて、私は今、絶賛興奮中の神様みたいな男の人に愚痴……基、懇切丁寧な説明を受けていた。
否、本人曰く、幾つかの世界を管理して束ねている、正真正銘の超偉い神様であるらしい。
そして、そんな神様の話を聞く限り、風呂場で転んで死んだ私は天国にも地獄にも行かないのだとか。
というかそんなものは無いと言われた。
何だかガッカリである……。
では人は死んだらどうなるのか。
普通は二種類のパターンがあるらしい。
輪廻転生か魂の消滅か。
輪廻転生とは新しい生命として生まれ変わり、何処かの誰かとして新たに赤ん坊から生きていくこと。
因みに基本的には人の魂は人にしか転生しない。猫に生まれ変わったり、鳥に生まれ変わったりは出来ないそうだ。
これも何だかガッカリである……。
そして、魂毎に輪廻転生する回数が決まっているらしく(人の魂で平均大体10回くらい。)、それを超えると魂は消滅し、新しく別の魂が生まれるそうだ。
そして、その二つのパターンに入らない、特殊な魂がごく稀に存在する。
魂の消滅期限が来ても消滅しなかったもの。
そんな魂はランクが上がるらしいのだ。
魂のランクが上がれば、それと同時に器となる肉体のランクも相応に上がる。
具体的に言えば頭の回転が早かったり、絶大なカリスマ性を持っていたり、他人より整った外見をしていたり。
世の天才や偉人と呼ばれる人達の中には、そんな「魂のランクが他人よりちょびっとだけ高い者」もいるらしい。
まあ、それくらいなら何も問題無い。
ほんのちょびっとだけ他人よりも下地が優れている程度であるから。
問題はほんのちょびっとだけで済まない程、魂のランクが上がってしまった場合。
そんな魂が輪廻転生をするのはとても難しい。
とても難しいというだけで不可能では無いのだが、その場合現人神が降臨したと大騒ぎになったり、周りの人間が勝手に殺し合いを始めたり、下手をすれば人類が滅亡したりするらしいのでオススメはしないのだとか。
そしてそうならないように、そんな規格外の魂を持っていても問題なさそうな別の世界に、特典として魂のランクに見合った肉体を与えて送るらしい。魂の島流しである。
さて、お気付きかも知れないが、そんな問題児的な魂を持っているのが、何を隠そう私であると言うのだから驚きだ。
正直疑問は尽きないのだが、そういうものなのだと神様に言われては何も言えない。
どうせ詳しく説明されても理解出来ないだろうから別にいい。
私に哲学は難し過ぎる。
「で?どういうチートが良い?君は魂のランクが結構上がっちゃってるから、いろんなチートが貰えるよ。ていうか、ぶっちゃけこれから行く世界の低級神くらいになら成れるんじゃないかな。僕が今まで見た人間の魂の中でダントツだね」
「はぁ……。よくわかりませんが、普通じゃだめなんですか?」
「君はもう普通には成れないよ。と言うよりも、既に普通じゃない。魂のレベルが上がったってことは君という存在が既に変質してしまっている。より高い存在としてね」
……ワオ。
神様に普通じゃない呼ばわりされてしまった。この場合、喜べばいいのだろうか?
しかし、そんなこと言われたとて、実感も何も沸かない。が、神様がそう言うのならそうなのだろう。
私はもう普通ではないらしい。
しかし、チート?等という特典が貰えるのはいいが、それがどういうものかすら分からない。
そもそもその違う世界というのがどういう世界なのかも分からない
。
確か剣と魔法の世界とか言っていたか。
……はて、剣はいいとして、魔法?
もしかして魔法が使えちゃったりするとか?
杖をふって石ころを宝石に変えたり、ホウキに乗って空を飛んだり出来ちゃうのだろうか?
はたまた、魔法陣的なもので生贄に山羊を捧げたりするのだろうか?
それは何だか楽しそうである。
魔法の世界。良いじゃないか。
等と、浮かれ気分になった私は神様に尋ねた。
「その異世界ってどんな世界なんですか?」
「僕が管理する35番目の世界だね。君の知っている人間族と、獣人族やエルフ族、ドワーフ族なんかの亜人種と呼ばれている種族。それと魔法の能力に優れた魔族と呼ばれる人種がいる世界だよ。そして、魔物と人類が日々闘っているね。」
人間族……は人間で良いのだろうか。
…族?
他の人種は聴いたことが無い。北京原人とかそういうやつだろうか?
「闘ってる?その、魔物……というのは?」
「魔物っていうのは、一言でいうと凶悪そうな怪物かな。魔素と呼ばれる物質が集まって形作られた存在だよ。村を襲って人を攫ったり、畑を荒らしたり、強力な個体だと街をメチャクチャに破壊したりする。言ってみれば害獣かな。だから、人々は日々魔物と闘って、殺したり殺されたりしてるよ。……ドラゴンなんかが君には分かりやすいかな?」
「ドラゴンですか……?それと、闘うんですか?」
テンションガタ落ちである。
思わず及び腰になる私はきっと正常だ。
だってドラゴン。龍だ。
龍がいるだけでも驚きなのに、それと戦うなんて正気じゃない。
なんて物騒な……。
魔物だなんて恐ろしい存在がいるなどとは聴いてないし、殺したり殺されたりとか、そんなのとは出来れば関わり合いにはなりたくない。
「……他の世界はないんですか?」
「君が普通に暮らせる中では、この世界が一番まともなんだよね。他だと……住んでた星が戦争で汚染されて、死にものぐるいで宇宙人と闘いながら他の星を開拓してたり、人工知能が人間を家畜化してたり、神々と絶賛戦争中だったり……碌なのが無いね。まあ、安心してよ。ドラゴンなんて滅多に人の前に現れないから。それに、一部では神聖化されてたりするし、人がドラゴンと闘うなんてことは滅多にないと思うよ。でも魔物と闘うことはあるだろうから、そういうスキルとか魔法とかはマストだね」
何てハードな選択肢。
神々と戦争なんてその世界の人類は一体何をしたのか。
しかし、そうなると怪物がいる世界が確かに一番まともそうではある。
しょうがない。
来世の私よ頑張れ。
「そうですか……えっと、私も魔法が使えたり……するんですかね……?」
「バッチリ!古代の魔法から最新の魔法までなんでも御座れさ!もちろん無詠唱もついてくるよ!」
魔法が使える!それは面白そう。
ホウキで空を飛ぶなんてのは、誰しもが映画なんかで見て憧れたことがあるだろう。
それに魔法が使えるなら、魔物とかいう怪物に出遭っても少しは戦ったりできるのでは無いか?
まあ、好き好んで闘おうとは思わないが。君子危うきに近寄らず、されどもいざという時抗う術はあったほうがいいだろう。
何せ目に見えた危険が分かりやすい形で存在しているというのだから。
「で、話は戻るけど、君が向こうの世界でやりたいことを言ってよ。僕がオススメのチートを見繕ってあげるからさ。まずは性別と見た目かな?どんな見た目がいい?勿論美系なのは外せないよね」
私が多少乗り気である事に気付いたのだろう。神様がそんな提案をしてきた。
「神様のオススメ」である。
字面だけ見るととてつもない安心感がある。
まあ、自分で決めろと言われても良くわからないし、この神様、何だかんだで親切そうだし、任せても問題無いだろう。
寧ろ意見を聴いて取り入れてくれるなんて、有り難い限りである。
しかし、見た目とか性別も決められるとは……何というか、贅沢だ。
人が生まれながらにして持っている天性のものをイジれるなんて、流石神様である。
きっと、何処かの知らない夫婦の間に産まれるのだろうが、遺伝とかは大丈夫なのだろうか?
まあ、神様の言う事だし気にする必要な無いのだろう。
来世の自分の為に、ちょっとでも恵まれた身体にしてあげようと思う。
「スタイル良くなりたいです。それと、私実は外見で周りから嫌われてたみたいなんで、皆に好かれるような外見がいいです。性別は女のままで」
全く成長しない子供みたいな身体がコンプレックスだったので、この際誰もが羨むナイスバディーに成りたい。なんとも贅沢な注文だ。
前の人生では彼氏どころか、友達と呼べる人間すら数える程度だった。
今度の人生では仲良く会話したり、買い物に出掛けたり、一緒に遊んだり出来るような友達を作ろう。頑張れ私。
「なる程なる程。まあ、今のままで見た目は十分愛らしいと思うけどね。じゃあなりたい人種とか種族はある?外見からいけばエルフがダントツに麗しいよ。魔法も精霊魔法のエキスパートだし」
「精霊、魔法……?種族……。丈夫で健康で長生きなのがいいです。後、運動音痴じゃない方が嬉しいです」
人種なんて、エルフだの何だの言われても分からない。
場所によっては人種差別なんてものもあるかもしれないが、産まれる前からそんな事気にしてもしょうがない。
神様にお任せである。
「おっけー!後はスキルと魔法だけど、何かやりたいこととかあるかな?」
「空を飛んでみたいです」
「お、いいねー!じゃあそれ関連を弄っておこう。後は?」
後は特に無いかな?
あんまり贅沢を言うのも何だか……。
お金持ちに成りたいなんて、なんか俗っぽくて神様に言うのは憚られる。
「後はおまかせします」
「分かった!じゃあ魔法は全載せマシマシに、スキルも僕のオススメで限界まで上げちゃおう!それにオマケに僕の加護もあげて、更にこれと……これもつけちゃえ!……さて、直ぐにでも送れるけど、どうする?」
「お願いします」
さあ、新しい人生の始まりだ。
なんて、私は浮かれていた。
生まれ変わる訳だから、きっと今までの記憶は無いのだろうが、次の自分に色々期待をしてしまうのはしょうがないといえる。
何せ魔法が使えると言うのだから。
それにどんなものでも、新しい一歩というのはワクワクドキドキするものだ。
「分かった。最後になるけど。君はあっちの世界で魔物とか人間とかを殺す事になるかもしれない」
「……え?人も殺すんですか?……戦争とか?」
「いや、今は大きな戦争なんかは起きてないよ。あっても小競り合い程度。盗賊とか柄の悪い連中が多いからね。何せ人死なんて日常茶飯事。人の命が軽いんだ。何に巻き込まれるか分かったもんじゃない。まあ、君の新しい身体なら人類にはまず殺せないだろうけど。核弾頭でも身体半分吹き飛べばいい方だね。誰が何をしても完全には殺しきれないかな」
「……はい?」
私は上がっていた熱が急速に冷めていく感覚を覚えた。
そして自分の耳を疑う。
今、何て言った?と。
「だから、魂自体にグロ耐性や恐怖耐性、各種異常耐性なんかをもろもろつけておいて、生き物を殺す忌避感とかも無くしておいてあげるね。殺すのに躊躇していたら、自分がやられちゃうから。『殺される前に殺せ』だよ。身体の方にも一応つけてるけど、もしかしたら魂自体が病んじゃうかもしれないから。以前との感情や精神の起伏の違いに初めは驚くかもしれないけど、まあ徐々に慣れてくると思うから。新しい身体の確認がてら魔物を見つけて数匹狩ってみるといいよ。では、良い人生を〜!」
「え、ちょ……ま!」
私は暗くなる視界の中、抗議の声を上げた。
何それ、聴いてないんですけど!と。