アリスさん、スキルを知る1
「街に行く前に、アリスの能力を一通り確認していきましょうか」
聴いてみるとエディルアも冒険者が何かは分からなかったが、取り敢えずその手紙にあった神様のアドバイス通りに、私達はリアデという街に行く事にした。
が、その前にやるべき事があるとエディルアがそう提案したのだ。
曰く、彼を知り己を知れば百戦殆うからず。と。
途中で強い魔物に出会ったら面倒だから、闘う方法くらい、せめて魔法の使い方くらいは確認しておきましょう。ということである。
「はい。何をすればいい?」
「能力値は見透す石版や水晶が無いと分からないから置いておくとして、やるのはスキルの確認ね。ステータスを出してくれるかしら?」
私は言われた通りにステータスを目の間に現して、二人でそれを見る。
ーーーーーーーーーーーーー
名前:アリス
種族:真祖
性別:♀
年齢:1
職業:濃血を操りし者
識別:始まりの真祖
レベル:1
称号:創造神のお気に入り
転生者
不滅
始まりの真祖
魂の超越者
夜闇を統べる者
唯一の存在
全裸の放浪者
黒死を解き放ちし者
人類の敵対者
魔力:86658209371/86658209371
スキル:始まりの真祖
呪耐性(Lv.MAX)
時空魔法(Lv.5)
魔法創造
原初魔法(Lv.MAX)
無詠唱
飛行魔法(Lv.MAX)
アイテムボックス(血の収納)
環境順応(中)
不汚
装備:アリスの衣装一式
加護:創造神の加護
ーーーーーーーーーーーーー
「改めて見ると凄いわね……。特に魔力値があり得ないことになってるんだけど。レベル1でこれっておかしいわよ」
エディルアが私のステータスをしげしげと眺めながら、そんなふうに呟く。
確かに「魔力」という項目は凄い桁の数字が並んでいる。
約八百億だ。
魔力量の詳細を見てみれば、人間の成人男性の平均が約300とある。エディルアも六百万程なので、確かに多いのかもしれない。
魔法を使う時に魔力を使うらしいので、もしかすると魔法に興味があった私に神様が気を利かせてくれたのかもしれない。
多いに越したことは無い。ありがとう神様。
「まあ、今はスキルの確認ね。上から順番に内容の把握、使い方の確認をしながら、一つずつ試していきましょう」
「はい先生」
ではまず一つ目。
スキル 「始まりの真祖」
このスキルは、各種族毎に持つ種族スキルと呼ばれるスキル郡の中でも、種族として最初に生まれた個体が持つスキルであるらしい。
幾つものスキルを併せ持ったスキルである。
内容は、総ての真祖と吸血鬼を束ねる能力。
これは、現在私以外に真祖も吸血鬼もいないので試しようがないが、全ての真祖と吸血鬼に対する絶大的なカリスマと指揮能力を持っているらしい。
次に、「始まりの真祖」内に含まれるスキル達
スキル 「吸血」
吸血する事により対象の生物、魔物が持つ魔力、生命力を取り込む。
これは一番吸血鬼っぽい。
血を吸うから吸血鬼なのだ。
そして血を吸った相手の魔力や生命力を取り込むという良く分からない仕様である。
下位の吸血鬼や、下位の眷属などは吸血によって魔力と生命力を摂取しなければ生きていけないらしいが、真祖である私の場合、生きていく上で吸血は絶対必要という訳ではない。
つまり吸っても吸わなくても良いと言う事だ。
ただ、自分より強い個体に対して吸血衝動が起こるらしい。
これはより強い個体の魔力に惹かれるという、生物としての本能からくる性質らしい。
よく分からない本能である。
エディルアを見た瞬間理性が吹っ飛んで、気が付けば首筋に噛み付き血を吸っていたのはそのせいである。
エディルアは私よりも格段に強いという事だ。
まあ、ドラゴンだし、神様でもあるらしいし、そりゃあお強いことでしょう。
今もエディルアの首筋とかを見ると、不意に噛み付きたくなってくるので、少し困る。
エディルアは別に私に血を吸われた事は気にしていないらしいが、いきなり血を吸われるのは驚くので吸いたい時は言って欲しいとのこと。
エディルアの血はこの世の物とは思えない程に美味しかったのでまた飲んでみたいので、今度頼んで飲ませて貰うことにしようと思う。
スキル 「血の盟約」
自分の血を取り込ませる事により眷属化する。
眷属は第一世代の吸血鬼になり、能力が飛躍的に上昇するらしい。
つまり自分の使い魔的なものにするという事だ。
魔法使いの側にいる黒猫的なやつである。
「血の盟約か……。エディルアを眷属にする訳にもいかないし、これも試せそうにないかな」
眷属にすると吸血鬼になってしまうらしいし。
第一世代の吸血鬼というのは、吸血鬼は吸血鬼でもまたもや弱点は無いに等しいという。
私の知っている吸血鬼の弱点は、もはや幻だったのではないか。
そうは言っても吸血鬼になりたいなんて物好きはそうそういないだろう。
何せ吸血鬼だ。
なんて思っていると、「あら、私は眷属にしてくれないの?」なんてエディルアが言い出したものだから、びっくりである。
「吸血鬼になりたいの?」
「いいじゃない吸血鬼!3万年前に絶滅した筈の吸血鬼よ?吸血鬼のドラゴンなんてそれこそ聴いたことないし、格好いいじゃない!」
格好いいかはさて置き……。
吸血鬼でドラゴンなんて確かに聴いたことは無いが、ややこしいにも程がある。吸血鬼なのかドラゴンなのかはっきりして欲しい。
剰え、エディルアは終焉邪龍なんていう何だか難しいドラゴンな上に神様でもあるらしいのだから、これ以上詰め込むのは設定過剰というものだ。
「太陽に弱くなったり、ニンニク料理が苦手になったり、血が吸いたくなったりするみたいだから止めといた方がいいよ」
「それくらい何も問題無いわね。ねぇ、眷属になったら何かメリットがあるのかしら?」
「お互いの位置が何となく分かったり、離れていても念話で会話出来たり、私が眷属召喚で召喚出来たりするらしい。後、私の命令は絶対」
「アリスの命令か……。いや……でもアリスに命令されるがままに動くのも、有りっちゃ有りね……」
「私はそんなの嫌だよ」
この世界で初めて出会って、仲良くなったエディルアとは対等な友達として接したいのだ。
命令云々なんて気を使ってしょうがないでは無いか。
「まあ眷属って使いっぱしりみたいなものだしね。そもそもそれくらいのメリットなら、私とアリスなら同じような事出来るわね」
え?そうなの?
お互いの位置が分かったり、念話が出来ちゃったりするの?
魔法って何でもありだな。
「そもそもエディルアだって超希少種じゃん。神様だし。その上吸血鬼になったら個性が大渋滞」
「まあそう言われればそうだけど……でもでも、それとこれとは別なのよ!こういうの、ロマンって言うのかしら?まぁ、けれど仕方ないわね……。吸血鬼になるのはまた別の方法を見つけましょう」
そんなに吸血鬼になりたいのか……。
私には分からないロマンである。
スキル 「血界」
血で結界を作る。
魔力で生成した血を壁のように広げ、任意の範囲を囲い攻撃、魔法から身を守る。
つまり魔力で作った血の中に閉じこもるわけである。
形も強度もお手の物。
しかしこれが試してみると、中からじゃ外の様子がまるで分からない。
指先から血を出し、繭のように自分を包んだまでは良かったが、上下左右360度、何処を向いても視界が真っ赤である。
限界まで薄くしても薄っすらと透ける程度で、見にくいことこの上ない。おまけに外の音さえ聞こえないのだから始末が悪い。
エディルアを血界で包んでみたりもしたが、邪魔くさいとの評価を頂いた。
引き籠る時専用のスキルである。