アリスさん、自分の持ち物を知る
少しして、散々私を撫で回した後に落ち着いたエディルアと共に、アイテムボックスに収納されていた他の物も確認することにした。
木剣、木槍、木杖、木弓矢、木盾は、それぞれ木で出来た武器であった。名前通りである。
これで魔物と闘えという事だろうが、見ためで分かるショボさである。
というか、木で出来た剣とか子供がチャンバラに使うような見た目をしている。
お土産屋で売っている木刀のほうがまだ頼りがいがありそうだ。
「これは要らないな」
「……まあ、魔法もあるし。アリスは殴った方がはやそうね」
要らない子扱いされた木の武器達は纏めてアイテムボックスに収納する。
因みに収納する時は指先から流れ出た血が対象を包み込み、そのまま異空間へ収納。
残った血は逆再生の映像の如く、指に吸い込まれていく。
傍から見れば指から流れ出た血が木の武器を飲み込み、そのまま指に帰っていった。若しくは、私が血を使って木の武器を体内に取り込んだように見えるかもしれない。
何方にしろ、自分の身体が心配になるような不思議な光景である。
初級ポーションは、飲んだり傷口にかけたりすると怪我や傷が治る魔法の薬、初級魔力ポーションは、飲むと失った魔力を補える魔法の薬である。
流石は異世界、薬も魔法使用である。
「アリスも私も再生系統のスキル持ってるんだし、ポーションなんて不要ね」
そういうものなのだろうか。
しかし考えてみれば、超再生とかいうスキルは、身体の損傷を瞬時に治すらしいので、薬を飲もうと思ったら既に怪我が治っている、なんて事もあり得そうである。
というか、爆発に巻き込まれても、木々をぶち割り地面を抉る勢いで吹き飛ばされても掠り傷一つ負わなかった私には、益々不要な気もする。
薬とは何ぞや。
「魔力ポーションは?」
「自分の魔力値見たでしょう?何をどうしたって無くなることなんてないから、それも不要ね。そもそも見た感じそのポーションの保有魔力量80とかよ?」
それを言われると確かに。
私の魔力量は約ハ百億。80だけ回復する薬なんて、海水の塩分を濃くしようとしてひとつまみの塩をばら撒くような物だ。
というか私の場合、空気中の魔素を吸収して変換する方が早いらしい。
なる程、この魔法の薬達も要らない子というわけだ。
否、しかし。
魔法の薬なんて素敵そうなものがどんなものか、少しだけ気になるのも事実。と言うか飲んでみたい。
「ふむ、飲んでみよう」
「……え?飲むの?」
意外そうなものを見るような表情のエディルアを傍目に、私は初級ポーションのビンを開け中身を口に含む。と同時に咽た。
何だこれ……不味い。
味は青臭い草の汁だ。
苦いし臭いし口の中がイガイガする。
良薬口に苦しなんて言うが、これは人が飲むものでは無い。
何が魔法の薬あろうか。不要だな。
私は何事も無かったかのようにポーションのビンを全てアイテムボックスに収納した。
何も無かった事にしよう。
続いて、天秤と剣が表面に描かれた銀貨が5枚。
詳細を知ろうと思い浮かべてみれば、今いる大陸で一般的に使われている貨幣で、銀貨5枚あれば木剣が百本買えるらしいことが分かった。
因みに貨幣は他に銅貨、金貨、白金貨があるらしい。
銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で白金貨一枚である。
木剣一本は銅貨5枚。
物価とかは分からない。
お金である。
私は経済に関心があるわけでも詳しいわけでもないのだ。
そしてお待ちかね、一番気になる「創造神からの手紙」とかいう、可愛らしいピンクの封筒に入った手紙である。
「何だろ。ラブレターかな?」
何て事を言いつつも何か説明書的なものが入っているのを期待して、さっそく開いてみると、中にはこれまた可愛らしいデザインの便箋が入っており、そこには丸っこい字が書かれていた。
『アリスちゃんへ
やっほー!神様だよ。これを読んでいるということは、無事、エディルアちゃんに会えたという事でいいのかな?
テンプレを知らない君が、自力でアイテムボックスの使い方が分かるとは思えないからね。
彼女に色々と教えて貰ったに違いない!
どう?当たった?僕の勘は外れたことがないんだ。
後、アイテムボックスに入っていたものは僕からのプレゼントだよ。服とお金以外はぶっちゃけいらないと思うけど、お約束として一応入れておいたんだ。
さて、今きっと君達はこれからどうしようか悩んでいる筈だ。
そこで神様からのアドバイスだよ。
その森から北東に行った所にリアデという街がある。そこで冒険者として当分のお金を稼ぐと良いよ。
じゃあ元気でね!新しい人生、存分に楽しむと良い!
いつも見守ってるよ!
by.創造神
p.s.エディルアちゃんへ。アレイシアから伝言だよ。「そろそろ貴方も救われて良い筈です。望むのなら、その娘と共に自由に、幸せに生きて下さい。誰に何と言われようとも、貴方にはその権利がある。何も出来なくてごめんなさい。願わくば、貴方の進む先に多くの幸があらん事を。いつも見守っています」』
全く持って期待はずれである。
分かった事は、リデアという街に行くと、よく分からないが冒険者というものでお金が稼げると言うことだけ。
字面からすると探検家みたいなものだろう。
私にトレジャーハントでもしろと?
あの神様は冗談が上手いらしい。
読み終わった私は一息ついて、エディルアに手紙を差し出した。
「エディルアへのメッセージも書いてあった。アレイシアさんからだって」
「……アレイシアから?」
それを聞いた彼女は少し曇った表情で手紙を受け取ると、恐る恐るといった様子で目を通し、次には困ったような笑みを浮かべた。
「……ふふっ。やっぱり神様は侮れないわね。ええ、ええ分かりましたともアレイシア。もう自分を責めるのはやめましょう。随分と長い自己満足になってしまいましたが、3000年も経てば何もかも時効でしょう」
まるで自分に言い聞かせているかのように、ゆっくりとそんな言葉を告げると、彼女は一つ息をつき、何処か吹っ切れた表情を浮かべた。
「それに、貴方に言われずとも、私はもうアリスと共に行くと決めていたのよ?ねぇ、アリス」
「そうだね。今更やっぱりまた引き籠もりますなんて言われたら、流石に面食らうよ」
なによそれ!と頬を膨らませるエディルアに抱きつかれ、また頬を擦り寄せられる。
またかと思いつつも、悪い気はしない。
他人の過去を詮索しない私だって、他人を察して気使うくらいの事は出来るのだ。
だから、笑顔で隠した気になっている潤んだ眼を乾かす間だけでも、好きにさせてあげようなんて思ったりするのは、屈託を感じたくない我儘か、ただの気まぐれなんだろう。