アリスさん、服を知る
「まずは……そう、服ね」
これからどうしようか、という話の中、エディルアがそう切り出した。
「服……」
そう、未だに私は産まれたままの姿だった。
すっぽんぽんである。
「アリスは服持ってないの?」
「持ってたらとっくに着てる……いや。そういえばアイテムボックスとか言うのがあったな……」
何かそこで服のような表記を見た気がした私は、ステータスでスキル アイテムボックスの詳細を見てみる。
アイテムボックス(血の収納):異空間に生き物以外の物体を収納する、または取り出す魔法。空間魔法が扱える必要がある。収納出来る異空間のサイズは空間魔法のLvと所持魔力量に比例する。
中身:アリスの衣装一式×1
木剣×1
木槍×1
木杖×1
木弓矢×1
木盾×1
初級ポーション×5
初級魔力ポーション×5
銀貨×5
創造神からの手紙×1
……アリスの衣装一式×1。
あるじゃないか。
色々入っているのは、神様からの餞別という事だろうか。
全体的に木ばっかりだが。
神様からの手紙も入っている。
「服あった……。エディルア、アイテムボックスって中身取り出せるの?」
「頭の中でアイテムボックスについて思い浮かべれば使い方も何となく分かると思うわよ?」
「頭の中で思い浮かべる……何だかそればっかりだな……」
「魔法なんて想像力と魔力さえあれば誰だって使えるように出来ているものなの。後は得意不得意と経験によるレベルがあるだけ。スキルとして習得してるなら、絶対に使える筈よ」
何か私の思っていた魔法と違うな。
ほうきに乗って空飛んだり、杖をふってかぼちゃの馬車を出したり……。
否、別に良いんだけどね。
思い浮かべただけで色々と出来たり、分かったりするのは甚も不思議であるが、手間が無くて良い。
もっと光ったり、変な図形とか描いたり、意味不明な呪文を唱えたり、山羊の血を使ったりするのを期待していただけに少し肩透かしを食った気分である。
手っ取り早くて良いが、少し釈然としないのも正直な所。
そんなものは所詮妄想や創作の話なのだという事なのだろう。
正しく、現実は小説よりも奇なり。である。
早速アイテムボックスの使い方を思い浮かべてみると、何とも呆気なく使い方や注意事項が分かってしまった。
覚えていないのに、知識が記憶として頭の中に入っているような、例えるならば日記のページの間に百科事典のページが挟まっているような不思議な感覚。
これが魔法の世界の本物の魔法である。
凄いね。
「何か血の中に異空間を繋げる……。取り出すには……こうかな?」
早速理解出来たアイテムボックスとやらを試してみようと、取り敢えず異空間の中身を全て出してみる事にした。
魔力で作った血液を体内に生成し、それを指先から流れ出すように放出する。
見た目は裂けた指先から血が滝のようにドバドバと垂れている状態だ。何とも心臓に悪い光景である。
流れ出た血を空中で集め大きな血液の水玉を作り、その中に異空間を繋げる。後は異空間に収納した物を血液内から取り出せば良い。という事らしい。
何故わざわざ血液を挟む必要があるのかは分からないが、こういうものなのだろう。
「ふむ……理屈とか理論とかさっぱり分からないけど出来る。やっぱり異世界だからかな。凄いな」
一抱え程の宙に浮く血の塊から、異空間とやらに入っていたであろうものがドサドサと地面に落ち、結果、木で出来た剣やら盾やらビンやらが地面に散乱した。
「結構色々入ってたわね。あ、これがアリスの服ね。何これ!凄く可愛いじゃない!」
そう言ってエディルアが手にとったのは、水色のノースリーブワンピースと白のエプロンドレス。色んな場所がフリルとフレアでヒラヒラしていて、とってもガーリーだ。確かに可愛い。
衣装一式とだけあって、他にも白いベビードールのような下着と、靴、白いレースのニーソックスに黒いリボンやチョーカーなどの小物まであった。
何か見覚えがある。
……これはあれだ。
不思議の国のアリス。
「コスプレじゃないか……」
これを着るのか……。
服がこれしか無い以上仕方ないのだが、しかし異世界で産まれた数時間後にコスプレするとは思わなかった。
しかもこういうフリフリしたやつ。
ふと思いついて、その服の詳細も見れないかと思っていると、これまた不思議な事に頭の中にその情報が入ってきた。
超便利だ。
ーーーーーーーーーーーーー
アリスの衣装一式:創造神がノリで作ったアリス専用の衣装。超高品質素材を使用し、ちょっぴりの親切心と下心、そして大体が悪ふざけで出来ている。神器級。
付与効果:不汚、自動サイズ調整、自動召喚、自動装備、高速自動修復、超耐久、魅力大上昇、創造神の呪い
※「アリスの衣装一式」全てのアイテムに同様の効果が付与されている。
ーーーーーーーーーーーーー
私専用の衣装らしい。
名前からして私の物だと主張しているしね。
否、それよりも気になるのはこの付与効果というものだ。
どうやらこの衣装自体が魔法のアイテムのようになっているらしく、付与効果の内容が魔法として衣装に掛かっているらしい。
何だそれ凄い。
不汚:汚れ無いし、臭いもつかない。洗濯要らず。
自動サイズ調整:着用者に合わせて自動的にサイズが変化する。
自動召喚:時空魔法が付与されており、着用者の魔力を記録し、無くしてもいつの間にか手元に戻ってくる。
自動装備:時空魔法が付与されており、意識するだけで脱着が可能である。
高速自動修復:破れから糸の解れまで、ありとあらゆる異常を、着用者の魔力を使い瞬時に修復する。
超耐久:物理的、魔法的防御力が上がる。
魅力大上昇:着用者の魅力が際立つ。
つまり、汚れないし、着る人に合わせて勝手にサイズが変わるし、無くしても勝手に戻ってくるし、自動で脱いだり着たりしてくれるし、破れても直ぐに治る上凄く丈夫だし、着た人の魅力が上がるらしい。
「何これ!何これ!何だか凄い効果がいっぱ……ん?呪い?」
創造神の呪い?
創造神というのはステータスにも書いてあった。
確か「創造神のお気に入り」だとか「創造神の加護」だとか。
創造神というのは十中八九あの白い場所にいた神様だろう。それ以外に私の知っている神様なんていないし。
その神様の呪い……。
なんだ、悪趣味だな。
私何か呪われるようなことしたっけ?
創造神の呪い(アリスの衣装一式):この衣装以外の装備を着用する、若しくは「アリスの衣装一式」全てを装備していない場合他人から全裸に見える呪いを、着用者に付与する。
この呪いは絶対に解除出来ず、無効化出来ない上に耐性も無視する。
「…………」
私は呪いの詳細を三度確認し直して、間違いでは無いことを確認すると項垂れた。
……意味が分からん。
つまりこの衣装を着たが最後、これ以外の服を身に着けると他人から裸に見えるという呪いが掛かっているようだ。
あの神様は私に何の恨みがあるというのか……。
「早く着てみてよアリス!」
「……うん」
満面の笑顔を浮かべたエディルアに急かされ、私は「アリスの衣装一式」を身に着ける。
「自動装備」の効果でなんと一瞬である。
更に「自動サイズ調整」のおかげでピッタリ。
便利だね。
「ッキャアァァア!!可愛い!!可愛いわアリス!凄く似合ってる!お姫様みたい!」
そんな事を叫ぶエディルアに抱き締められ、頬ずりされる。
「全裸の放浪者」が「コスプレ少女」になった瞬間である。