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3話:試験

街と森を隔てる大きな壁があるため、街の出入り口は一つしか存在しない。

正面の門付近までイノシシの背に乗り、振り落とされそうになりながらも高速で移動したおかげで思ったより早く街に入ることができそうだ。


「ありがとう、またね」


雛さんがイノシシにお礼を言うと、イノシシは森の奥へ消えた。

正門には門番がいたが、配布された宝石とカードと共に制服左胸付近にある学院の校章を見せると通してくれた。ご丁寧に大聖堂はあっちだよと方向まで教えてくれた。

門番にお礼を言い、雛さんと共に早歩きで大聖堂へ向かった。





「きゃー誰よその女」


大聖堂で受付を済ませるーーーと言っても、入り口にある機械にカードを通すだけなのだが。すると、すでに到着していた凛と合流した。凛は俺と雛さんを見るなり、表情一つ変えずに明らかに感情のこもっていない声でそう言った。


「棒読みにも程がある」

「ごめん、2ミリくらいしか興味なくて」

「2ミリは興味あるのかよ……。途中で会った雛さん。高等部へ入るから俺らの2コ上」

「は、はじめまして、く、葛谷雛と言います、よろしく、お願いします」


雛さんはどうにも人見知りのようで、挨拶がたどたどしい。見ていてこっちが心配になってしまう。


「……」

「あ、あの、?」


そう、心配になるのだ。無愛想で人を嫌う凛が何かきついことを言わないか。


「透、いま失礼なこと考えたでしょ」

「なんで!?」


なぜわかったんだ、恐ろしい。


「よろしく、雛。僕は西川凛」

「よ、よろしくお願いします、凛ちゃん」


凛ちゃん、と呼ばれて凛は眉を寄せた。ものすごく嫌そうな顔をしている。


「僕、女扱いされるの嫌いだから」

「あ、ご、ごめんなさい、」

「呼び捨てでいいよ」

「そ、それはさすがに、あの……凛くん…じゃ、だめでしょうか」

「……いいよ」


打ち解けた、のか?

雛が手を差し出し、ぎこちないながらも握手を交わそうと凛が手を出した。ーーーその時。

バチッ! と大きな音を立てて二人の手が弾かれた。一瞬見えた閃光。これは一体……。


「雛、もしかして」


驚いたように目を見開いている凛。こんな凛の表情は初めて見た。

雛さんは何かを怖がるように唇を噛み締め、手を抑えている。


「……言わないでください、」

「…そうだね」


二人はそれっきり黙ってしまい、先ほどの音で注目していた生徒たちも散っていった。


「なんだよ、何が起こったのか教えてくれよ凛」

「……これは雛のプライベートに関わることだし、そのうち授業で教わるから」

「は……?」

「とにかく、今は言えない」


そう言うと、凛は水分補給してくると言って大聖堂広間の隅に用意されているウォーターサーバーへ歩いて行った。

雛さんが居心地悪そうに俺の様子をちらちらと伺ってくるので、いたたまれない。凛、逃げるなよ……。


「あー、じゃあ俺も飲んでこようかなぁ……」

「そう、ですね、ではわたしはこれで……」


頭を下げ、雛さんは他の生徒たちの間をすり抜けてどこかへ行ってしまった。

凛のところへ合流し、水を飲む。ただの水ではないようで、少し花の香りがした。


「うまいな、これ」

「疲労回復の魔法がかけられてるんだって。突然歩かせたと思ったらこれ飲んで回復しろってどういうことなんだろうね」

「……凛は飛んだから疲れてないだろ」

「まぁね。到着も一番だったよ」

「タイムは?」

「30秒」

「うっそだろ……」


途中でイノシシに乗って近道した俺たちですら森を抜けるのに四十分、街に入ってから大聖堂まで三十分で一時間以上かかっているのに。


「って、そういえば凛言ってたじゃないか。飛行はできないんだろ?」


飛行物体は島へ近寄れないと船で凛が言っていた。

どうして空を飛ぶことが……ああ、一度上陸してしまえば関係ないのか。


「わかったみたいだね。それでも街へ入るには許可が必要だったから、正門で一回降りたけどね」


それがなければ二十秒切れたのに、という凛の発言は聞かなかったことにしよう。

前の学校でも成績優秀、美形、魔力持ちとチートみたいな存在だったのだ。今更凛が何をしようが驚くまい。


数十分後、全員が到着したようで案内人の少女がまた現れた。今度は隣に背の高い少年を連れている。百七十前後の身長に、ぴんと立った目立つアホ毛。黒髪はぴょんぴょんと外にはねさせており、顔立ちはかなり整っている。凛も中性的で美形だと思うが、少年は女性寄りの顔立ちの美形だ。前髪が長く、少し見えにくいが、瞳は燃えるような赤。体は標準よりやや細い。


「みんなお疲れ。オレは北寮の管理人兼生徒会長の北村悠。中等部の三年だ。よろしくな」


まだ声変わりしていないのか、声は少し女みたいだ。


「これから二人一組になって模擬戦をやってもらう。魔法、体術なんでも使って構わない。相手を気絶させるか降参させてくれ。その成績で寮とクラスを分ける。単純な勝ち負けではなく、戦術や魔法の使い方も見させてもらうからなー」


説明を聞きながら、生徒たちがざわつき始める。

弱いやつと組めばいいってわけじゃないのか。


「あー、組み分けめんどくさいな。赤」


セキ、と生徒会長が言うと、隣に立っていたあの赤髪ツインテールの少女が両手を胸の高さまで持ち上げ、ぱちんと手のひらを合わせた。

空気を振動するかのように大きな音が響き、次の瞬間、右手が突然暖かくなった。


「なっ、」


見ると、隣にいた知らない男子生徒と手を繋いでいた。急いで振りほどこうとするが、ほどけない。

ふざけるなとそいつを睨もうとするが、そいつも俺と同じ心境のようで俺のことを睨んでいる。


「あーはいはい喧嘩しない喧嘩しない」


生徒会長がめんどくさそうに声をかける。


「今、手を繋いでいる相手が模擬戦の相手な。簡単に自己紹介だけしといてくれ。そしたら手は離れるから。じゃ、そこの1から4番までのペアは広間で模擬戦開始な。他の者はここで待機」


番号なんて教えてもらっていない。そう思ってもう一度右手を見ると、手の甲に56と模様が浮かんでいた。

まだ呼ばれるまで時間がありそうだ。それまでこの見ず知らずの男と手を繋いでいるのも嫌なので、さっさと名前を名乗ってしまおう。

口を開きかけた俺の背を、凛が叩いた。


「僕、3番だから先行くよ。がんばって」

「おう、凛も頑張れ。怪我すんなよ」

「僕を誰だと思ってるの? じゃあね」


ひらひらと手を振って凛は大聖堂を出て行った。

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