3話 『無言と無表情の女』
ーーこんな強制イベントは全くもって起こってほしくのないものだった
俺は彼女が服を着替えているということで背を向けて待っていた。
後ろを向けば念願の女子のお着替えシーンが見れるというのに自然とそんな気持ちにはならなかった
彼女は羞恥というものを感じないのか、俺にとったら『きゃあ変態!』って言われて1つビンタを食らわされるぐらいがちょうどいいといぐらいだというのに
暑かったから、そんな一言で服を脱ぎ始めるだなんてそんな女の子見たことも聞いたこともない
逆に彼女みたいな子が例外なだけなのかもしれないけど、とにかく俺は後ろを振り向いて彼女の下着姿を見る気にはならなかった
「もういいよ」
彼女からそう言葉が聞こえて俺は後ろを振り返る。ただ汗を拭き取っただけなんだろうけどやたら時間がかかってたなぁと思いつつも俺は言葉を口にした
「あのさぁ、君って女の子だよね?」
容姿や髪の長さを見れば行き交う誰もが彼女を女の子だと認識するだろう。ただ恥ずかしげもなく道端で服を脱ぎ始める彼女を見ていると本当に女の子なのか、わかってても聞きたくなってしまった
「こくり」
彼女が無表情にそう頷く。まぁ、普通は自分の性別ぐらいわかってるんだからそう答えるだろうけど、
無言に答えてくる彼女はやっぱり羞恥というものは感じないのだろうか
「恥ずかしいとかそう言う感情はあるの?」
再度同じような質問をする。もうどこをどう見ても彼女は女の子だ。なのに俺はどうしてもそのような質問を彼女に対して問いたくてしょうがなかった
逆に道端で急に脱ぎ始められたから俺の方が恥ずかしくなってたし
「こくり」
また彼女の首が無言に縦にふられる。さっきから一向に言葉を口にしない彼女は無表情なまでに返事を返してくる
彼女は羞恥を感じない、でもそう言うのを取り除くとやっぱりゲームの中の翌檜ちゃんにとても似ていた
基本無口だし、何事も一人でやろうとするプライド高し人
まぁ、どこぞのサイヤ人の王子ほどではないんだろうと思うけど
そんなこと言っても彼女がプライド高し人なのかどうかは全くわかんないけど、とにかく恥ずかしいという感情をあまり持たないんだろう
「こくり」
無言の返答はまだ続く。彼女はどうやら恥ずかしいという感情は持っているらしい
道端で急に服を脱ぎ始める彼女が持つ恥ずかしいとは一体なんなのか、逆に気になってしょうがなかった
「例えばどういうのが君にとって恥ずかしいと思うんだ?」
「……?…食べてたカエグの足が口から出てちゃってた時とか。ぱくっ」
彼女は俺から盗んだカエグを美味しそうに頬張りながら言った
あーあの時俺が話しかけたらカエグの足が見えてたもんなぁ。あれ自覚あったんだ
それよりも、何堂々と俺の買ったカエグで例えとして出してるんだよ
すざんだ気持ちになりながらも彼女がカエグを食べている姿は皮肉にも可愛らしくそして、まぬけだった
ぽわ〜んってアニメとかだったらそんな効果音が使われてそうな一場面だ
花畑でも広がってるんじゃないのかって思っちゃうぐらい楽しそうで可愛らしい
「てか、絶対にそれ今ちょうどカエグを食べてたら思い出した!みたいな感じゃないか」
俺は笑いながら若干呆れながらそう言った。彼女はボケのごとく俺に言葉を口にする
それに対して俺はさっきからずっと何か突っ込む内容が頭から離れていなかった
「……うーん。多分そう」
そう言って彼女はまたカエグにかぶりつく。
どっちつかずの言葉は、『今はお肉を食べてるからあまり話しかけてこないで』とでも言っているかのように適当な発言だった
たがら、今は思う存分美味しく食べてもらうことにした。言いたいこともたくさんあるし今は俺の買ったやつ全部食べていいよ
と、呆れつつも思った
そんなことを思っているうちに
「はむはむはむ。ぱくっ」
咀嚼音が聞こえたかと思って彼女を見ると全部完食したらしい
水をごくりと一飲み飲んで口の中を潤す
でも、彼女の腹の中からはまだまだ食いたりねぇぜ!とでも言っているかのようにぎゅーと音がなった
結構大きかったんだけどなあれ。それを一人で食べてまだまだ物足りない、みたいな感じ出されてもなぁ
君の胃袋はドラ○もんの四次元ポケットかなんかか!?と、言いたくなったのはぐっと飲み込んで
「俺の話、聞いてくれるか?」
彼女はお腹をさすってまだまだ食べたいです!っとでも言っているかのようだったが素直に
「こくり」
と頷いた。また無言の返事なんだけど、無表情な顔が、彼女にとっての言葉みたいなものなのか、無言でも彼女が言いたいことは大体表情を見ればわかるようになってきた
さっき会ったばかりなんだけど、こんなに独り言みたいに自分ばっか喋り続けたのなんて初めてだからだろう
お腹をさするなんて動作を見せられるとなんか食べさせたくなってくる、なんていう衝動はおさえることにして話をすることにした
「まず、なんで俺のメシを盗んだんだ?人のものは取っちゃいけないって小さい頃に一度や二度、聞いたことはなかったか?」
俺は若干呆れ混じりにそう言う。
たかが10円玉1枚で手に入れた食料だけど、大事なもには変わりない
それに、そんな美味しく食べられるともう1匹食べたくなってきて、そんな変な理由も合わせて呆れていた
「おなか…空いてたから」
久々に聞こえた彼女からの言葉はなんとも返事と反応に困るものだった
おなか、空いてたからか。空いてたらなんか買えばいいんじゃないの?て思っちゃうんだけど
まぁ、そんだけおなかが空いていた。そういうことにしておこう
俺が思うところ、正直言って彼女を許してやること前提で今話をしている。
また人のもの盗んでこんなことになって欲しくないし、俺がちょろそうに見えたから盗んだんだろうって、そう思っておくからさ
それにしても、本当にただ容姿が翌檜に似ているだけであって性格はあまり似ていないんだろうか
無口だし無表情だし、そこはいいとして人のものを盗むってそう言うところはまた違うところだなぁと思う
もしかして、この子少しぐれてるのか?って心配しちゃうぐらいだった
「いや、動機がクソすぎるだろ。もうちょっとこう、おれのほうの気持ちも考えてほしいものであって…」
即答で、俺がまだ言いたいこと言い終わってないのに割り込んできて
「うん」
と、言った。
今までとは違いこの『うん』という言葉の中には彼女からのなんらかの感情が込められているかのように感じた
小言なんていいから!っとでも言っているかのように表情も先刻の『うん』という言葉と同じような感情が伝わってくる
あれ?なんかこの子怒ってる?
表情や言葉の感じが変わったように感じるけど見たところそこまでの変化はなかった。だから、いや、そもそも俺に怒るところってあった?
彼女との話が進まなそうだ。話をしても彼女は無言の返答ばっかだしそのあとなんて言ったらいいのか戸惑うし
だから、なぁ。言い方に困るよなぁ
と、そんなことを考えていると彼女が先ほどの表情とは取って代わり俺の方を見て何やらキラキラと目を輝かせている
指をさしている場所には赤くて、甘くて、つまりリンゴがあった
まだ彼女は食べ足りないというのか。まぁ、さっきおなか鳴らしてたしな
食後のデザートは別腹なんて言葉も聞くしなぁ
彼女はおなかが空いたからとにかくなんか食べたいって意味で言っているのか、それとも単にデザートとして食べたいという意味なのか、俺には皆目見当のつかないことだった
「食べたいの?」
そう問うてみると彼女は
「こくり」
と頷いた。キラキラと目を輝かせ、表情を全く変えずに、まるでショーケースの中に欲しいものがあってそれを眺める子供みたいだった
「あーもういいよ。このリンゴ、君にあげるよ」
なんとなくの感情で彼女にリンゴを手渡した。根負けしてしまったというのか、単に食べたいというのだからあげようか、ていう真摯な気持ちなのか
俺にもそれはわからなかった
そんなことを思いながら彼女の方を見る。壁にもたかかってリンゴを手に抱えて座った
そんなところに座ると服が汚れちゃうよ、と母親のように言ってしまいそうになったがぐっと喉の奥が痒くなったのを感じて言うのを止めた
複雑な気持ちが頭のなかを駆け巡り、彼女の姿を見ているといつしかのことを思い出してしまって自然と憂鬱な気持ちになった
「今更のことだけどな…」
そうやって一人、彼女に聞こえないようにぼやいた
シャリっとリンゴをかじる音が聞こえて俺はその音の方に顔を向けた。
美味しそうに、見ててこっちも楽しくなってきてしまうような、それほど可愛げがあって間抜けな顔をした彼女がそこにはいた
「そういえばさ、唐突に聞かせてもらうけど。こうやって出会えたのもなんかの縁だしさ、君の名前教えて欲しいな」
目の前の彼女は髪の色、長さから見ても、容姿やスタイルから見てもやっぱりどう見ても翌檜にしか見えなかった
性格に関しても無口で無表情で、ゲームの中の翌檜ちゃんは最初の方しかプレイできてないから食べ物をあんなに美味しそうに食べるのかは知らないけど、目の前にいる彼女にはそれがあった
まぁ見た目で言わせてもらうと、言っちゃいけないんことなんだろうけど。どっちもあまり大きな胸じゃないってことも共通点だ
さっき下着姿見ちゃったからね。別に小さくもないし大きくもないし微妙な感じだった
あれ?俺冒頭で彼女に対してそう言う感情は抱かない!とかなんとか言ってたけどなんか結構鮮明に記憶されてるなぁ
たまにしか喋らないけど声に関してもかなり聞き覚えもある。その無表情な顔も
まぁ、ひとつ気がかりなのは彼女が急に服を道端で脱ぎ始めたことだ。何回も話に出しているけど、本当に俺にとってあの行為はびっくりしたのだ
いちよう彼女曰く恥ずかしいという感情はあるらしい
「…それって、名前教えたら役所に連れて行くとかそういうもくてきなの…?……だったら嫌」
彼女からそう言われた時一瞬理解に困ったが何が言いたかったのかはすぐにわかった
あーなるほどね。俺がまだ食べ物盗まれたことについて根に持って役所に連れ出すんじゃないかってことか
ここでいう役所が警察署みたいな働きをしているんだろうか、まぁどちらにせよ彼女には関係のないことだ
「いや、俺は別に君を役所になんて連れて行ったりしないしそれに、名前を聞きたいのは単に君のことを知りたいからだよ」
そう言うと彼女は少し戸惑ったように言葉を少しの間口にしなかった。
そして、その少しの時間が過ぎると彼女は一言言った
「だったら先にそっちが言って」
小さくか細い声だったけどかろうじて彼女の言葉を聞き取ることはできた。
彼女がゆ言うに、人の名前を聞くならまず自分から名乗れということだろう
見た感じ俺と彼女との年齢は大して変わらないようだし、それに正論である
正論とは反論できないから正論なのであってもちろん俺は彼女の真意通り自分から名乗ることにした
「俺の名前は伊月美空。美しく空にはばたし白く可憐な姿を持つ男!それがこの俺だ!美空って呼び捨てにしてくれ」
ちょっと痛いことを言っちゃった感じがあるけどそんなことは気にしない
彼女の顔が『こいつなにいってるの?』とでも言っているかのように引きつっていた。そんなことは忘れることにしよう
なんでこんな自己紹介をしてしまったんだろうって今更恥ずかしくなってきた
まぁ、一度物語の主人公が言いそうな言葉を言ってみたかったんだ
センスが1ミリともよく感じないけど
「…う、おほん」
恥ずかしさを一度咳払いでごまかして俺は彼女に言った
「……で、君の名前は?」
一瞬の間が空いて、彼女の口が開く
その時の、空気、音、全てがその間だけ止まっているかのように感じた
「私の名前は……」
そう彼女が言いかけていたその時、路地裏に俺たち以外の誰かが入ってくる音が聞こえた
足音の大きさを聞くところ四、五人ほどだろうか
俺はそのことに気づくのが少し遅くなって彼女がなぜ名前を言おうとしないのか疑問に思っていた
彼女の視線が俺の方に向いていないのがわかってようやく音のする方へと何かがいるってことに気づいた
肉付きのよく腕まわりの筋肉が俺の太ももより大きんじゃないかっていう男が一人
その後ろに、高身長かつ、戦闘能力に優れていそうな3人組、俗に言う獣人ってやつがいた
1人、体格だけ馬鹿でかい男が前に出てきて低い声で彼女に向かってにたつきながら言った
「探したぞ。アスナロ・ミラファルト」
今月から受験が終わるまでお休みさせていただきます
続きに関しては続けて書くかわかりません
でも、また他の作品で会えたら嬉しいです
PV300ユニーク100ありがとうございました