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呪われ人魚姫、遊学に出る  作者: 高岡未来@4/9最愛姫発売
五章 人魚姫、海の王の魔法と向き合う
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2

「つーか、あの猫しっかり最後までついてきたんだな」

 別行動の折、誰かに命じて途中で捨てさせればよかったとリベルトはつぶやいた。

 こちらのナッさん嫌いもどうにかしないと。


「みんな忙しそうにしているからナッさんに遊んでもらっているの」

「おまえはあんまり忙しくないのか?」

「お勉強はしているわ。だけど、お父様もお兄様も過保護で、昔からわたしのことを外に出してはくれないの」

 今回も同じなのよ、とアーリアは少し面白くなさそうな口調だ。

「あなたと一緒にわたしも視察をしたかったな」

 リベルトは押し黙る。

 どうやら彼も過保護の部類に入るらしい。


「トレビドーナに戻ったらお妃教育が待っているし、結婚後は公務が目白押しだ。いまのうちにのんびりしておけ」

 やがて出てきたのはそんな言葉。

 アーリアは唇をすぼめた。

「そうむくれるな。可愛い顔が台無しになる」

「もう、リベルト殿下ったら」

 可愛いなんて言われるとこそばゆくて今すぐ飛び跳ねたくなる。


 まっすぐにリベルトのことを見上げると、彼は少しだけ身じろぎをして、アーリアに座るよう促してきた。

 二人で東屋のベンチに横並びに座り、アーリアは心を引き締めた。

 実は、ぜひとも試してみたいことがあったのだ。


「ねえ、リベルト殿下」

「どうした?」

「わたしたち、恋人になったのよね?」

「ああ」

 素っ気なくではあったが、ちゃんと望み通りの回答をもらえた。


 だから、次が本番。

「リベルト殿下……口づけしてくれないの?」


◇◇◇ 


 アーリアはリベルトを見上げた。

 背の高いリベルトとはお互い座っていても高低差が生じる。

 アーリアの言葉にリベルトは押し黙った。

 結構な時間が経ったかと思う。


「リベルト殿下?」

「え、ああ。なんだっけ」

 リベルトはわざと言った。

 もちろんちゃんと聞こえていた。というか聞こえすぎていて己の耳の性能を疑ったくらいだ。


「もう。わたしの言ったこと聞いていた? 婚約者はね、将来を誓って妻になる女性に口づけをするものなのよ。わたし、あなたからしてもらってないもの……」

 やはり幻聴ではなかった。

 アーリアは可愛らしい声ではっきりと口付けと発音をした。

「……そんな風習初めて聞いた」

「昔読んだおとぎ話に書いてあったわ」

「お……とぎ話?」


 リベルトの問いかけにアーリアはこくんと頷いた。

 王子様とお姫様が登場するお話。小さなころ毎晩読み聞かせてもらったものに書いてあったとアーリアは説明してくれた。

 ああそうか、女の子はそういう本を読んで育つのか、だから嫁いだ妹も普段偉そうなくせに妙に乙女な一面を持っていたのか、とかどうでもいいことが頭に浮かんだ。


「……いいのか、本当に」

 リベルトは神妙な声を出す。

「うん」

 アーリアはしっかりとリベルトの目を捉えた。二人は向き合うように体の位置をずらした。


 リベルトは覚悟を決めた。

 したいかしたくないかと問われればもちろんアーリアに触れたい。

 リベルトはゆっくりと自身の腕をアーリアの後ろに回した。

 もう片方の手を彼女の顎に近づけ、そっと彼女の顔を持ち上げる。

 アーリアが瞼を閉じる。


 リベルトはゆっくりと彼女に顔を近づけ、それからふわりとアーリアの唇に自身のものを重ねた。

 暖かな体温と柔らかな感触。

 好きだと自覚してからずっと触れたくてたまらなかった少女が腕の中に収まっている。

 リベルトは一度そっと離した唇をもう一度彼女に重ねる。


 今度は少し長く。

 一度始めればもう戻ることができない。

 彼女を離したくない。

 この腕の中にずっと閉じ込めておきたい。

 アーリアへの感情が一気にあふれ出し、リベルトは感情のままにアーリアを求め始める。


 柔らかな唇をたどる様に何度も何度も彼女のそれを甘く食む。アーリアは初めての口付けが思いのほか長かったと感じたのか、息をしたいと顔を動かした。

 小さく口を開いた隙を見逃さずリベルトは彼女の中に入り込む。

 アーリアが身じろぎをしたのでリベルトは回した腕に力を込めた。

 まだ離したくなかった。


「んん……」

 アーリアの吐息ごと飲み込もうとリベルトは彼女の口内をむさぼる。

 やがてアーリアはリベルトから逃れようと腕を動かした。リベルトは名残惜しかったけれど、彼女を解放した。


「あ、あなた! なんてことするのよ」

 アーリアは涙目になっていた。

 開口一番に抗議の言葉を口にする。


「なにって、口づけだろう」

「違うわよ! こ、こ……こんなの。口付けじゃないわよっ。だって、し、舌が入ってくるなんて、そ……そんなの聞いてない」

 さすがに初心な王女の知識の中にはこの手の口付けの種類は入ってなかったらしい。


「おまえ、恋人から口づけ強請られた男が、触れるだけのものに満足できるわけがないだろう」

「満足しなさいよ、そこは」

「あほ言うな。こっちは毎日どれだけ我慢していると思っている」

「知らないわよ」

 アーリアの大きな瞳から一粒涙がこぼれた。


 しまった、と思った瞬間リベルトはアーリアを抱きしめた。

「アーリア、頼むから泣くな。俺を拒絶しないでくれ」

 彼女に泣かれるのが一番参る。


 確かに少し先走りすぎた。これでアーリアがリベルトを嫌いにでもなったら。

 それは嫌だ。リベルトは背中に回した手をゆっくりと上下させた。アーリアを落ち着かせようと背中をさすり続ける。


「俺が全面的に悪かった」

 どれくらいそうしていただろうか。リベルトの胸の中でぐすぐすとしていたアーリアのくぐもった声が聞こえてきた。

「あ、あの……取り乱してごめんなさい」

「……俺こそ、少し性急すぎた。……悪い」

 リベルトは彼女の背中に回した腕をほどいて、彼女の顔を覗き込む。

 アーリアの顔は赤く染まっていた。


「わたし……いろいろなことに慣れていなくて……。殿下が、教えてくれる? 急には、少し……怖いから」

「ああ……。むしろ俺以外が教えらえるわけがないだろう」

「ん……」

 小さく頷いた彼女が可愛くて、リベルトはもう一度アーリアに顔を近づけた。


 今度はゆっくり。

 リベルトは自分の熱をアーリアに改めて伝えた。


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