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哀愁の副産物  作者: たこみ
7/12

第七話 ところがどっこい

「お前相変わらずきのこ雲みたいな頭してるなぁ」


 必ずと言っていいほど私の容姿にケチをつける安村は、高校二年のときに自主退学を美徳として学校を後にした。


「大和のところでカットしてるんだから仕方ないのよ」


 それを聞いた大和はいつも私をカットモデルにしてやっているのに感謝の念がないとみんなにこぼした。



 私たちK市中学の卒業生は、二、三カ月に一度のペースで地元の居酒屋で落ち合うことが慣例となっている。


 ここはいわば私たちのたまり場のようなものだ。




金子真かねこしんはどうしたの、その腕?」


 なぜだか真の事をフルネームで呼んでいる貴里子はこの六人の中で唯一の勝ち組の人と言っても過言ではない。


 彼女は常に結婚するなら人並みの収入を稼ぎだす人でいいだとか、生活水準が同じ人ならだれでもいいなどと言っているのだが、年収六百万のキャリアウーマンと言える貴里子と同じ水準の人など、私たちの周りでは見つけることができない。



「いやあ、単車で事故っちゃってさあ。参ったよ」


 このつり包帯をしているのは配管工の真で、常時年上の女性を追いかけている。



 旧姓橋本の美砂は中学時代からドラマティックな出会いを求めていて、結婚後はブルジョワな生活を送るのだとうちの母親のような夢物語を語っていたが、だんなは普通のサラリーマンである。



「今度こそは脈があると思うんだよ」


 いつものように年上の女性に熱を上げている真に貴里子はあんたのはただの勘違いよと言った。



 なんとなくくだらない会話の応酬に参加する気のしない私は、みんなのビールを注いだりする役目に徹して黙って耳を傾けていた。



「そういえばさあ、こいつまた会社に前借りしたんだぜ」


 美砂を膝の上に乗せている安村は真に向って黙ってろって言っただろと言った。


 安村と美砂は昔付き合ったり別れたりを何度も繰り返したが、結局は別れた。


 二人にはあまりしがらみというものがないように見える。



「うちのだんなの会社は景気が回復してきてるわりにはボーナスがイマイチよ」


「うちの会社も業績が右肩上がりだったから入ったっていうのに、私が入社してから下がる一方で、基本給なんてひどいものだわ」


 そう言った貴里子にみんなはお前の年俸でそんなこと言わないでくれと非難の言葉を浴びせた。




 仲間の話しに相槌をうつのも面倒になってきた私は、酔ったフリでもして頃合いを見計らって帰ろうかと考え始めていた。


 重い息を吐いたとき、大和が私の脇腹を突っついた。



「何?」


「やっぱり聞いてない。お前は最近どうなんだってみんなが訊いてるぞ」


「そうね、相変わらずよ。夏になると彼ができて、寒くなるといつの間にかいなくなってるわ」


 それを聞くと貴里子はどっちがいつまで未婚のままかしらね、と言った。



 すると大和が出し抜けに松本くんのことを話し始め、美砂が話しに飛びついてきた。


「覚えてるわよ!学年でもトップクラスのカッコ良さだったものね」


「今、何してるのかしら」



 貴里子がそう言ったので私はさあ、と首を傾げると大和がお前偶然会ったんだろ、と話を促させた。


「何か・・・、大学時代の先輩と会社を共同経営してるとか言ってたかな」


 私の適当な返事に貴里子は彼には先見の明があると思ったと言い、いかにも松本くんは社会的名声を得そうな顔つきをしていたという話しになってしまった。


 真も俺だっていつの日か成功してやるぞと言い始めた。



「松本くんてサッカー部じゃなかったっけ?今でもやってるのかしら」


 そう言って目を輝かせる美砂に、続けていたらあのような容貌にはなっていないだろうと心の中で突っ込みを入れた。


「俺はやるより観る方が好きだな」


 自分の膝の上で他の男の話題に花を咲かす美砂が鼻についたのか、安村は口を尖らせた。




 盛り上がっているみんなとは裏腹に、顔を強張らせている私に気が付いた大和は再び私の脇腹を小突いた。


「それがな・・・」


「何よ」


「女性陣の夢を壊すようで悪いけど、松本くんはかつてのように魅惑的じゃないんだよな」



 大和め、余計なことをと思っていると、貴里子がどういうこと?と問い掛けてきたので、私はぽつりと言った。


「ちょっとね、ダイエットが必要なの・・・」


「ええ!?太っちゃったの?」



 残念がる美砂に貴里子はまあ、彼は仕事の面で大成しているんだからいいじゃないと言った。


 大和に松本くんのバイトの話を打ち明けようかと考えていた私は、思い留まってよかったと思った。



 松本くんの太ってしまった事実を最初に話してくれればよかったのにと笑う安村に、私は強い不快感を抱いた。


「先に話したらおもしろくないと思ったのよ!」


「でも俺、なんかヤツはよそ者ッて感じがするなぁ」


 俺もそうかもと安村に同意する真になぜかと理由を尋ねると、松本くんは中学に入ると同時にこの町にこの町に越してきて、高校は地元の公立に進まなかったのでそう感じるという。



 松本くんをみんなに会わせてあげようと思っていた私は、そんなことを言うもんじゃないわよと言葉を濁らせた。







配慮がないですね~

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