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哀愁の副産物  作者: たこみ
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第六話 歯止めがかからない

 テレビのリモコンを足で手繰り寄せるとボリュームをピコピコと下げ、バルコニーでタバコを吸っている父に目をやりながら私はぼそりと呟いた。


「まったく、お父さんて何でこんなにテレビのボリューム大きくするんだろうね」



 すると私の頭上の化粧台に腰をかけている母が口を開いた。


「耳が遠くなってきてるのよ。だからあんなに声がデカイの」


 風呂上がりの母はシャワーキャップを頭に被ったまま、顔はオバQのようなパックをしている。




 私の両親は常に痴話げんかをしている。



 私が幼い頃、母は父がスーツを脱ぐ際手を貸してていたりしたものだが、出世の好機を逸してしまった父は五十五になる今でも平社員で、室井家では弱い立場になってしまった。


 趣味はバルコニーにある金のなる木を育てることと、中古車の洗車である。


 母にはいつも出がらしのお茶を飲まされていて、ランチタイムに私の会社の近くを歩けば楊枝をくわえたおやじたちの中に一人はうちの父のような人を見つける事ができると思う。



 ディスカウントストア愛好家の母が持っている唯一のブランド品はハロッズのトートバッグである。


 私には口を開けば財力のある人と結婚しなさいだの資産家の家に嫁いで奥さまと呼ばれるようになりなさいなどと言っている。



 母から甲斐性無しと言われてしまう父にも問題はあって、一攫千金という言葉が好きな彼は怪しい儲け話に飛びついてしまったり、母の虎の子に黙って手を出してしまったときなどはしばらくの間雲隠れしてしまう有様だ。


 二人の泥仕合を目の当たりにすると気が塞いでしまい、どちらの肩を持つ気にもならなくなる。


 昔は無謀にも両親のけんかが始まると口を挟んだりしたものだが、途端に矛先が自分になって集中砲火を浴びるので、気が小さい私は匙を投げたのだった。



 ぼんやりとテレビを見ていると、画面の上の方に臨時ニュースを知らせるテロップが流れた。


 外国から偽ブランド品を大量に密輸入して販売していた中国人グループが捕まったというものだった。


 あまりにもタイムリーな内容な内容だったので、私は一瞬たじろいだ。



「物騒な世の中よねぇ・・・」


 単調な毎日を送っている母はニュースにやたらと詳しく、知らない話題はないくらいだ。


「人生は一回きりだっていうのにどうして好き好んで犯罪者になったりするのかしらねぇ・・・。親にもそういう人間を社会に生みだした責任があるわよ」


 いつもは芸能ニュースなど低俗なものにしかコメントをしない母が珍しく意見をのべているので、私は居心地が悪くなり、重い腰を上げた。







ドキッとすることありますね。

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