第四話 もういい。
隣の弟の部屋から喘ぎ声が聞こえてきたので、私は読んでいた雑誌を閉じると深く溜め息をついた。
弟の部屋にはどこから連れてきたのか、半年ほど前から家出してきた女が住み着いているのだ。
二人はいつもいつも大げさな喘ぎ声をあげながらキスをしている。
私は悶々として、すっくと立ち上がると、自室を飛び出し隣の部屋のドアを勢いよく開けた。
「ちょっといい加減にしなさいよ!」
殺気立った私の顔を見ると、弟の彼女の加奈はまたかという表情をした。
厄介になっているという立場を棚に上げて最近の娘は無駄に度胸が据わっているものだ。
「あんたたちねえ、毎日うるさいのよ。性交渉は外でやりなさい!」
すると加奈はなぜ悪いのだという目つきをして私に応戦をしてきた。
「唇を合わせていただけですよ」
日々の不満が募っていた私は声を大にして言った。
「今はそうかもしれないけど、昨日の夜中は何よ。ベッドがミシミシいってたわよ。いくら温和な私でも許容できる範囲を超えてるわ!」
「園子さん、盗聴器でもつけてるんですか?」
「そんなモラルに反したことしないわよ。健太郎に色仕掛けを使うのはやめなさい」
彼女は自分が私のお眼鏡にかなっていないことを重々承知している。
「今頃小姑なんて流行らないですよ。ゆくゆくは本当の家族になるかもしれないんだから、いいじゃないですか」
弟は私と加奈の言い争いがいつも通り長期戦になりそうなので、のそのそと床を這うとヘッドホンを頭につけベッドに寝転がった。
完全にただの傍観者になっている。
「それに私がいると利点もあるし」
加奈は調理師の専門学校を出ているので、やたらと料理が上手い。
それが強みで母にも気に入られているのだ。
口ごもった私は少し言い方を変えてみることにした。
「こんなひなびた団地を隠れ蓑にするのはよしなさいよ。ほら、うちってゴキブリ屋敷じゃない?」
「お心遣いありがとうございます。でも月日が経つにつれてそういうところも好きになってきましたから」
ネタ切れになってきたので改めて弟の方に目をやると今度はマンガを読みながらくっくっと笑っている。
我が弟ながら無学というのが丸出しに見える。
加奈と対立するスタミナがなくなった私は、二人していつまでも自堕落な生活を続けるんじゃないと言うと、部屋を後にした。
背後からは私を打ち負かしたことに気分をよくした加奈が小躍りしながらきゃっきゃと言う声が聞こえてきた。
頭を振りながら、いつまでも独り身でいるからこんなにもむしゃくしゃするのだろうかと自分に問いかけた。
筒抜けですよー