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哀愁の副産物  作者: たこみ
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第十話 真か偽か

「園子さんそんなところに掴まらなくたって大丈夫ですよ」


 弟の彼女の加奈は父の中古車のハンドルを握りながらちらりと私を見た。



「ちょっとー、うちの近所は道が狭いんだからちゃんと徐行してよ!」


 加奈の運転は乱暴なので、私はいつも頭上の取っ手にしっかりと掴まっている。


 加奈はそんな私にはお構いなしという様子で、気持ち良さそうに鼻歌を歌いながらおしりの下にあった父の私物をなんだこりゃと言って後部座席に放り投げた。



 私が加奈にぶつぶつ言うと、彼女は私に物申してきた。


「園子さんは『今の若い人は』って言うのが口癖ですけどね、園子さんより一回りも若い世代が偉業を成し遂げたりしてるんですからね」



「そりゃあスポーツ選手の中とかに若いのにすごいなぁと思う子はいるわよ」


「スポーツ業界に限らないと思いますよ。何かの本で読みましたけど、知識に上下はないんですって」


「何が言いたいのよ」


「だから、放っておけば知識は陳腐化するんですから学校を卒業してから長~い年月が経っている園子さんなんかは、何か自分の為になることをした方がいいってことです」



 常々思うのだが、加奈は弟と一緒の歳にしては言う事が大人すぎる。


「あなたさあ、本当に健太郎と同じ歳なの?」



 加奈は脇道から入ろうとしているミニバンの女性にジェスチャーでどうぞ譲ると、しれっと答えた。


「バレました?本当は二十七歳です。」


「は!?私と二つしか離れてないじゃない!」


 加奈はクスクスと笑うと名前までは偽ってないので安心して下さいと言った。



「そういえば最近健太郎とよそよそしいけど、何かあったの?」


「一度行ったことがある場所を懐かしんだら相手が違ったみたいで、けんかになったんです」


 それを聞くと私も前に同じミスを犯したことがあるなと思った。


 そのときの私は訝る相手に逆ギレをして、絶対以前にもあなたと来たことがあると押し切ったのだった。



「あなたはうちに永住するつもり?」


「外泊許可はちゃんととってあるんですよ」


 外泊にしては半年は長すぎる。


「安住の地を求めて彷徨っていたら園子さんの家にたどり着いたんです」


 うちの家族も絵に描いたような幸せ家族ではないが、この娘の家庭事情は複雑なのかな思った。



 私たちは駅前に着くと止めようと思っていた駐車場が満杯だったので、路駐をして目的地の商店街に向った。


 しばらく歩いていると、ティッシュ配りのお兄さんが私には配らず、加奈にだけティッシュを二つ渡した。


「おばさんには配らないんですよ、きっと」


「何ですって!」


 声を上げて逃げる加奈を、私は手を振り回しながら追いかけた。



 最近気が付いたのだが、私たちは仲が悪いようで意外と仲がいい。


「ちょ、ちょっと待って」


 息を切らす私に加奈は、園子さんは老廃物が溜まっていそうだから食習慣を変えた方がいいですよと言った。


 確かに近頃では二十代前半のときと違って肉がつく場所が変わり、特に背肉が気になる。


 昔は下っ腹がぽっこりと出たり引っ込んだりの繰り返しだったというのに。


 寒い時の関節痛も無視できないものがある。



「あー、体が重い」


「ものぐさだからそうなるんですよ」


 苦笑しながら私の手を引っ張る加奈について行くと、雑貨屋の隣のドラッグストアから見慣れた巨漢が出てくるところだった。



 松本くんの腕には丸の内のOL風といった彼女らしき女性が絡みついていた。


 驚きのあまり寿命が縮まるかと思ったが、愕然とした顔をしてその場に突っ立っている私に気が付いた彼は、私を一瞥すると素知らぬ顔をして真横を素通りしいていった。


 私は慌てて目礼したのだった。


 松本くんとその彼女の画は日常生活のひとコマというような感じで私の頭の中に残像として残った。




 加奈がシャンプーを吟味しながら、うちの両親がコンディショナーを半分に薄めるのを止めてほしいとこぼしている間も私の脈拍は上がりっぱなしだった。


「園子さん!」


「何?」


「入浴剤、どっちがいいですか?」


 加奈が二つの入浴剤の箱を掲げて見せるので、私はあまり湯船に長く浸かることができないからどちらでもいいと言った。


 加奈は抱き合わせの品でどちらかを選んだようだった。








何が起こっているんでしょう。

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