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バカガミ!!─絶対的不能神─  作者: 柴崎直哉
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第七話

今回は建速津諒の一人称です。

宜しくお願いします。

(マコト)が風呂に入ったのを見計らって、家の裏口から外に出た。数十分前よりも風は強くなり、雪が勢いよく降っていた。


自分は、先程猫に襲われた場所に行くつもりだった。


猫に酷いことをした人に腹が立っているから、その犯人を見つけに行こうと思っている訳ではない。


襲われた場所に行く理由───あの猫と天月家に繋がりがあるか調べるため。


誠は何も思っていないようだったが、いくらなんでも今日一日で不自然なことが二回も起こるのはおかしい。これは、二つの出来事に関連性があると疑ってかかるべきだろう。


家から五十メートル程離れた。ズボンのポケットに入っているスマートフォンを取りだし、ソラで覚えている電話番号の主を呼び出す。


『誰だ?』


警戒心たっぷりの低い声───倭毘颯雅(ヤマトビソウガ)の声がスピーカーから聞こえた。


「もしもし。建速津諒(タケハヤツリョウ)です」


『おお。建速津か。実は俺も、今からお前に電話しようと思ってたんだよ』


電話の相手が自分だと知るやいなや、態度をコロリと変える颯雅君。一応こちらの方が七歳年上なのだが、彼はタメ語だ。きっと彼は、自分との年齢が親子ほども離れていようともタメ語を(クズ)さないのだろうと思う。


「何かあったんですか?」


自分の用件を後回しにして颯雅君に問う。この日に電話をかけようと思っていたくらいなのだから、誠か天月時織(アマツキシオリ)の話だろう。


『ああ。建速津ーーーいや、誠から今日の出来事は聞いたか?』


「聞きました」


『なら話は早い。その天月時織とその周りの人間の情報が手に入ったんだ』


「そうなんですか!?」 

 

驚いた。どうせ颯雅君の事だから、何も調べていないものだと決めつけていた。現に今まではそうだったのだから。彼に対する偏見(ヘンケン)を改めなければいけないかもしれない。


颯雅君は誠のボディーガードだ。それもウチの家の者が、彼に頼んで護ってもらっているわけではない。彼が勝手に誠のボディーガードをしているのだ。お金が発生していないので、何もしてくれなくてもクレームを言うことはできない。


二年前、大学から家までの帰路を歩いていると、前から歩いてきた中学一年生くらいの少年に声をかけられた。それが颯雅君だ。


───お前、異能力者だな。


颯雅君はいきなりそう言った。その時の自分はたいそう(アセ)った。自分が異能力者だということは父親と一人の親友以外には話していない。


───なんで知ってるんですか?


父親が他人に異能力の事を言うわけがないし、親友も口が固く信用できる男だ。どこから情報が漏れたのか分からなかった。


───悪いが、身の回りを調べさせてもらった。安心しろ。個人情報をばらまくつもりは無い。って言っても信用してもらえないだろうがな。


鼻で笑う颯雅君。バカにされている気分になった。


───君は自分になんの用があるんですか?


舐められまいと、声のトーンを少し下げて颯雅君を上から見下ろした。彼と自分の身長差は三十センチ程だ。


───あんまし怖い顔すんなよ。俺はお前に害を与えるつもりは無いってのに。


───そんなことはいいので質問に答えてください。


───俺は…………お前の弟のボディーガードを命じられた。それを伝えに来た。


先程までの表情とは一転、苦虫を噛み潰したかのような顔になる颯雅君。


───え?な、なんで!?誰から!?


予想外の展開に戸惑(トマド)う。


───それは言えない…………こっちが勝手にボディーガードをすると言っているんだ。金を取るつもりはないし、そもそもボディーガードを断ってくれても構わない。ただ、お前の弟に問題があるわけでも、こちらが危害を加えるつもりもないということだけは理解してくれ。


颯雅君はため息をついた。彼は誠のボディーガードをしたいと思ってはいないのだろうと思う。誰かに強制されて仕方なくといった感じだ。


なんとも怪しい申し出だったが、危害を加えるつもりはないみたいだし、何かを悪いことを企んでいるのであれば、わざわざボディーガードをするなんて事を自分に言ったりはしないだろう。


───わかりました。誠のボディーガードをしてくれてもいいですよ。ただし、誠の私生活に干渉(カンショウ)しないでくださいね。


───当たり前だろう。そんなことをするはずない。


その後、颯雅君と連絡先を交換して別れたが、あまり使うことなど無かった。二年の間で自分が彼から教えてもらったことといえば、フルネームと彼が異能力者であることと、彼の家系が全員“異能力管理党”に勤めているということ。それと、自分の家族で彼が誠のボディーガードをしていると知っているのは自分だけということだけだ。


『おい。建速津?建速津?』


「あ、はい」


過去のことに浸っていたせいで、少し意識が飛んでしまっていた。


『大丈夫か?今から大事なことを話すんだぞ』


颯雅君は昔に比べて、声がかなり低くなっていた。きっと声の低さに比例して体も大きくなっていることだろう。


「成長しましたねえ。颯雅君……」


左耳に押し当てているスマートフォンから『うわっ、キモッ』と言う声が聞こえたが気にしないことにした。


『今日のお前は一体どうした?色々おかしいぞ。いつもより』


最後に付け足された言葉が勘に触ったがスルーする。


『……まあいい。天月の情報を教えるぞ』


「あ、ちょっと待ってください」


『天月時織。中三で十五歳。七月七日生まれ。身長百六十センチ前後。体重不明ーーー』


「待ってくださいって言ったじゃないですか!」


慌てて声を張り上げる。こちらにも心の準備とか色々あるので、そこら辺を考慮(コウリョ)してほしい。


『は?そんなの誰が聞くかよ。そもそもこんな情報知る必要性皆無だろ?』


当たり前だとでも言いたげな口調。


「じゃあなんで言ったんですかっ……」


『渡された紙に書かれてたからな』


「渡された紙?天月時織関連の情報は君が調べたんじゃないんですか?」


『こんな面倒臭いことを俺がわざわざ調べるわけないだろ』


そう言って颯雅君は鼻で笑った。行動のひとつひとつが勘に触る男だ。


『もう話の腰を折るのは止めろ』


「……分かりました」


それに関してはお互い様だと思う。


『天月家の中でも由緒ある血筋の家系で生まれていて、“他人を操る”という異能力を持っている。操る対象の遺伝子情報を体内に取り込むことで発動するらしい。遺伝子情報を入手してから二十四時間、一日一回しか使えないがな』


「他人を操る……」


独り言のように呟いた。天月時織は予想以上に強力な異能力を持っているようだ。誠の髪の毛を採取しようとしたのは、異能力を発動させるために違いない。


『天月時織の情報は以上だ。次は天月と一緒に行動している奴の特徴を言うぞ。名称はキリー。天月時織の護衛。性別は男。本名、身長、体重、異能力共に不明』


(ホトン)ど不明じゃないですか」


天月時織を護衛している人の名称と性別が分かったところで何の役にも立たない。


『文句言うなら自分で調べろ』


「君だって人任せにしたくせに」


『人任せ?違うな。俺は忙しかったから、仕方なくやってもらっていただけだ』


「それを人任せと言うんです」


どうやら颯雅君の頭の辞書には、自身にとって都合のいい解釈(カイシャク)しか載っていないらしい。


『俺からは以上だ。すまんが天月時織がお前の弟を狙う理由は分からなかった』


「……そうですか」


天月時織の身元を探ったのなら、誠を狙う目的も分かっているかもしれないという薄い期待はやはり裏切られた。


『しょげてる暇があるんなら早くお前の用件とやらを話せ』


こちらの方が歳上なのに命令口調で話す颯雅君に、怒りを通り越して尊敬の念を覚えた。いや、その命令口調を注意しない自分も自分なのかもしれない。昔から強く怒ったりするのが苦手なのだ。


「今、自分は外出中で誠は家にいるんですよ」


『ほう』


「ちょっと心配なので、誠の様子を見に行ってーーー」


後頭部に衝撃。視界が反転する。前のめりに地面に倒れこんだ。左手から滑り落ちたスマートフォンが雪の上に転がる。脳がぐらぐらと揺れ、気絶しそうになった。


脳震盪(ノウシントウ)が治まると、後頭部の鈍い痛みが自分を襲った。頭を抱え、呻き声を漏らす。


「あれ?気絶すると思ってたのに。見かけによらずタフなんですね」


頭上から誰かの声がした。その人物を確認することすら、今の自分にはできない。


『おい!?どうした?建速津!?建速津!?』


雪の上に転がるスマートフォンから、自分を心配する颯雅君の声が聞こえる。相変わらず何もできない。


近くで、薄いガラスを踏んだような音。颯雅君の声が聞こえなくなった。スマートフォンを壊されたのか。


「次は外しませんよ」


自分が苦しんでいるのを楽しんでいるような声色。


今ここで死にたくなかった。姿の見えない人を、誰かが止めてくれるのを願った。


無情に降り下ろされる鈍器───自分の頭のすぐ横の地面にめり込んだ。

バカガミ!!を読んでくださりありがとうございます。

投稿が毎回遅くなってしまってすみません。

今年受験なので小説を書く時間が少なく、もっと投稿が遅くなると思いますがこれからもよろしくお願いします。

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