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バカガミ!!─絶対的不能神─  作者: 柴崎直哉
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第十話

天月時織(アマツキシオリ)の姿が、俺の視界から消えた。全開にしていた窓を閉め鍵をかける。


『誠ーーー!!さっきの、すっごい綺麗な女の人とはどうゆう関係なの!?』


『あ、それあたしも気になる』


『まさか彼女なのか?』


彼女が去ったのを見計らって、騒ぎ立てるクリオネたち。


「彼女じゃねえよ。天月のことは俺にもよく分かんねえんだ」


水槽に近づきながら、吐き捨てるように言った。


『なんだ。つまんないクリね』


「んなこと知らねえよ……で、お前らが言いたがってたことはなんなんだ?」


この“クリオネと話すことができる”という異能力は他の異能力に比べて特別らしい。


『あ……そのことね……』


言いにくそうに言葉を濁らす一匹のクリオネ。


「なんだよ?」


『さっきの綺麗な女の人が、あんまし誠にこの異能力の事を知ってほしくなかったっぽいから教えない』


「なんだそりゃ」


『けど、その代わり違うことを教えてあげるよ!』


異能力の事を追求される前に話題を変えようと、クリオネは声を張り上げる。別に追求するつもりは無いのだが。


『僕たちの間では代々、君のような異能力を持った者の事を“水神様”と呼んでいるんだよ!』


「へえ……そうなのか」


そう言ってから気付いた。クリオネが“代々”と言っていたことを。“代々”ということは、俺以外にもこの異能力を持っている人がいるということだ。


『ちょっ……アンタ何言ってんのよ!』


『え?え?』


『代々って言っちゃたクリよ』


『え?……ああああああっっっ!!』


絶叫。耳の奥がキーンとするくらいの甲高(カンダカ)い声が響き渡った。


「うるせえよ!」


クリオネに罵声を飛ばした。


『あ、ああ。ごめん。誠。僕がさっき言った言葉は忘れてくれる?いや、忘れてください』


頭をちょこんと下げるクリオネ。首が無いので、体全体が(ユル)やかにカーブしていた。


「分かった。忘れよう」


この会話を早く終わらせる(タメ)に肯定の返事をする。そろそろ諒兄に風呂から上がった事を伝えに行かなければならない。


勿論、俺が言ったことは嘘だ。俺以外にもこの異能力を持っている人がいるということは絶対に忘れまい。


『うわ……誠が「絶対忘れるか」って顔してるぞ』


『誠、嘘ついたね』


クリオネたちのひそひそ話を無視して部屋を出た。そのまま諒兄の部屋へ向かう。


「おーい!諒兄、入るぞ!」


返事は無い。いつものようにヘッドフォンで音楽を聴いているのだろう。


扉を左に向かって押した。微かな光さえも射し込まない真っ暗な部屋。手探りで壁に設置されている蛍光灯のスイッチを押す。一瞬にして明るくなる部屋の中には諒兄の姿は無かった。


「諒兄……?」


部屋に踏み込み無断でクローゼットの扉を開けた。そこにあるはずの紺色のコートは見当たらない。


とてつもなく嫌な予感がした。まさか、諒兄は外に出かけているのか。


クローゼットを閉め慌てて自室に戻り、俺のスマートフォンから諒兄に電話をかけた。耳元で流れる無機質な女の声。


スマートフォンを持ったまま自室から飛び出し階段を駆け下りる。


諒兄はどこに行っているのだろうか。コンビニエンスストア辺りだと思いたいが、(オソ)らく違うだろう。もしかしたら、あの猫を調べに行ったのかもしれない。


やけに諒兄は、俺が猫について調べるのを嫌がっているように見えた。俺がまた要らぬことを言い出すうちに自分で調べようと思っていたとしても無理はない。


階段を下りてすぐ目の前にある玄関には諒兄の靴は無い。右手に握りしめたままのスマートフォンからもう一度諒兄に電話をかける。コール音が一回、二回、三回───十回を越えた辺りで「オカケニナッタ電話ハーーー」という女の声がした。


「くそっ!」


スマートフォンを苛立(イラダ)ちげに、カーペットに向けて叩きつけた。我に返り、スマートフォンを拾い上げる。幸いどこも傷付いていなかった。


諒兄が俺に内緒で猫を調べに行ったのだとしたら、その理由はなんだ?俺に隠したいこととは何だ?諒兄が俺にしている隠し事───異能力関連。


あの猫に異能力者が細工をして俺達を襲わせたのか?俺達を狙っている異能力者といえばーーー


インターフォンのベルが鳴った。思考を切り替えドアを開ける。


「どちら様ーーーりょ、諒兄!!颯雅!?どうしたんだ!?」


そこには、諒兄の右腕を己の首の後ろから回して担ぐ颯雅の姿があった。靴を履くのも忘れて二人のもとに駆ける。


「諒兄!!諒兄!!」


目を閉じて俯く諒兄からは反応が無い。諒兄の後頭部を見る。赤黒い液体で漆黒の髪が濡れていた。全身から血の気が失せる。


「気を失っているだけだ」


縁起(エンギ)でもないことを考えていた俺の頭に颯雅の声が降ってきた。


「でも、病院には連れて行けよ。このままだったら出血多量で死んでしまうかもしれんからな」


ぶっきらぼうな物言いだが、颯雅が諒兄を心配してくれているのは分かった。


「諒兄を助けてくれてありがとな」


頭を下げる。今までに颯雅に言われた暴言も今回の件で全部忘れようと思った。


「な、なんだよ?気持ち悪いな」


下げていた頭をあげて前を見ると、颯雅が頭の後ろを()いていた。照れ隠しなのかもしれない。


「やっぱり諒兄をこんな風にしたのは天月時織か……?」


伏せ目がちで颯雅に問う。言いたくはなかったが、他に思い当たる人物はいなかった。


「分からん。だが、天月家の奴らだろうな。天月時織に命令されて、建速津諒を傷つけた可能性は高い」


「……そうか」


「諒兄を心配するのは構わないが、自分の心配もしろよ。あいつらはいつお前を狙ってやって来るか分からん」


「……分かった。気をつける」


天月時織は俺を狙っていたが、俺が異能力を持っていると知って、狙う代わりに何かから守ってくれると言ってくれた。


今の俺は一体、誰の言葉を信じればいいのだ。天月時織も颯雅も諒兄も俺に隠し事をしている。天月時織が敵か味方かなんて全く分からないし、颯雅だって味方面(ミカタヅラ)しているだけで、本当は敵かもしれない。


「あ、そうだ。諒兄がこれ持ってたぞ。預かってやってくれ」


颯雅がジャージの内ポケットから何かを取り出した。


何か───片耳が血だらけの黒猫。


「ぶえくしっ!!」


盛大にくしゃみをする。鼻水と涙が溢れ出した。(ウツ)の気分なんて一瞬で吹き飛んだ。


「猫が現れてそんなに嬉しいか」


感動して(ムセ)び泣いてるとでも思っているのか?


「ちげえよ!猫アレルギーなんだよ!」


「そうか」


端的に言った颯雅は、わざと猫を俺に近づける。


「こっ、この人でなしぃぃぃっっっ!!」


俺は声帯を痛めてしまう程に、大きな声で叫んだ。



颯雅が帰った後、俺は詩姉(ウタネエ)と一緒に諒兄を病院に連れて行った。


医者は、諒兄の怪我自体は大したことないが、何しろ怪我したのが頭なので精密検査をすることを勧めた。詩姉がそれに強く賛成したので、諒兄は三日間ベットの上の生活を強制されることとなった。


怪我をした翌日、諒兄が目覚めてすぐに昨日何があったか聞いたが、何も覚えていなかった。


頭を殴られた衝撃で少しの間の記憶が飛んでしまったのだろう。医者はそう結論付けた。


一縷(イチル)の希望を託して「何故、俺に何も言わず猫を探しに行ったのか」と聞くと、顔を赤くして「君に心配をかけたくなかったんです」と答えてくれた。


これからは隠し事をするなと俺が言ったら、諒兄は笑顔で「はい」と言った。


病室の外には、雲ひとつない快晴の空が拡がっていた。

バカガミ!!を読んでくださりありがとうございます。

やっとひとつ目の話が終わりました。

これからも頑張って執筆していきますので、どうか宜しくお願いします。

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