第8話 崇拝
中間者は神を滅ぼした後、信者たちの下へ向かっていた。泉にいるという彼らは、そこに祭壇を構え、神に金を貢いでいるらしいのだ。
「神は頭が潰れていた。信者たちはまだ幾分かましだが、それでも目が潰れているのは大きい。彼らには目が必要だ」
エロスとタナトスがそれに頷く。
中間者が見上げる空では唯一の太陽が光輪を纏い、月の誘惑を覆っていた。月ほど吐き気のするものはなく、それを滅する太陽がどれだけ眩しいものなのかは言うまでもない。太陽は素晴らしく、愛すべきものだと中間者は考えていた。しかし同時に彼女は、その太陽にも欠点があり、そのことを我々は深く知らなければならないとも感じていた。
少しして、泉に着いた。
信者たちは泉に向かってひれ伏し、アークの名を入れ込んだ言葉を紡いでいる。
「我らがアーク様、呼びかけに応え給え」
「誠に」
「我らが神は我らのすべて」
「誠に」
「我らが神は我らに救いをもたらす」
「誠に」
「我らが神に祈りを」
「祈りを」
「我らに祝福を」
「祝福を」
「すべての世はあなたの光に照らされ、あなたの清き水に浄化される。我らが神、あなたが我らと共にありますよう」
「誠に」
そこで、一人が立ち上がった。
「今から我が神に、金銭を供える。この先も恵みがありますよう願って」
「誠に」
信者は一人また一人と立ち上がり、祭壇に金貨を一枚ずつ置いていく。
全員が作業を終えたところで、中間者は呼びかけた。
「お前たち、目の潰れた信者よ。なぜ儀式をする?」
信者たちは中間者を見つけると、恐れ慄いた。
「中間者殿。なぜ我々の下へ?」
中間者は、彼らが自分を知っていることに若干驚いた。
「理由は後で述べよう。まずは質問に答えよ、信者たち」
信者は手を合わせながら答えた。
「私たちの神は、アークといいます。我らが女神は水を司り、我らの生活の安定と充足をもたらしてくださっているのです。その神に感謝するため、私たちは儀式をするのです」
中間者は首を振った。
「やはり、目が潰れているな、信者たち」
そう言って、ここに来た理由を告げる。
「私が来たのは、お前たちに目を与えるためだ。お前たちは目が潰れている。正確に物事が捉えられていない。それは全て、神を信じていることによる」
信者たちは、機嫌を悪くして中間者を見た。
「中間者殿、我らの信仰を否定するつもりですか?」
それに、中間者は哄笑した。
「それが目が潰れているというのだ、信者たち。お前たちのそれは信仰ではない。ただの傾倒だ。一度狂った認識機械は、いつも同じ答えしか示さなくなる。お前たちはその間違った崇拝に目を潰し、自らの認識に重大な欠陥を招いたのだ」
中間者は泉を眺めた。泉は一見澄んで見えるが、底には黒雲のようなヘドロが溜まっている。
「だが安心せよ、私はお前たちに目を提供できる。そうだ、そうなのだ——神は死んだのだ。お前たちの神は死んだのだ」
信者たちの目が揺れた。
「それは、本当ですか?」
「誠だ。もうお前たちは縛られることがあってはならない。縛られようとしてもならない。解れを見ろ、綿の飛び出す傷を見ろ。それが自分を自分にする術である」