第4話 交通安全
少女は街の交差点で足を止め、訴え始めた。
「交通の安全を! お前たちは常に危険に晒されている! 周囲に気を配れ、馬はお前達の命を奪うのだ!」
人々は突然叫び始めた美少女に、案ずるような目を向け始める。
「思え思え! 死を思え! 死ぬな、殺されるな、土の人形たち! 馬の中でも、特に猛牛は理由も無く暴れ狂う、そして理不尽に命を奪う! お前達の親を思え、お前達の命を思え! 仮に思えるのなら、左右を確認しろ!」
赤だった信号が、青になる。人々は少女の言動を、きっと交通安全の呼びかけか何かだろうと片付けた。足音が乱れ行く。
少女は続けた。
「猛牛が暴れ狂うのは、決して偶然ではない。ましてや、猛牛が若者ばかり轢き殺すのも、偶然などではない。全ては神が、お前たちを利用しようと目論んでいることによるのだ。気をつけろ、人間、特に若者よ。通り魔も偶然ではなかった。火事も偶然ではなかった。溺水も、病気も、また自殺さえも、偶然ではなかったのだ。神は若者を殺す。殺し、快楽に漬け込む!」
信号が赤になって、人々が足を止める。
すると、サイレンの音が鳴り響いた。
サイレンを鳴らす車が少女の前で止まって、男が二人降りてくる。銃を構えている。
少女は深く、切なげに嘆息した。
「ああ、あばら骨たち、なぜ私の話を聴かないの?」
タナトスが男達を威嚇すると、彼らは恐怖に気絶する。
その隙に少女は走り去った。信号は青に変わる。